車いす目線で考える 第6回 新幹線の「デッキ族」

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、東京のアクセシビリティ

テキスト:
Shiori Kotaki
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タイムアウト東京  Open Tokyo > 車いす目線で考える 第6回 新幹線の「デッキ族」

テキスト:大塚訓平

2018年11月7日〜13日まで、渋谷ヒカリエで開催された『2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展(通称、超福祉展)』。今回は、同イベント内で行われ、僕も登壇したトークセッション『nono2020会議 乗り物の巻Vol.2』で話し合った内容から学んだことついて、深掘りする。

トークセッションでは、バスや電車、タクシーなど、様々な乗り物に関する日本と海外の「イケてる事例」と「イケてない事例」をシェアしながら、どこに社会障害があるのかについてディスカッションした。なかでも、大きくフォーカスされたのは新幹線に関する社会障害で、座席確保の困難さだ。
※「nono2020会議」:障害当事者達が感じる社会障害の「あるある」を「ないない」にするために、なぜ社会障害が生まれるのか、どのように攻略すれば良いのかについてディスカッションするプロジェクト

お得感のある座席......そこが、車いす対応座席だった
みなさんが新幹線を利用する際、真っ先に気になることといえば「席を確保できるかどうか」ということではないだろうか。指定席を取らずに1人で移動する場合、たとえ乗り込んだ車両に空席がなくても、次の車両に移動すれば、年末年始や大型連休を除いて、席を確保することはそんなに難しくないだろう。

では、車いすユーザーの場合はどうか。そもそも、新幹線には車いす対応座席があるのだが、このことを知っている人はどのくらいいるだろうか。例えば、東北新幹線E5系の場合、通路を挟んで左右に3席、2席と席が配置されている。その3席側の1席分スペースが空いている席がある。実はここが車いす対応座席なのだ。

車いす対応座席

よく見てみると、肘掛の側面と窓の上方に車いすマークの表示があるのが分かるだろう。この座席には、ほかの座席と違う以下の特徴があるのだ。
①車いすから座席に移乗しやすいように、通路側の手すりが跳ね上げ式(可動式)になっている
②座席の隣に車いすを置いておけるスペースがある
③車いすを固定するためのベルトが備え付けられている

車いす対応座席であることを周知する大きな表示があるわけでなければ、そのようなアナウンスもされていない。そのため、本来の用途の認知度がかなり低いのだと思う。スペースが広く確保されていて、お得感のある座席として、多くのビジネスマンに利用されているのが現状だ。実際にこの写真を撮った時も、ほかに空席があったにもかかわらず、50代のビジネスマンが1人で2席分を利用していた。

次に、肝心の席数だが、僕が利用した1000席を超えるこの列車の中に、何席あったのか。答えはシートマップを見てほしい。なんと自由席の5両目に1席、グリーン車に1席のみだ。この中で座席を確保するのは、困難を極める。

シートマップ。いかに車いす対応座席が少ないか明らかだ

さらに、車いす対応座席に辿り着くまでにバリアになることがもう一つある。それは、新幹線の通路幅だ。新幹線の通路幅は、55cm~57cm。一般的な車いすの全幅は約60cmなので、通路を通れない場合がほとんどだ。また、車いす対応座席が上り側にあるのか、下り側に設置されているのかは、到着する車両によって違いがある。そのため、たとえ車いす対応座席のある車両に乗り込んだとしても、もしその座席が逆方向にあった場合、車両内通路は通れないので、一度ホームに出て、次の乗車扉まで移動してから乗り込むしかないのだ。

このような理由から、僕はしばしば「デッキ族」になる。本来は席に移乗して座っていたいが、ほぼ車いす対応座席には先客がいるため、1〜2時間の乗車時間であれば、我慢してデッキにいるようにしているのだ。しかし、真夏と真冬はかなり辛い。真夏は汗だくになり、真冬は寒さに震えながらの乗車となる。そして、同行者がいる場合は、立ちっ放しになってしまうのも辛いところだ。

2020年東京オリンピック・パラリンピック開催までには、少なくとも全ての車両に1席は車いす対応座席を整備してほしい。また、床面の色を変えたり、車いすマークを大きく表示をするなどして、誰もが車いす対応座席だと分かるようにしてほしい。そうしないと、近い将来デッキは車いすユーザーで溢れ、常に乗降困難な状況に陥ると思う。

このコラムを見てくれた、気づきのアンテナが高いそこのあなた......その整備が進むまで、まずはこの情報を家族や友人、勤務先の人とぜひ共有してほしい。すべての人が、平等に移動できる社会を目指して。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

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