成澤由浩シェフ、グランプリ獲得

国際ガストロノミー学会の最高賞を獲得、アジア人の受賞は史上初

作成者: Yoko Asano |
Advertising

タイムアウト東京 > レストラン&カフェ > 成澤由浩シェフ、グランプリ獲得

テキスト&写真:浅野陽子

2018年12月17日、南青山にあるフランス料理店、ナリサワ(NARISAWA)で、国際ガストロノミー学会のグランプリ表彰式が行われた。同賞は国際ガストロノミー学会でも最も権威ある賞で、ジョエル・ロブションをはじめ、世界の名だたるトップシェフが受賞している。

今回はナリサワのオーナーシェフ、成澤由浩(なりさわ・よしひろ)が受賞。日本人だけでなくアジア人としても初の快挙となった。表彰式当日は各界の著名人やメディア各社、また成澤と取引のある生産者も駆けつけ、盛り上がった。

 

国際ガストロノミー学会とは 

今回の表彰を行った国際ガストロミー学会とは、フランスに本部を持つ国際的組織だ。「世界の国と地域の食文化、伝統を守りつつ、現代料理の芸術的創造性を奨励する」という目的で設立。以来30年以上、食の啓蒙活動を行ってきた。日本を含む23ヶ国にネットワークがあり、国連食料農業機関(FAO)をはじめ、世界保健機関(WHO)やユネスコ、EUとも連携している。

近年では、サステナブル(食材をはじめとした、地球資源の持続可能性)というテーマを特に重視している。人間が食事を摂り、楽しむ一方で、いかに地球環境を破壊し、深刻な影響を与えてきたのか。また、貴重な食材を次世代につなぐため、人類は今後どのような努力を続けるべきか、という情報発信にも取り組んでいる。

シェフ、成澤と今回の偉業

そして成澤は、南青山にあるフレンチレストラン、ナリサワのオーナーシェフ。同店はミシュランの星はもちろん(2019年は二ツ星)、料理界のアカデミー賞と呼ばれる『ワールド50ベストレストラン』に10年連続で選出。成澤自身も、2010年にはスペインの世界最高峰の料理学会マドリッド・フュージョンにて、『世界で最も影響力のあるシェフ』にも選ばれている。まさに国内外の料理界で確固たる地位を築いている、日本を代表する料理人だ。

この日、成澤が受賞したグランプリ(グランプリ ドゥ ラート ドゥ ラ キュイジーヌ)とは、国際ガストロノミー学会が認める、最も食の芸術史を極めた人物にのみ贈られる賞だ。

過去には、フレンチの神様として知られるジョエル・ロブションや、史上最年少三ツ星獲得シェフのアラン・デュカス、また「世界一予約が取れない店」と言われ、世界中の食通から惜しまれつつ2011年に閉店したスペインの伝説のレストラン、エル・ブリ料理長のフェラン・アドリアが授与されている。今回の成澤の受賞は、日本人はもちろんアジア人として初の快挙となった。

成澤が独自に提唱する「イノベーティブ里山キュイジーヌ」(革新的里山料理。日本の豊かな食文化と先人たちの知恵を、成澤のフィルターを通して表現する新ジャンル)が、国際および日本ガストロノミー学会が推奨する「サステナブルガストロノミー」の概念と一致。成澤の努力と功績が高く評価されて、形となった。 

各界著名人、世界のトップシェフも祝福

グランプリ表彰式当日は、日本の料理界や各界の著名人が駆け付け、成澤の受賞を讃えるスピーチを述べた。登壇したのは、辻調グループ代表の辻芳樹や、一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団の理事長で作家のC.W.ニコル、fragment design主宰の藤原ヒロシである。

皆、成澤と公私を超えた交流があり、20年以上の付き合いになるという人もいた。

さらに、エル・ブリ料理長のフェラン・アドリアをはじめ、ドン・ペリニヨン醸造家のリシャール・ジェフロワ、バスク・キュリナリー・センター艦長のホセ・マリ・アイセガが、ビデオレターで祝福の言葉を寄せた。
 

全国の生産者に支えられている

その後、グランプリの贈呈と成澤自身によるスピーチがあり、会場のメディアからの質疑応答も行われた。

「日本や世界中には、素晴らしい自然環境がありますが、工業的発展とともに我々はその大切さを見失っています。ナリサワは北海道から沖縄の島々まで、数えきれないほどの生産者の方々に支えられ、ここまで続けられました。今後は今まで以上に森と触れ、自然の偉大さを感じながら料理表現を続けていきたいです」と、成澤がコメント。

それを受け、記者陣が「サステナブルと美食を融合するにあたっての課題や難しさ」や、「若手の料理人の育成」などについて、質問。途中で、成澤の回答を補足しようと、出席していた生産者が代わりに答えるなど、成澤と生産者の深い信頼関係が伝わってくる場面もあった。

  

「厨房の外」にこそ学びがある

美食家が絶賛する、日本の「里山」を表した成澤の料理(画像提供:国際ガストロノミー学会グランプリ表彰式)

今回の表彰式や、成澤の言葉を通して感じたのは、トップシェフとして確固たる地位を築いた現在でも、「まだ勉強中の身」「たくさんの方々に教えていただいている」と繰り返し、周囲から常に学ぼうとする成澤の謙虚な姿勢だ。

シェフとしてハードな日常を送っているにも関わらず、20年以上前から休みには毎週、産地や森、畑を訪れ、勉強を続けているという。食材と土壌、自然に敬意を払う成澤。そしてその姿に感動した生産者が、成澤に優れた食材を提供し続ける。そこに成澤の芸術的センスと技術が重なることで、他店の追随を許さない、ナリサワ独自の傑出したサイクルが生まれているのではと思う。

最後に成澤は、こう締めくくった。

「これからの料理人は、厨房以外の場所で学ばなければなりません。昔は調理の知識を手に入れるのは難しく、長時間厨房にいる必要がありましたが、今では特殊なテクニックも、パソコンですべて検索できる、便利な時代になりました。

しかし、料理には現代でも、インターネットはもちろん、厨房にいては学べないことが無限にあります。厨房にいて理解できる事柄は、わずか1パーセントと断言しても良い。とにかく厨房を出て、自然と、自然の近くにいる人に教えてもらうことが重要です。そこに、料理人に必要な、99パーセントの大事なことが見つかるでしょう」(成澤)

日本を代表する料理人としての地位を築き、今回アジア人初のグランプリも獲得した。しかし常に謙虚に、自然から料理の真髄を学び続けようとする成澤。次はどんな快挙を成し遂げるのか、今後も目が離せない。 

Yoko Asano

フードライター。食限定の取材歴20年、『dancyu』『おとなの週末』『ELLE a table(現・ELLE gourmet)』『AERA』『日経MJ』『近代食堂』など食の専門誌を中心に、レストランや料理人への取材多数。テレビのグルメ番組への出演実績もある。『NIKKEI STYLE』(日本経済新聞社)の人気コーナー『話題のこの店この味』で毎月コラム連載中。
Advertising