東京ビエンナーレ 2023
Photo: Runa Akahoshi

神田に100年分の「服の図書館」が出現、東京ビエンナーレ秋会期がスタート

9月23日〜11月5日、エリアごとに注目展示を紹介

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Runa Akahoshi
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2023年9月23日〜11月5日(日)、「東京のまち」を舞台に2年に1度開催している芸術祭「東京ビエンナーレ」の秋会期が開催中だ。第2回となる今回のテーマは「リンケージ つながりをつくる」。アートの社会的役割の一つである、社会環境に対して自由な視点で関係性を持てる点に着目している。参加者と来場者それぞれの「リンケージ(つながり)」を見いだし、新しいつながりが生まれ、広がっていく場となることを目指す。

ここでは、都内各地のユニークな会場で行われる注目展示を、エリアごとに紹介。訪れる際には、ぜひ参考にしてほしい。

東京ビエンナーレ2023
寛永寺9月30日から寛永寺で開催予定の展示、日比野克彦「ALL TOGETHER NOW《Transforming box series》」

神田・湯島エリア

100年間の服に触れる。

「パブローブ:100年分の服」

古着屋として1887年に創業し、約100年の歴史がある「海老原商店」。ここでは、美術家の西尾美也が「パブローブ:100年分の服」を展開する。パブローブは、「パブリック」と「ワードローブ」を組み合わせた造語で、 服の図書館のような誰もが利用できる公共のワードローブを作り出すプロジェクトのことだ。

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Photo: Runa Akahoshi「海老原商店」内観

2023年は関東大震災から100年の節目。そこで、震災から現在まで100年の間に着られた服を募集してパブローブを構成し、人々が生きてきた100年分の時間と生活文化をこれからの東京へとつなげていくという企画を思いついたという。展示されている服は、会期中自由に借り、実際に着用して街に出ることができる。今は見ないシルエットや色使いの服は、タイムスリップしたような気分が味わえるだろう。

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Photo: Runa Akahoshi服に付けられた、思い出が書かれたタグ
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Photo: Runa Akahoshi展示される服

ガラスから建築の設計プロセスを考える。

「ネオメタボリズム/ガラス」

秋葉原駅と御徒町駅の間の高架下に広がる薄暗い空間では、東京ビエンナーレ2023で共同総合ディレクターを務める中村政人がインスタレーションを展開。柵の中をのぞいてみると、70〜80メートルものコンクリートの床の上に、2000個のガラスの作品が置かれている。このガラスは、解体現場にある廃棄予定だった板ガラスを熱し、形を形成したものだ。炉から出す際に引っ張り、垂らして自然に冷やしているため、全て形が違う。

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Photo: Runa Akahoshi「ネオメタボリズム/ガラス」会場外観
東京ビエンナーレ 2023
Photo: Runa Akahoshi地面には2000個のガラスが並ぶ

同作は、「建築の解体プロセスを設計時になぜ考えることができないのか」ということに焦点を当てる。現在、建築の設計プロセスには「解体」が入っておらず、一部では不法投棄、野焼きによる不適正な処理が問題になっている。この現実に立ち向かうため、まず初めに「ガラス」にフォーカスを当てて、そのサーキュラーエコノミーに新たなアクションを起こしたいと考えた作品だ。

2000個のガラスは、会期終了後にまた新たな形へと生まれ変わるという。

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Photo: Runa Akahoshi近くで見ると、一つ一つガラスの形が違う

谷中・鶯谷・上野・御徒町エリア

眠る宝石をよみがえらせる。

「ジュエリーと街 ラーニング」

上野にある「ノーガ ホテル(NOHGA HOTEL)」では、「ジュエリーと街 ラーニング」の展示が行われる。同プロジェクトの舞台は、日本有数の宝石・ジュエリー卸問屋であり、加工職人が集う御徒町。一般公募で集まった15人の参加者と御徒町のジュエリー街を訪れ、家で眠っている古い装身具を、今の自分や時代に合うコンテンポラリーアクセサリーに作り変える。

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Photo: Runa Akahoshi生徒たちが制作したデザイン画

デザイン画を作成したのは、東京藝術大学デザイン学科の生徒たち。参加者や職人とディスカッションを重ね、両親から受け継いだものや旅先で購入した思い出のものなど、一つ一つに寄り添い制作を進めた。ノーガ ホテルには、最終的に完成したデザイン画とジュエリーが展示されている。家に眠っていたとは思えない輝きに、目を奪われるだろう。

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Photo: Runa Akahoshi完成したジュエリー
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Photo: Runa Akahoshi虫とパールを使用したブローチ

水道橋・神保町エリア

働く人々のひと休みを知る。

「アトラクティヴリーアイドリング」

「東京ドームシティ」にある「ギャラリー アーモ(Gallery AaMo)」と水道橋駅のA3出口をつなぐ通路には、遠藤麻衣による作品が展示。写真には、東京ドームで働く人々が、それぞれの仕事の合間にリラックスする瞬間が収められている。

同プロジェクトは、体や心の緊張をほぐしたり、時間がゆっくりと流れるような休息時間はどのように作り出せるのか、という問いから始まった。忙しい現代社会では、休む時間がなかなか取れず、困っているという人も多いのではないだろうか。

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Photo: Runa Akahoshi「アトラクティヴリーアイドリング」

遠藤は、東京ドームシティで働く植栽管理スタッフやホテルスタッフ、警備員などをリサーチ。ディスカッションやフィールドワークを通して、職場でホッとする瞬間や休憩への欲求、願望をアーティストとともに実演し、撮影を進めた。写真展示のほか、インタビュー中の映像も放映されているので、作品が出来上がる裏側も併せて見てほしい。

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Photo: Runa Akahoshi通路の展示風景

大丸有エリア

自然素材のアートを体感する。

「Slow Art Collective Tokyo」

大丸有エリアでは、オーストラリア在住の加藤チャコとディラン・マートレルが主宰する芸術グループ 「Slow Art Collective」が持続可能性や多文化共生をテーマに、竹やロープなどの自然素材、街で拾い集めた素材を用いた市民参加型のアートプロジェクトを行う。

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画像提供:NPO法人大丸有エリアマネジメント協会「Slow Art Collective Tokyo」

カラフルなひもやロープで作られたパネルや竹のモチーフ、ソーラーパネルを付けたロボットが奏でる楽器などが、ビジネス街をクリエーティブに彩り、時間を忘れるような居心地の良い空間を生み出す。「皆と作るという体験を通じて、空間・文化・時間などを共有し、つながる場を提供したい」という作者の思いから、このエリアで働く人々はもちろん、子どもたちや学生など、誰もが気軽に制作に参加できるワークショップも開催予定だ。

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Photo: Runa Akahoshi会場には鍋で出来た鉄筋が置かれている

東日本橋・馬喰町エリア

新しいおしぼりアートを発見する。

「おしぼりリンケージ展」

「おしぼりリンケージ」とは、日本のおもてなしの文化である「おしぼり」を白いキャンバスに見立て、新しい表現とその共有の形を探る試みのこと。

馬喰町にある「エトワール海渡」のリビング館では、全25組のアーティストが制作した原画をもとに、刺しゅうで表現されたおしぼり作品の展示が行われる。同じ絵柄のものが2つあるが、一つは実際に使用されたもので、もう一つは未使用のものだ。

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Photo: Runa Akahoshi「おしぼりリンケージ展」展示風景

これらのおしぼりは、プロジェクトの提携先である約20店で、普通のおしぼりに混ざって提供されている。提携先店舗の詳細は公式ウェブサイトを確認してほしい。刺しゅうされたアートなおしぼりとの偶然の出合いを楽しもう。

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Photo: Runa Akahoshi実際に使用されたものと、未使用の作品が並ぶ

コロナ禍を経て、2回目の開催を迎えた東京ビエンナーレ。2022年10月6日〜30日は、プレイベントである「はじまり展」が催され、年々盛り上がりが増している。今回は、都内の約40カ所が会場になっており、有料展示はわずか4カ所のみ。実際に足を運び、幅広いジャンルの作家やクリエーターが東京に深く入り込み、作り上げた「リンケージ」を体感しよう。

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