インタビュー:マキエマキ

中年女性ならではの表現、価値、役割を切り開く、自撮り熟女

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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テキスト:八木志芳
撮影:中村悠希

年齢を重ねるごとに、肩身の狭い思いをしている女性は少なくない。元号が変わり、新しい時代に向かおうとしている現代日本でも、「女性は若い方がいい」という風潮が少なからず残っているように感じる。それは、恋愛や仕事、あらゆる場面においてだ。

2019年2月末、ある写真家が作品集を出版した。タイトルは『マキエマキ 作品集』。「人妻自撮り熟女」を自称し、昭和B級エロをテーマにした作品を発表する写真家、マキエマキ(53歳)のファースト写真集だ。書籍を開くと、昭和の香りが残るスポットや日本のランドマークを背景に、セーラー服や裸エプロン、ホタテの貝殻ビキニを着たマキエの姿が現れる。

年相応な、少し崩れた体型をさらけ出した写真は、強烈なエロスを放ちながらもどこか笑えて、見るものを楽しませよう、というエンターテインメント性がある。

中年という年頃において、積極的な発信や挑戦をしている女性を見つけるのは、男性に比べて難しい。マキエはなぜ、50歳を超えてもありのままの自分を発信し続けられるのか。昭和の香りが残る大宮の商店街のそばにあるカフェで、インタビューを行った。

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今ある価値や役割に縛られていると先に進めない

ー まず、自撮りを始めたきっかけを教えてください。

きっかけは、行きつけの飲み屋で開催された『セーラー服ナイト』でした。みんなでセーラー服を着て飲むっていうイベントなんですが(笑)。そのイベントに参加するため、ネットでセーラー服を買って、自撮りしてSNSに載せたら反響がすごくて。そこから図に乗って続けている感じです。

ーその一歩が、普通の人には、とても勇気がいることだと思うのですが……

それが、意外と抵抗がなくて。オバハンがセーラー服着て自撮りしてるって、絵面的に面白いじゃないですか!

ー でも、セーラー服で始まった自撮りが、ホタテの貝殻ビキニまで行き着くのは、とても飛躍しているように感じます。

よく言われるんですけど、単純に人が見て面白いものを追求していった結果です。セーラー服を着て、次にベビードールを着ても面白くないし、「じゃあ、ホタテビキニかな!」という流れです。

ーマキエさんは元々カメラマンとして活動されていたんですよね。男性が多い業界の中、一人のカメラマンではなく、女性として扱われることが嫌で、仕事の時は服装も地味にして、女性である部分を見せないようにしていたとか。自撮りで体のラインを見せ、色気を出し、女を前面に押し出すことに、矛盾はなかったんでしょうか?

全くないですね。今だからできる表現で、若かったらできないんですよ。閉経して子供が産めない体になり、それはある意味、生き物として女ではなくなったということ。女じゃなくなったから、女としての美しさを求めた写真ではなく、面白さを追求した作品になったと思います。

ーそんな今のマキエさんのありのままに捉えた写真を見て、「女性としての解放」を感じました。女性でも容姿や年齢などを気にせず、自分の思ったことをそのまま発信して良いのだ、と。

写真展を開催すると、男性のお客さんが多いんですが、女性客もかなり来場します。中にはモデルの子もいて、彼女たちは容姿や年齢で選別される世界にいるので、歳を取ることにすごく恐怖感を持っている。そのモデルたちが私の写真を見て、「年齢を重ねても、こんな表現ができるんですね。勇気をもらいました」と言って帰っていきます。

年齢なりの役割、女性なりの役割というのがある程度存在するのは仕方がない部分もあるけれど、現状で与えられている価値や役割に縛られていると先に進めない。「この年齢だからできること」「この容姿だからできること」を日々考えながら過ごしていけば、歳をとることへの恐れは消えるんじゃないかな。

無教養な人は、作品と私をイコールだと思う

ーマキエさんが言っている「自分のエロは、自分で決める。」ならぬ「自分の価値は、自分で決める。」ということですね。一方、自身の価値を発信する手段として、自撮りをネットで発信することがポピュラーになっています。そんな自撮り女子たちについてはどう思いますか?

基本的に「痛い」写真をあげている子が多い。作品として自撮りを撮影している人は、自分の傷を見せつけるように「どうだ、どうだ!」って押し付けている。そういう作品に共感する人がいるかもしれないけど、私は見ていて気持ちの良いものだとは思えないです。

「私、綺麗でしょ。かわいいでしょ。」というアピールで、自撮りする女の子もいるけど、自分を客観視できていなくて、それもある意味、結構痛いんですよ。

(SNS上で)ヌード写真を公開している若い女の子もいますが、あれは一種の自傷行為だと思います。好きな人にしか見せない裸を不特定多数に見せるのは、本来はものすごく嫌なことで、自分を傷つける行為だと思っています。20代のころ、私もヌードを撮ったこともありますが、完全に自傷行為でした。

ー自傷行為だと気づかず、自撮りやヌード写真をアップし続けている女の子もいると思います。

そうですね。そういう子は思う存分に、やればいいと思いますよ。答えなんて自分で探すもんだし、迷って傷つくことでわかることもありますから。

ーマキエさんが自撮りをする上で、大切にしていることは何でしょうか。

面白いこと! 第三者が見て「なんだろう?」と思うものは作りたくなくて、見る人が見たいように作品を受け取ってほしいけど、作品をパッと見たときに「なんだこの人、バカじゃない!」って笑ってもらったり、「いいお腹の肉だ」って素直に思ってもらいたい。

あとはリアリズムを大切にしています。生活の匂いがするようなリアリズムを出したい。だから、自分の体型を隠そうともしていないし、お腹の肉も「そのままでいっか」って。

ーそのリアリズムを表現する手法として、「昭和B級エロ」がテーマなのでしょうか?

1970年代ぐらいまでの全然洗練されていないグラフィックやビジュアルが好きなんですよ。あと、子供のころ、橋の下に落ちていたエロ本を拾って見るのが好きだったというのもあります(笑)。

ー撮影場所は、昭和の雰囲気が残るラブホテルや映画館、商店街などが多いですが、銀座4丁目交差点や、渋谷のスクランブル交差点でホタテビキニを着て撮影している写真もありますよね。場所はどのように選んでいるのですか?

街中ホタテシリーズは、「ここにホタテビキニの人がいたら面白いだろうな」という視点で選んでいます。街なかなので、どれもゲリラで撮影。

中野の商店街で撮影したときだけ、警察が来ましたが、ちょうど撮影し終わって服を着ていたのでセーフでした。私、天に味方されているんです!

ー撮影には旦那さんも協力されているんですよね。

はい。自撮りをするようになってから、夫の愛をすごく感じています。ここまで協力してくれる人はほかにいないな、と。自分を素直に表現することで分かる愛もあるんですよ。

「空想ピンク映画ポスター」という作品も発表しているんですが、そのデザインも夫が担当しています。かなりこだわってリアルに仕上げているので、本当にこういう映画があると思って探した人もいるみたいです。

ーピンク映画は一つの立派なエンターテインメントだと思うのですが、ピンク映画文化が後退したように、世間的にはアダルト表現がどんどん規制される風潮にあります。特にインターネット上では規制が厳しくなっていますが、この流れをどう見ていますか。

私、インスタグラムのアカウントを過去に5回消されているんですけど、ネットは規制が厳しくて、紙で表現できることがネットではできない。これからは、ネットと紙媒体の棲み分けが、はっきりしてくるかなと思っています。

最近、「無教養な人」という言葉をよく使うんですけど、無教養な人が安易にタダで手に入れられるものは、どんどん規制をかければいいと思っています。教養のある人は、エロの表現であっても、きちんと情報を精査し、自分のフィルターを通して受け取れる。でも教養がない人は、私の自撮りを見ても作品として認識せず、作品と私をイコールだと思う。

タダで手に入るものばかりを選んでいたら、無遠慮で無教養な搾取される側の人間になってしまうから、教養を身に付けることが大事です。

ー価値のあるものにお金を払う習慣を広げていかないと、芸術や文化は発展しないですよね。今後も、マキエさんなりの方法、手段で作品発表を続けていかれるのでしょうか。

そうですね。アイデアもどんどん出てきますし、おばあちゃんになったら、おばあちゃんなりの表現をしていきたいです。

Profile

マキエマキ

1966年大阪生まれ。53歳自撮り熟女。

1993年よりフリーランスの商業カメラマンとして雑誌、広告などでの活動を始める。2015年に「愛とエロス」をテーマにしたグループ展に出展したことがきっかけで、自撮り写真の魅力に目覚める。以後、夫の協力を得ながら、セーラー服に始まり、ホタテビキニから女体盛りまで様々なロケ地やシチュエーションを模索しながら、「人妻熟女自撮り写真家」として発表を続けている。

『第5回 東京女子エロ画祭グランプリ』受賞。2019年2月 集英社インターナショナルより作品集『マキエマキ』出版。

Twitter:@makiemaki50

Instagram:

 

今後の予定:
櫛野展正のアウトサイド・ジャパン展』(4月12日〜5月19日)
『空想ピンク映画ポスター展』(6月20日 〜23日、六本木スペースビリオン
『はだか天国(仮)』(8月22日 〜9月9日、カフェ百日紅)

 

インタビュアー:八木志芳

大学卒業後、IT企業・レコード会社を経て、福島県のラジオ局にてアナウンサー・ディレクターとしてのキャリアをスタート。2017年11月にフリーのラジオパーソナリティー・ナレーターとなる。FM FUJI「SUNDAY PUNCH」レポーター、千葉テレビ ナレーションなどを担当。 F.Factory Japan所属。

Twitter:https://twitter.com/ShihoYagi

Instagram: https://www.instagram.com/yagishiho/

撮影:中村悠希

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