多様性時代の新潮流、メタ観光について考える

「Pokémon GO」や「Ingress」、アニメツーリズム、聖地巡礼

Mari Hiratsuka
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Mari Hiratsuka
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毎回多彩なゲストを迎え、様々なテーマで意見を交わすタイムアウト東京主催のトークイベント『世界目線で考える』がこのほど、恵比寿のタイムアウトカフェ&ダイナーで開催された。今回は、映画やアニメなど現実にはないものを観光のひとつの目的とする「メタ観光」がテーマ。登壇したのは、メタ観光の提唱者であるトリップアドバイザー代表取締役の牧野友衛、KADOKAWA 2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長の玉置泰紀、タイムアウト東京代表取締役の伏谷博之の3人と、スペシャルゲストにアソビジョン代表取締役で慶應義塾大学研究員の國友尚だ。

メタ観光は、目に見えない付加情報に基づいている

メタ観光とは、従来の歴史的文脈や文化的位置付けとは異なるレイヤーに、新たな価値や魅力を見出す観光のことだ。近年ではPokémon GOや、アニメや映画の聖地について共有拡散できるInstagramなどのツールが普及したことが、新たな観光につながってきている。

メタ観光を考えたきっかけについて牧野は、「2000年初頭に外資系で働いていたが、来日する同僚や知人に目的を聞いたところ、『ロスト・イン・トランスレーション』の舞台になったパークハイアットに行きたいなど、圧倒的に映画がきっかけであることが多かった。それがとってもメタっぽいなと感じた」と、当時を振り返った。

さらに、牧野は神田須田町にある甘味処の竹むらをメタ観光の例として挙げた。もともと「揚げ饅頭の有名店」「東京都選定歴史的建造物」として知られているが、『仮面ライダー』や『ラブライブ』の舞台になり、Pokémon GOの「ポケストップ」にもなっている場所だ。

「このようにひとつの場所が、複数の意味を持つということが、大変興味深い。メタ観光は目に見えない付加情報に基づいていることと、複数の情報が存在することだと考えている。今後、これらの情報を可視化するプロジェクトを進めたい」と語った。

牧野が代表を務めるトリップアドバイザーの『外国人に人気がある日本の観光スポットランキング』で、4年連続1位になっているのは京都の伏見稲荷大社。映画『SAYURI』をきっかけに外国人観光客が増えたが、2年ほど前からは、日本の高校生の修学旅行コースにも加わっている。外国人旅行者の増加によって、日本人の観光にも変化が生まれているのも興味深い。

牧野友衛

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メタを通じて行動をどうデザインするか

KADOKAWA 2021年室エグゼクティブプロデューサー担当部長で元ウォーカー総編集長の玉置は、「アニメや映画が、メタ観光の重要なフックになる」と言う。現在、2兆円を超えるというアニメ市場。海外でアニメ関連のブースを出すと人だかりができるほどで、映画とアニメのゆかりの地を訪れる「聖地巡礼」を目的とした訪日客は、全体の4.8パーセントに上っている。

KADOKAWAでは、アニメ『ガールズ&パンツァー 』の舞台となった茨城県大洗町の聖地巡礼ガイドを2016年に発行。今年5月には『ガールズ&パンツァーWalker2』を発行するほどの人気を博している。作品に登場したアンコウのグルメを味わえる『大洗あんこう祭り』には、昨年約13万人もの人が訪れており、大きな経済効果が表れているようだ。

こうした成功例もある中、玉置は「どんな作品でもスムーズにいくとは限らない。地元の人と作者の熱意や、行政との連携が重要。そもそも、観光地化したくないと思う作者や住民もいる」と、関わる人々の思いついて重要視した。

アソビジョン代表取締役で慶應義塾大学研究員の國友は、放送作家としてテレビ番組制作に携わった後に、IT、通信業界に転身。「Yahoo!知恵袋」や「ヤフオク!」などをプロデュースしてきた。これまで数々のメタデータを活用し、コンテンツづくりや、新規事業を立ち上げてきた人物だ。

國友は「メタを通じて、聖地、行動をどうデザインするか」をテーマに挙げ、「メタは、ひとつのキーワードでしかない。観光者にとっては、ただのキーワードなので、ストーリーで繫ぐことが大切。映画とアニメはストーリーがあるので活用しやすいが、それ以外で、人をどう動かすかには、知恵が必要だと感じる。Pokémon GOは奇跡的なコンテンツのひとつで、活用方法がキーになる」と話した。

これに対して玉置は、「ストーリーが意外と作りづらいのがメタ観光。ロケ地などを巡るコンテンツツーリズムとの違いは、アニメや映画などのコンテンツのほかに、地学や歴史など、複数のことが組み合わさる状況を作りだし、多層であることを楽しんでもらうことだ」とコンテンツツーリズムとの違いを語った。

左から玉置泰紀と國友尚

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住民をいかに巻き込むか

伏谷は「すでにある観光資源の新しい魅力を発掘して、紹介していかないといけない」と、地域との連携や、メタ観光を進めていく上での留意点についてさらに議論をすすめた

國友が、「住民をいかに巻き込んでソーシャルムーブメントを起こすか。映画やアニメ、キャラクターの権利を住民が自由に使えるようにしたら、支援が広がるのではないか」と問いかけると、玉置はプロ野球の福岡ソフトバンクホークスを成功例として紹介。ソフトバンクホークスは、球団マスコットのタカの家族『ホークファミリー』の使用権利を開放したことで、福岡市民から親近感を得ることで、来場者数の増加に繫がったという。

議論を通じ、メタ観光を進める上での3つのポイントが見えてきた。

1つ目は、新しい価値の創出だ。玉置は、最も分かりやすいのは、地域アート。新潟県で行われている『大地の芸術祭』は当初、地元の人から大反対されていた。しかし、外国人アーティストたちが2年ほど住み込んで作品を作っていく間に、おじいちゃんやおばあちゃんなど、地域の人とのコミュニケーションが生まれた。メタ観光を生み出すには、地域との問題を解決し、土地に変化を起こすことが大事」と解説した。

2つ目は、既存の観光資源の価値に気づくこと。國友は「地元に既にある観光資源を可視化しないといけない。地元の人は価値に気づいていないことが多い。東京に住む人たちが地方を訪れて、価値を可視化させることが必要だ」と述べた。牧野も「日本人や外国人であることを問わず、日本に新しい意味付けをどんどんしていくべき」と強調した。

3つ目は、多様性だ。海外では、ライフスタイルの多様化をうけて24時間営業の都市を目指す動きがある。伏谷は「副業など働き方も含め、社会は多様な価値観やスタイルを受容し、評価する方向に変化している。複数のタグを多層レイヤーとして持つメタ観光も、この流れにあり、多様なタグを持つスポットの価値は高まっていくだろう」と締めくくった。

未だ手探り状態のメタ観光ではあるが、観光の新潮流として今後の展開に注目していきたい。

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伏谷博之

牧野友衛(まきの ともえ) プロフィール

トリップアドバイザー 代表取締役 2016年9月1日から現職。トリップアドバイザー入社以前はAOLジャパン、グーグル、Twitter Japanと外資系インターネット企業で国内へのサービスの開始と普及を行う。14年より総務省の「異能(Inno)vationプログラム」のアドバイザーも務める。1973年生まれ、東京都出身。

玉置泰紀(たまき やすのり)プロフィール

KADOKAWA/2021年室エグゼクティブプロデューサー・担当部長。元ウォーカー総編集長。京都市埋蔵文化財研究所理事。大阪府日本万博博覧会記念公園運営審議会委員。同志社大卒。産経新聞神戸市局・大阪本社社会部で6年記者、大阪府警本部捜査1課担当〜福武書店月間女性誌〜角川、編集長4誌〜ウォーカー総編集長から現職

國友尚(くにとも たかし)プロフィール

アソビジョン代表取締役/慶應義塾大学研究員 大学在学中より放送作家としてテレビ番組制作に携わる。その後、IT、通信へと活動の領域を広げ、ヤフー、KDDIでは部門長として数多くの新規事業を手掛ける。研究者として日本創造学会論文賞受賞、イノベーションデザイン、ヒューマンシステムデザインにおける独自の手法は注目を浴びる

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