車いす目線で考える 第11回 助け、助けられることに慣れる

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティー

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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タイムアウト東京  Open Tokyo > 車いす目線で考える > 第11回 助け、助けられる習慣

2020年の東京パラリンピック競技大会の開会まで500日を切った。機運醸成のため、都内各地で競技の体験会や、パラアスリートによるトークショー、ラッピングバスの巡回など、様々な形でPR活動が展開されている。また各競技の魅力が一目で分かるようなピクトグラムが発表され、このピクトを使った『東京2020パラリンピックスポーツピクトグラムかるた』も誕生した。

このように、パラリンピック競技大会への関心、認知度を高める動きや、公共交通機関、競技施設のバリアフリー化も加速度が増してきた。しかし、障害そのものへの理解については、まだまだ発展途上と言える状況だ。

実際、2016年4月に施行された、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)は、障害当事者にとっては広く知られている一方で、一般社会においての認知度が極めて低いことから、公共交通機関での乗車拒否や、飲食店での入店拒否もいまだにひん発している。事業者側に拒否してしまう理由や事情があるのは分かるが、どうしたら利用できるかを一緒に考えてほしいのだ。

こうした問題を解決する鍵となるのは、障害者自身がもっと外に出て、健常者との接点を持つ機会を増やし、数多くの声掛け、手助け体験をしてもらうことだと思う。一言で言えば「慣れる」ということ。障害者も健常者も、互いに「断られたらどうしよう」と思ってしまっている人が多いのではないだろうか。まずは、その見えない心理的なバリアを取り除くことから始まる。

具体的には、以下のような行動を意識することが重要だ。

▽障害者側の「慣れる」

・自らに必要な配慮や、手助けを求める申し出をすることに慣れる。

・声をかけられたり、手助けされることに慣れる。

▽健常者側の「慣れる」

・困り事があるかを確認する声掛けや、手助けをすることに慣れる。

・障害者から手助けを求められることに慣れる。

しかし、先日都内某所で講演をした際、参加者からこんな質問が出て、大変残念な思いをした。

「駅のホームで、前に並んでいた車いす利用者が電車に乗り込む際、『お手伝いしましょうか?』と尋ねたら、『結構です』と強い口調で言われ、迷惑そうな顔をされてしまった。この場合、どうすれば良かったのでしょうか」と。僕はこの方に、障害者を代表して2つのことを謝罪した。

1つ目は、手助けを断るにしても、勇気を振り絞って声を掛けてくれたことに、まずは感謝の意を伝えるべきだったこと。2つ目は、その人の「手助けをすることに慣れる」という機会を奪ってしまったこと。

このほかに、東京駅のタクシー乗り場で、こんなシーンに出くわしたこともある。車いすユーザーがタクシーに乗り込む際、後ろに並んでいたビジネスマンが車いすを支えると、「勝手に触るな」とにらみながら言い放ったのだ。せっかくの好意を無駄にする残念な言動だ。

この2つのシーンを間近で見た人たちは、どんなことを思うだろうか。恐らく、「障害者には関わらないでおこう」と思ってしまう人が多いのではないだろうか。

一連の出来事から、障害者側の意識改革が必要だと強く実感した。僕は最近、声をかけられたら、自分でできることであっても、手助けしてもらうようにしている。もちろん感謝の言葉を添えて。

電車やバス、飲食店やコンビニなど、生活のあらゆるシーンで、互いにコミュニケーションを取ることが日常となれば、障害理解も促進され、さらに外出しやすい環境となるだろう。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

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