東京、カクテルの美味しいバー

日比谷、銀座、霞ヶ関などで味わう至福の一杯

テキスト:
Shiori Kotaki
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タイムアウト東京 > ナイトライフ > 東京、カクテルの美味しいバー

テキスト:たまさぶろ


「カクテルが美味しい」のは、いわゆるウイスキーバーやワインバー、ビアバーなどを除いては、バーとしてごく当たり前のこと。それでもあえて、「ああ、そうだ。今日はあの一軒のカクテルで酔いたい…」と思わせる東京の隠れ家をよりすぐり、ここに列挙した。もし体験したことのない止まり木があるならば、死ぬまでに一度は足を運んでもらいたい。飲み手の感性さえも試される、至福のバーばかりだ。

ザ エスジー クラブ
  • ナイトライフ
  • 渋谷

後閑信吾の名を知らぬバー関係者はいないだろう。

ニューヨークのスピークイージー、エンジェルズ・シェアのヘッドバーテンダーとして頭角を現し、2012年、『バカルディ・レガシ ー・カクテル・コンペティション』にアメリカ代表として進出。見事世界一に輝き、その名を世に知らしめた。そんな彼は、上海などの海外での活動をメインとしており、国内のバーホッパーに地団駄を踏ませ続けていた。しかし2018年、満を持して国内にオープン させたのが、この一軒だ。

国内初店舗は渋谷の公園通りを上がった路面店……と思いきや、この店は2つのコンセプトに分かれている。路面に位置する1階は「Guzzle」がコンセプト。日本語に置き換えると、その語感も合 わせ「がっつり」とすべきだろうか。ガツガツ食べたり、ゴクゴク飲んだり、バンバンガソリンを消費することに使われる。要は、デイタイムから活用してほしいと意図しているのだ。「Guzzle shop」というと、ずばり酒場を指す。

そして、路面からは見えない地階の空間にあるのが「Sip」。「sip and savor」が、酒をゆっくりと味わって飲む様を表現することからも、のんびりとグラスを傾けることがコンセプトになっている。地階ということもあり、てっきり、スピークイージーの雰囲気にあふれた「洋」のテイスト かと思えば、カウンター下には畳をあしらい、壁面のランプは和服の染め型を流用し、設えている。なんとこの空間には、随所に「和」が隠れているのだ。

1階はカジュアルに、地階ではゆったりとバーを堪能する使い分けが可能。つまり店名の「ザ エスジー クラブ(The SG Club)」は、「The Sip and Guzzle Club」に由来するのだ。バー初心者なら、バリスタも常駐する1階で、喉の渇きを癒やすドリンクに慣れ親しみ、慣れて来たら、カクテルの奥深い世界を開くために地階へと忍び込む という使い方もできるだろう。

もちろん、プロデューサーの後閑以外にも、腕に覚えのあるバーテンダーがそろうだけに、日本にもこんなバーが現れたかと感心することしきり。

ティグラート
  • バー
  • 四ッ谷

この店をひと目したものは、皆こう口をそろえるだろう。「ここはカフェですよね」と。JR四ツ谷駅からほどない路地裏に位置しているものの、見つけにくい隠れ家ではない。また、ガラス張りで店 内の様子がほどよく見え、テラス席も用意されているだけに、足を踏み入れることに躊躇することもない。実際、ランチなどで利用する客は「夜はお酒もあるんですね。次回は夜、来てみます」と店を去って行く。

バーであり、カフェであり、そしてジェラート専門店でもある。それが、ティグラートだ。ちなみに、「ティグラート」とは、イタリア語で「トラ猫」の意。オーナーとバーテンダーの高宮裕輔が好きな画家、藤田嗣治(ふじた・つぐはる)が飼っていた猫にちなんで付けたということで、店内には猫のオーナメントが隠れている。

そんな高宮は、「バーテンダーの可能性を広げて行きたい」と力強く語る。バーテンダーというと、夜遅くまで働く仕事ばかりで、夜間勤務ができない場合は、離職せざるを得ない。特に女性、「麗しきバーテンダーたち」は、結婚して出産すると、夜の勤務がなかなか難しい。しかし、このバーは昼間からオープンしているため、子どもを保育園に預けて日中働き、夕方には迎えに帰る……など、子育て世代に嬉しい勤務形態も可能なのだ。

「時代が変わっても、守るべきものは守り、変えるべきものは変える。そうしてバリエーションを増やしていくべきだと思います」 と、さらりと述べる高宮の言葉には、固い決意が見え隠れしている。そして、会話の節々から「今の現状を変えて行きたい」という高宮の気持ちが伝わってくる。「バーは初めて」という客も多いというティグラート。バーの新世代となるのか。

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バー ナポレオン
  • バー
  • 紀尾井町

紀尾井町とは、徳川家の紀伊、尾張、そして井伊家の頭文字から名付けられた屋敷町だ。そんな界隈に、宮内省内匠寮により1930年、宮大工の手によって建てられた准皇室の邸宅があった。そして1955年、その邸宅内にオープンしたのが、バー ナポレオンだ。そんな贅沢な一軒も、グランドプリンスホテル赤坂の閉業ともに取り壊されてしまった。

そう悲嘆に暮れていたところ、現代の最新技術によって、大邸宅もろともやや東へと移築され、2016年7月に、まったく新しくなってオープンした。

移築に際しては、建築当時の図面を元に、できるだけ忠実に復元。オープン当初の「原点回帰」がテーマだった。生まれ変わったバーは、チューダー朝様式の元の建築をいかしながらも、ナポレオンの名に恥じぬようフランスのネオ・バロック様式を取り込み、5つのコンセプトから内装を設えた。

5つのコンセプトとは、「ナポレオンの愛馬」「フランスのシャンソン歌手のエディット・ピアフ」「ココ・シャネル」「緑あふれるパリ」「コニャック」。それぞれのテーマに合わせ、部屋を彩る調度品にも特色をもたせている贅沢さだ。

カウンターは6席で、大人数には向かない特等席となっているが、10人程度のグループでも活用できる部屋や、個室としても利用可能な一室も用意されている。大人の社交場として使い分けたいハイクラスバーをぜひ一度、試してみてほしい。

ミクソロジー サロン
  • バー
  • カクテルバー
  • 銀座

もし丸一日、何もすることがなかったとしたら、この東京で何をして過ごすだろう。ギンザシックスに潜り込み、午前中からこの和テイスト満点のバーでカクテルを傾ける……。これも、選択肢の一つだ。

2017年4月に華々しくオープンした同施設内でも、この一軒を知らぬ者は多いのではないだろうか。直通のエレベータを使用しなければたどり着けない13階に位置し、わずか6.5坪のこぢんまりした店は、初めて足を運んだ際、「はて、どこにあるのか」と探し回ったほど。

八重洲に2店舗、さらに赤坂と六本木に店を構えるミクソロジーグループは、ギンザシックスへの出店というオファーが舞い込んだ際、その小さなスペースに着目。日本茶の専門家とコラボレーションした経験から「茶室で行こう」とコンセプトを固めた。こうして同グループの5店舗目は、茶と和素材を特徴とする一軒として誕生したのだ。

茶室とは言うものの、閉塞感を喚起させる伝統的なそれとは異なる。また、バーらしからぬ開放感を押し出した空間に仕上げ、カフェスタイルのように、店外にもハイチェアの席を用意。何よりも、大きく開いたウインドウにより、店内の雰囲気を垣間見することができるので、バー初心者も足を踏み入れやすい。

11時からオープンしているだけに、様々なスタイルで活用可能。時には、まさしく「お茶だけ」の客もいたり(茶のみの利用は11時〜17時まで)、日本人でも試したことがない人も多い『玉露』を楽しんでもらうケースもあるのだとか。「お茶の可能性を広げたい」と語るのは、バーテンダーの佐藤 由紀乃。「お茶とはこういうもの」という固定観念を持っている人にこそ、同店のカクテルを通し、その楽しみ方を広げてもらいたいと日々奮起している。

グループの代表が、親から譲り受けたという備前焼でカクテルを飲みながら、左官工の手による店内のオブジェを眺めていると、銀座にいることを忘れ去ってしまいそうな快適空間。普段、バー通いしない人こそぜひ体験してもらいたい。

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  • バー
  • 日比谷

帝国ホテル 東京、オールドインペリアルバーのカクテルの美味しさを伝えるのは難しい。元来、カクテルの美味しさは、バーテンダー個人に帰属するはず。大将が握る寿司を求めて寿司屋を目指すように、バーにはマスターの手による一杯を呷(あお)りに行くものだからだ。

しかし、ことこのバーについては、いつどのバーテンダーからカクテルを振る舞われても、ひたすら頷いてグラスを空にしてしまう。そんな凄さを秘めている。

若い頃、このバーに連れて行かれると、あまりにもスタンダード過ぎるゆえ「また、ここか」と嘯(うそぶ)いた。それはひとえに、このバーのカクテルのなんたるかを知るには私自身が若すぎたゆえだろう。

パリのホテル・リッツ、ニューヨークのウォルドルフ・アストリア・ホテルよりも古い歴史を誇る名門ホテル。そのバーの良さは、やはり年輪を重ねなければ理解できないものかもしれない。巨匠フランク・ロイド・ライト設計による帝国ホテル旧本館の面影を唯一今に伝えるバーに一度は足を運び、その深淵なる謎に挑んでもらいたい。

スタア バー 日比谷
  • バー
  • 日比谷

スタア バーと言えば、銀座の巨匠バー。そのバーが国内4店舗目となる日比谷店を東京ミッドタウン日比谷の3階にオープンした。本格的なオーセンティックバーが、こうした流行りの洒落たショッピングビルに店を構えるのは非常に珍しい。しかし、この名店は、この日比谷店をスタア バーのフラッグシップとしていく覚悟だ。

エクステリアも、インテリアも銀座とは異なる。銀座店はウッディなインテリア、アンバーなライティングが柔らかい雰囲気を生み出しているが、ここミッドタウンでは、ブルーブラックを基調としたソリッドでマデューロなインテリアに仕上げている。

バーカウンターは、ベルギーから輸入した新素材「モールテックス」を使用。天然インディゴを練り込み、左官職人がコテで塗り上げた。まるでジーンズのようなブルーと独特のうねりが見られるのが特徴。

スペシャルカクテルは『パーク ライフ』。眼の前に広がる日比谷公園がモチーフとなっているが、その由来は、同名の小説を著した芥川賞作家の吉田修二が当時、銀座店で受賞の知らせを待っていたという裏話にもよる。大人のカクテルを味わうには王道と言える一軒だ。

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ガスライト霞ヶ関本店
  • バー
  • 霞ヶ関

もともとアメリカはシカゴで一世を風靡(ふうび)したバー、ガスライト・クラブをモチーフとしている。そんな米社交界の花形クラブは全米で人気となり、大女優エリザベス・テーラーも通ったとされるほど。しかし、そんな注釈は無用と思われるほど、霞が関のこちらも至福の一軒として名高い。

日本バー業界の重鎮、毛利隆雄を輩出したことでも知られているが、現在は、2007年の全国バーテンダー技能大会で栄冠に輝いたオーナーバーテンダー、井口法之が取り仕切る。四谷と銀座に計3軒を展開する同名バーの総本山。1989年の開業ゆえ、来年で30周年を迎える。

6.6メートルあるアサメラ製カウンターの上では、どのカクテルに挑戦しても思わず舌なめずりしてしまうほどだが、今回はかの有名なチェコ製のグラスを使用した『ドライ・マティーニ』を勧めてもらった。一日の終焉(しゅうえん)にこの一杯をぜひ。

  • バー
  • 銀座

1993年創業のリトルスミスは、もはや取り上げるのも憚(はばか)られるほどの銀座の名バー。日本一の栄冠を頂いたバーテンダーだけで、全国に8軒のバーを展開する保志雄一、銀座近隣に自身のバーを構える耳塚史泰、そして松尾一磨の3人も在籍していた実績を持つ(現在は松尾のみ在籍)。

店名の由来は、神田にあった老舗、小鍛冶洋菓子店から。リトルスミスの入居するビルの母体企業のひとつだったことがきっかけだ。「小鍛冶」を「小さな鍛冶屋」と捉えて英訳すると「Little Black Smith」。語呂が良いように「Little Smith」と短縮し、バーの名になったのだという。

オーセンティックなバーとしては、斬新なレイアウトとインテリアを持ち、天井は約4メートルの高さを誇る。その斬新さゆえ、時代を超えて愛されるインテリアとなっている。有楽町マリオンや東京オペラシティの設計者として著名な故・柳澤孝彦の功績と言えよう。

地下2階にもかかわらず最近は外国人客も多い。「安心感がこのバーの醍醐味(だいごみ)」と語るのは、現オーナーバーテンダー佐藤典之。まさに的を射たひと言だ。

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バー センティフォリア
  • バー
  • 麻布十番

東京にはまだまだ驚かされるような至福のバーが眠っている。そう痛感させられた一軒がこちら。その名「センティフォリア」は、「センティフォリア・ローズ」という花の名にちなんでいる。

マスターの駒井優三は、福岡出身。麻布十番に自身の店を開くにあたり、所在地である港区の区の花がバラであると知り、地域に根付くようなバーにしたいという理由から、その名を掲げる決意をした。

オープンは2017年3月とまだ若いながらも、その凝りようは店の細部にわたっている。自身の好みから、店内にはバロック建築をモチーフにモダンな要素を取り入れた。静謐(せいひつ)で高尚な空気が漂う。

店内の色使いは、入り口左手に配置されたテーブルにもっとも明るい色の木材を使用。次いでフロア、カウンター、バックバーと暗色をもたらすグラデーションになっており、オリジナルのカウンターチェアの下には大理石をしつらえている。バックバーには数々のアンティークグラスが所狭しと並び、常時100脚ほど拝める。

また、駒井は2014年の『カクテル・アワード』に輝いた実力も持ち合わせるだけに、そのカクテルの味も折り紙付き。「100枚の花びらをつける」とされるセンティフォリアのように、今宵も麻布十番の街を彩る隠れ家だ。

ルースター
  • バー
  • 銀座

英語を知る方なら、店名「rooster」の意味などご存知のはず。「おんどり」の意である。また、「カクテル(cocktail)」は、「おんどりの尻尾」が語源(諸説あり)である旨もご理解の上だろう。つまり、店名からして、それだけカクテルに自信を抱いている覚悟の表れだ。

常連ともなると、季節ごとのカクテルについて記された「ルースター通信」がメールで送られて来る。今回撮影した、オーナーバーテンダー、今村頼輝のオリジナルカクテル『イエローリボンスプラッシュ』のように見目(みめ)麗しく、爽快感にあふれるメニューの案内が届くからくりだ。

フレッシュフルーツのカクテルを誇るバーは珍しくなくなったが、バックバーの真ん中にフルーツクーラーを据えるほどの凝りようだ。そんなカクテル作りを目の当たりにできるのは、5メートルのウェンジ製カウンターに据えられた7席のみ。カクテルが出来上がるまでの妙を、その目で確かめてほしい。

キーマカレーやオムライスなどの食事も驚くほど揃えているだけに、カクテルを愉(たの)しみながら「バー飯」で腹を満たすこともできる、充実した一軒だ。

  • バー
  • 西麻布

イギリス人建築家ナイジェル・コーツが、1990年台初頭に手掛けた西麻布「アートサイロビル」の地下1階にあるウイスキーバー。元週刊プレイボーイの編集長であり、現在は作家として活躍する島地勝彦がオーナーを務めており、2020年に新宿伊勢丹からこの地に移った。

6メートルの高さを誇る天井には、フレスコ画の青空が描かれ、島地が蒐集した開高健やバスキア、横尾忠則などの、貴重な絵画や蔵書などが飾られている。猫好きということで猫をモチーフにしたアート作品が多く見られるのも特徴的。

最初の一杯には、サロン ド シマジの定番メニュー「スパイシーハイボール」がおすすめ。タリスカー10年をサントリーの山崎プレミアムソーダで割り、スコットランド産のピートで燻製したブラックペッパーをかけたものだ。

執筆:たまさぶろ
たまさぶろ

執筆:たまさぶろ

1965年、東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。「週刊宝石」「FMステーション」などにて編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。このころからフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社にてChief Director of Sportsとしての勤務などを経て、帰国。

「月刊プレイボーイ」「男の隠れ家」などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで1,500軒超。2010年、バーの悪口を書くために名乗ったハンドルネームにて初の単著「【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR」(東京書籍)を上梓、BAR評論家を名乗る。著書に、女性バーテンダー讃歌「麗しきバーテンダーたち」、米同時多発テロ前のニューヨークを題材としたエッセイ「My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)」。

「あんたは酒を呑まなかったら蔵が建つ」と親に言わしめるほどの「スカポンタン」。MLB日本語公式サイトのプロデューサー、東京マラソン初代広報ディレクターを務めるなどスポーツ・ビジネス界でも活動する。

勝負の夜は...

東京、デートバー10選
  • バー

「バーで口説くな」というバーテンダーもいる。しかしやはり、すべてにおいてオーセンティックな一軒だからこそ、男女を問わず「素敵なあの人と足を運びたい」と考えるのも不思議ではない。ただし、扉を開く者はひとつだけしっかりと覚えておかなければならない。2人の交わす言葉、口説き文句の一語一句は、バーテンダーに筒抜けである、と。あるバーテンダーから耳にした逸話だ。カウンターにはどうみても訳ありそうな、言葉少なげな2人。ほかに客はなし。沈黙をついて女性が発した台詞は「このまま時が止まればいいのに・・・・・・」。それに黙って頷く男性・・・・・・。しかしその台詞を聞き、マスターは心の中で呟いた。「私もその中に止まり続けなければいけないので、それだけは勘弁して」と。バーでのデートは、スマートな行動と台詞とともにありたい。では今宵も至福の隠れ家で愉しい逢瀬を。

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