鼎談
牧野友衛(左)、伏谷博之(中央)、齋藤貴弘(右)(Photo: KIsa Toyoshima)

次代のツーリズム変革に必要な5つのキーワード(前編)

対談:牧野友衛、齋藤貴弘、伏谷博之というキーマン3人が描く観光の未来

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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テキスト:森 綾

 ※本記事は、『UNLOCK THE REAL JAPAN』に2021年3月29日付けで掲載された『TALKING travel』を翻訳、加筆修正を行い転載

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、旅行スタイルに前例のない変化をもたらした。人の移動が制限され、旅は感染拡大リスクを伴う危険なものという視点もある。しかし、この危機は観光産業を見直すチャンスでもあるのだ。

2021年2月、日本の観光業界、エンターテインメント業界を代表する3人、JNTOデジタル戦略アドバイザー兼メタ観光推進機構代表理事の牧野友衛、ナイトタイムエコノミー推進協議会代表理事の齋藤貴弘、ORIGINAL Inc. の代表取締役でタイムアウト東京代表、一般社団法人日本地域国際化推進機構の代表理事を務める伏谷博之が、新たな観光に向けて対談を行った。ここではその記録を編集して紹介する。これからの観光のヒントにしてほしい。

ボトムアップで観光地を可視化する「メタ観光」
Chantal Lim/UnSplash

ボトムアップで観光地を可視化する「メタ観光」

伏谷:今日はこれからの観光について、「メタ観光」を提唱している牧野さん、風営法の改正からナイトタイムエコノミーを推進してきた齋藤さんと、深い話をしたいと思っています。

僕はタイムアウト東京という媒体を通して日本の観光をまず外国人目線で、もっとこうだったらいいのに、ここは変えた方がいいね、というように、客観的に見るところから入りました。 ですが、日本の観光というのは思った以上に旧態依然としていて、それを少しずつ変えようとしている人たちが現れてきた。そういう過程で出会ったお二人です。

牧野:「メタ観光」という新しい観光の考え方を提唱している牧野です。11月に団体を作り、今年に入って発表したばかりです。この「メタ観光」とは何かというと、これまでの観光の考え方をアップデートして、そこにある価値よりも、情報としての価値、例えばInstagramでいうところの写真映えするものだったり、ポケモンのポケスポットだったり、位置に意味があるということを「メタ観光」と言っています。

これまでの観光は名所史跡といった観光スポットを回るというものだったと思いますが、ドラマのロケ地になったり、アニメ聖地だったり、その場所が新たな意味を持つことがありました。そうしたその土地や場所が持っていた歴史的、文化的な意味とは異なる新たな意味を可視化させ、新しい観光にしていくことが「メタ観光」が目指していることです。

伏谷:具体的にはどんな活動をされていますか。

牧野:まずは従来の観光と異なる地域の情報を堀り起こして集めていくことが必要です。これまでの観光はマキシマリズムで、城とか神社仏閣といった1つの観光スポットで多くの人数を呼んでいました。でも、この「メタ観光」はそういった観光スポットを持っていないところであっても、これまで観光とは見なされてなかった街の魅力を探せば、観光資源はもっとあるのではないかと考えていて、それを掘り起こしたいのです。

例えば、僕は町中で見かける看板などの手描きのフォントが好きなんですが、あの手書きフォントがかわいくて、TwitterやInstagram上で写真を投稿している人たちがいるんですよ。それが結構面白くて、僕は実際に行って観たいなと思ったりする。そういうものまで観光にすると、必ずしも大きな観光スポットを持っている必要がないわけです。

伏谷:「ここが観光地だよ」と教えてもらって行くのではない、ボトムアップ的なものですね。

牧野:旅行者自身が「何が観光であるか」を決めるということになってきているのかなと。そういったものを掘り起こして可視化していくことが必要だと思うんです。現地の人が魅力だと気付いてないことが、見方によっては魅力として見られている。

つまり、魅力が多様化していたり、あるいはソーシャルでそういったものを発信するのが好きな人が集まるということが起きているので、それをちゃんと観光として捉えた方がいいなと思っています。そういった観光は今や当たり前な気がするんですが観光学でいうと、そこをまとめていっている人はいなかった。「メタ観光」は社団法人になっているのですが、研究者にも入ってもらっていて、論文を発表していくなど学術的なアプローチをすることも考えています。

伏谷:100万人を集める観光資源はなくても、1万人を集める観光資源はあったりする、と。

牧野:そうです。例えば、僕は昭和レトロっぽい純喫茶が好きで探すんですけど、そうした1万人くらいは興味を持つような観光の仕方が100個集まれば100万人になるわけですよね。そんな観光でもいいんじゃないでしょうか。これは観光の概念の変革なんです。

「ナイトタイムエコノミー」の進化
Photo: Jimmy Jin/Unsplash

「ナイトタイムエコノミー」の進化

伏谷:齋藤先生は風営法改正に尽力されてきて、「ナイトタイムエコノミー」という概念で時間帯のこれまでの枠を外そうとされてきましたね。

齋藤:僕は風営法改正という法規制の緩和から入ったのですが、規制緩和後は、規制が厳しくて十分活用されていなかった夜の可能性をどう広げていくかという取り組みをしてきました。市場にもさまざまな種類があると思いますが、新たに時間市場という概念を考え、これまで使われてこなかった時間帯が持つ価値に目を向けるという取り組みです。

そのなかで、人数は増えているけど消費額が伸び悩んでいるインバウンド観光において、観光庁が夜間を活用して消費額を増やしていくということに関心を持ってくれた。それが「ナイトタイムエコノミー政策」として実施され、事業公募をして夜間の活用事例を作っていくということをここ2年ぐらいやってきました。

他方で、短期的な数値目標だけを追いかける観光施策になってしまっては日本の夜にある文化の価値を示すことは難しいだろうし、文化の担い手や地域のためにもならないかもしれない。経済指標だけではない夜が持つ価値をどう可視化し、認知を広げていくか。そのような問題意識のなかで、コロナ前の2019年から2020年にかけて、ベルリンのクラブコミュニティーのリーダー、アムステルダムの「ナイトメイヤー」…夜の市長と一緒に『Creative Footprint』というリサーチをやりました。観光産業サイドだけではなく、文化、そして街づくりや地域コミュニティーの関係性を問い直すためのリサーチです。

もちろん夜はエコノミーの場でもあるが、文化が生まれる場所でもある。昼間とは異なる多様な人との交流があり、さまざまな価値が生まれる。そこを数字だけを追いかけていくと、牧野さんの話と重なるかもしれませんが、非常に画一的な観光商品、マス観光の商品をたくさん作ることになります。観光がローカルな文化に対してどんなプラスの作用を及ぼしているのか。あるいはマイナスの作用を及ぼしているのではないか。観光が文化に対してどうコミットできるか。それが本当に夜の価値なのか、というのが現れてきた問題意識なんです。それは同時に、どういう街を作っていくのかという議論でもあります。観光と文化と街づくりを一体として考える必要があると強く感じました。

このレポート発表と同時に、コロナ禍でインバウンドがゼロになり、夜の街はネガティブなものとされた。危機的な状況にある「ナイトタイムエコノミー」を守ることが目の前のこととして、とても重要ですが、マーケットを追い続けていたのがコロナの前の状況なら、マーケットがストップしている今、もう一度原点に立ち返るタイミングなのではないかという風に考えています。本質的な価値を深掘りして求めているという感じですね。

伏谷:足元を見ましょう、ということですか。

齋藤:そうですね。元々日本には草の根的に生まれたその土地にしかないような文化がたくさんあります。日本の各地域に根差す、文化が持つ「Locality(地域性)」と「Authenticity(本物さ)」の価値に光を当て、これらの本質的な価値を守り、街づくりや観光を通じて進化させていくということが重要だと考えています。

伏谷:観光庁ができたのが2008年。少子高齢化でなかなか厳しい日本の未来のなかで、インバウンドを柱にして観光立国にしていこうというのが始まった。

これを僕流に前職のタワーレコードという小売業で例えてみますね。かつては賑わってた店に客がいない。少子高齢化で高齢者は買いに来ない。このままでは先細りなので、これからのお客さんは少ないよね。じゃあ海外からお客を連れてきましょうと。これが観光立国の政策だと思うんです。この政策はアベノミクスに乗っかる形で、円安の誘導や海外ビザ緩和などを経て成長していき、2019年ごろまでには訪日外国人は5倍ほどになったんです。そしてコロナの感染拡大が起きてしまった。

そこで気付いたのは、例えば京都では観光客が増え過ぎて住民に迷惑がかかっているといった「オーバーツーリズム」といった問題が日本で起きていた。さらに、京都だけでなく別のところからもそういう声が上がりました。政府が頑張って5倍の外国人を連れてきて、ある程度の市場を作ったにもかかわらず、日本の人たちにすると「迷惑だ」と思っていた人がいたということですよね。

コロナ禍で世界中の国境がシャットダウンされて、来るに来られない。この間に、2008年からの流れの中で、何がうまくいき、何がうまくいかなかったのかを振り返りながら、コロナ後の観光市場をどう形作ればいいのか、いろいろ考えています。そんななかで浮かび上がってきたのは、コロナ前のグローバルなクライシスである、2008年から起きたリーマンショックです。今、ちまたでよく耳にするニューノーマルや新しい生活様式などが、その時期に海外で頻繁に言われていました。

当時は、不相応な消費をしてクラッシュしたんですよ。大した収入もないのに大きな家を買ったり、いい車やブランドものを買ったりして。それを可能にしていたエコノミーシステムが爆発してしまった。そうした行き過ぎた消費に対するアンチテーゼが、新しい生活様式だったんです。お金をバンバン使って何かを買うんじゃなくて、買うなら環境に良いものや一生使えるもの、家族で一緒に体験できる旅行や、コンサートに行きませんかというようなことです。価値観がぐっとシフトしていったのが分かります。

実はビジネス的にも、その時代にUberやAirbnbなどが出てきて、わーっと広がるんですよ。それを見ると、もしかするとリーマンショックで起きた人々の価値観の変化というものに、Uberなどはうまくフィットしていて、彼らが成長していくような観光のスタイルは、その変化をトリガーとして広がっていったのではないかと思います。

日本のインバウンドは5倍になったけれど、どういう社会や人々の価値観に寄り添ったインバウンド政策だったのかを問うてみたらどうかと思うんです。そこがはっきりしているなら、齋藤さんが言うようにローカルの人たちも、自分たちの生活や価値観の変化に寄り添って進行し、納得や共感を得ることができるのかもしれない。

齋藤:夜の価値観も変わってきましたね。「上がる場としての夜」という価値観があったと思う。アッパーな夜だけではなくて、慌ただしい昼間だと向き合って話せないことを話すとか、自然の中でゆっくり自分と向き合うなど、夜には体験や価値が広がっていますね。

今はコロナで人とふれあうことはなかなかリアルにできないですが、普遍的な需要があるとは思います。今は抑え込まれているので、また揺り戻しがあって求められていくはず。そのなかで、観光に期待される経済以外の価値も変わってくる。これまでの観光は、限られた時間と予算のなかでいかに効率よく観光体験をするかという側面が強かったように思います。そこでは地域の文化はあくまで観光客のためのものとしてパッケージされる傾向にあった。

しかし、文化が持つ歴史的な背景、ストーリーも含め表面的にではなく、より深く文化に入り本質的な体験を求めていく、そのようないわば「インターカルチャー」としての観光体験は観光客にさまざまなインスピレーションや感動、人生への示唆を与えます。「トランスフォーマティブ・トラベル」という言葉が広まっていますが、まさに人生や価値観を変革していく力が「インターカルチャー」としての観光体験にはあると思います。さらには観光客が地域と交流し、観光を通じて文化を交換し合い、地域に新しい文化を生み出していく「トランスカルチャー」としての観光も重要性を増しています。観光は観光客のためだけのものではありません。地域文化の新しい価値を再発見し、部外者の目線や感性をもって、地域の文化に革新をもたらすことができるのも観光です。そして、このような「トランスカルチャー」としての観光のために最も重要なのが訪れる人たちの多様性です。

伏谷:「ナイトタイムエコノミー」は今の段階では大変だけれど、時代の流れとしてはコロナが背中を押す部分がある。タイムアウトを通してロンドンやシドニー、ニューヨークの取り組みを見てきて、ナイトはさらに多様性の文脈で語られるようになると思います。それは、生きている生活時間の多様化のことなんです。

例えば今回、リモートワークで空間からの開放が行われたわけですが、実は時間からも解放されています。9 to 5(9~17時)で働かなければいけなかった人がリモートになることで、本当は夜中の2~4時が一番仕事がはかどる場合は、その時間に働けばいいようになるかもしれない。つまり、時間と空間からの解放につながる。そういう風に生活時間の多様化が進むんじゃないかと思いますね。

後編はこちら

牧野 友衛(まきの・ともえ)

株式会社グッドイートカンパニー 取締役 兼 CSO /日本政府観光局 デジタル戦略アドバイザー  

Google、YouTube、Twitterの製品公開や利用者数拡大を担当し、2016年にトリップアドバイザー株式会社の代表取締役に就任。国内利用者数の拡大やインバウンド対応の支援を行う。2021年1月より現職。総務省「異能(Inno)vationプログラム」 スーパーバイザーや観光・インバウンドに関する政府や東京都の専門委員を歴任するほか、日本政府観光局(JNTO)デジタル戦略アドバイザーも務める。

齋藤 貴弘(さいとう・たかひろ)

Field-R法律事務所パートナー弁護士/ナイトタイムエコノミー推進協議会代表理事

近年は風営法改正を主導するほか、ナイトタイムエコノミー議員連盟の民間アドバイザリーボードの座長、夜間の観光資源活性化に関する協議会の委員を務め、各種規制緩和を含むルールメイキングに注力している。著書に『ルールメイキング ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論』(齋藤貴弘 ・著/学芸出版社)

 

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伏谷 博之(ふしたに・ひろゆき)

ORIGINAL Inc. 代表取締役 / タイムアウト東京代表

島根県生まれ。関西外国語大学卒。大学在学中にタワーレコード株式会社に入社。2005年 代表取締役社長に就任。同年ナップスタージャパン株式会社を設立し、代表取締役を兼務。タワーレコード最高顧問を経て、2007年 ORIGINAL Inc.を設立。代表取締役に就任。2009年にタイムアウト東京を開設。観光庁アドバイザリーボード委員(2019-2020)の他、農水省、東京都などの専門委員を務める。

Unlock The Real Japan本誌を読んでみる

  • Things to do

2021年3月29日、日本経済新聞社が発行する『Nikkei Asia』とタイムアウト東京がコラボレーションした『UNLOCK THE REAL JAPAN』の第3号がリリースされた。

同誌は、アジアで活躍するビジネスリーダーに向けて、旬のテーマと人にフォーカスした情報を発信する英語版のマガジン。Nikkei Asiaに同梱(どうこん)されるほか、国内のラグジュアリーホテルや在日大使館などでの配布が予定されている。

今号では2月に先行公開した、震災から10年目の姿を紹介した記事と、日本のグリーン化を特集したものに加えて、スポーツ、DX(デジタルトランスフォーメーション)、教育、観光など、今注目を集めている分野の専門家に過去と未来を見つめ、日本がどこへ向かっていくのかを聞いた。

話題の宿をチェックする

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2020年9月、世田谷代田にオープンした由縁別邸 代田は、35室の客室と、箱根、芦ノ湖温泉の源泉から運ぶ温泉が楽しめる露天風呂付き大浴場、割烹(かっぽう)、茶寮から成る温泉旅館だ。小田急線世田谷代田駅から徒歩2、3分、下北沢からも10分かからない至便な立地で、日常から解き放たれたひとときを過ごすことができるとあり、Go To トラベル停止後も高い稼働率を誇っているという。

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今ではすっかり定着した仕事を続けながら旅を楽しむワーケーション。場所を変えることで気分転換になり、作業も進む。暮らすように長期滞在するのもいいだろう。

さて、古来から日本では湯治という保養文化がある。日常からひととき離れ、自然に囲まれた温泉地で繰り返し入浴することで心身を整える。その湯治により、ワーケーションをさらに快適なものにしようというのが湯治ワークだ。

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緊急事態宣言が解除されても「Go To トラベルキャンペーン」は引き続き停止されている。落胆しているという人は、新しい旅の形となりつつある「おこもり」旅行を今こそ試すべきだろう。都内には、まだまだリーズナブルな宿泊プランがたくさんある。

渋谷にある4つの東急ホテルでは、「どの部屋でも、いつでも同一料金」という期間限定のキャンペーンを展開中だ。キャンペーンの対象になるのはセルリアンタワー東急ホテル、渋谷ストリームエクセルホテル東急、渋谷エクセルホテル東急、渋谷東急REIホテル。これらのホテルが合同企画したキャンペーンで、2021年4月30日(金)まで実施される。期間中は、どの部屋タイプでもどの曜日でも、ホテル毎の一律料金で利用が可能だ。

  • トラベル
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2021年3月1日、世界的リゾートブランド『アマン』の創業者、エイドリアン・ゼッカが手がける旅館、アズミ 瀬戸田(Azumi Setoda)が広島県尾道市瀬戸田にオープンした。

銭湯と旅籠が一体となった街の交流地、ユブネ(yubune)も同時開業。同宿は日帰り入湯が大人900円から可能で、ゼッカが追求する日本伝統文化の新たな表現を、幅広い価格帯で体験できる宿となっている。

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