中村勘九郎
中村勘九郎(Photo : Keisuke Tanigawa)

中村勘九郎が紫テント初出演、亡き唐十郎の世界への思い語る

父・勘三郎のエピソードやテント公演ならではの魅力

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Ayako Takahashi
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テキスト:高橋彩子 

2024年5月に惜しまれつつ他界した劇作家・唐十郎。新宿「花園神社」境内ほか各地に建てられ、唐作品を上演する「状況劇場」の紅テントは唐自身の代名詞ともなり、歌舞伎俳優の十八代目中村勘三郎はこの紅テントに憧れて移動式の歌舞伎小屋「平成中村座」を作った。そしてもう一つ、唐作品などを味わえるテント空間として知られるのが、「状況劇場」にも在籍していた演出家・金守珍率いる「新宿梁山泊」の紫テントだ。

6月、花園神社で公演を行う紫テントの「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」公演に、勘三郎の長男・中村勘九郎が初出演を果たす。豊川悦司、寺島しのぶ、六平直政、風間杜夫といった豪華出演者との共演となる。勘九郎が今、稽古をしながら抱く思いとは?

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テントという不思議な空間で

―まさか、勘九郎さんがテント公演に出演する日が来るとは、と驚いています。

僕も夢のようです。父が19歳の時に紅テント公演を見て衝撃を受け、それがきっかけで「平成中村座」という僕らの宝物ができた。その原点とも言うべきテントに、しかも父の十三回忌の年に出演できるわけですから、感慨深いですね。一番の追善になるんじゃないでしょうか。

―どういう経緯から、このタイミングでの実現となったのでしょう?

本当に偶然なんです。2年前、六平(直政)さんが「新宿梁山泊」に久々に出るということで「下谷万年町物語」(唐十郎作)を観に行き、終わってからみんなでテントで飲みながら「いつかやりたい」とお話ししたら、次の日に(寺島)しのぶさんと豊川(悦司)さんが観に来て同じ話になったそうで、「公演、決まったよ」と(笑)。やっぱり運というか、縁ですよね。

その後、先月には唐さんが亡くなられたので、追悼公演にもなってしまいました。本当を言うと、観ていただきたかったんですけれども。

―唐さんとは面識があったのでしょうか?

僕自身はほとんどないのですが、父は親交があり、子どもの頃にテント公演にも何度か連れていってもらったので、もしかしたらその時にお会いしていたかもしれません。テントにぎゅうぎゅう詰めで座って、ワクワクしながら観た記憶があります。やっぱり、子ども心に衝撃でしたよ。本当に不思議な空間で、芝居の世界に引きずり込まれるような感覚があって。楽しかったし、すごいと思ったのを覚えています。

―何もなかった場所にテントを建てて公演する。その感覚は「平成中村座」でもご経験済みですね。

「平成中村座」の公演が終わったあと、よく地元の人たちが、「今、こんな感じです」とLINEで跡地の写真を送ってくれるんですよ。公演中はすごい熱気でわーっと盛り上がっていたのに、終わった翌日か翌々日にはもう小屋が跡形もなくなっていて、普通の神社の境内や公園やお城の広場などになっている。祭りの後みたいなはかなさは似ていますよね。

―今回、テントを建てるのにも参加されますか?  

どうなんでしょう?その期間の稽古は休みで、若手の出演者たちがみんなで建てるそうなので、僕も見に行けたらとは思っています。

真珠のような唐十郎の戯曲

―独特の詩情を持つ唐十郎の戯曲。その言葉を実際に声に出してみて、いかがですか?

やっぱり美しいですね。美しさ、機関銃のような鋭さ、はかなさ……全てが詰まっていて、文字がキラキラ光って見える。その真珠のような言葉を、僕たちは大事にかき集めて、自分の肉体を通して発声しています。

計算し尽くされた世界だからなのか、「てにをは」が一つ狂うだけで、もう分からなくなるんですよ。ほかの戯曲だとそんなに気にならないこともあるのに。唐さんは(初稿の原稿用紙に)書き直しの跡が全くないんですよね。本当にすごい方だと改めて感じます。

―「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」のト書きには「ポルノ映画館を八軒ほどハシゴしたらしい顔!」「おちょこはどうしているかというと、それは私には分らない。」などと書かれています。演じるみなさんはどう受け止めるのかなと思いながら読みました。

もう最高に面白いですよね。お客様には、ホン(脚本)を読まない限り分からないところだけれど、唐さん自身が楽しみながら書いていたんだろうな、というのが伝わってきます。「どうしているかわからない」と書かれたシーンでは、おちょこ役の僕は檜垣役の豊川さんたちと“何か”しています(笑)。

―勘九郎さんが演じるおちょこは、傘職人の青年。まっすぐな雰囲気が勘九郎さんご自身と重なります。

みなさん、そう言ってくださるんですけど、そうですか? 

この作品で、おちょこは、恋するカナ(寺島しのぶ)を傘でメリー・ポピンズのように飛ばせたいと本気で考えています。

傘を壊すことでカナと会おうとするような歪んだ部分もありますが、純粋さの塊のような人間で、演じるにあたっては遊び甲斐もある役ですね。

―そのおちょこ含め、登場人物は皆、どこか社会から疎外されたような人達です。

社会不適合者しか出てこないですから。おちょこはひょんなことから、路地に倒れている檜垣(豊川悦司)を助けたことによって、運命が変わっていく。「本当は僕、無口なんです」と言う台詞があるのですが、檜垣やカナと出会うまでしゃべる相手がいなくてずっと一人でしゃべっていた。孤独な男なんだと思います。

でもまあ、役者も一人で黙々と台詞を覚えて、舞台の上に立つと誰も助けてくれなくて、孤独な生き物なんですけどね。

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秘密基地のような場所で、変な大人たちと

―今回、歌舞伎俳優として参加されるのは勘九郎さんだけ。歌舞伎を取り入れた演技の提案などもされていますか?

それはないです。でも、もともと状況劇場にでも新宿梁山泊でも、演技の緩急の付け方や、台詞のどこを早くしてどこをゆっくりするかといった強調の仕方、あるいはバーンという音の入り方などに、歌舞伎の芝居小屋のテイストが入っていますから、そういうところは意識しながらやっています。

最初に稽古で音が入った時には「うわぁ、テントに出ているんだな!」とワクワクしましたね。

―劇中にはさまざまな引用がありますが、映画「終着駅」が取り入れられているところなどは、歌舞伎の見立てに通じるところがありそうですよね。

あの場面も楽しいです。やっぱり「終着駅」は見ておかないと、と思ったのですが、5月の間は日中に歌舞伎町大歌舞伎に出て、夜にこちらの稽古に参加していたので、帰宅後は疲れて何度も寝落ちしてしまい、3回目でようやく最後までいきました(笑)。

ー個性豊かで豪華な共演者も話題です。

みなさん、何かしらの縁があるんですよ。しのぶさんは子供の頃からよく存じてあげている仲。まさかテントで共演するとは思いませんでした。六平さんは父の友達だし、風間先輩は僕たちともですが(波乃)久里子の叔母と新派で共演されているし、豊川さんは妻の(前田)愛が子供の頃に出たドラマ「トイレの花子さん」で妻のお父さん役ですから。

でもほとんどの方が、共演は初めてです。とにかく全員、変な大人で素晴らしい! 芝居に対する思いも取り組み方も、熱くて変で。若手にも、まともな人が一人もいません。

ー例えばどういうところでしょう?

全てですね。常に何か面白いことをしようと考えているし、絶対にベニヤをかませないですし。

―ベニヤ、ですか……?

演出の金さんが舞台装置の確認の時、「(大道具に)ベニヤをかませるんだよ!」と指示しているのを聞いて「そうなんだな」と思っていたら、みんな「はい!」と答えていたはずなのに、その後2回、3回同じことを言われているんですよ。次に「ベニヤ」というワードが出てきたらどうしようかと思っています(笑)。

―そんな手作り感ある現場に参加されている勘九郎さんが新鮮です。

本当に、みんなで芝居を作っている感じがします。その日の芝居が終わればそのまま飲んで、そこで生まれたアイデアのせいで次の日にやらなければならないことが増えたりするんですけど(笑)。

こんな秘密基地みたいなアトリエで稽古をして、みんなが敬愛し僕も敬愛する唐さんの芝居を、座長の金さんはじめ、みんなで紡いでいくなんて、なかなか経験できないこと。毎日、本当にありがたいと思いながら過ごしています。

唐十郎と勘三郎は、今頃……。

―公演には、御子息の勘太郎さん、長三郎さんも観に来られるのでしょうか?

来ます。歌舞伎町大歌舞伎の楽屋が一緒だったんですよ。僕が台詞を覚えていたら、特に中2のお兄ちゃん(勘太郎)が「おっぱい」のくだりで「バカじゃないの」と大笑いしながら聞いていて。「あ、面白いんだな」とうれしかったです。本番でも独特の空間を楽しんで、目をキラキラしながら見てくれたらいいですね。

―勘三郎さんと唐十郎さんは今頃、向こうの世界で会っているかもしれないですよね。勘九郎さんの姿をどんなふうに見ているでしょう。

父は、喜ぶと同時に嫉妬しているんじゃないかな。出たかったでしょうし、唐さんの作品を手がけてみたいという思いもあったはずですから。

唐さんは父のことを「カンクーちゃん」と呼んでいたので、「あれ、カンクーちゃんが出ている。あ、違うカンクーちゃんか」なんておっしゃっているんじゃないですか。もしかしたら(死んだはずの歌舞伎役者・小平次が幽霊姿で何度も現れるという新歌舞伎の)「生きている小平次」ならぬ「生きている勘九郎」というお芝居を、一緒に作っているかもしれません。

二人にはぜひともパワーを送ってほしいですね。いつもとは違う空間に、ちょっと怖さもありますから(笑)。そして公演を楽しんでくれたら、こんなにうれしいことはありません。

公演情報

Contributor

高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。「エル・ジャポン」「AERA」「ぴあ」「The Japan Times」や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、ウェブマガジン「ONTOMO」で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」、エンタメ特化型情報メディア「SPICE」で「もっと文楽!〜文楽技芸員インタビュー〜を連載中。

 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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雨の日が増えて外出がおっくうになる季節。そんな日は、心踊るミュージカルや観劇を楽しんでみては。ここでは、東京都内で2024年6月に開演する注目のミュージカルと演劇を5つ紹介しよう。

今月は、5月4日にこの世を去ってしまった唐十郎が脚本・作詞を手がけ、演出を金守珍が担う「おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」をはじめ、世界約40カ国で上演されている2人芝居にして英国ホラーゴシックの傑作である「ウーマン・イン・ブラック〜黒い服の女〜」などが上演される。

人気作品は、チケットがすぐに完売することも多い。気になったら早めにチェックしてみてほしい。

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