東京、ひとりで訪ねたいバー15選

渋谷、新橋、赤坂、麻布十番、神楽坂、西荻窪。珠玉の名バーを訪れる

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テキスト:たまさぶろ

 

ひとりになりたいときがある。そんなときのためにこそバーがある。腰を落ち着けるカウンターがあり、美味い酒があり、時としてマスターの酸いも甘いも知るトークがある。愉しいとき、愉快なとき、苦しいとき、哀しいとき……。どんな人生のシチュエーションにおいても、至福の一杯がその気分を分かち合い、いずれ人生の記憶として結晶化することだろう。そして、またいつか、その残された結晶をあらためながら、ゆったりとグラスを傾ける日が来るに違いない。

今宵は、ひとりで足を運ぶのがもっとも似合う……そんな珠玉の一軒の扉を開いてみた。

Bar kokage
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Bar kokage

作家、開高健が通ったことで知られる老舗。元サントリーの社員でもあった開高は、グルメ、バー業界に大きな影響を及ぼしたことでも知られる。1977年の開業時は、「木家下(こかげ)バー」の名称で一ツ木通りを挟んで向かいのビルに位置しており、5階に辿り着くとアメリカ禁酒法時代のスピークイージーにあった「Judas(覗き窓)」から創業オーナーの故木家下正敏がぎょろりと客をあらためていた。
ビルの建て替えとともに現在地に移転したが、カウンター、店の扉、椅子にいたるまで、すべて移築されており、開高が常連だったころの空気感のすべてが残されている。L字型カウンターの奥から2番目は「開高シート」と呼ばれ、「Noblesse Oblige~位高ければ、努め多し~」と氏のひと言が刻まれたプレートが残る。オーナーと氏が開発した通称「開高マティーニ」は、マイナス25℃でジンをキープする冷凍ストッカーあってこそ。35年前はまだ珍しかったが、オーナーはこのマティーニのため購入したと言う。
12年にオーナー夫人が引退後、「すべてを引き継ぐ」という条件で、現オーナーがbar kokageとして継承。カスミソウが飾られたカウンターでマティーニを傾け、書物を紐解いては「くくく」と笑いを漏らし、文豪を気取ってみるも良し。しかし、もちろん、そればかりがこのバーの魅力ではないことを、あらかじめ断っておく。

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赤坂
サンルーカルバー
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サンルーカルバー

古い街並みが今も残る神楽坂の昼下がり「この時間ならあの名バーテンダーを独り占めできるかも」とほくそ笑みつつ扉を開くと、14時を過ぎたばかりというのにほぼ満席。そんな名店だ。銀座の名バー「テンダー」から独立、2010年6月にオープン。『東京、巨匠に会えるバー15選』での取材を依頼しようかと逡巡したが、これ以上知名度が上がるのも返って困り物ゆえ、ひとりで足を運んでほしい一軒とした。
店名は、伊達正宗に仕え、慶長遣欧使節団を率いて欧州まで渡航した支倉常長が上陸したスペインの港町「サンルーカル・デ・バラメーダ」から命名。帆船の甲板にも使用されるチーク材を使ったカウンターは、世界最古のひとつとされるその港名にちなんだ造り、その席数わずか7席。競争率は高いが、愉楽が待ち受けるシートを目指し、ひとり扉を叩いてもらいたい。巨匠、上田和男の一杯ももちろんだが、新橋清の「ギムレット」を呑まずしてまた、ギムレットを語るなかれ。

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神楽坂
カディス バー
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カディス バー

マスターの横田勝は、名店「テンダー」の出身。本稿でも取り上げている「サンルーカル」新橋マスターの弟弟子ということになる。兄弟子を追うようにテンダーから独立、2011年9月に浜松町の地階に隠れ家を構えた。店名の「カディス」は、スペインのアンダルシア地方にある県とその県都の名称。カディス県はシェリーの産地三角地帯を内包し、「サンルーカル」港もその中に位置する。横田のシェリーに対する想いが込められている。
東京モノレールの終点からも近いため、出張や旅行帰りに羽を休める酔客も多く、またオフィスの多い場所柄から、ひとりで来店する女性客も目立つ。こちらもカウンターは、わずか6席。背後のテーブルは「行儀の良い客だけ」が最大3人まで利用可能。止まり木の多くない浜松町で、ぜひ記憶しておきたい一軒だ。

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浜松町
ランド バー アルチザン
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ランド バー アルチザン

マスターの業師としての矜持を味わうため、新橋の雑居ビルの地階に、ひとりにうってつけの一軒がある。いや、むしろ2人以上で足を運ぶと、少々後ろめたく感じる。なにせカウンター6席のみ。間口も小さく、奥の席に着くには、ほかの客に声をかける必要があるほどだ。のんびりとひとりグラスを傾けるのがもっともふさわしい。
名店「スタア・バー」からスピンアウトし2010年に銀座で「ランド・バー」としてオープン。その後、フランス語で「職人」を意味する「アルチザン」を冠とし、2014年12月にこの地に転生した。新橋の夜をひとりで過ごしたい折には、ぜひ。

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新橋
Bar El Laguito
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Bar El Laguito

四谷荒木町は古来、特にメディア関係者からは良質なバーの集まるメッカとして知られている。廉価なさびれた一軒もあれば、何代も続く老舗もある、2013年にオープンしたこちらは、オーセンティシズムという新風を荒木町に持ち込んだ。
「El Laguito」は、キューバの著名シガーブランド『コヒーバ(Cohiba)』が生まれる工場の名。50種類ほど用意されたシガーからおすすめの一本をもらい、マスターの腕から繰り出されるオーセンティックカクテルを傾けながら、紫煙をくゆらせる。中米の小湖水(ラギート)湖畔を訪れたような、のんびりとした時間を独り占めしよう。

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四谷三丁目
ベンフィディック
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ベンフィディック

ある夏の夕刻、ウォールナットのカウンターの隅に腰掛け、この時間ならゆっくりマスターと酒の話ができるだろうと、最初の杯を空けると、次から次へと外国人客が押し掛け、あっという間に日本人客は自分だけに。サンフランシスコ、ポートランド、ニューヨークからやって来た客たちは、思い思いのリクエストをマスターに投げかける。すると、スタンダードにちょっとした魔法がかけられた珠玉のカクテルが次々とカウンター上に登場し、客はありったけの感堪の溜息を洩らし、満足気にバーを後にして行った。客がひと周りしたところで、私はマスターを独り占めし、ありったけのリクエストを投げ、その一杯一杯をゆっくりと堪能させてもらう。そして、その一杯はそれぞれ次週、パリでゲストバーテンダーとして披露する予定のカクテルたちで、私はすっかり至福の気分に包まれた。
中世スコットランドのウイスキー密造家屋を模したインテリアも、足を運んだものを捉えて離さず、また次の日もひとりで足を運んでしまい、「長居」という罠にはめられるだろう。

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新宿
酒仙堂
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酒仙堂

「ひとりのバーテンダーが十分に気配りできる客の数は8人」という説を唱えている。そんな説を支持してくれるのは、こちらのオーナーバーテンダー樋渡洋。銀座の名店「オーパ!」のオープニングスタッフとして腕を磨き、2001年に独立開業。2016年で15周年となる。
トライアスロンなどのトレーニングに励むハードコアな日常と異なり、カウンターではその優しい人柄に触れ、ついつい呑み過ぎてしまう。種類がそう多いわけではないが、手の込んだバーフードにも手を伸ばしてしまうこと請け合い。北海道産樺桜の乳白色の美しいカウンターでひとり、ほっと一息。そんな姿が著しく似合う一軒だ。

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銀座
バー ルヰ
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バー ルヰ

いつもひとりで呑みに来ると、少しだけ変わった酒が出てくる。そんな点もひとり客には人気だ。店名は、半村良の小説に登場するバーの名にあやかった。
お江戸日本橋を抜ける中央通りから少し路地を入った隠れ家らしい地階というロケーションは、パっと目にした瞬間「む、ここはバーだ」と思わせるデザインに仕上がっている。狭い階段を地階に降りる。一見が開くには少しだけ勇気のいる扉を開けると、7坪にカウンター7席の店。カウンター素材は、樹齢300年を誇る花梨。明るく美しい木目をいかした自然な仕上がりは、肌触りもひどく滑らかで、席に着いたとたん思わず掌を滑らせ感触を確かめてしまうほど。幅450cm、奥行き70cm、厚さ7cmというサイズも、マスターのこれまでの経験から、理想を追い求めた結果だ。「20年、30年後、このカウンターに、様々なお客様の気持ちや足跡が染み込み、艶が出てくる……そんなバーにしたいと願っています」。
夜が更け、ついついマスターと話し込んでいる自分を見つけることだろう。

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日本橋
オブデュモンド
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オブデュモンド

ひとりでバーに足を運ぶ者は、そこに何を求めているのだろう。美味い酒は、もちろん。さらに、腕の立つバーテンダー、気の利いたチャーム、洒落たトーク、非日常感を演出するBGMや飾られた美しい華、学のある常連客……そして、人生に対する救い。アメリカで人生の救いを求める者は、最後に教会もしくはバーに足を運ぶのだと言う一説もある。
神楽坂の片隅にあるバー、「Au bout du monde」。店名の意味は、そう「世界の果て」だ。カウンターの上に展開される様々なもてなしに、「ああ、世の中にはまだこんなものが残されていたのか」と気づかされる。薀蓄を語るも良いが、常にそんな「気づき」を与えてくれるのが、この一軒だ。今日の一杯は、禁酒法時代直前に生まれたカクテル「Last Word」。この「起死回生の一杯」を呑み干し、汚れた世俗に戻る勇気をもらうことにしよう。

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飯田橋
バー レガシー
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バー レガシー

再開発著しい渋谷の南口、高架上を東急東横線が走っていたことなど、世の中が忘れ去ってしまうのも、そう遠い将来ではないだろう。そんな界隈に、渋谷の歴史的遺産を将来に語って行くであろう新店がオープンしたのは、2015年のこと。
マスターは同じく渋谷にある名店「石の華」から独立。そこは明治通りを渡ったすぐそばなので、常連の誰もが「ずいぶん近くに……」と思ったものだが、逆にとらえると常連が2軒ハシゴするにはあまりにも便利。実際、カウンターに座っていると、そんな客が多いことが如実に判る。シリアスな石の華か、ちょっとコミカルなレガシーか。悩んだ挙句、今宵もひとり、渋谷で2軒ハシゴが決まった気がする。

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渋谷
バー カプリス
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バー カプリス

巨匠大泉洋の名店「コレオス」が閉店したのは、2014年3月末日。もう2年がたってしまった。だが、それを継承する一軒が、道玄坂の地階に花開いている。マスターの福島寿継は、「いずれ独立するんだよね」と常連に声をかけられるほど長きにわたり巨匠に師事してきた。巨匠の引退後、ひとりで切り盛りできるサイズの店を開いた。地階に降りると奥に細長いレイアウト、右にカウンターとバックバー。コレオスよりも小ぢんまりとしているが、その分、のんびりとグラスと向き合うことができる。
巨匠のジョークが聞けないのは寂しい限りだが、スタンダードをオーダーすると「お、こう来ましたか」という若い世代ならではの閃きが宿っている。まだ足を運んでいないコレオスの常連がいるなら、今すぐ自身の携帯の電話帳に登録されているコレオスの番号に連絡してみよう。電話番号まで継承した福島の元気な声が、あなたを迎えてくれるはずだ。

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渋谷
bar cacoi
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bar cacoi

和風のバーの名称も珍しくない昨今、しかしさすがに「囲い」とはいかに。すると、マスターは「茶室をイメージしたような、できるだけ和風のテイストを出したかった」と明快に応えてくれた。2005年渋谷にオープン、2012年に現在の銀座のはずれに居を移した。確かに見渡すと店内には小さな囲炉裏が設けられ、実は茶室を模しているのだと今更知ることになる。
今となっては物珍しくもなくなった「インフュージョン」カクテルながら、こちらで使用するフレーバーは和風に重点を置いている。この日、お目にかかったのもジンに緑茶を仕込んだ逸品。緑茶は、渋み、苦味ばかりになってしまうので、タイミングが難しいのだとか。そんな難易度を感じさせない一涼の風とも言える一杯をもらった。
「囲い」のロゴを記した扉が路面にあるため、一階と思いがちだが、扉を開けた瞬間、薄暗い地階への階段となっている。一見は、店に足を踏み入れ、転げ落ちないよう用心したい。これから至福のもてなしが待っているのだから。

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東銀座
バー・ラ・ユロット
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バー・ラ・ユロット

「ふくろう」という名を持つこの店の扉を開くと、石造りによる荒々しさと木枠による温もりが調和した静謐さ、そして淡い光がともに迎えてくれる。人気雑誌にそのインテリアが取り上げられるなど雰囲気たっぷりの麻布十番の一軒ながら、デートにはあまり勧めない。マスターの一杯や貴重なシガーを求め、タクシーで乗りつけたり、駅からの道程をひたすら歩き、至福の一杯を渇望するおひとり様こそがふさわしい。
南青山の名店「ラジオ」で修行を積んだマスターの一杯は、それほどまでに魅力的。連れを口説くような余裕は持てないだろうから。それでも店最深部に位置する半個室のような二人席を一度は使ってみたい……と夢想してはいるのだけれども。
「今日もいい一日だった」。きっとそう思える一軒だ。

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元麻布
BAR 樽の水
14/15

BAR 樽の水

五反田にオーセンティックなバーは少ない。残念ながら、至福の一杯に辿り着くためには、東口のちょっと淫靡な喧噪地帯を潜り抜け、地階のこの止まり木に滑り込まなければならない。2006年スタートの一軒は、グループでも利用可能なほど深い懐を持ち合わせ、食も充実。しかし、そこは、やはりマスターとカクテル談義にでも華を咲かせるため、ひとりカウンターに陣取りたい。
そして、本格的なバーにしては珍しく、BGMは1980年代の洋楽。「あ、こんな曲もあった……あんなミュージシャンもいた……」と回顧させられるばかり。そんな時代を過ごした世代は、特に贔屓にしたくなる隠れ家だ。

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五反田
G7
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G7

JR中央線沿いには、多くの名バーが点在しているものの、ここでは庶民的な西荻窪の商店街を抜けた付近にある隠れ家をピックアップしよう。
2008年オープン。瀟洒な洋館調のひと棟は、1階に飲食店が配されているため、「果たしてバーへの入口はいずこ」とうろうろしてしまいがち。初めて訪れる際は、そんな通過儀礼も愉しみたい。地階へ降りると左右に長いカウンターに9席、混雑するとカウンターの向こう側に配された5席も活用される。6席のテーブル席も設けられているが、やはりあえてカウンターを選びたい。
近隣や沿線の常連で和むが、一見客ならマスターに音楽の好みを尋ねられることを覚悟しておこう。店名はもちろんコード名。「セブンスならどのコードにも移れる自由さがあるので」とG7をチョイス。音楽をつまみにグラスを傾ける……ひとりでバーが、また愉しくなってしまうこと間違いなし。

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西荻窪
たまさぶろ

たまさぶろ

1965年、東京都渋谷区出身。千葉県立四街道高等学校、立教大学文学部英米文学科卒。『週刊宝石』、『FMステーション』などにて編集者を務めた後に渡米。ニューヨーク大学およびニューヨーク市立大学にてジャーナリズム、創作を学ぶ。このころからフリーランスとして活動。Berlitz Translation Services Inc.、CNN Inc.本社勤務などを経て、帰国。『月刊プレイボーイ』、『男の隠れ家』などへの寄稿を含め、これまでに訪れたことのあるバーは日本だけで1000軒超。2010年、バーの悪口を書くために名乗ったハンドルネームにて初の単著『【東京】ゆとりを愉しむ至福のBAR』(東京書籍)を上梓、BAR評論家に。女性バーテンダー讃歌『麗しきバーテンダーたち』、米同時多発テロ前のニューヨークを題材としたエッセイ『My Lost New York ~ BAR評論家がつづる九・一一前夜と現在(いま)』(OfficeMATZ)ともに好評発売中。「あんたは酒を呑まなかったら蔵が建つ」と親に言わしめるほどの「スカポンタン」。

巨匠に教えを請いたくなったら…

東京、巨匠に会えるバー15選

「どこのバーへ行くべきか」。そう訊ねられる機会は多い。いつも無難な答えを返してしまいがちな点、反省すべきと思っている。本当はこう伝えるべきだ。「まずは巨匠のバーへ行くべし」と。

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