Woman in forest in Costa Rica
Photograph: Shutterstock

「サステナブルな旅」では不十分? 現状維持よりも高い目標を掲げるべき理由

旅行は「サステナブル」から「リジェネラティブ」へ

Imogen Lepere
テキスト:
Imogen Lepere
翻訳:
Time Out Tokyo Editors
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流行の行き来が激しいのが常のファッションの世界(1990年代グランジブームがまた到来?)などとは違って、ありがたいことに旅行業界の流れは概して一つの線上にある。

例えば、人々の旅行に対しての「サステナブルトラベル(持続可能な旅行)」に対する意識は年々高くなっている。ここ数十年で我々は、プライベートジェットを乗り回す人や大物を狙うハンターを軽蔑したり、あえて地元のレストランで食事をしたり、プラスチックのストローに「ノー」と言ったりするようになった。

Booking.comが2022年に発表したサステナブルトラベルに関する調査報告を見ても、その傾向は顕著だ。インタビューに応じた人の中で、今後12カ月間に「より持続可能な旅行」をしたいと回答した人は、2021年の調査から10%増えて71%になったという。

バズワードを超えて

サステナブルトラベルと聞くと、21世紀のトレンドだと思うかもしれないが、実はその歴史は古い。1988年、つまりグレタ・トゥーンベリが誕生する15年前に、世界観光機関(UNWTO)はこの言葉を「現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮し、訪問者、産業、環境、ホストコミュニティーのニーズに対応する観光」と定義している。

それ以来、このコンセプトはメジャーになり、「バズワード」化した。近年の旅行において「サステナブル」を意識して「飛行機ではなく電車を予約する」「再利用可能な水筒を持参する」「訪れた場所をほぼそのままにしておく」などの行動をとり、環境への影響を減らそうと思った人は多いだろう。

同時に旅行会社やホテルなどは、SNSの投稿に「#sustainabletravel」のハッシュタグを喜々として付け、まるで「天然素材」の使用やベジタリアンメニュー、省エネのために1日おきに部屋を掃除するオプション(企業にとってはもうけにもなることも)などが、世界の環境に与える影響を減らすための明確な計画や目標の代わりであるかのようにアピールしてきた。

しかし結局のところ、今の目指していることはかなり低い基準にある。業界関係者であれ旅行者であれ、事態を悪化させないことよりも、はるかに高い目標を持つべきだと思わないだろうか。そろそろ、さらに上を目指すべき時なのだ。

旅行の代償

一方では、まったく移動しないという選択肢もある。高速で長距離を移動することは、少なくとも気候のことを考えると、本質的に「持続可能ではない」ことだといえる。気候に詳しいスウェーデン人たちが「smygflyga」(フライトシェイム、飛ぶことの)と言うのには理由があるというわけだ。飛行機は人為的な地球温暖化の約4%を占めるが、これはほとんどの国の数字よりも大きいのだ。

184カ国の主要航空会社は、2022年10月の国連会議で、2050年までに炭素排出量をゼロにすることを約束している。ただ現実としては、飛行機は当分の間、二酸化炭素を排出し続けることになる。鉄道や船などの「スロートラベル」なら排出量は少なくなるが、気候危機の観点からは、住んでいる場所で小さな冒険をする「マイクロトラベル」を取り入れた方がよりいいといえる。 

Train Belgium
Photograph: Komelin / Shutterstock.com

観光のプラス面

ただ、サステナブルトラベルには社会的影響を与えているという別の側面もある。世界に何十億人もいる観光に依存して生きている人々に対する影響も、そのうちの一つだ。

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)によると、2019年の世界における雇用者の10人に1人が、観光関連に関するものだったという。パンデミックで落ち込みはあったが、2023年末には再びこれに匹敵する割合に戻ると予想されている。

観光関連の仕事の多くは、微妙なバランスで成り立つ地域(先住民を含む)にも存在する。そうしたコミュニティーは遠隔地に位置し、候変動の影響を受け、伝統的な仕事の形態がもはや成り立たないような状況にあることが多い。

例えば、ブラジルのミナスジェライス州では土壌の劣化により家畜を養うための十分な草がなくなり、ペルーのアマゾンでは予測不可能な洪水によりマイジュナ族の伝統的な狩猟と漁業の食糧システムが脅かされしまった。このような場所では、観光は数少ない代替収入源となっているのだ。

また旅行は、炭素の吸収に重要な役割を果たす無数の脆弱(ぜいじゃく)な生態系の保護にも役立つ。コスタリカは1970年代、地球上のどの国よりも急速に森林破壊が進んだ国だったが、現在では国土の30%以上が国立公園として保護下にある。木の伐採よりもエコツーリズムの方が収益性が高いと証明されたことが、こうした取り組みへかじがとられた大きな理由であるのは明白だろう。

コスタリカは、旅行や観光が積極的にその土地をより良くしている輝かしい例の一つとなった。このことから、もはや「サステナブルトラベル」ではなく、「リジェネラティブトラベル(再生可能な旅行)」の創出が必要であることが分かる。この考え方で中心に据えられるのは、地域の環境、経済、社会システムの強化。その結果、観光が強力なツールとなり、地域を良い方向に導くというわけだ。

The Azores, Portugal
Photograph: Shutterstock

次世代における旅行への意識

パンデミックは旅行業界全体にとって「地獄の休暇」に等しいも同然だったが、多くの観光地や旅行会社はこの強制的な小休止を利用して、再生可能な未来を計画することができたといえる。

例えば、6つのNGOから成る「Future of Tourism」連合は業界の関係者に向けて、13の再生原則を策定。製品を捨てるのではなく再利用したりアップサイクルする循環型経済を重視すること、経済的成功を国内総生産(GDP)だけで見るのではなく持続可能な地域サプライチェーンの増進などを含めたものに再定義すること、などを掲げた協定に署名するように呼びかけをスタートした。現在、アドベンチャーツアーオペレーターのIntrepid社やG Adventures社など、23の企業がこの取り組みに参画しているという。

再生への道を歩む旅行会社やホテルは、このほかにも多くある。ブラジルの「The Ibiti Project」が取り組むのは、エコツーリズムを通じた6000ヘクタールの荒廃した農地を再生と、2つの貧困に苦しむ村の活性化。Lokal Travelはオンラインプラットフォームで、中南米でコミュニティーが運営する小規模プロジェクトの支援を展開中だ。

カナダの夢のようなFogo Island Innは、利益の100%を地域社会に還元している。Ecosystem Restoration Campsは、壊れやすい生態系の修復に取り組みながら、再生可能な栽培技術を学ぶ機会を格安旅行者に提供する。

ハイキングのスペシャリストであるPura Aventuraは、枯渇した生態系を回復するニカラグアの農村開発プロジェクトを支援し、各宿泊者のゲストの二酸化炭素排出量を160%軽減することを目標に設定。そのために、地元の人々に長期的に木を植え続けるための寛大な金銭的インセンティブを提供している。

また、観光地全体がトップダウン型の再生アプローチをとるケースもある。持続可能な観光産業の国際的な基準を設定する世界持続可能観光協議会 (GSTC)は、この分野のリーダーとして、ゾレス諸島、キウイ島のカイコウラ、イタリアのドロミテ地方のヴァル・ガルデナ、そしてグリーンランドの美しい首都・ヌークを挙げている。

自分の旅が地域の改善に本当に役に立つ行き先を探しているのであれば、自然災害の後に立ち直ろうとしている場所を選ぶのも一つの方法だ。滞在中に救援活動に協力すれば、さらに地域に貢献できるだろう。

消費者の力

未来において、意識的な旅行とはただその場に行くだけのではない。その場を自分が知った時よりも良い状態にして帰ってくるものになるだろう。ただそれを、それを偉そうにしてはだめだ。プールサイドでカクテルを楽しむにしても、ベースとなる酒を再生可能な農場で栽培された穀物で造られたものにし、地元の工芸品組合が作ったカップで飲めばいいのだ。

旅行者として、再生可能な旅行への需要があることを証明するのは我々である。自身の財布で指示を表明して、価値観を同じくする企業を支援し、そうでない企業には厳しい質問を投げかけることが大切なのではないだろうか。

もし、その企業が「サステナブル」を自称していても、自分たちの事業がどのように地域の生活を向上させているのか、循環型廃棄物処理の戦略や食料の産地について具体的な例を提示できないなら、せっかくためた旅行資金を使うのにもっとふさわしい会社を探すべきだろう。

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