(c) Damien Hirst
(c) Damien Hirst

「クソみたいな」1万枚もの作品、ダミアン・ハーストのNFT展示をレビュー

タイムアウトロンドンのエディターが展示を辛辣(しんらつ)に指摘

編集:
Time Out Tokyo Editors
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現在、ロンドンの「ニューポート・ストリート・ギャラリーNewport Street Gallery)」で行われているダミアン・ハーストのプロジェクトで、自身初となるNFTコレクションThe Currency」。現在、1枚当たり2万ポンド(約310万円)所有することは不可能という本作。実際、この試みはいかなるものか? ここでは、冬でも短パンを履き続けるタイムアウトロンドンのアート担当エディター、エディーによる辛口レビューを紹介しよう。

多くのアートは愚かで退屈、そして傲慢(ごうまん)でくだらない。しかし、これら全てを感じさせるアート作品は、ごくわずかしかないといえる。そんな中「ご登場」したのが、自分好きのダミアン・ハーストと、彼がドットを描いた「クソみたいな」1万枚もの作品だ。彼は、まさに「愚か」「退屈」「傲慢」「くだらない」の四拍子がそろったアートをやってのけたのだ。

原色の小さなドットをちりばめた絵を1万枚、またそれに対応するNFTを1万個作った。販売価格は、1枚当たり2万ポンド(約310万円)。購入者は、NFTを残して物理的な作品を破棄するか、あるいはその逆を選択できる。NFTで購入した場合、残された物理的な作品の方は、ロンドンのニューポート・ストリート・ギャラリーで2023年1月23日(月)まで開催されている展覧会「Damien Hirst: ‘The Currency’」の期間中、ギャラリー空間において「ライブ」で燃やされるという。

ギャラリーの壁には、カラフルなドット絵とそれをコピーした白黒の作品がずらりと並んでいる。作品の列が延々と続くさまは、とても印象的だということだけは認めよう。しかし見ていると同時に、「ペーパーチェイス(Paperchase)」のような文具店で、世界一高価な包装紙を見て回っているような気持ちになる。 ギャラリーの2階に上がると、作品を燃やす「炉」があり、その周りではさらにドット絵を見ることができる。雰囲気はまるでしゃれた暖炉部屋のよう。ハーストのひどい絵を欲しがる趣味が悪い人の家のリビングルームで、この作品がどんな風に見えるのか、想像力を膨らますのに一役買っているようにも見える。奥の部屋ではコレクターがNFTがいかに素晴らしい投資であるかを語るインタビュー映像が流されている。

この展覧会は全体で、Twitterで息巻いているような暗号資産にやたらと熱い「やから」をリアルで見せつけられているように感じる。つまり、「キモい」のだ。

ハーストが「物理的な金」ともいえる作品を燃やしている間、我々は生活費の危機に瀕し、家を暖める余裕もないという事実は忘れても「OK」だ。それでもこの展覧会がひどいのは、絵そのものが現実離れしていて独創性がない。さらに退屈ということだけではなく、ハーストがそれらをNFTに変え、残った物理的な作品を燃やすことで、自分がとてもワイルドで象徴的であると思っていることだろう。

彼は、自分が体制に反発しているとみなしている。なぜなら、金にまつわるアートを作るのは、あまりに無作法でタブーで野暮だからだ。ギャラリーで流されている動画で、彼は「アーティストが金のために動くべきではない」と語る。

しかし、通貨とアートの境界線を曖昧にすることで、彼は通貨を作ったに過ぎない。これらの作品は、金についてのアートではなく、文字通り金そのものなのだ。本物であり、実際に取引可能なものなのだ。これは欲についてのアートではなく、欲そのものである。彼がそれ以外のものだと考えていることが、この作品をとても愚かなものにしているといえるだろう。

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