デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke TanigawaDavid Hockney Exhibition

iPadで描いた新作が日本初公開、「デイヴィッド・ホックニー展」開幕

60年以上におよぶ画業を多数の代表作でたどる、貴重な大規模個展

Mari Hiratsuka
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清澄白河の「東京都現代美術館」で、「デイヴィッド・ホックニー展」がスタートした。国内の美術館における大規模な個展の開催は、1996年以来27年ぶりだ。

デイヴィッド・ホックニーは1937年、イングランド北部のブラッドフォード生まれ。ロンドンの王立芸術学校の在学中から脚光を浴び、以後60年以上、世界中から高い評価と支持を得ている。2017年にパリの「ポンピドゥー・センター」で開催された個展は、60万人以上の来場者数を記録したことも記憶に新しい。2023年に86歳を迎えたが、現在もフランス・ノルマンディーを拠点に、精力的に新作を発表している。

デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke Tanigawap《自画像、2021年12月10日》2021年 アクリル/カンヴァス 91.4 x 76.2 cm 作家蔵 © David Hockney Photo: Jonathan Wilkinson

精力的に活動する巨匠の新作

今なぜ日本で、展示を開催するのか。

開幕に先立って開催された内覧会で、本展を企画した東京都現代美術館の学芸員・楠本愛は、「今は本物かフェイクか見分けがつかないようなデジタルの画像が膨大に存在する。その中で平面作品や絵画にこだわって制作を続けるホックニーの作品群、特にここ20年の制作の成果や、2010年以降にiPadで描かれた作品をぜひ紹介したかった。自分も含め、27年前に当館で開催された個展を観ていない世代に、ぜひ足を運んでほしい」と語った。

デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke Tanigawa「デイヴィッド・ホックニー展」展示風景

幕開けを飾るのは、黄色のラッパスイセンを主題にした2作品。一方は1969年にエッチングとアクアチントで描かれた。もう一方はコロナ禍に見舞われた2020年3月にiPadで制作した、「春が来ることを忘れないで」という言葉とともにウェブサイトで発表された新作だ。楠本は「私自身がこの言葉にとても勇気づけられたので、最初の章のタイトルに掲げた」という。

デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke Tanigawa左から《花瓶と花》(1969)、《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー2020年」より》(2020)。東京都現代美術館 2023年 ©David Hockney

ホックニーが繰り返し描いてきたラッパスイセンは、ヨーロッパでは春の訪れを告げる花として親しまれている。世界中が先の見えない不安に覆われていた当時、どれだけ多くの人々がこの新作と言葉に元気づけられただろう。そんなことを思い出させる、印象的な空間だ。

いずれも日本初公開 圧巻の大型作品が多数

ほぼ時系列で構成された展示作品は127点。家族や著名人を描いた肖像画や、最も敬愛する画家・ピカソのキュビズムや中国の画巻の研究を経て到達した逆遠近法、フォトコラージュやフォトドローイング、発売と同時に手にしたというiPadによるドローイングと、非常に多種多様だ。しかしそこには常に、身近なものや人々へのまなざしがあり、「目の前の世界をどう観て、平面でどう描くか」という絵画における根源的な探究が通底している。

壁一面を覆うほど巨大な油彩画『ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作』は、複数のキャンバスを戸外に持ち出し、自然光の下、モチーフとなる木々を前にして描かれた風景画だ。

デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke Tanigawa《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》2007年 テート © David Hockney

ホックニーは、たった1枚のキャンバスに描いた習作から、6枚、25枚、そして最終的には50枚ものキャンバスで構成する、幅12.25メートル・高さ4.59メートルの作品に仕上げた。その驚きの制作風景を追いかけた10分ほどの映像が、同じ展示室内で視聴できる。貴重かつ必見の内容だ。

展示の終盤を飾るのも、圧巻の大型作品群。32枚のキャンバスによる油彩画1点と、大判サイズのiPad作品12点が鑑賞者をぐるりと取り囲む空間では、ホックニーが見ていたイースト・ヨークシャーの春の空気が、確かに感じられるだろう。

デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke Tanigawa《春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》2011年 ポンピドゥー・センター ©David Hockney
デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke Tanigawa《春の到来、イースト・ヨークシャー、ウォルドゲート 2011年》2011年 デイヴィッド・ホックニー財団 ©David Hockney

そして『ノルマンディーの12か月』は、2019年3月から暮らす地で、四季を見つめ、iPadで描き続けた全長90メートルの大作。コロナ禍に見舞われた当初は開催も危ぶまれたそうだが、関係者の熱意により中止ではなく延期に、そして無事に開幕できたからこそ、展示が叶った新作だ。iPadで描かれていく様子のアニメーションもあわせて展示されている。

デイヴィッド・ホックニー展
Photo: Keisuke Tanigawa《ノルマンディーの12か月》2020-2021年 作家蔵 © David Hockney

シルエットのようなモノトーンの木々と白っぽい景色が、葉や草花が芽吹いて色づく。そして真っ青な空と白や黄色、紫の花々、鮮やかな芝生の緑が画面いっぱいに広がる。やがて雨が降り、日差しが照りつけ、次第に果実や葉が色づくと、雪が舞い、景色は再び白く覆われていく。

日本の絵巻物のような横長の作品を、歩みを進めながら眺めると、ノルマンディーの穏やかな風景と時間の中で、ホックニーと散歩しているような感覚になれるかもしれない。本作からは、身近な暮らしと人々を見つめ、さまざまな手法で絵画を描き続ける、好奇心旺盛で朗らかな人柄がきっとうかがい知れるだろう。

ホックニーのエッセイを掲載、公式カタログやオリジナルグッズも

iPadを連想させるようなA5変形サイズの公式カタログは、全出品作品127点のカラー図版、学芸員による論考に加え、日本語未翻訳の論考やホックニーのインタビューも収録されている。

また展示室内の特設ショップでは、デイヴィッド・ホックニーおよびDavid Hockney Inc.監修のもと、全て本展のために企画・製作したうちわやTシャツ、トートバッグなどの展覧会オリジナルグッズが販売されている。こちらも見逃さないでほしい。

展示は2023年11月5日(日)まで。サマーナイトミュージアム開催日(7月21・28日、8月4・11・18・25日)は、21時まで開館時間が延長される。

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