田名網敬一
Photo: Keisuke Tanigawa田名網敬一

田名網敬一が語る、赤塚不二夫との夜の新宿

個展「TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!」で、スペシャルコラボレーション

Mari Hiratsuka
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Mari Hiratsuka
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想天外な色使いで描かれた、ポップでシュール、時にグロテスクな「夢」「記憶」「幻想」。圧倒的なエネルギーを持つ、日本のポップアート先駆者の田名網敬一は、強烈な戦争体験を軸に、グラフィックデザイン、イラストレーション、アニメーション、実験映画、立体作品、絵画など幅広いジャンルで創作活動を行なっている。

渋谷「パルコミュージアムトーキョー」で、田名網の個展「TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!」が開催中だ。本展は、田名網が生前に親交があった赤塚不二夫への想いをはせて生まれたスペシャルコラボレーション。インタビューでは、展示の経緯や赤塚不二夫と一緒に酒を飲んだ1970〜80年代の夜の新宿での思い出などを聞いた。

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「TANAAMI!! AKATSUKA!! / That‘s all Right!! 」展示の様子(Photo: Keisuke Tanigawa)

──今回の展示はどういう経緯だったのでしょう?

「グラビア印刷」という印刷の方法があるでしょう。一昨年に凸版印刷が、グラビア印刷の巨大な機械を全部撤去して破棄することになったわけよ。というのは、グラビアはオフセットに比べてすごいコストがかかるのね。

印刷業界でグラビアを存続していくというのがちょっと難しくなってきて、凸版印刷もほかの印刷の方式に変えるという時期が来たわけ。それで集英社の方が機械を撤去するまでの約2カ月で記念的なものを作りたいって発案し、僕が相談されて始まったんだ。

──グラビア印刷の最後の作品になったということですね。

そう。入り口に機械がページをめくっている大きな本があるでしょ。あの本がグラビア印刷の最後の印刷物。一応記念碑的なものだね。

「TANAAMI!! AKATSUKA!! / That‘s all Right!! 」

──今回、2カ月で20点製作されたと聞きました。一つの作品を仕上げるのにどのくらいかかるのでしょうか?

早いよ。すぐできるよ。僕の作品は全部バラバラに描いてあって。一つの絵は大体50とか、多いと100ぐらいのアイテムで構成されている。コラージュされてるわけよ。 アイテムごとに手描きで描いておいて、50枚なら50枚の細かいアイテムを組み合わせる。それで1枚のものにして、最終的にはコンピュータで仕上げるんだ。

──かなり体力がないとできない作品だなと感じるのですが、普段はどんな1日を過ごしてらっしゃいますか?

僕は結構規則正しいのよ。アーティストでそういう人は少ないと思うんだけどさ。朝起きたら散歩して、アトリエに行って描くでしょ。夕方になったら家に帰るんだけど、ずっと絵を描くだけじゃなくて、いろいろ原稿書いたりさ。結構時間がきっちりしていないと駄目なのよ。

若い時はそうでもなかったけど、ある年齢に達してからは規則正しくやる方がいいわけよ。若いころ徹夜はしょっちゅうしていたけど、効率が悪いんだよね。翌日が使いものにならないから。

鏡にはその人の虚像みたいなものが映っている
Photo: Keisuke Tanigawa

鏡にはその人の虚像みたいなものが映っている

──展示作品のタイトルに「鏡」という単語が頻出しますが、これは何か意図したものというか、共通項があるのでしょうか?

自分自身の姿形は見れないから、結局鏡に映す以外に方法がない。でも鏡に映したものって反転してるし、実像ではなくて。僕は自分の姿として、実際に見たことないから分からないけど、多分鏡に写っているものというのは本当の姿じゃないと思うのよ。

例えば、テープに撮って自分の声を聞いてみると全然違うじゃない。それと同じような現象が鏡でも多分起こってると思うんだよね。結局、鏡は真実の姿を映しているというよりその人の虚像みたいなものが映っているのかなと思っていて。

つまり、僕がいま見ている姿は本当じゃなくて、そこには何か嘘があったり、要するに虚像だよね。「本当は違うんじゃないか」という疑いの目でいつも見ているから、鏡というのが多いんだ。

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赤塚との出会いは70年代、新宿
Photo: Keisuke Tanigawa

赤塚との出会いは70年代、新宿

──赤塚さんとは、1970〜80年代のにぎやかだった時代の新宿や六本木のバーで飲まれたことがあり、親交があったということですが、最初の出会いは覚えてらっしゃいますか?

若松孝二という映画監督がいるでしょう。あの人が僕の知り合いで、その頃から僕は赤塚さんの大ファンだったから、1回会いたいと思っていることを話をしていたら、若松さんが「今日赤塚くんと会うからいらっしゃいよ」と言うんで、新宿のバーで紹介されたのが1番最初だね。

──若松さんがきっかけだったんですね。何か思い出深いエピソードはありますか?

その当時は、タモリが赤塚さんにお世話になっていたわけ。その頃は森田くんというんだけど、赤塚さんのお付きみたいにいつも飲み屋に来て。ネクタイしてサラリーマンみたいな格好してさ。赤塚さんが「森田くん、ちょっとタバコ買ってきて」とか言うとさ、タモリが「はい」って買ってくるんだよ。

それで、そのうち2人でショーをやり始める。赤塚さんが全裸になって床に寝転んでると、タモリが太いロウソクをポタポタ体に垂らして。それで「助けて~」とか言って。しかも毎晩。見てる人は飽きてるから知らん顔してるんだけど、それでも2人で延々とやるのよ、悶えて。そういうのは面白かったな。

──そのころの新宿にはどんなバーがあったんですか?

僕が行っていたのは、大島渚さんとか映画関係者ばかりが来る「ユニコーン」っていう新宿じゃすごい有名なバー。それから「アイララ」といって、いわゆる画家とか漫画家、小説家がいっぱい来るところ。そこで赤塚さんがあのショーをやってるんだよ。それぞれ特徴があって面白かったね。

同じような職種の人が来るバーは、その頃は結構あって。映画監督なんかは、しょっちゅう喧嘩になるんだよ。だから映画人が来るところにはみんな行かないのよ、怖くて。巻き添えになっちゃうから。

手塚治虫と同じように巨大
Photo: Keisuke Tanigawa

手塚治虫と同じように巨大

──田名網さんにとって赤塚さんは、どんな存在だったのでしょうか?

僕は少年の頃から漫画家にどうしてもなりたかったわけよ。父親の友人に原一司さんという漫画家がいて、その頃は手塚さんと人気を二分するぐらいの人気スターで大活躍していたんだけど、絵を見てくれるというんで、しょっちゅう原先生のところに漫画を見せに行っていたわけよ。 ところがその先生が結核で亡くなっちゃうのよ。それでもうこれは漫画家になれないなと思ったわけよね、ルートがなくなっちゃったから。

それでしょうがないなと思っていたら、美術学校にデザイン科というのがあるというのが調べたらわかって、そこに行けば何とかそういう方向に導いてくれると考えてね。それで武蔵美のデザイン科に入ったんだ。

その頃は、漫画家にどうしてもなりたくて。 だから僕にとって赤塚さんは僕より1つ上でしかないんだけど、漫画家だっていうことはもちろんあるんだけど、要するに手塚治虫さんと同じように巨大な存在だったんだ。

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Photo: Keisuke Tanigawa

個展「TANAAMI!! AKATSUKA!! That‘s all Right!!」は、2023年2月13日(月)まで開催中。昨年「フジオプロ」の旧社屋解体時に開催された「フジオプロ旧社屋をこわすのだ!!展「ねぇ、何しに来たの?」」へも作品を寄せている田名網だが、今回は「ひみつのアッコちゃん」や「天才バカボン」の原画をモチーフにした新作を展示しており、「天才バカボン」のエピソードで顔を家にされた男のキャラクターが茶室に生まれ変わったインスタレーション、赤塚作品の特徴のオノマトペを抽出したネオン作品などが見どころとなっている。

さらに会場では、印刷現場に田名網が出向き、オフセット印刷機に直接特色インクを流し込んで制作し、一冊ごとに印刷結果が少しずつ異なる、集英社による限定999部、9990円の特装版画集も販売。

インタビュー中、画集を見せてもらったが、A3判と大型でもあり迫力の一冊となっていた。ぜひ手に取って見てほしい。

Photo: Keisuke Tanigawa

田名網敬一 (たなあみ・けいいち)

1936年、東京生まれ。武蔵野美術大学を卒業。1958年日宣美特選を受賞。60年代より、アメリカのカウンターカルチャーやポップアートの洗礼を受け、アニメーション作品からシルクスクリーン、漫画的なイラストレーション、コラージュ、実験映画、ペインティング、立体作品など、メディアやジャンルに捕われず、その境界を積極的に横断して創作活動を続けている孤高のアーティスト。アンディウォーホルとの出会いに触発され、現在に至るまで「編集」というデザインの方法論を用いながら、「アートとデザイン」、「アートと商品」、「日常の美」、「大衆とアート」といった今日の現代美術が抱える主要な命題に対して実験的な挑戦を試み続けている。その半世紀以上の創作活動を通して、戦後の日本を代表するPOP ARTの先駆者の一人として、世界的に高い評価を得ている。

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