1. Tokyo meets the World: Croatia
    Photo: Kisa ToyoshimaAmbassador of the Republic of Croatia to Japan, Drazen Hrastic
  2. Tokyo meets the World: Croatia
    Photo: Kisa Toyoshima(L-R) Senior consultant at Original Inc, Masashi Takahashi; Ambassador of the Republic of Croatia to Japan, Drazen Hrastic

駐日クロアチア共和国大使に聞く、観光対策と誇るべき日本的価値観

SDGsから見たオーバーツーリズムの対処法とオリンピック後の日本

テキスト:
Ili Saarinen
翻訳:
Time Out Tokyo Editors
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コーディネート:Hiroko Ohiwa

美しい風景や歴史的な都市、おいしい地中海料理、世界トップレベルのサッカー選手、ニコラ・テスラから「ヨーロッパのイーロン・マスク」とも呼ばれる有名な発明家のマテ・リマックまで、クロアチアは多彩な魅力を持った国だ。アドリア海に面した小国であるクロアチアは、さまざまな面で優れた力を発揮しているが、特に観光に関しては人口の4倍以上の年間訪問者数を誇っている。

東京在住の駐日大使へのインタビューを続けている「Tokyo meets the world」シリーズ。今回は、クロアチア大使のドラジェン・フラスティッチに、京都をはじめとする日本の都市が直面している「オーバーツーリズム」問題への対処法など、さまざまな話題について聞いた。

また、ORIGINAL Inc.のシニアコンサルタントでSDGs(国連の持続可能な開発目標)関連の業務を担当した経験のある元外交官の高橋政司との対談では、地震への備えやマグロの養殖、東京で本格的なクロアチア料理が食べられる場所などについても、じっくりと語ってくれた。

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日本の人々はとても平和的で穏やか

ー日本に対する現在の印象と、就任する前と後の変化について教えてください。

日本に赴任して5年半以上がたちました。赴任が決まったとき、私も家族も大変うれしかったことを覚えています。当時の私たちは日本の歴史、食、芸術などについて多少の知識を持っていましたが、そのほとんどは、西洋の典型的な日本のイメージでした。例えば、江戸時代、侍、忍者、漫画やアニメ、黒澤映画などです。私の個人的な興味は歴史全般、特に軍事史にあります。

日本は世界で最も平和な国の一つですが、歴史を振り返ると必ずしもそうとはいえませんでした。ですから、日本の人々がとても平和的かつ穏やかで、他人を尊重する姿勢を持っていることにとても感心しています。

治安の良さも素晴らしい点の一つです。文化を尊重する限り、どこへ行ってもいいし、好きなことをしても安全なのです。ただし、日本ではいつ地震が起きてもおかしくないという不合理な恐怖感があります。

私は以前、クロアチアを「世界で最も美しい国の一つです。素晴らしい自然と世界遺産、スポーツがあり、地震はありません!」と表現していたのですが、昨年マグニチュード5.3と6.4という非常に大きな被害を出した地震が発生しました。首都の中心部と、南方の地域に被害を与え、物的損害が大きく、8人ほどの死者が出てしまったのです。日本では同規模の地震が起きてもほとんど影響がなく、日本の防災力の高さを実感しました。

また、日本では街中にロボットが歩き回るなど、最先端のテクノロジーを有しているというイメージがあります。その一方で、ほかの国ではもう存在しないような非常に古いやり方も健在です。そのことを多くの人は見逃しています。それは、私がこの社会に身を置き、日常を知ることで分かったことです。

食に関しては、寿司、刺し身、天ぷらなど日本料理の一部は海外でもよく知られていますが、「和食」はそれよりもはるかに豊かで、地域によってその違いは顕著です。これも私にとってはうれしい驚きでした。

クロアチアと日本の共通点
Photo: Kisa Toyoshima

クロアチアと日本の共通点

ークロアチアと日本の関係はどうですか。

クロアチアと日本は遠く離れていますが、友好的な関係であり、多くの共通点があります。民主主義、ルールに基づく国際秩序、人権、表現の自由といった共通の価値観を提唱し、積極的に支援しています。イベントや展示会、コンサートなどを数多く開催するなど、文化的な交流も活発です。広島や長崎など、第二次世界大戦で大きな被害を受けた都市とも協力しています。クロアチアが戦争を経験したのは約30年前と、比較的最近のことですが、その点では世界と共有できるものがたくさんあるでしょう。

スポーツ分野での協力も興味深いものです。クロアチアは、2018年のワールドカップで代表が決勝進出を果たすなどサッカーは特に有名です。ほかにも、バスケットボールではバルセロナオリンピックでアメリカのドリームチームと対戦して決勝進出を果たしていますし、ハンドボール、水球、トラップ、そして多くの陸上競技やスキー競技でオリンピックの金メダリストになっているなど、スポーツ界での成功を数多く収めています。この分野でも選手やコーチから、ノウハウの共有など日本との交流が行われているのです。

最近まで、日本で最も有名なクロアチア人スポーツ選手は格闘家のミルコ・クロコップでしたが、今ではルカ・モドリッチやイヴァン・ラキティッチなどのサッカー選手の方が人気がありますね。

経済協力については、本当のポテンシャルをはるかに下回っており、現在のレベルに満足することはできません。ほかの多くの国とは異なり、クロアチアは日本に対して若干の貿易黒字を計上していますが、これはクロマグロが日本への主な輸出品だからです。クロアチア産のクロマグロは、日本で手に入る外国産のマグロの中では最も高価で高品質なものの一つで、多くの一流レストランで提供されています。

ークロアチアはどのようにしてクロマグロ産業を発展させてきたのでしょうか。

クロアチアは、ほかのヨーロッパ諸国と同様、移民の国です。カナダ、アメリカ、西ヨーロッパ、南アフリカ、南米、オーストラリア、ニュージーランドなど、クロアチア国内よりも海外に住むクロアチア系の人々の方が多い。オーストラリアでは、クロアチア系の人々がマグロ事業の主要な担い手となっています。彼らの中には、30年ほど前にクロアチアに戻り、新しい会社を設立した人もいます。最大のマグロ養殖会社の一つは日本企業が所有するカリ・ツナ社です。観光客は実際に、養殖しているマグロと一緒に泳ぐことができるんですよ。

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2019年、クロアチアは人口の4倍以上の外国人観光客を受け入れた
Photo: Unsplash/Datingjungle 

2019年、クロアチアは人口の4倍以上の外国人観光客を受け入れた

ークロアチアは、日本人旅行者にとっても人気の観光地ですね。

コロナ禍以前は、年間15、16万人の日本人観光客がクロアチアを訪れていました。また、日本を訪れるクロアチア人観光客の数も数年単位で倍増しています。

クロアチアの観光産業はとても古く、19世紀半ばから始まりました(外国人観光客向けの最初のホテルが建設されたのは1848年)。2019年、クロアチアは1800万人以上の外国人観光客を受け入れましたが、これは440万人の人口を考えるとかなり多く、コロナ禍前の最も保守的な予測でも、2020年は人口の5倍近い2000万人になるといわれていました。

しかし、多くの観光客を誘致することが目的ではなく、観光客に喜んでもらいながら、地域の自然や住民にとっても持続可能な質の高い観光を実現することが重要だと考えています。これも日本と継続的に協力している分野です。クロアチアには数多くの世界遺産がありますが、その多くは維持管理や周辺住民にとって大きな負担になっており、訪れる人の数を制限しなければなりません。

ドブロブニクの旧市街は、7月から8月にかけてチケットがかなり高いにもかかわらず、城壁に上るのに数時間待たなければならないほど混雑しています。渋谷のハロウィンみたいな状態ですね(笑)。

クロアチア料理には4、5の異なる地方料理がある
Photo: Kisa Toyoshima

クロアチア料理には4、5の異なる地方料理がある

ー東京でクロアチア料理を食べるなら、どこがいいでしょうか。

簡単に紹介すると、クロアチア料理には4つか5つの全く異なる地方料理が含まれています。まず、地中海料理の一部であるダルマチア料理とイストリア料理の2つの沿岸料理があります。ほかの2つは、伝統的なクロアチア料理でありながら、ハンガリーやオスマントルコの影響を受けたスラブ料理(東洋料理)。スパイシーでスモークした肉や、重くて脂っこいメニューが特徴的です。そして最後に、中央ヨーロッパの料理の影響を受けたクロアチア中部の料理ですね。

残念ながら、東京にはクロアチア料理のレストランが1軒しかありません。銀座、京橋エリアにあるドブロは、日本人の口に合うように少しアレンジされた素晴らしいクロアチア料理を提供しています。私も週に何度か通っていますよ。また、私の妻は料理人なので、日本の友人を大使公邸に招く時は妻が腕を振るうこともあります。

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オリンピック後、日本は世界と歩調を合わせるために加速する
Photo: Kisa Toyoshima

オリンピック後、日本は世界と歩調を合わせるために加速する

ー残念ながら外国人観光客が参加できないイベントとなってしまいましたが、安全が議論されている東京オリンピック・パラリンピックがもうすぐ開幕する予定です。仮に開催された場合、東京にどのような影響を与え、何が変わると考えていますか。

私は、オリンピックが安全な環境で開催されると確信しています。また、日本はこの状況下で最適なオリンピックを開催するための準備が整っているのではないでしょうか。オリンピックは常に世界の注目を集めていますが、1964年の東京オリンピックとその後の大阪万博によって、日本が再び世界の舞台に登場したという歴史的なストーリーを私は知っています。

今年のオリンピックは、「平和と団結のシンボル」「コロナに対する勝利とパンデミックからの復興のシンボル」と見なされ、日本が世界の平和、安全、技術、開発、世界経済への貢献者であり続けるというメッセージを発信することになるでしょう。

しかし、世界は驚異的なスピードで変化しています。どのような社会にしたいのか、世界とどう付き合っていきたいのかは、私たちだけが決めることではなく、世界の現実にある程度合わせていかなければなりません。オリンピックをきっかけに、日本はもっと世界に開かれた国際的な国になっていくだろうと思います。

私が大切にしている日本の価値観に「お年寄りを敬うこと」「他人や自然を敬うこと」などがあります。こうした感覚を日本はこれからも維持してほしいと願っています。その一方で、意思決定のスピードアップや外国語への関心など、世界と歩調を合わせるために必然的に変わらなければならないものもあります。このような変化はすでに起きており、オリンピック後にはさらに加速するでしょう。

地方がにぎわうための政策が何よりも重要

ー最後に、日本ではSDGsが注目されるなど、持続可能な開発への関心が高まっています。クロアチアはどのようにサステナビリティに取り組んでいますか。

再生可能エネルギーへの切り替えを進めており、水力、太陽光、風力発電の利用によって、すでに欧州連合(EU)の目標を上回っています。クロアチア政府はグリーン&ブルー投資を奨励しており、私たちは環境を破壊するような投資を受け入れる立場にはありません。また、サプライチェーンを短縮し、フードロスを減らすことで、食料生産の自給率を高めようとしています。

ー食料自給率の話が出ましたが、これは日本でも長年の課題です。クロアチアはこの問題にどのように取り組んでいるのでしょうか。

クロアチアには良質な農地がたくさんありますが、日本は国土の7、8割が農業に適していないため、制約が多いのが現状です。しかし、どちらの国でも、地方から都市へ人の流れが進んでいます。両国共に、人々が大都市に集まり、地方が寂れてしまうという極めてネガティブな傾向を止めなければなりません。地方の土地が放置されると土砂崩れや浸食、洪水などが増えてしまいます。人々を地方に留め置く、あるいは呼び戻すための政策が何よりも重要なのです。

また、技術によって収穫量を増やすことができます。日本では特に、野菜や果物の生産において技術開発が進んでいますね。また、海という資源も非常に重要です。洋上風力発電などのエネルギー分野、さらには食料生産の分野でも大きな可能性を秘めています。

ドラジェン・フラスティッチ(Drazen Hrastic)

駐日クロアチア共和国大使

1968年9月14日生まれ。1993年クロアチア国防省ザグレブ地域局アドバイザーに就任。1994年ザグレブ大学政治学部修士課程修了。同年、内務省バラジュディン地域警察局担当官に採用。2015年から国防省バラジュディン地域局アドバイザー兼動員課長代理、人事課長、国防省国際防衛協力部防衛政策企画課二国間協力担当官、分析班長、総局長などを歴任。2003年に外務省、多国間問題課協調的安全保障・軍備管理班長に就任。その後、国際治安支援部隊(ISAF PRT)アフガニスタン・バダフシャーン州ファイザバード地方復興チーム文民次長、アフガニスタン北大西洋条約機構(NATO)文民代表部参事官、NATO代表部公使参事官、次席常駐代表などを務める。2011年から2015年9月まで駐トルコ、クロアチア共和国大使、同年12月に駐日クロアチア共和国大使に着任。

高橋政司(たかはし・まさし)

ORIGINAL Inc. 執行役員 シニアコンサルタント

1989年、外務省入省。外交官として、パプアニューギニア、ドイツ連邦共和国などの日本大使館、総領事館において、主に日本を海外に紹介する文化・広報、日系企業支援などを担当。2005年、アジア大洋州局で経済連携や安全保障関連の二国間業務に従事。 2009年、領事局にて定住外国人との協働政策や訪日観光客を含むインバウンド政策を担当し、訪日ビザの要件緩和、医療ツーリズムなど外国人観光客誘致に関する制度設計に携わる。 2012年、自治体国際課協会(CLAIR)に出向し、多文化共生部長、JET事業部長を歴任。2014年以降、ユネスコ(国連教育科学文化機関)業務を担当。「世界文化遺産」「世界自然遺産」「世界無形文化遺産」などさまざまな遺産の登録に携わる。

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