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盛り上がりを見せる「スーパーマーケット観光」

世界的な没個性化の中の反動、気軽に旅先を知れると人気

Laura Hall
テキスト
Laura Hall
翻訳:
Time Out Tokyo Editors
Products including Fanta Melon, Tim Tams and Lays crisps superimposed over a supermarket aisle
Image: Jamie Inglis / Time Out
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何気なく発した一言が、友人たちとのWhatsAppチャットを大盛り上がりさせてしまった経験はないだろうか。筆者の場合、ごく最近「お気に入りの外国のスーパーマーケットは?」と尋ねたことが、まさにそれだった。

自国のイギリスを離れてシンガポールやオーストラリアといった多様な場所で十年以上暮らしてきたつわものも含む友人たちは、それぞれにひいきの店を持っており、メッセージが50件以上になっても、今なお議論が続いている。

日常生活では「まとめ買い」をいまいましく感じることもあるというのに、なぜ旅先では、スーパーマーケットの商品があれほどまでに魅力的に映るのだろうか。

海外のスーパーマーケットでの買い物は、SNS上で一つの現象になっている。TikTokでは「食料品店巡りの旅(grocery store travel)」に関連する投稿が5000万件以上あり、旅行者たちが現地で見つけた商品を披露するなど、日常的な行動を「文化体験」として楽しんでいる様子が映し出されている。

こうした楽しみはTikTokに登場する前から存在していたが、民泊の普及にともなって広まりを見せてきた。Airbnbが掲げる「現地の人のように暮らす」というスローガンを多くの人が体現している。旅先では予定調和のガイドツアーに参加するよりも、買い物かごを手にスーパーマーケットの通路をぶらつく方が満足感が高いからだろう。

行くべきは地元のチェーン系スーパーマーケット

アイスランドでは、リコリス入りのチョコレートバーや通路の端につるされているプラスチック包装の乾燥白身魚のフレークなどが旅人の心をつかむ。ポルトガルのスーパーマーケットで感銘を受けるのは、美しくデザインされた数々の魚の缶詰だ。

ニューヨークではホールフーズのドアを通り、ヒップスター風のラベルを横目で見ながら、巧みに並べられた野菜や、手作りのようでありながら絶妙に量産品らしさも漂う商品の間を歩いていると、自分もニューヨーカーになったような気分になれる。

デンマークのフェロー諸島では、第二次世界大戦中に駐留していたイギリス軍が持ち込んだ「キャドバリー」のチョコレートや「タンノックス」のティーケーキが、今なおその姿が見られるという事実は、実に興味深い。彼らの撤退後も、フェロー諸島の人々がその食の伝統を大切に守り続けてきた、まさに証である。

ただ、基本的に海外では高級食料品店やファーマーズマーケットではなく、ごく普通のチェーン系スーパーマーケットへ行くのがいい(ただし、ホールフーズは例外としておすすめ)。それが、その土地の文化を知るための最良の手段となるからだ。

そうした店の探索は地元の人のキッチンの戸棚や冷蔵庫をそっと開けて、その暮らしぶりをのぞき見るような体験を、擬似的に楽しむ行為であるともいえる。実際に誰かの家でそれをすると気まずさや遠慮を感じるが、スーパーマーケットであれば自分の習慣と照らし合わせながら、共通点と違いをじっくりと見比べることができる。

世界的な没個性化の反動

「スーパーマーケット観光」がこれほどの人気を集めているのは、画一的で退屈になりつつある従来の旅行スタイルに、人々がうみ始めているからにほかならない。

その反動として現れたのがこの現象であり、ウェブメディアのThe Vergeが的確に指摘したように、世界中のカフェやホテル、民泊のインテリアやメニューがどこも似通い、アボカドトーストを食べ、コルタードを飲むだけの「国際的な没個性化」が進む中で生まれた動きである。

どこにいても大差のない空間が広がる今、唯一、画一的でも国際化された存在でもないもの──。それが、地元のスーパーマーケットチェーンなのである。

スーパーマーケット観光は、まさにその土地ならではの暮らしや価値観に触れる「文化的体験」でありながら、一般的な観光名所やアクティビティにありがちな煩わしさとは無縁というのもメリットだ。

まず入場料が不要であり、事前予約も必要ない。一部の超人気店のレジを除いては行列に並ぶ必要もなく、自分の好きなタイミングでふらりと立ち寄ることができる。

自分のペースで楽しめる上に、気軽でリスクも少ない。ウォーキングツアーや料理教室、ガイド付きのハイキングやボートトリップなど、旅先でよくあるアクティビティと比べれば、まるで肩の力が抜けるような気楽さがあるのだ。

美術館の時間指定チケットをオンラインで必死に確保しようとする行為とは、対照的な楽しさがそこにはある。たとえ失敗しても、せいぜい好みでないポテトチップスを買ってしまうくらいで済む。

旅行業界も注目

旅行会社もこの流行を見逃していない。イギリスのThe Bucket List Company社の最高経営責任者(CEO)であるキース・クロックフォードは、スーパーマーケット観光をテーマにしたブログ記事を公開し、「本物の旅を求める欲求の自然な進化形である」と評している。

「近年、旅行者たちは表面的で型にはまった体験に次第に幻滅しつつあります。彼らが求めているのは、本物の交流であり、訪れる土地へのより深い理解なのです。そして、日常的な週末の買い出しという行為ほど、本物らしいものはほかに思い浮かびません」と彼は記している。

彼の会社では、世界各地のスーパーマーケットで手に入るおすすめの商品を厳選している。イタリアのビスコッティや「バッチ」のチョコレート、韓国のラーメン、日本のユニークな味の「キットカット」などがその例である。

クロックフォードはスーパーマーケット観光を「誰もが参加し、自らの発見を共有できる、旅の探究の民主化」と呼ぶが、これはまさしく的を射た表現である。

この流行はまた、世界中の人々がスナックや飲み物、そして自分なりのコンフォートフードを持っているという、普遍的な共通点を思い出させてくれる。一方で、地域によって無数のささいで風変わりで、魅力的な違いが存在し、世界の人々はほんの少しずつ異なっていることにも気づかされるのである。

日本のユーチューバーたちの投稿からも、それは感じる。彼らの「スーパーで買ってみた動画」を見れば、東京のセブン-イレブンで買える商品の多様さに驚くはずだ。スーパーマーケットやコンビニエンスストアでかわいいパッケージや驚くほど独創的なスナックを見ずして、神社へ行く必要があるだろうか。

世界のスーパーマーケットで買うべきアイテム

最後に、日常のありふれた物を非日常のものへと変える不思議な力がある海外のスーパーマーケットで、何を買うべきか紹介しよう。

オーストラリア
チョコレートでコーティングされたビスケット「ティムタム」を、1袋といわず10袋ほどスーツケースに入れておく余地を残しておきたい。併せて、「ベジマイト」や「ミロ」も見逃せない。

フィンランド
食品売り場以外の通路には、ノートやホーロー製カップといったムーミンのアイテムや、「マリメッコ」の紙ナプキンが定番のように並んでいる。

日本
メロン味の「ファンタ」、抹茶味のキットカット、そしてほんのり甘いコーンパンなど、日本のスーパーマーケットでは、ほかの国ではなかなか見ることのない逸品を発見できる。

シンガポール
塩漬け魚の皮、カップゼリー、ライスクラッカー、パイナップルタルトなど、地元ならではのスナックを買い込むのがいいだろう。

スウェーデン
チューブ入りのチーズやキャビアなど、さまざまな食品がずらりと並ぶ。あわせて、悪臭で知られる塩漬け発酵ニシンの缶詰、シュールストレミングにも注目したい。決して、公共の場で開けてはならない。

タイ
タイのスーパーマーケットでは、コスメティック売り場を目指すのが賢明である。粉末状のコラーゲン、ホワイトニング歯みがき、ヘアオイルなどが所狭しと並ぶ。

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