インタビュー:半野喜弘

映画音楽を手がけてきた半野の監督デビュー作『雨にゆれる女』

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インタビュー:平塚真里
写真:谷川慶典
 

パリを拠点に、映画音楽からエレクトロミュージックまで幅広く世界で活躍し、アジア映画の名匠たちの映画音楽を手がけてきた音楽家、半野喜弘の初監督作品『雨にゆれる女』が2016年11月19日(土)より公開される。本作は、本名を隠し別名を名乗って暮らす男(青木崇高)と、その男のもとに預けられた謎の女(大野いと)が、本当の姿を明かさないまま、次第に惹かれ合っていく姿と、悲しい運命の皮肉をサスペンスタッチで描いた作品だ。音楽家である半野が映画という表現にどのように向き合い、映画『雨にゆれる女』 は産み出されたのだろうか。

ーまず、現在パリに住まれているということで、移住されたきっかけなどを教えてください。

音楽の影響を受けたヨーロッパで音楽をやろうと思ったことがきっかけです。そして、大きな理由としては、当時自分のやっていることが偽物ではないかというコンプレックスがあって、それを確かめたいという気持ちがありました。実際に現地の人々に向けて音楽をやってみて、それが本物なのか偽物なのか確かめたかったんです。

ー音楽活動はいかがですか、アーティストとして活動しやすい環境でしょうか。

僕は、映画音楽以外には、テクノ、ダンスミュージックをやっていて、その一番面白いシーンがあるのはヨーロッパだと思うんですよ。あと、木曜にチリのサンティアゴ、金曜にブエノスアイレス、土曜にサンパウロと移動して、翌週にはメキシコに行って、など海外で公演をすると、呼んでくれた人はもちろん、僕を知っていて呼んでくれるのですが、来たお客さんの9割くらいは僕を知らないことが多くて、それが面白い。日本だと知ってもらっている前提がある。その前提がないのでだめだったらだめ、良かったら良いという反応がダイレクトに伝わってきて、自分のことを確かめられる環境だとは思います。

ー今回の映画はどのようなきっかけで制作することになりましたか。また、青木崇高さんを主演に選ばれた理由を教えてください。

ここ、5、6年ずっと映画を撮りたいと考えていて、ついに作る機会が巡ってきたという感じでしょうか。青木崇高とは、パリで偶然出会って、その10数年後に東京で再会しました。そのときに、俳優になった青木と2人で何かやろうと話していたこともあって。なので、主演は青木にお願いしたいと最初に思い浮かびました。

ー印象に残っている撮影でのエピソードはありますか。

すべてがそうなんですが、特に印象的なことが2つありました。 1つは、撮影前に青木と2人だけでリハーサルをしたときです。そのときに、演技ではなく人として、その場にいたときに主役に見えるようにしてほしいと頼みました。芝居うんぬんという事ではなく、存在そのもの、何もしなくても主演である健次であって欲しかったのです。2人で、飯田健次はどんな男で、どういう風にそこに立っているのだろうと考え、シーンを延々と繰り返しながら健次を作り込んでいきました。

そして2つ目が、撮影中盤くらいに、テーブルを左に回るというシーンを撮っていたときです。青木が「監督すいません、左に回れないんです」って言ったんです。理由を聞くと、「健次は左の方に回らない気がします」って。もうそのときには、僕は青木を健次だと感じていて、スタッフに話してカメラの位置などをすべて変えました。僕が思っている以上に彼が、健次という人になっていたので、本人ができないことを僕たちの都合に合わすことはできなかったんですね。そのぐらい健次になっていました。

(C)「雨にゆれる女」members

ー様々な映画音楽を手がけていらっしゃいますが、今回の作品で重用視したのはどのような点でしょうか。

いつも思っているのは、音楽はあくまで映画の一部ということです。結局、映画を良くするための作業であって、音楽を良くするための作業ではないので、音楽そのものの出来不出来に固執するというのは本質からずれていると思います。これでこの映画は良くなるだろう、これでこのシーンは良くなるだろう、ということに重点を置いています。

あと、今回は特別に音楽を作るということはしませんでした。実はメインの音楽などもこの作品用に作ってないんですよ。最初はもちろん作ろうと考えていたのですが、脚本書いて、撮影して、編集する時には、自分のイマジネーションをそこでわりと出し切ってしまった感じがして。そのときに考えたのが、過去に作った楽曲を使うことでした。過去に作った楽曲は、人に権利があっても交渉すれば自由に使えるものがたくさんあったので、そのなかから、映画に当てはまるものをピックアップするという作業をしました。足りない部分はもちろん作りましたが、大きなものはそういう風に選びました。

ー坂本龍一さんが「60年代の独立系映画の匂いがする映画」とコメントしていますが、影響を受けた監督、映画作品などはありますか。

影響を受けた監督や作品はたくさんあります。直接この作品に影響しているわけではないのですが、尊敬しているのは、溝口健二、川島雄三監督です。川島雄三監督の『女は二度生まれる』という作品は、映画ってこんなに表現できるものなんだ、すごいものなんだっていうのを自分に言い聞かせるために何度も観ていました。ストーリーで魅せるということはできると思うんですけれども、画の美しさで映画をこんなに面白くできるというところがとても尊敬できるというか、凄いと思う部分です。あ、1960年代の独立系でしたね(笑)大島渚監督の『少年』という作品が好きです。

ー本作を通して、観客に伝えたいメッセージはありますか。

本当のところ、これを伝えたいというメッセージはないんですよね。観てもらって何かを感じてもらえればいいなと思っていて。それは、映画のどの部分でもいいですし、ただ単に「楽しかったね」ということではなく、90%嫌いでもいいから、10%記憶に残るような、そういう作品であってほしいなと。その10%はどこでもいいと思っています。

ー今後も映画を制作していく予定ですか。

そうですね。機会があれば、やっていきたいとは思っています。僕のメインの創作は音楽なので、その主軸を変えるという気持ちはありません。映画は、ちょっと違うベクトルのもので、僕は音楽というものをアーティストとしての創作に使っているし、自分が生きて行くための道具にも使っているわけです。そうなると綺麗ごとではなく、自分のなかでバランスをとるというのが必要になってきます。で、映画はこの歳になって急に始めたことなので、なぜ自分がやるんだろうということを考えたときに、このバランスをとらないということが、映画だけを人生の仕事としている人に対して失礼にならない方法なのではないかと思うんです。仕事としてしない、バランスをとらないからこそやれるものをやる、ということです。

作曲家・映画監督・脚本家 半野喜弘(はんの よしひろ)

1968年、大阪に生まれる。パリと東京を拠点に映画音楽からオーケストラ作品、エレクトロニクスミュージックにいたるまで幅広く世界中で活動する音楽家、アーティスト。2000年よりパリを拠点に活動を行っている。
http://www.yoshihirohanno.com

映画『雨にゆれる女』 
2016年11月19日(土)よりテアトル新宿ほか順次公開
公式サイトはこちら

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