1. Tokyo meets the world France
    Photo: Kisa ToyoshimaAmbassador of France to Japan Philippe Setton
  2. Tokyo meets the world France
    Photo: Kisa Toyoshima(L-R)Ambassador of France to Japan, Philippe Setton ; journalist Florent Dabadie

駐日フランス大使が語る、日仏のサステナブルな未来のために必要なこと

東京都庭園美術館がお気に入りの理由やパリオリンピック以降の社会ビジョン

テキスト:
Ili Saarinen
翻訳:
Time Out Tokyo Editors
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『東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会』(以降『東京2020』)が終わった今、多くの人は、新たな東京のビジョンを指し示すための新鮮なアイデアやインスピレーションを求めていることだろう。これまでも、東京在住の駐日大使へのインタビューシリーズ「Tokyo meets the world」を通して、持続可能な取り組みに焦点を当てながらも、幅広く都市生活における革新的な意見を紹介してきた。

今回は、2020年秋から東京に在住しているフランスのフィリップ・セトン大使にサッカー日本代表監督フィリップ・トルシエのアシスタントを務めたことでも知られているパリ出身のジャーナリスト、フローラン・ダバディがインタビューを実施。グリーンエネルギーや都市計画など、日仏両国が直面しているサステナビリティに関するさまざまな課題を語ってくれた。

また、『東京2020』のレガシーが2024年のパリオリンピックにどのような影響を与えるか、パラリンピックがどのように社会変革に貢献できるかなどについても提言。さらに、東京でおすすめの美術館や午後に食べたい懐かしいフランスの焼き菓子についても教えてくれた。

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Tokyo meets the world

出発前日は『東京物語』を鑑賞
Photo: Kisa Toyoshima

出発前日は『東京物語』を鑑賞

ー大使に就任してから、日本に対する印象はどのように変わりましたか?

私は日本に赴任する以前は(フランス政府の代表として)26年間、欧州関係の仕事に携わっていました。当時の私の仕事は地域的に多忙なエリアだったため、それ以前にアジアに行く機会はなかったのです。

日本の文学や映画などは観たことがあり多少の知識はありましたが、私は日本に対する強い先入観や固定観念は持っておらず、日本は私にとって全く新しい発見でした。ベルギーでアニメーション制作を学んでいる私の息子から、宮崎駿、谷口ジロー、そして『攻殻機動隊』についていろいろとアドバイスをもらいましたよ。出発の前日には、気分を盛り上げるために、小津安二郎の名作映画『東京物語』を観たほどです。

就任してわずか10カ月で私の考えがどう変わったかという質問には答えられませんが、この国は常に、アイデンティティーを失わないように最善を尽くしながら進歩しようとする気持ちを持っている、といった印象でしょうか。ある意味では、小津安二郎のビジョンが今も鮮明に残っているのかもしれませんね。

東京の風景は現実と心の中の両方に存在
Photo: Tokyo Metropolitan Teien Art Museum

東京の風景は現実と心の中の両方に存在

ー東京での生活はいかがでしょう。お気に入りの場所はありますか?

週末に散歩へ出かけるのが好きです。にぎやかな街の小さな裏通りでわざと迷子になったりもしますよ。密集した交差点を抜けて、古い墓地に隣接した小さな公園にたどり着いたりするのが楽しいですね。古いものと新しいものが混在しているこの街は、風景と精神の両方に存在しているのだと知ると、とても魅力的に感じます。

コロナ禍の最中に到着した私にとって、東京を離れることは難しく、港区から出ることもほとんどありません。(南麻布にある)大使館周辺でお話すると、隈研吾が設計した根津美術館の建築には特別な思い入れがあり、都心にいながら心安らぐことができます。

また、白金にある東京都庭園美術館もお気に入りですね。私はフランスで生まれたアールデコに関心を持っていますが、それ以上に学芸員の人々による仕事ぶりには目を見張ります。建物の新古典主義的な装飾からは想像できない現代的な展示をしていて、東京に来てから庭園美術館で開催している展覧会を見逃したことは一度もありません。これからもこの象徴的な建物の新しい顔を発見するために、何度も足を運ぶでしょう。

ー故郷の味が恋しくなるときは、どこで食事や買い物をしますか?

フランス人や日本人のシェフが経営するフレンチレストランやベーカリーが、東京をはじめとする日本全国に驚くほど多様に存在しているので、一つを選ぶのは難しいですね。逆に言うと、私の「プルーストのマドレーヌ」(懐かしくて好きな菓子、記憶を呼び覚ますもの)はクロワッサンかパン・オ・ショコラです。朝食ではなく、午後遅くに小さな焼き菓子を食べることが好きで、学校で懸命に勉強した日々がよみがえります。

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パリオリンピック以降のキーワードは「持続可能な都市開発」
journalist Florent Dabadie (Photo: Kisa Toyoshima)

パリオリンピック以降のキーワードは「持続可能な都市開発」

ー日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。フランスではどのようなSDGsへの取り組みが行われているのでしょうか。

SDGs(国連の持続可能な開発目標)は公的な領域にいる政治家と、経済の民間アクターの両方が共有する目標です。現在、国内外の社会的不平等が我々を取り巻く環境に影響を与えています。持続可能な都市開発は、2024年のパリオリンピック以降のキーワードの一つになるでしょう。

この点で、小池知事が「『東京2020』のレガシーを大きく左右するのは、パラリンピックが日本の社会や都市にもたらす影響である」と強調した時、私は大きな関心を持ちました。(東京の)バリアフリー化された公共インフラはすでに世界をリードしており、パリ(そしてパリ2024年大会)はそれを学ばなければなりません。

その代わりに、オリンピックが目標に掲げている、全ての社会のマイノリティーを含むバランスのとれた公正な社会を目指す「多様性と調和」というヒューマニズムの遺産について、フランスはいくつかの経験を日本や世界と共有できるかもしれません。

陶芸と保存修復の専門家にとって日本は発見の宝庫
kintsugi(Photo by Motoki Tonn on Unsplash)

陶芸と保存修復の専門家にとって日本は発見の宝庫

ーフランスは長い間、男女平等のリーダー的存在でした。夫人は有名な美術品の専門家で、一流のミュージアムで輝かしいキャリアを積んでいますね。夫妻はこのフランスの伝統を象徴していると感じます。

妻はフランスで「beaux〜arts」(美術)と呼ばれている陶芸やガラス工芸や保存修復の専門家です。彼女は、ルーヴル美術館やギメ(パリの東洋美術館)、国立セーヴル磁器製作所など、フランスを代表する機関からよく依頼されます。年間を通して仕事を受けていますが、しばらくは日本で私のそばにいることにしました。

陶磁器の専門家であり、保存修復の専門家にとって、日本は計り知れない発見の宝庫なのです。彼女は日本の漆器の技術と、壊れた陶器を漆と金の粉で修復する日本独特の芸術である「金継ぎ」を学ぶことにしたんですよ。

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現在の厳しい環境下でこそ外に目を向けてほしい
Photo: Kisa Toyoshima

現在の厳しい環境下でこそ外に目を向けてほしい

ーより大きな問題に目を向けると、東京と日本の未来をどのように考えていますか? また、持続可能性についてどのようなテーマに関心を持っていますか?

構造的な変化を目の当たりにして、とても興味深いと感じることが多くあります。例えば、日本が2050年までにカーボンニュートラルを実現するという新しい目標を掲げたことを受けて、エネルギー政策に関する議論が行われていますね。これは全ての国にとって戦略的に大きなテーマであり、特に日本にとっては重要です。

しかし、これには多くの疑問が浮上します。例をいくつか挙げると、原子力はどのような役割を果たすのか? この新しいパラダイムに産業界はどのように適応していけばよいのか?特に自動車産業はEV(電気自動車)への挑戦に直面しています。また、コロナ禍の影響で、いくつかの大手企業が在宅勤務やワークライフバランスについて真剣に考えるようになりました。こうした健康危機の影響は持続可能性にとって大きなものになるでしょう。

ー国際社会の中で日本にどのような役割を期待していますか。

日本は島国であり、そのアイデンティティーや長い歴史に自然と愛着を持っています。島国の人たちは通常、自分たちの「生態系」を守ろうとするのではないでしょうか。しかし、日本は世界に開かれた国であり、主要な国際的プレーヤーでもあります。国際社会の安定に貢献し続けるための大きな資源を持っていますし、現在の非常に厳しい環境下ではなおさら、内向きにならず外に目を向けてほしいと思っています。

フィリップ・セトン(Philippe Setton)

駐日フランス大使

1966年1月12日 、パリ生まれ。パリ・ソルボンヌ(パリ第4)大学で歴史学を専攻し、パリ政治学院で政治学を修めた後、国立行政学院に入学、1994年に卒業(サン=テグジュペリ期生)。フランス外務省入省後、在イタリア・フランス大使館1等書記官(1996〜99年)、ヨーロッパ連合(EU)フランス政府代表部参事官(1999〜2004年)、本省ヨーロッパ協力局総務・EU将来部長(2004〜06年)、同局EU域内務部長(2006〜09年)、ヨーロッパ連合局EU域内政策・制度問題部長(2009〜13年)を歴任。EU政治・安全保障委員会フランス政府代表部大使(2013〜16年)としてブリュッセルに3年間駐在後、2016年に本省ヨーロッパ局長に着任。2020年9月30日から現職。

フローラン・ダバディ(Florent Dabadie)

ジャーナリスト

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。99~02年、サッカー日本代表監督フィリップ・トルシエの通訳兼アシスタントを務める。現在はテレビ番組のナビゲーター、スポーツキャスターなどで活躍中。

「Tokyo meets the world」シリーズをもっと読む……

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  • Things to do

東京から世界中のイノベーティブな視点を幅広く取り上げるため、東京在住の駐日大使にインタビューしていく『Tokyo meets the World』シリーズ、第2弾はベルギー王国。2019年に就任したロクサンヌ・ドゥ・ビルデルリング駐日大使は、SDGsや環境に優しい世界経済に対するベルギーの貢献について詳細に語った。

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クロアチア大使のドラジェン・フラスティッチに、京都をはじめとする日本の都市が直面している「オーバーツーリズム」問題への対処法など、さまざまな話題について聞いた。また、地震への備えやマグロの養殖、東京で本格的なクロアチア料理が食べられる場所などについても、じっくりと語ってくれた。

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