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Photo: Kisa Toyoshima左からユウキ、カナ、マナ、ユナ

今フェスで観るべきバンド、CHAIのライブが生み出す「ディズニーランド感」

変化を恐れない彼女たちの最前線、『FUJI & SUN '22』出演への思いを聞いた

テキスト:
Genya Aoki
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今年も「フェス」の季節がやってきた。近年は、コロナ禍で無観客や配信のみなどの新しい方法が模索されてきたが、感染対策のノウハウが整い始め、2022年は各地でリアルな野外音楽フェスティバルが楽しめそうだ。

今年で開催4回目を迎える『FUJI & SUN '22』もその一つ。5月14(土)、15日(日)に行われる、富士山を間近に見ながら音楽とキャンプ、アクティビティーが満喫できるフェスだ。ROTH BART BARON、角銅真実など現在の音楽シーンをけん引するアーティストから奥田民生、渡辺貞夫グループなどの大御所まで幅広く出演する。中でも注目したいのは、14日に出演する「N.E.O.(ニュー・エキサイト・オンナバンド)」ことCHAI(チャイ)だ。

双子のマナ(ボーカル、キーボード)とカナ(ボーカル、ギター)、ユナ(ドラムス、コーラス)、ユウキ(ベース、コーラス)の4人組である。結成から一貫して、「コンプレックスは個性でアート」というコンセプトのもと、自分を愛する「セルフラブ」と「NEOかわいい」を発信し続けている。

ピンクの華やかなコスチュームに身を包み、キュートなダンスやMCで観客の心をほぐしつつ、タイトかつアグレッシブな演奏とキャッチーで中毒性のあるコーラスで観客の目と耳を釘付けにし、体を揺らさせずにはいられなくさせる。

2022年2月2日に世界5カ国のミュージシャンとコラボレーションしたEP『WINK TOGETHER』をリリース、2月10日〜3月17日には北米でのヘッドラインツアーを敢行。3月18日は世界最大級の複合フェスティバルである『サウスバイサウスウエスト(SXSW)2022』に出演を果たすなど、日本のみならず世界中でライブバンドとしても高い支持を集めている。

多くの観客をとりこにしてきたそのステージングには、一体どんな魔法が込められているのか?CHAIの4人にインタビューを実施。思い描く理想のライブとは何なのか、一貫したメッセージが周囲に与えた影響やアメリカツアーでの「本物の瞬間」などを、『FUJI & SUN '22』出演への意気込みとともに語ってくれた。

『WINK TOGETHER NORTH AMERICA TOUR』の様子(画像提供:株式会社次世代)

ーコロナ禍以降、ライブで意識することは変わりましたか?

マナ: ネガティブなニュースが続く中で、ライブがすごく特別なものになっていると感じながら、ライブをしています。今世の中にはいろいろなストレスがあふれていて、それをどうやったら吹き飛ばせるのか。私たちはポジティブなエネルギーでそれをしていきたい。その中で、以前よりももっと自分たちの思っていることを伝えたい、爆発させたい、お客さんをびっくりさせたいと思っています。

カナ:ライブはどちらかというとパフォーマンスなので、パッションやエネルギーが大事。観ても聞いても楽しく、目の前でみんなが体感できる、コミュニケーションが取れるものを心がけてやっています。

理想のライブは「ディズニーランド」
『WINK TOGETHER NORTH AMERICA TOUR』の様子(画像提供:株式会社次世代)

理想のライブは「ディズニーランド」

ーCHAIの中で「今、理想のライブ」というものはありますか?

マナ : ディズニーランド。あの欲の満たし方ってすごいと思う。あそこに人が行き続けるのにはかならず理由がある。乗り物に乗る順番や、いつご飯を食べるとか、パレードを見るかとか、起承転結の流れみたいなものを参考にしています。自分がディズニーに行った時、最初何に乗るかなとかを考えながら曲の順番などを決めたりするんです。

みんなが求めるし、行きたくなる、見たくなる、会いたくなるといった全部の欲が入っていて、想像を超えてくる。アトラクションに乗ると「マジッ?」と思うようなハラハラドキドキがあるし、一日いても飽きないのも素晴らしい。だからライブもそうありたい。そういう体験をお客さんにしてもらえるのが一番の正解かな。

ユナ : ライブとしてはずっとエンターテインメントであり続けたいというのがあります。ダンスをしたり、歌だけを歌って演奏しない瞬間を作ったり、演奏をしたら格好良いけど、すごく遊び心もあるみたいなメリハリというか振り幅があるということが、ディズニーなのかなって思っています。

締めるとこは締めて、遊ぶところは遊ぶ。そういうライブがしたいですね。演奏したらえげつないし、踊ったらキレキレだし「あの人、何者?」って言われるような。そういうものにすごく憧れるし、そんな魅せ方ができるようになると最高だよねって思っています。

マナ : 分かりやすくアーティストで言うと、ビースティ・ボーイズ(Beastie Boys)かタイラー・ザ・クリエイター(Tyler, The Creator)かな。負けた気分になるから、あまり例えでアーティスト名は出したくないんですが。でも「変化を恐れない」って面でビースティ・ボーイズは素晴らしい。時代ごとに全然違うことをしているのに、常に最新のアルバムが支持されているっていうのが本当に素晴らしい。表現が自由な人は気になりますね。ただ負けたくないけど。

タイラーもすごい。振り幅が広くて、アルバムごとにテーマも全然違うし、服装も一気に変わる。とても努力家で、尊敬します。

ー「振り幅」の部分を大切にしているということですね。

マナ: はい。変化を恐れないこと。バンドでいることにこだわらないことです。

自分の存在価値がちゃんとありつつ、いろいろなものを取り込めて、それがすごく新しいものになるということは素晴らしいことで、目指すべきものだと思っています。ただ取り込むことに関しては妥協しない。嫌いな音楽も聴くし。

カナ:好きなら好き、嫌いなら嫌いって言い続けていきたいです。

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人に直接言えないことをライブで共有する意味

ー結成以降「セルフラブ」や「NEOかわいい」の伝道師として発信し続けていらっしゃると思いますが、周りや社会の中で自分たちの影響を感じることはありますか?

カナ : 周りの人でいうと、国内外のCHAIのファンの人から「そういうことを言ってくれてありがとう」とコメントをいただきます。「自分の体型とか中身に自信を持って明日から生きようと思います」や、絵を描いている中学生の子から「CHAIを聴いてやっとピンクが使えるようになった。かわいい子たちが使うイメージがどうしてもあるから、今まで黒とか白しか使えなかったけど、使えるようになりました」とか。

マナ・カナ:ファンのコメントはすごくうれしいです。

カナ:私たちもそんなアーティストがいたらいいなとずっと思っていたから。「そのままでいいんだよ、生まれたそのままがかわいいんだよ、素敵なんだよって」って言ってくれる人がほしかった。

マナ:個性を認めてくれる人がほしかったから。だからこそ、(私は)誰よりも個性的でありたいと思っています。だってあなたにも個性的であってほしいから。私は個性的でいるよって立ち位置でいたいんです。着たい服を着てほしいし、生きたいように生きてほしい、(自分の)気持ちに素直に生きてほしいです。あともっとみんなが愚痴を言えるようになってほしい。みんなストレスを抱え過ぎです。

ーそういったストレスからの解放手段の1つにライブがあると。

マナ : そうですね。だから見に来てほしいなと思います。

ーライブの中でみなさんもストレスを発散させるような部分が

あるんですか?

カナ : 『WINK』のアルバムの中に『END』という曲があって、普段言えないような「うぜー」みたいな言葉をひたすら言ってるんです。この曲を作った意味が正にそれ。みんながライブに来て、一緒に「あの人嫌い、あの人うざい、むかつく」って言葉を言ったら結構スッキリする。

「今なら言える」って瞬間をライブなら作れると思うんですよ。日本人は特にそうかもしれないですけど、人に直接言えないことをライブで一緒に歌うことで発散しようって。そういうことは(思った瞬間は怒りだったりするんだけど、)後から一緒に歌ったら笑えるじゃないですか?最後に笑いに変えられるようにしたいという意味も込めてライブでやっていますね。

ーいいですね。めちゃくちゃ言いたい。

マナ : これって、ちょっとパンクスピリッツ。私たち結構、心はパンクなんです。

「FUJI&SUN」会場(画像提供:©️FUJI & SUN '22)

ー話は変わりますが、『FUJI & SUN '22』は音楽、アクティビティ、キャンプを通じて「本物の体験ができる」というコンセプトを掲げています。CHAIの中で「これは本物だな」と感じる瞬間があれば教えてください。

ユナ: 本物という例えが合ってるか分からないんですが、この間アメリカツアー(『WINK TOGETHER NORTH AMERICA TOUR』)に行って、久しぶりにステージに出た時に「ワー」っと会場が湧いて、約2年ぶりに歓声を浴びたんですよ。その時「これぞライブだ」と感じました。歓声と私たちの出す音が相乗効果を生み出すコミュニケーションみたいになっていて、「ライブはこれだな」という再確認ができた。

日本のフェスに出るのはとても久しぶりなので、『FUJI & SUN '22』が開催してくれて本当に感謝しています。これぞ本物ですね。

カナ: 開催するってことがこの時代に一番必要なことだと思うから、それが一番本物だと思う。

ユナ: 生のライブをみんなで味わえる「本物」に感謝ですね。

ユウキ: 私は「自分たちの中の偽物って逆に何だろう?」って考えちゃったから、それくらい真剣に向き合えているんだと改めて感じました。ライブって生ものだから嘘が作れない。フェスは、見る人にとってもいろいろな本物を体感する場所だし、やる側にとっても自分が本物だとぶちまけに行くところだと思います。それを野外でできるのは気持ち良いよね。

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Photo: Kisa Toyoshima

ー最後に『FUJI & SUN '22』に行こうか迷っている人や楽しみにしている人に対して、メッセージをお願いします。

マナ : あなたの楽しみを増やすことは何も間違っていない。行かない理由なんてきっとないから。フェスって「本当は行きたい」って誰もが思う場所だと思います。その存在を作っているのは開催側で、出演するのはミュージシャンの意思です。あなたたちが楽しみを妥協するところなんて何もない。「楽しんで良いんだよ」って言いたいです。

カナ:フェスに出る側も運営する側も責任を持って(感染対策を十分に行って)開催するので、みんなは安心して全力で楽しんでほしい。私たちのライブも楽しみにしててね。あなたの期待以上のものを見せます。

ユナ:それぞれお客さんの選択ではあるけど、行きたいと思っている人がいるのであれば、音楽の楽しみを改めて一緒に再確認しようね、富士山の麓で最高に「チル」しようぜって気持ちでいっぱいです。

ユウキ:行きたいと思うのも行きたくないと思うのも正解だと思う。ただ私たちは必ず行くし、そこで勝負する。CHAIを見れば必ず来てよかったって思わせる。だから安心して来てね。

画像提供:KMCgroup株式会社

CHAI

マナ(Key・Vo)、カナ(Gt・Vo)、ユウキ(Ba・Vo)、ユナ(Dr・Vo)によるバンド

2015年に1st EP『ほったらかシリーズ』を発表。収録曲「ぎゃらんぶー」が『Spotify』のUK チャートTOP50 にランクイン。2016年には2ndEP『ほめごろシリーズ』をリリースし、iTunes Alternative ランキングでTOP10 を記録した。収録曲「sayonara complex」のMV を公開すると、各所で絶賛の嵐となり、多くの著名アーティストが大プッシュ。
2017年にFUJI ROCK FESTIVAL 「ROOKIE A GO-GO」に登場すると、超満員で観られない人が続出するという、同フェス開催史上初めての事態に。2017年10月に1stAL『PINK』をリリース。

2018年にアメリカ、イギリスの名門インディーレーベルからデビュー。同年にはFUJI ROCK FESTIVAL含む約40本のフェスに出演。2019年リリースの2ndAL『PUNK』はPitchforkを中心に多くの海外音楽サイトで軒並み高い評価を得る。同年8月にはSUMMER SONIC FESTIVALに初出演。2020年10月、USインディー名門レーベルのSUB POPとの契約を発表。2021年5月、3rdAL『WINK』を発表。2021年、これまでスーパーオーガニズム(SUPERORGANISM)、マック・デ・マルコ(Mac DeMarco)を含む数多くの世界的に話題のバンドのサポートアクトとして抜擢される一方、単独でも4度のワールドツアーを成功裏に収める。Primavera Sound Festival、Pitchfork Festival、SXSWなど、多くの大型海外フェスへも出演。2022年2月、コラボレーションEP『WINK TOGETHER』をリリースした。

もっと今年の音楽フェスを知りたいなら……

  • 音楽

2022年も昨年同様、音楽フェスティバルの運営チームはあらゆる対策を練りながら、音楽を多くの人に届けることを諦めずにいる。この時期に開催されるイベントは中規模から小規模なものが多い。明確なコンセプトを打ち出しているものや世代を超えて楽しめるものなど多岐に渡るので、自分にマッチするフェスがきっと見つかるだろう。

ここでは、春に楽しめる音楽イベントを厳選して紹介する。 運営側もアーティストも、細心の注意を払い開催している。参加する側もエチケットを意識しながら、全力でフェスに身を委ねてほしい。

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