1. インタビュー:PIAMY
    左から、山﨑穂花、星マリコ、雨谷里奈
  2. PIAMY
    PIAMY

新宿二丁目ビアンマップを発行、クィア女性向けアプリ「PIAMY」にインタビュー

SEX:私の場合 #17「レズビアン可視化の日」に語る、ホモソーシャルからの解放

Hisato Hayashi
Honoka Yamasaki
編集:
Hisato Hayashi
テキスト:
Honoka Yamasaki
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タイムアウト東京 > LGBTQ+ > SEX:私の場合 > #17 新宿二丁目ビアンマップを発行、クィア女性向けアプリ「PIAMY」にインタビュー

「レズビアン」という存在はまだ十分に可視化されていない。4月26日「レズビアン可視化の日」は、「L」(レズビアンの総称)コミュニティーの祝福であると同時に、「見えない」存在であることを痛感させられる。

レズビアンが直面する主な問題は、不可視化と圧倒的な知識不足ではないだろうか。家父長制が浸透する男性中心的な社会では、男性を必要とせずに生きる女性の存在が稀有とされがちだ。

しかし、レズビアンは男性異性愛者のための「スケベ」な存在でもなければ、一時の遊びでもない。現状、レズビアン当事者がのびのびと過ごす社会とは程遠いものの、そこには必ず存在している。

表で語られることの少ないレズビアンは、どのようにしてコミュニティーとの関係性を構築し、同じ当事者と出会うのだろうか。今回、レズビアンやクィア女性に向けたSNSアプリ「PIAMY」代表の星マリコ、レズビアン当事者であり広報を務める雨谷里奈山﨑穂花が、出会いやつながりについて語る。

また、PIAMYが制作した、新宿二丁目を中心に開かれたビアンバー42店舗を収録した「ビアンマップ」を通して、LGBTQ+新宿二丁目のLコミュニティーを探求する。

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レズビアンとゲイ、コミュニティーの違い
Photo:Rina Amagaya

レズビアンとゲイ、コミュニティーの違い

雨谷:レズビアン(=ビアン)の出会いで言うと、「一夜限りの関係」を求めている人よりも、「真剣なお付き合い」の相手を探している人が多い印象を受けます。

:PIAMYを開発するに当たって、ビアンの子たちに話を伺いました。私はストレートアライ(性的少数者を理解し、支援する人のこと)なのであくまでコミュニティーの外からの視点にはなるのですが、レズビアンコミュニティーはゲイコミュニティーと比べると、顕著なヒエラルキーがあるわけではなく、多様な価値観があるなと感じました。

山﨑:ゲイコミュニティーでは、「ガチムチ」と呼ばれる骨太でガッチリとした体形の人たちがヒエラルキーのトップにいるとされていますよね。ほかにも「クマ系」「前髪系」など、主に見た目を表す言葉が多く存在します。

一方で、ビアンコミュニティーでは「フェム(フェミニンな女性らしい外見や装い)」「ボイ(ボーイッシュな外見や装い)」「中性(フェムとボイの中間)」の3つくらいで、コミュニティー内での共通した概念がゲイコミュニティーほど多くありません。

その理由の一つとして、ビアンコミュニティーが弱小だからだと考えています。それは良くも悪くもですが、見た目でカテゴライズするような概念が少ないので、ヒエラルキーによる生きづらさを感じることがあまりありません。

:コミュニティーが狭いからこそ、恋人ができたらアプリをやめたり二丁目に行かなくなったりするカップルは多いですよね。ただ、それはビアンコミュニティーが拡大しないジレンマでもあるのかなと思っていて。

山﨑:本来、出会いはグラデーションでいいはずなのに、そこに恋愛が絡んでいるといった考えは無意識に浸透しているかもしれませんね。ただ、マイノリティーであるからこそ、コミュニティーの探求や友達づくりができる場は提供されるべきです。そういう意味で、PIAMYは彼女ができても使えるアプリなので画期的だなと感じます。

:むしろカップルで使ってほしいし、恋人ののろけも投稿してほしいです。その方が女性同士の関係性が社会的に開かれ、より豊かな人生になると思います。恋人ができることで閉ざしてしまうのではなく、社会的なオフィシャルな関係として育まれることをPIAMYは目指しています。

ノンケからレズビアンに、ホモソーシャルからの解放
Photo:Rina Amagaya

ノンケからレズビアンに、ホモソーシャルからの解放

:ビアンコミュニティーの出会いに関連して思い出したのですが、ノンケ(異性愛者)と付き合うビアンの方って多いじゃないですか。一方で、ゲイの方からはあまり聞かない話ではあるなと感じました。

雨谷:女性はみんな、レズビアンのポテンシャルを持ってますよね(笑)

山﨑:ノンケの男性は「ストレート」だと言い切る人が多いイメージですが、ノンケの女性の場合は「もしかしたら同性も好きになる可能性があるかも」と思う人は多いですね。世間から見た男性同士の関係性と女性同士の関係性におけるイメージが違うことからも、考え方は異なるように感じます。

:まさにホモソーシャルな考えが反映されていますよね。男同士の関係性において、強い「絆」はあるけど「性的/恋愛的な感情」は排除されるという考えは、男性の同性愛に対するネガティブな印象を与えているというか。逆に女性同士の関係性で、そういった「ホモソ」的線引きは曖昧ですね。

山﨑:ホモソが浸透していないからこそ、女性は男性に比べて性の揺らぎがあると思います。ゲイの方と話をすると、生まれた時からゲイだという人が多い一方で、ビアンやセクマイ(セクシュアルマイノリティー)女性の中には、もともと異性が好きだったけど、同性にひかれるようになったという人も結構います。

Photo:Rina Amagaya

Photo:Rina Amagaya

雨谷:初めて女性とお付き合いしてから、ずっと女性とお付き合いしている人も多いですよね。もともと女性が好きだという人もいますが、男性中心の社会でのプレッシャーを感じていたり、男性との苦い経験があったり、さまざまな背景を持つ人がビアンコミュニティーにいる印象です。

山﨑:私の友人は「何でもっと早くにビアンだと気づけなかったんだろう」と言っていましたね。それとは対照的に、ゲイの友人が言っていた「生まれ変わったらストレートになりたい」という言葉は印象的でした。

異性愛中心の社会からゲイコミュニティーと関わるようになったものの、そこに待ち受けるのは性の解放ではなく、ヒエラルキーやホモソーシャル的な考えであることも。その枠の外にいる当事者は、生きづらさを感じているのだと思います。

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異性愛とレズビアン、カップルが相手に求めることは
Photo:Rina Amagaya

異性愛とレズビアン、カップルが相手に求めることは

:「フェム×ボイ」のビアンカップルには、片方が専業主婦を希望するなど、そこにジェンダーロールが反映された関係性を望むケースもあると聞いたことがあります。

山﨑:「フェム×ボイ」の組み合わせは上の世代でよく見かけます。最近では「ボイ×ボイ」や「フェム×フェム」のカップルさんが増えている印象です。

もしかしたら世代による価値観の違いから、性役割を重んじる関係性もあるのかもしれません。最近ではメイクやネイルをするボイの方もいたりと、性役割だけでなく性表現においても、男性か女性に振り切るという考えはそこまで根付いていないのかなと思います。

:なるほど。私の中の情報が今アップデートされたなと感じているのですが、価値観に縛られなくなってきているからこそ、精神的な部分でつながれるような出会いを探す傾向があるともいえそうですね。

男女の出会いだと、そこに相手の職業や経済状況が影響することがあるのですが、ビアンコミュニティーでは社会的ステータスが恋愛とどう関係するのでしょうか。

山﨑:パートナーに社会的ステータスを求めるビアン当事者は少ない気がします。そもそも日本では現状、同性愛者に結婚という選択肢がないので、相手に収入や地位を求めることはあまりないのかなと。むしろ将来1人でも生活に困らないよう、バリバリ働いて自立したビアンさんが多い印象です。

ビアンカップルは遠距離恋愛が多い?
Photo:Rina Amagaya

ビアンカップルは遠距離恋愛が多い?

:遠距離恋愛しているビアンカップルもよく見るのですが、それはビアンコミュニティーが狭いからこそ、そうした状況が生じるのかなと思いました。

実際に、遠くに住んでいる彼女のところに引っ越したくて、そのために仕事を変えるか悩んでいると相談を受けたことがあります。ビアンコミュニティーは比較的出会いに限りがあるからこそ、場所に制約されることなく働ける仕事が必要とされているのかなと感じますね。

雨谷:私自身、たまたまワーケーションで訪れた福岡で、今の彼女と出会いました。当時は東京で仕事をしていましたが、彼女のいる福岡に引っ越すことを最優先に考え、仕事のスタイルを変えることを決めました。現在は福岡に住み、フルリモートの仕事をしています。

雨谷:付き合った当初は周りから「遠距離だけど大丈夫なの?」と心配されましたが、ビアンコミュニティーには遠距離前提で出会いを求めることは珍しくありません。例えば、福岡ではビアンバーが2、3軒しかなく、週末に九州から多くのビアンさんが訪れます。

このように出会いの場所が限られているが故に、遠距離となる可能性も考えられるのです。好きと思える相手に出会えること自体がまれだからこそ、どちらかがライフスタイルや環境を変えるなどの意識的な努力が必要になると感じますね。

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多種多様な人たちが集まる新宿二丁目
Photo:Rina Amagaya

多種多様な人たちが集まる新宿二丁目

山﨑:今回、PIAMYでビアンマップを制作する中で、新宿二丁目という街についても考える機会が増えましたね。特におすすめしたい部分はありますか?

雨谷:ビアンバーの中にもクラブっぽい雰囲気やカウンター形式のゆっくり飲めるバーなど、さまざまなタイプのバーがあります。ただ、実際に入店しないと雰囲気が分からないこともあり、ビアンバーに入りづらいという人にとっては想像しにくいと思います。

なので、ビアンマップの中には各ビアンバーの特徴をハッシュタグで記載しました。「#初心者歓迎」「#スタッフは全員フェム」「#大人のbar」など、一目見て雰囲気が分かるように可視化しているので、二丁目初心者の方でも参考にしていただけるかと。

Photo:Rina Amagaya

二丁目にあるビアンバー「BAR GOLD FINGER」。週末は外まで長蛇の列ができるほどの人気店

山﨑:コミュニケーションよりもノリで楽しみたい人なら「#カラオケあり」のバーを中心に探すのがおすすめです。「#カウンターのみ」「#おひとり様歓迎」と書かれたバーは、比較的しっぽり飲めるところが多く、中にはレズビアンだけでなくセクシュアリティーに悩んでいる方などが相談しに店を訪れることもあります。

雨谷:あと、個人的にはシーシャが楽しめる「ラウンドワン ラウンジ(RoundOne LOUNGE)」というお店も気になります。

これまで二丁目は、一般社会から離れた「非日常空間を提供する夜の街」というイメージがありました。しかし、シーシャという一つのエンタメが増えることで、バーに慣れていないビアンの子たちも入りやすくなると思います。

どん浴

足湯カフェ&バー どん浴(Photo: Keisuke Tanigawa)

ほかには「百合カフェアンカー(anchor)」や「足湯カフェ&バー(cafe&bar)どん浴」のように、明るい時間帯から利用できるお店もあります。

山﨑:ビアンバーと聞くと、女性が女性を求める場所として思われがちですが、必ずしもそうでなくてもいいんです。セクシュアリティーを主語にするのではなく、何か一つを間に挟むことでハードルを下げるのはいいなと思いました。

ビアンマップ

:さっき話した、二丁目の安心感にもつながりますね。クローズドなバーがあってもいいし、新たなミックスバーがあってもいい。いろんな選択肢の中で当事者が自分に合うビアンバーを選べることが大切だと思います。

最近では、系列系のお店が新店舗をオープンするなど、経済的力学のあるビアンバーも増えている印象があります。なので、今後も二丁目にあるビアンバーが残っていけるような経済圏になることを願っています。

PIAMYについて

「PIAMY」は、レズビアン、セクシュアルマイノリティーの出会いがあふれる日常を提供するSNS形式のアプリ。文字や写真を投稿して、共通点でゆるやかに仲を深めることができるため、「その人らしさを知って共感でつながる」ことができる。

オンライン空間でマイノリティーの安全性を重視することで、ユーザーはサイバーハラスメントやアウティングのリスクを気にせず、のびのびと自己表現ができる仕様になっている。

▼アプリダウンロードは以下
iOS: https://apps.apple.com/jp/app/id6470894594
Android: https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.piamy.app

※18歳未満のユーザーは利用不可

Contributor

Honoka Yamasaki

レズビアン当事者の視点からライターとしてジェンダーやLGBTQ+に関する発信をする傍ら、新宿二丁目を中心に行われるクィアイベントでダンサーとして活動。

自身の連載には、タイムアウト東京「SEX:私の場合」、manmam「二丁目の性態図鑑」、IRIS「トランスジェンダーとして生きてきた軌跡」があり、新宿二丁目やクィアコミュニティーにいる人たちを取材している。

また、レズビアンをはじめとしたセクマイ女性に向けた共感型SNS「PIAMY」の広報に携わり、レズビアンコミュニティーに向けた活動を行っている。

https://www.instagram.com/honoka_yamasaki/

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