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魚屋でDJ? 消えゆく街の景色をアーカイブするプロジェクトが話題に

Login.jpが模索する次世代カルチャーの居場所

テキスト
Hanako Suga
Login.jp
画像提供:Login.jp
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YouTubeでのDJストリーミングといえば、世界的に知られる「Boiler Room」や、ベルリン発の「HÖR」が思い浮かぶが、日本の魚屋や喫茶店、駄菓子屋を舞台にしたDJセッションシリーズ「The Shoten」がSNSで話題を呼んでいる。同シリーズの制作を行う「Login.jp」は、音楽とアートを通じて日本の文化を「デジタルアーカイブ」するプロジェクトだ。

プロジェクトの運営を担うのは、現在同じ大学に通うという金と溝口。金は韓国出身で日本育ち、溝口は幼少期をアメリカで過ごしたというバックグラウンドを持つ。

互いのインターナショナルなルーツや、音楽への関心、を語り合う中で意気投合した2人は、動画制作を開始。溝口は高校時代に秋田県の仙北市でインターンを経験しており、祭りの衰退や過疎化など、地域が抱える現実を目の当たりにしたという。

東京からスタートした「The Shoten」には、再開発の波に押されて少しずつ姿を消しつつある街の風景を記録し、支えていきたいという思いが込められている。

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画像提供:Login.jpKanta AndoによるDJセット

シリーズの第1弾として公開されたのは、「赤羽スズラン通り商店街」にある魚屋を舞台にしたDJセッション。メンバーが実際に何十軒も足を運びながら交渉し、ロケーションを確保したという。魚屋では朝の時間帯に収録が行われ、Kanta Andoによる洗礼されたテクノセッションが展開された。

動画には、店の奥で店主が魚をさばく姿や、買い物をする地元の人々の様子も映し出されている。商店街の買い物風景の中に音楽がある、ユニークな空間が立ち上がった。

彼らの活動の背景には、「今のクラブシーンに対する違和感」もあるという。コロナ禍ではまだ中高生だった彼ら2人にとって、人との関わりやつながり方を学ぶ機会そのものが制限されていた。そのため、従来のクラブカルチャーにある「密」な空気感や、騒がしさ、ある種の閉鎖性に対して、どこか構えてしまう自分たちがいたという。 

代わりに彼らが求めたのは、音楽を通して人と緩やかにつながれるような場所。その答えの一つが、商店街や商店という昔から地域に根付くロケーションに音楽のある非日常を挿し込むことだった。Login.jpは、次世代カルチャーの居場所づくりを模索する試みでもあるのだ。

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photo: Login.jpKIYOKOが喫茶店でDJをする様子

Login.jpが2025年4月に公開し、1カ月の間に2万5000人以上の閲覧数を獲得しているのが、四ツ谷駅にある老舗喫茶店「喫茶ロン」を舞台にした動画だ。ゲストDJとして、自宅のキッチンでのDJ配信が話題を集めるDJ、KIYOKOがフィーチャーされている。

同店は、らせん階段を特徴とするレトロな「純喫茶」。ゆっくりとした時が流れる店内に、KIYOKOによるテクノを軸にしたクロスオーバーなサウンドが持ち込まれ、独自の空気が交差する

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画像提供:Login.jpKIYOKOによるDJセット

日本の内側と外側、どちらにも足をかけた視点で、日本のローカルな風景を見つめる2二人。「だからこそ、当たり前に見えるものの中にある価値に気づけた。それを音楽や映像を通じて翻訳していきたい」と語る。

彼らがこのプロジェクトを通じて伝えたいのは、「特別な誰かだけができることじゃない」ということ。「ネットの中で傍観するのではなく、誰もが自分の足で一歩を踏み出し、音楽や表現を通じてローカルとつながることができる」と語るまなざしが、Login.jpの活動の出発点だ。

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画像提供:Login.jp駄菓子屋でのDJセット

Login.jpは、映像配信だけでなく、インタビューやドキュメンタリー、ライブイベントなど、今後の活動の幅を広げていく予定だ。公式YouTubeでは、町田にある駄菓子屋、下北沢にあるアンティーク家具店などを舞台にした映像も公開されている。ぜひチェックしてみてほしい。

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