フロリレージュ
Photo: Keisuke TanigawaFlorilège

日本の野菜こそ世界で価値がある、麻布台ヒルズに移転したフロリレージュの進化とは

世界で活躍する川手寛康が見いだした都市型レストランの存在価値

編集:
Genya Aoki
寄稿:
Sahoko Seki
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日本を代表するレストラン「フロリレージュ」が、話題の複合施設「麻布台ヒルズ」に移転した。2023年11月の全体開業に先駆けて9月からプレオープンした同店。12月に発表された「ミシュランガイド東京2024」では、またも二つ星を獲得し、常にうれしいニュースを届けてくれている。

フロリレージュ
Photo: Keisuke Tanigawa

店内は、16メートルもの大きなテーブルにゆったりとした一人掛けソファがずらりと並ぶ。ゲスト全員と一つのテーブルを囲むという、フランス料理のクラシックな「ターブルドット」スタイルで、新たな一歩を踏み出した。

「フランスで働いていた頃から憧れで、8年ほど前から構想していました。でも日本ではそう簡単にはできなかったんですよ」とシェフの川手寛康は語る。

というのも、日本では保健所のルールが厳しく、まして川手が考える理想の物件はなかなか出てこなかった。それでも、「自分がこの先、また移転しようと考えることはないでしょう。もし最後だとしたら、ターブルドットの店をやりたいと思ったんです」と話す。

ようやく出合った物件は、150もの店舗が軒を連ねる施設の中。驚くファンも多かったことだろう。しかし「ガーデンプラザD」の2階は、1フロアが同店だけの贅沢な空間になっており、川手の決断にも納得できるはずだ。

移転して間もないが、これまでの客は変わらず通ってくれているという。「カウンターだろうがターブルドットの形式だろうが、そして僕がプラントベースに移行しようが、何をしようが、常連さんはちゃんと見てくれていますね」

フロリレージュ
Photo: Keisuke Tanigawa

今、日本でしか食べられないものとは

そう、この新店舗で川手が掲げたテーマは「プラントベース」だ。植物由来の食材を積極的に取り入れるということで、ベジタリアンやビーガンなど指向性を狭めた戦略のように感じるかもしれないが、そうではない。「どえらいことをやっているように感じるかもしれませんが、野菜中心にしていこうと言っているだけ。国内の魚や牛肉、乳製品だって使います」

川手はここ数年、台湾への出店をはじめ海外でのイベント参加など、世界を相手に料理をすることが多いという。そんな中で「日本らしい料理」について考えることが増えたと話す。「日本だから和牛、マグロ、築地の魚……と思われがちだけど、正直なところ海外からでも発注したら次の日には届く食材ばかりなんですよ。唯一届けられないのが野菜です。なぜなら、どこの国でも野菜はあるからです」

海外で料理をする際に一番苦労するのは、信頼している日本の野菜が手に入らないことだという。だからこそ、川手は自身の軸を野菜にシフトチェンジした。「日本でしか食べられないものをチョイスするならば、やっぱり野菜なんですよ。あとは僕自身が歳をとって、だんだん野菜がおいしく感じるようになってきたのもありますね。自分が楽しく興味を持ちながら、チャレンジのしがいがあるのが野菜なんです」

強烈なインパクトを持つ見慣れたはずの野菜たち

見た目もふっくらとした「モロコ」を鮮やかな緑の葉が引き立てる。これがコマツナか?と目を疑う。かつてこんなコマツナを見たことがあるだろうか。「簡単に言うと、コマツナのおひたしです(笑)。コマツナをレストランや料亭で食べたことはないんじゃないかな。でも冬の定番の葉野菜といえばコマツナですよね。みんなが知っている食材だからこそ、自分なりのフィルターを通して新しいアプローチをしています」

見慣れた野菜を、川手が美しくおいしい一皿に昇華させる。これこそが都市型レストランの存在意義なのだ。

フロリレージュ
Photo: Keisuke Tanigawa「モロコと小松菜」

地方型のシェフが注目される今、特別な場所で特別な野菜を使って、そこでしか食べられないものを求める人は多い。「それができない東京のシェフがマイナスなのかと言うと、そうではない。当たり前の食材で当たり前ではない何かを作り上げられたとしたら、彼らと同じくらいインパクトを与えられるのではないか」と自負する。

もちろん、コマツナ1つにしても食材選びにはとことんこだわり、食材について尋ねれば、その特別感をたっぷりと楽しむことができる。そんな客の質問に対して答えるスタッフの言葉を、隣で「なるほど」と聞きながら料理を堪能するのも、またターブルドットの楽しみ方だ。

取材時に提供されたもう一品は「焼きなすの焼きラビオリ」。またも家庭の味方である野菜の一つだ。焼きナスの皮でラビオリの皮を、焼きナスの中身でラビオリの中身を仕立て、コンブの香りを程よくきかせた一品だ。

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Photo: Keisuke Tanigawa「茄子」

しかし日本人にとっては親しみのある食材、海外の人はどうリアクションするのだろうか。「日本人にとっていかに身近な食材なのかを話して納得してもらいます。もちろん言葉で理解してもらうのはとても難しい。でもこれが日本のカルチャーなのだと言うと、それを楽しむ方法を彼らは知っています。僕らが心配することはないんです」

取材は平日のランチタイムを終えた頃に行ったが、ランチを終えたあらゆる人種の人々が、一つの団体のように、何らや楽しそうに笑い合いながら店を後にする姿が印象的だった。素晴らしい食事をした者同士は、国籍も性別も関係はない。誰もが、レストランでしかできない特別な体験を心に刻んだ瞬間と出合うことができた。

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