アーティスツフェア京都2024
Photo: Naomiヤノベケンジ「SHIP'S CAT(Ultra Muse Black)」

「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」が開幕、5の見どころを紹介

賑わう清水寺や京都国立博物館に現代アートを多数展示・販売

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京都中心部のユニークヴェニューを舞台にしたアートフェア「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024(アーティスツフェアキョウト)」が開幕した。

今年で7回目となる本フェアが、他のアートフェアと大きく異なり、かつ唯一無二ともいえる特徴が、ギャラリーではなくアーティスト主導で企画されていること、そして美術展とアートフェアをボーダレスに開催していることだ。次世代のアーティストが世に羽ばたくためのきっかけづくりとして、また来場者とアーティストとのコミュニケーションを生み出す場として、年々スケールアップし続けている。

本記事では「ARTISTS' FAIR KYOTO 2024」で訪れたい見どころや楽しみ方を紹介する。

1. 世界遺産と現代アートのコラボレーションを満喫する

今年のメイン会場の一つは、2022年以来2回目の会場となる「音羽山清水寺」だ。世界遺産にも指定されている敷地内のさまざまな場所で、アドバイザリーボードとして参加するアーティスト16人の作品が展示されている。

まず来場者を出迎えるのは、彫刻家ヤノベケンジの新作「SHIP'S CAT(Ultra Muse Black)」。世界各国から訪れる多くの観光客が、笑顔でカメラを向けていたのが印象的だった。

その先にある西門の前には、高級車で石焼き芋を販売する「金時」などで知られるアーティストユニット「Yotta」によるネオ伝統こけし「花子」が横たわる。昨年は、京都駅近くの「東本願寺」前に横たわっていたが、今年はそれ以上のインパクトかもしれない。

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Photo: NaomiYotta「花子」

愛らしい声で話す「花子」のモデルは、東北地方の温泉地に伝わり、ひと昔前まで日本のどこの家にも必ずあった、伝統的なこけし。そこに宿る人々の願いと、こけしが持つ玩具的意味を取り戻すことが試みられており、紋様にも東北各地に伝わるものにYotta独自のアレンジが加えられている。

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Photo: Naomi成就院

境内奥の「成就院」では、本アートフェアのスタート時からディレクターを務める椿昇と、アドバイザリーボードの伊庭靖子、小谷元彦、鬼頭健吾、名和晃平、やなぎみわ、ボスコ・ソディ(Bosco Sodi) らの作品が展示されている。

椿の作品は、ともすると見逃してしまいそうなほど繊細だが、命をつなぐ営みが表現され、美しい庭園に見事に溶け込んでいた。

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Photo: Naomi椿昇「Dragonfly」

床の間全体の空間で展示したミヤケマイは、掛け軸の新作「珠 circle or cycle」で、今年の干支でもある龍に陰陽五行思想を、龍が持つ珠に円や縁の意味合いを重ねた。掛け軸の中央に刺繍で記されているのは、東洋の武士道や思想にも隣接していながら、私たち日本人も耳なじみのある英語の言葉。何が書かれているかは現地で確かめてみてほしい。

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Photo: Naomiミヤケマイ 展示風景

敷板に置かれた石と、そこに載せられたガラスの球体による作品は「天の配剤 Sometimes the Apple Falls Far from the Tree」。ミヤケは「実はガラスも原料は硝石。つまり、見た目も特性も異なるが、ごく一般的な石と同じ石といえます。そしてガラスの球体には水が入っている。石からできていながら、割れやすいガラスに、私たち人間を象徴する水を入れ、作品として未来に伝わっていくことをイメージしました」と、作品に込めたメッセージを語ってくれた。

また、うっかり見逃してしまいそうになるが、奥まった茶室には、やんツーの掛け軸がかかっている。茶室の中ならではの、薄明かりに浮かぶ作品をじっくり眺めてほしい。

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Photo: Naomi

清水寺での展示会期は、他のメイン会場よりも長い3月10日(日)までだ。清水寺への拝観料のほかに展示を見るための入場料が必要だが、京都散策がてら立ち寄れば、より特別な体験ができるだろう。

2. 若手アーティストとの対話を楽しむ

本フェアに作品を展示するには、アドバイザリーボードらによる推薦か、公募で選ばれる必要がある。いずれにしても、実力が十分かつユニークな作品を手がけていることは間違いなく、本アートフェアをきっかけに飛躍するアーティストも多いので、ぜひ注目したい。

かつて新聞を大量に印刷するための大型の印刷機が稼働していた「京都新聞ビル」地下1階と、今回初めてメイン会場となる「京都国立博物館 明治古都館」では、20〜30代のアーティストらが作品を展示する。なお、京都新聞ビル地下1階のみ、入場無料だ。

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Photo: Naomi京都新聞ビル地下1階

京都新聞ビルでは、本フェアで昨年から始まった公募展「マイナビART AWARD」で最優秀賞を受賞した、志賀耕太による映像とインスタレーション「スパイラルジェッテイもんじゃ」を展示している。「スパイラルジェッテイ」とは、ロバート・スミッソン(Robert Smithson)が1970年代に、アメリカのユタ州で制作した、うずまき状のランドアートだ。映像につけられたナレーションを聞けば聞くほど、作品のイメージが変化し、新鮮味を覚えた。大スクリーンで鑑賞してみてほしい。

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Photo: Naomi

また、フランスと日本を拠点に活動する保良雄(やすら・ゆう)は、普段はインスタレーションやワークショップの開催を中心に活動しているが、今回は映像作品に加えて 貴重な作品販売も行っていた。

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Photo: Naomi保良雄 展示風景

保良は現在、「銀座メゾンエルメス」で開催中の企画展「つかの間の停泊者」にもインスタレーションを展示しているほか、4月からは千葉・九十九里浜付近開催される「山武市百年後芸術祭」のディレクターも務める。

一方、京都国立博物館では、圧倒的な作品点数を描いた、岡本 ビショワ ビクラムグルン(Bishwobikramgurung Okamoto)のスペースに圧倒された。

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Photo: Naomi京都国立博物館 明治古都館

京都で制作を続ける岡本は、池田光弘による推薦で参加が決まってから、設営当日の朝ぎりぎりまで描いていたという。所狭しと展示された30点以上の絵画は、これまでの抽象画から具象画へ、またその間を揺らぐような新たな展開を見せていた。

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Photo: Naomi岡本 ビショワ ビクラムグルン(Bishwobikramgurung Okamoto)展示風景

昨年、「第16回shiseido art egg」に選出され、個展「おもかげのうつろひ」も記憶に新しい佐藤壮馬は、自身が生まれ育った北海道の神社で、巨大な御神木が倒れてしまうという出来事と遭遇した。その事件から生まれた新たな立体作品を展示している。作品と併せて展示された資料からは、思索の変遷が読み取れ、非常に興味深い。また、3Dスキャンやモデリングなど、複数の技法を組み合わせたからこその造形の繊細さ、完成度の高さに驚かされる。

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Photo: Naomi佐藤壮馬 展示風景
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Photo: Naomi佐藤壮馬 展示風景

描かれるその時々の時勢や流行などを取り入れながら、時にシニカルでユニークな絵画を描き続ける西垣肇也樹(にしがき・はやき)は、まばゆいほどの巨大な洛中洛外図を制作した。画面を上下に貫くのは、ニューヨークの高層ビル群。2023年夏にニューヨークで展示と滞在制作を行った経験を反映したと話す。また、一昨年頃までに発表した作品群では描かれた人物たちが揃ってマスクをしていたが、本作では道端にマスクが捨てられている。人々の暮らしぶりから想像を巡らせるのも楽しいだろう。

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Photo: Naomi西垣肇也樹 展示風景

3. 街なかのサテライトヴェニューを巡る

ここまでに紹介した3会場だけが本フェアの見どころではない。京都中心部の各地では、「ARTISTS' FAIR KYOTO: SATELLITE 2024」と題して、コンセプトに共感した企業各社が、京都から発信するアートシーンをともに盛り上げるため展覧会を開催している。いずれも過去に本フェアに出品した作家らとコラボレーションし、新たに作品を制作・展示しているので、ぜひ立ち寄ってみてほしい。

例えば、夜20時までオープンしている「京都蔦屋書店」では、前田紗希の個展「constancy of space」が開催中だ。

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Photo: Naomi前田紗希 展示風景

京都蔦屋書店は、京都市内の中心部、四条河原町に立つ「京都高島屋」5〜6階に昨年末オープンしたばかり。複数の展覧会を店内の様々なスペースで定期的に開催しており、百貨店の中なので気軽に立ち寄りやすい点も魅力的である。

また、1階の「余白」にも併せて立ち寄りたい。絵画や彫刻などを手がける若手アーティストらの作品が展示・販売されている。作品は2〜3ヶ月毎に展示替えされ、カフェや植物などを販売するスペースも併設している。まさに「余白」という店名にふさわしいユニークなスペースなので、気軽に訪れてみてほしい。

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Photo: Naomi
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Photo: Naomi

4. 京都に拠点を置くアートギャラリーを知る

せっかくアートで盛り上がるタイミングで京都を訪れたなら、京都に拠点を置く現代アートギャラリーも訪れてみよう。例えば、祇園エリアにある「現代美術 艸居(そうきょ)」と、京都市役所付近にある「艸居アネックス」では、三島喜美代の立体と平面の作品群を紹介する個展を開催中だ。

三島は1932年大阪市生まれ。1950年代から絵画、コラージュ、彫刻、そして陶やインスタレーションまで、多種多様な作品を手がけ、国内外で高い評価を得ている作家だ。現在は大阪と岐阜で制作を続けている。

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Photo: Naomi
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Photo: Naomi

よく知られた空き缶の詰まったゴミ箱や、段ボール、新聞や漫画雑誌などを模した陶の作品が並ぶ中、ひときわ目を引くのが、巨大な古新聞を積み重ねた作品だ。実は素材にも、元々はゴミだったものが使われている。物質としての存在感と表面の質感をギャラリーで確かめてみてほしい。

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Photo: Naomi

「現代美術 艸居」から、鴨川や高瀬川沿いの街並みを眺めながら歩くこと10分と少し。ビルの3階にある「艸居アネックス」では、ほぼ初公開という大型の平面作品が並ぶ。いずれも1969年に描かれ、活動初期に手がけた具象から抽象的な表現への変遷が分かる、貴重なシリーズだ。1点を除いて公開されることなく、三島の倉庫で大切に保管されていたため、半世紀以上前の作とは思えない状態の良さだった。会期は4月17日(水)まで。5月には「練馬区立美術館」で企画展の開催を控えた三島の作品を、ひと足早く京都で鑑賞しよう。

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Photo: Naomi
アーティスツフェア京都2024
Photo: Naomi

5. これは!という作品は購入してみる

アートフェアやアートギャラリーは、もちろん作品を観て回るだけで十分に楽しめる。しかし、もっと現代アートが好きで楽しみたいと思うなら、思い切って作品を購入してみることだ。数千円から購入できる作品が多数あるし、絵画や彫刻だけでなく、実際に使って楽しめるうつわなどの工芸作品へ目を向けてもいいかもしれない。

現代アートの良さは、アーティストが今、同じ時代を生きていること。制作の背景などを作った本人から直接聞けることは、とても貴重であり大きな魅力だ。アート作品を買う。その最初の1歩を「ARTISTS’ FAIR KYOTO」で始めてみてはいかがだろうか。

「ARTISTS’ FAIR KYOTO」の会期は、京都国立博物館と京都新聞ビルが、3月3日(日)まで。清水寺でのアドバイザリーボードによる展覧会は3月10日(日)までだ。詳細な情報は、公式ページを確認してほしい。

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