かみ応えのある大作
―舞台復帰、うれしいです。演出家の故・蜷川幸雄演出の「彩の国シェイクスピア・シリーズ」作品にも多数出演してきた横田さん。オセローでの復帰を、どう捉えていますか?
体調もあるのでお返事までに少し時間をいただいたのですが、シェイクスピアだったら、もしかしたら多少の経験を劇団に持ち帰れるというか、少しは役に立てるんじゃないかという思いがありまして。
それにこの作品では、オセローはもちろん大切ですが、イアーゴー、デズデモーナなど彼を取り巻く役もとても重要です。文学座の信頼できる仲間がこれらの役をやってくれる。極端な話、「イアーゴーさえ良ければいいんじゃないか」という前向きな投げやりさ(笑)で決断しました。
―イアーゴーは浅野雅博さん、デズデモーナはsaraさんですね。
浅野くんは同期で同い年なのでうれしくて。20年ぶりぐらいに電話して「こんなに頼もしいこと、ないよ」と伝えました。僕は大劇場系、彼は中劇場や小劇場の繊細なお芝居をメインに頑張っていて、交錯する機会は決して多くなかったんです。
僕が演じるオセローは、浅野が演じるイアーゴーにだまされる役。台本に書いてあるから、彼がどんな演技であっても一応はだまされるけど「ちゃんとだませよ」と、同期愛を込めて思っています(笑)。でも、そんな心配ないくらい、浅野くんは年を重ね、いい意味で俳優として屈折も屈辱も味わっていると思うので、彼の手のひらの上でコロコロとだまされたいですね。
saraさんとの共演は初めてです。今年、座員に昇格したばかりの24歳ですが、すでにミュージカルの世界で大活躍されている。歌声だけは聴いたことがあるのですが、ものすごい声にちょっと度肝を抜かれた記憶があります。スターの匂いがしますし、大切にして、この辺で恩を一つ売っておこうかな、と(笑)。
―稽古をしながら感じていることを教えてください。
シェイクスピアのタイトルロールとしては、「ジュリアス・シーザー」(蜷川幸雄演出、2014年)を経験しましたが、あれは阿部寛さんのブルータスが主役みたいなもの。先発完投みたいな意味での主役は、今回初めてです。これまで演じたシェイクスピア劇では1・2幕出てたら3・4幕は出ずに5幕にまた出てくるとか、そういうことが多かったので、そのつもりで頭から順番にやっていくと、いつまでたってもせりふをしゃべっているんですよ。
意外だったのは、序盤である1・2幕が、せりふもやることも多くて大変だということ。2幕、イアーゴーの策略でオセローの部下キャシオーがけんか騒ぎを起こした時のオセローのせりふなんて、こうですよ、「ええい、腹が立つ。俺の血が理性の安全弁を突き破り、激情が判断力の鏡を曇らせて遮二無二(しゃにむに)あふれ出しそうだ……」。怒れば怒るほど、詩人になっていく(笑)。この辺からオセローの血の気の多さ、タガが外れてしまう部分が見え始めてもいいのではないかと、鵜山さんからも言われました。
そんなわけで、3幕の途中の100ページ辺りまでですでにハアハアゼーゼー状態。まだ、台本は残り100ページくらいあって、これからイアーゴーにだまされてデステモーナを殺して自分が死ぬという大イベントが残っているにもかかわらず。たぶん、僕がこれまでに見たオセローを演じていたのが名優の皆さんだったので、たくさんしゃべっているように感じなかったんでしょう。改めて、相当にかみ応えのある大作だと実感しています。