対談:食品まつり a.k.a foodman × TOYOMU

なぜ踊れる曲を作るのか?トラック作りを巡るぶっちゃけトーク

作成者: Kunihiro Miki |
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作曲ソフトやシーケンサーで制作された「打ち込み」音楽は、作り手たちがどのようにしてデジタルのトラックに命を吹き込んでいるかを聴き取ることにも、面白さがある。

例えば、ヒップホップの世界で2000年代以降に広まった、ビートをジャストな位置から微妙に前後にズラして鳴らすスタイル。J・ディラ※ がその始祖と言われるこのフィジカルなビートは、まったく新しいグルーヴ感覚を切り開き、様々なジャンルの音楽に影響を与えた。クオンタイズ(演奏データのタイミングのズレを補正する機能)に抗うことでリズムマシンに血を通わせた、発明だった。ヒップホップに限らず、優れたトラックメイカーたちは、常に肉体的な音楽への信奉を持ちながらベッドルームで音楽を作り、そこでしか生み出せない新しい可能性を探っている。

2018年に発表した新作『ARU OTOKO NO DENSETSU』が欧米の音楽メディアでも絶賛された名古屋の食品まつり a.k.a foodmanと、2016年の「妄想カニエ・ウェスト」が世界中でバズを巻き起こし、新作『TOYOMU』で新境地を見せた京都のTOYOMU。この二人も、肉体や言語を求めるように音楽と向き合い続ける、天性のトラックメイカーだ。関西のクラブシーンの先輩後輩でもある二人が繰り広げる、曲作りを巡るぶっちゃけトークを楽しんでほしい。

※ J・ディラ : アメリカ デトロイトのラップグループ スラム・ヴィレッジの一員として活躍し、プロデューサーとしては、ジャネット・ジャクソン、デ・ラ・ソウル、ア・トライブ・コールド・クエストらの楽曲を手がけた。2006年没

音の一番美味しい部分が削られているような感覚

ーまずは、お互いの音楽についてどんな印象を持っているか教えてください。

食品まつり a.k.a foodman(以降、食):『印象III : なんとなく、パブロ』※ を聴いた時は、ユーモアのセンスを感じました。

TOYOMU(以降、T):ユーモアという部分は、シンパシーを感じるところです。食品まつりさんは、メロディーを組み立てるということからはみ出て、新しいものを模索している人というイメージがありました。特に、『Ez Minzoku』(2016年)を聴いた時に、この人は違う道を歩き出した人だ、と思いました。

食:ビートミュージックと呼ばれるジャンルをやり続けていくうちに、次第に自分の特色を意識するようになってきたんです。打ち込みの音楽は、生楽器を演奏する音楽と違って、自分の頭の中を忠実に形にする面白さがあるから、遊び心が大事だと思っています。

ーTOYOMUさんは、2年前のインタビューでは、DTMソフト上の譜割りに縛られないような作り方を試行錯誤していて、いかに音をズラすかを考えていると語っていましたが、現在はどうですか。

T:『TOYOMU』に収録されている曲のいくつかは、クオンタイズをかけています。ズレを狙った作り方をしているうちに、音の一番美味しい部分が削られて、排泄物を固めているような感覚に陥ってしまって。そうした方法は一度全部捨てて、まずは踊れるものを作ってみようと思うようになりました。

クオンタイズをかける、かけない、にこだわりがあるわけではなく、その先に面白いものができていればどちらでも良いんです。

※『印象III : なんとなく、パブロ』:カニエ・ウェストの2016年のアルバム『The Life of Pablo』が、リリース当初、日本で聴くことができなかったために、TOYOMUがネット上で拾った各収録曲のサンプリングソースや歌詞のテキストデータをもとに、想像で作り上げた『The Life of Pablo』のオマージュアルバム

『337』は、花見の席の三三七拍子でぶち上がっているサラリーマンたちの光景

ー「ズレ」について、食品まつりさんはいかがですか。

食:ある時期、J・ディラやフライング・ロータス周辺のいわゆるLAビートミュージックなどを参考に、いかにクオンタイズをかけずに音をズラすか、ということを目指す人がとても増えました。そのうちに、ズレていることが当たり前になっていくことに、僕は違和感を感じて。『Ez Minzoku』の曲は、クオンタイズは思い切りかけていて、敢えてグリッドにかっちりとハメていました。日本人特有の「ハイッハイッ」というグルーヴのないノリをエレクトロニックにしたらどうなるのかを試してみたかったんです。

『Ez Minzoku』はなるべく踊れない音楽を意識していたところがあったんですが、新作の『ARU OTOKO NO DENSETSU』では、同じ構成で、踊らせる音楽ができないか、という目標を立てました。『337』は、花見の席の三三七拍子でぶち上がっているサラリーマンたちの光景を、エレクトロニックで表現したら面白いんじゃないか、という曲です。

T:食品まつりさんの作品は、楽しんで作っているのが伝わってくる。それが一番重要なことだと思います。僕も、今回の『TOYOMU』は、素直にノリが良いものを作ることを目指しました。頭の中にいる音楽博士を排除して、作品を作る動機を「僕のことを知ってほしい」というものから「作品を分かってほしい」というものにシフトチェンジしました。そのための共通言語が、「ノれる」ビートだったんです。

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無い物ねだりをエネルギーにしている

ー踊れるものを志向するようになった背景には、なにがあったのでしょうか。

食:伝わらないのって寂しい、という当たり前の視点ですね(笑)。僕は、アルバムのために作る音楽はクラブのフロアで鳴らすことを一切想定していなくて、家で聴いて面白ければオッケーだと思っています。しかし、ライブの時はライブ用の四つ打ちなどの曲を用意します。それは、みんなとその場を共有したいから。アメリカツアーで実験的なセットをやった時に、みんなが楽しめたのか楽しめなかったのかが分からず、やりきれない後味が残ったんです。やはり、実験的なことをやりながらも、ベース音を思い切り出してダンサブルな曲をプレイする気持ち良さというのも持ち続けていたい。

T:僕は、自分が圏外にいるような気分を持っていたので、もっとみんなの輪の中に入りたくて(笑)。『TOYOMU』は輪の外周に触れたくらいの感覚です。

僕はラップミュージックが好きなんですが、欧米のシーンを追っていて気が付いたのは、「どんな音楽か」よりも「どんな人がやっているか」が重要視される世界だということでした。どれも同じように聴こえるトラップ※ の曲も、アーティストのキャラクターによって輝きが出る。もし、そういう世界に自分が入っていくとしたらどうするかを考えた時に、僕の場合はキャラ作りをするよりも、素で行くしかないと思ったんです。素になると、手薄になる部分ができてヤバい一面が見えちゃうんですけど、その方がいいかなと。次作では、輪の中に入って、自分が元々得意だったヒップホップとかR&B的なことをやっていきたいと思っています。

食:TOYOMUさんが作る歌ものは聴いてみたいですね。独特なものができ上がると思う。僕も、次の作品ではまた色々変えていこうと思っています。僕は、元々はナンバーガールや空気公団のようなバンドミュージックが好きで、本当はギターをかき鳴らして歌いたい、という人間なんですが、それができないがために、その無い物ねだりをエネルギーにしているところはある。

T:わかります。僕も、本当はX JAPANみたいなバンドがやりたいですよ(笑)。

※トラップ:2000年頃にアメリカで誕生したと言われている、ヒップホップのサブジャンル

テキスト:三木邦洋
写真:鈴木大喜、谷川慶典

食品まつり a.k.a foodman

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名古屋出身のトラックメイカー / 絵描き。シカゴ発のダンスミュージック、ジューク / フットワークを独自に解釈した音楽でNYの<Orange Milk>よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、あっこゴリラなどとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory出演、Diplo主宰の<Mad Decent>からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。

2016年に<Orange Milk>からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』はPitchforkやFACT、日本のMUSIC MAGAZINE誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月に<Sun Ark / Drag City>からLP『ARU OTOKO NO DENSETSU』、さらに11月にはNYの<Palto Flats>からEP『Moriyama』を立て続けにリリース。


TOYOMU

公式サイト

京都在住のアーティスト・プロデューサー。1990年、京都生まれ。

聴けないならいっそのこと自分で作ってしまおう。カニエ・ウェストの新作を日本では聴くことができなかった2016年3月、カニエ・ウェストの新作を妄想で作り上げ、それにビルボード、ピッチフォーク、BBC、FACTなど世界中の有力力メディアが飛びつき、その発想の斬新さのみならず作品内容が高く評価された。2016年11月23日、デビューEP『ZEKKEI』をリリース。2018年10月、デビュー・アルバム『TOYOMU』をリリース。

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