1. ナイトタイムエコノミーに関する意見交換会
    Photo: Aya Morimoto駐日オランダ王国大使館全権公使のテオ・ペータス(左)とアムステルダム市長のフェムケ・ハルセマ(右)
  2. ナイトタイムエコノミーに関する意見交換会
    意見交換会の参加者一同/Photo: Aya Morimoto
  3. ナイトタイムエコノミーに関する意見交換会
    Chicks On A Mission Tokyoのナズ クリス(左)、臼杵杏希子/Photo: Aya Morimoto
  4. ナイトタイムエコノミーに関する意見交換会
    左から伊藤佳菜(ナイトタイムエコノミー推進協議会)、フェムケ・ハルセマ、ビンセント・スキッパー(「STUDIO THE FUTURE」共同設立者)/Photo: Aya Morimoto

日本とは決定的に異なるリスクコントロール、アムステルダム市長が語る夜の再編成

東京の夜のキーパーソンらと「ナイトタイムエコノミーに関する意見交換会」レポート・後編

テキスト:
Genya Aoki
広告

タイムアウト東京 > ナイトライフ> 日本とは決定的に異なるリスクコントロール、アムステルダム市長が語る夜の再編成

「ナイトライフは安全でコントロールできる場所」と告げるのは、アムステルダムの市長であるフェムケ・ハルセマ(Femke Halsema)だ。2023年3月、ハルセマを囲み、「ナイトタイムエコノミーに関する意見交換会」が「六本木ヒルズアカデミー」で開催された。

同会は、さまざまな地域で文化と経済に資する多様な夜の価値を創出していくことを目的とした組織である「ナイトタイムエコノミー推進協議会」と、ナイトエンターテインメント業界における女性躍進支援および安全なクラブシーンを作るための提案を行っている団体「Chicks On A Mission Tokyo」、そして「オランダ王国大使館」の共催で実施。DJ、アートユニット、フェスティバル主催者など、東京とオランダのナイトライフに携わる16人が意見を交わし合った。

ここではオランダの先進的な事例のほか、2023年現在の両都市における夜の課題や、2都市間協力における魅力的な提言などを紹介しよう。

※なおこの記事は前後編である。前編は以下の関連記事をチェックしてほしい。

関連記事
街の生き残りかけてナイトライフに活気を、アムステルダム市長が語る夜の再編成

Photo: Aya Morimoto

フェムケ・ハルセマ(以下、ハルセマ):日本ではセクシュアリティ(性的関心)やドラッグに対する不安が大きいと思います。もちろん、ナイトライフの場は多くの若者がドラッグや性的側面の関心を喚起されやすい場であることは事実です。しかし一方でナイトライフが重要な場である理由があります。つまり、ナイトライフは比較的安全でコントロールできる場所であり、助けてくれる誰かがいる場所なのです。

何をされるのか、何を与えられるのか、どんな状況かも分からない誰かの家のリビングルームより安全な場としてクラブを捉えて、安全を守るために行政もナイトクラブなどをサポートしていくことが重要です。

テオ・ペータス(以下、ペータス):政府は、強い規制をかけることで人々の創造性や新しい行動を抑制してしまいがちです。人々が何か実験的なことを始めたり、体験したりできるような自由を残しておくために、直ちに規制をするのではなく、人々の活動と距離をとっておく必要があると思うのです。 

サビーヌ・ヒンブレレ:市長がおっしゃるようなナイトライフの重要性については私も十分に理解しています。日本のナイトライフのためにアムステルダムも協力していきたいと思っています。ナイトライフにおける女性の地位やハラスメントを防ぐ方法など、CHICKS ON A MISSIONが取り組んでいるような問題に関しても、私たちが情報共有し、継続的に協力できるかもしれません。

逆に、アムステルダムが東京から学べることもたくさんあると思っています。日本に残る個性的で小さなベニューや、オランダではほとんどなくなってしまったアンダーグラウンド精神にあふれる文化、アバンギャルドや実験的な取り組みについては、アムステルダム側が学びたいです。

東京とアムステルダム、ナイトライフコラボのためにできること
意見交換会の参加者一同/Photo: Aya Morimoto

東京とアムステルダム、ナイトライフコラボのためにできること

梅澤高明(以下、梅澤):では最後に、アムステルダムと東京との間でナイトライフや文化に関してどのようなコラボレーションができるかについて議論したいと思います。

伊藤佳菜:私たちが抱えている問題の一つは、行政と文化活動を行う地域コミュニティーの間にギャップがあることです。全員が集まって話し合えるような場があったらいいのにと思います。

ハルセマ:提案してもいいでしょうか?日本でADEのアジアバージョンを作ったらどうでしょう。ADEイベントのとても良いところは、音楽を楽しむとともに、カンファレンスとしても機能していることです。ダンスミュージックやエレクトロニックミュージックの未来や、テクノロジーの発展について議論が交わされます。普段の社会とナイトライフをつなぐ橋渡しをしているのです。

日本ではナイトメイヤー制度の導入を検討されたことはあるのでしょうか?ナイトメイヤーは政策立案者の言葉も話すナイトライフの人物です。政策とナイトライフの架け橋としてそうした人物がいたことが非常に役に立ちました

もう一つ。政策サイドだけではなく、ナイトライフ側の人たちの活動も重要です。アムステルダムではストリートでデモ活動をすることがありますが、その際、デモの手段としてダンスが用いられることがあります

パブリックスペースでダンスのデモをすることでナイトカルチャーと社会が混じり合い、誰の目にもとまるようになるのです。

 

広告
左から伊藤佳菜(ナイトタイムエコノミー推進協議会)、フェムケ・ハルセマ、ビンセント・スキッパー(「STUDIO THE FUTURE」共同設立者)/Photo: Aya Morimoto

テオ・ペータス:は東京都や区の政策立案者、意思決定ができる組織の方々にアムステルダムを訪れることを提案したいです。人々がありのままに生きていることが許されているこの街を実際に目にしたら、どのような考えを持つのでしょうか。

私たちが心がけているのは、規範的なことではなく、現実的なことです。多くの人がありのままの自分でいられるように、さまざまな問題を解決し、それによって幸福度を高めること。それが、オランダの幸福度が常に高い理由の一つだと思います。

(オランダは法律上の性別が同じ二人の結婚を2001年に実現した世界初の国で)、アムステルダムは世界で初めてLGBTQの結婚式が行われた都市です。これは日本でも大きな関心事でしょう。我々が心がけているのはオランダでの実例を示すことです。同性婚に対してさまざまな心配を抱く人たちに「どうぞオランダに見に来てください」と伝えました。実際、オランダに来ていただければそれほど多くの問題があるわけではないことを理解してもらえるのです。

ナズ クリス:夜のハラスメントやLGBTQ+への差別など問題が非常に深刻です。そのため「性的マイノリティに対する理解、ハラスメント、女性の権利」を主題にラウンドテーブルする、G7G20のようなサミットを東京都とアムステルダム市が共催して実施したい。また、女性のナイトメイヤーやナイトライフのコミッションの役割があるような役職を一緒に作れたら、これらの問題が大きく前進するのではないかと感じています。

ハルセマ:2026年に世界各地のLGBTQコミュニティーが集結する祭典「ワールドプライド(WorldPride)」がアムステルダムで開催されます。さまざまな議論が行われるでしょう。特にLGBTQや女性の権利について、都市のための国際サミットを作るのはとても良いアイデアだと思います。

アムステルダムでは2年に一度、「LGBTQ+コミュニティーの安全と自由」をテーマに国際的なスピーカーを招いて開催する会議の可能性について議論してきました。LGTBQ+コミュニティーが大きく解放され、人々がより率直で活動的に生きられるようになるのは非常に良いことですが、オランダも含め、国際的に、非常に保守的で厄介な反応も見かけます。

最後に、アムステルダムがナイトカルチャーの最先端であることをいろいろと語ってきましたが、問題もあり、全てが思い通りに進んでいるわけではありません。

今回の日本への視察で得た興味深い発見は、日本では芸術が日常生活や経済圏の中に混ざり合い、溶け込んでいるということです。オランダではアートやアーティストが社会から離れたところで孤立してしまい、社会の中での居場所を失っています。これは、都市部からのクリエーティビティの流出につながり、大きな課題だと思います。私たちは目的を持って東京を訪問しています。今週は多くのことを学び、東京から持ち帰り、アムステルダムで参考にしたいと思っています。

意見交換会参加者

<アムステルダム>

フェムケ・ハルセマ(Femke Halsema):アムステルダム市長

Sadet Karabulutアムステルダム市長室長

サビーネ・ヒンブレレ(Sabine Gimbrère’):アムステルダム市国際部長

ビンセント・スキッパー(Vincent Schipper):アーティストユニット・インディペンデントパブリッシャー「STUDIO THE FUTURE」の共同設立者

テオ・ペータス(Theo Peters):駐日オランダ王国大使館全権公使

<東京>

梅澤高明:CIC東京、ナイトタイムエコノミー推進協議会

齋藤貴弘:弁護士、ナイトタイムエコノミー推進協議会 

伊藤佳菜:森ビル株式会社、ナイトタイムエコノミー推進協議会

臼杵杏希子:Chicks On A Mission Tokyo

ナズ クリス(Naz Chris):DJChicks On A Mission Tokyo

伏谷博之:タイムアウト東京代表

手塚マキ:新宿・歌舞伎町でホストクラブを運営する「Smappa!Group」会長 

土谷正洋:音楽フェスティバル「Rainbow Disco Club」主催

HARUKA:DJ

DJ NOBU:DJ、サウンドプロデューサー

おすすめ
    関連情報
    関連情報
    広告