撮影:平岩亨

インタビュー:草彅 剛

自分の役を生きながら、生まれて、死んで、また生まれるドラマを表現したい

編集:
Shiori Kotaki
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タイムアウト東京 > アート&カルチャー > インタビュー:草彅 剛

テキスト:高橋彩子

俳優として、歌手として、タレントとして、マルチな活躍を見せてきた草彅剛。その彼の2018年は、「舞台」が大きなキーワードといえるだろう。これまでにも、つかこうへいの『蒲田行進曲』や、三谷幸喜との『Burst』、鄭義信(チョン・ウィシン)との『僕に炎の戦車を』などの舞台作品で才能を発揮してきた草彅だが、春には白井晃演出の演劇『バリーターク』において、名前も場所もわからない謎の部屋で懸命に生きる男を瑞々しく熱演。そして12月、今度は英国人演出家デヴィッド・ルヴォーの音楽劇『道』に出演する。旅芸人ザンパノと彼に付き従う女性ジェルソミーナの姿を描いたイタリアの名匠フェデリコ・フェリーニ監督の映画を原作に、日本で新たに作られる舞台だ。寡黙で不器用なザンパノを、草彅はどのように演じるのだろうか。

撮影:平岩亨/左からデヴィッド・ルヴォー、草彅剛

―今回、『道』の演出を手がけるデヴィッド・ルヴォーさんは、草彅さんにとって初めての外国人演出家ですよね。

草彅剛(以下:草彅):日本人の演出家でもみんなそれぞれやり方が違うので、特別な感覚はないです。ただ、たくさん褒めてくれるのでやりやすくはありますね。ルヴォーさんとは稽古に入る前にも『道』という作品について色々と話したのですが、同じような気持ちというか、何か通じ合うものを感じました。最初の本読みでもわざわざ僕のところに来てくれて「すごく伝わってきたよ」と言ってくれたので、「ああ、これでいいんだな」と。本稽古に入ってからも、ルヴォーさんに「良い質問だね」とか「グッド!」とか言われると嬉しくて。出演者はみんな、彼にものすごく引っ張られています。

―稽古で特に印象深いことは何でしょう。

草彅:スイッチが入ると、ルヴォーさんは長い長い話を始めるんです。ここまで哲学的で、論理的に話す方に会ったのは初めてだと思うのですが、聞いていると非常に納得できて、役作りに繋がっていきます。かと思えば、昔の恋愛話を始めたり、ジョークを言ったり......。僕は疎いほうなので、本気で言っているのか、ジョークなのか分からなくて戸惑う時もありますね。演出なのかと思って真面目な顔をしてると、「今、ジョークを言ったのに、君はなんで笑わないの?」みたいな顔をされて、焦ることも。稽古のダメ出し以上に、ルヴォーさんのジョークに笑えるかどうかがプレッシャーです(笑)。

―原作映画は、もともとご存知でしたか。

草彅:知らなかったので、舞台が決まってから見ました。モノクロで、撮影技術も今とは違うんでしょうけど、映画が持っている力がとても伝わってきて、すごい作品だなと。名作映画と呼ばれるのが納得です。特に、ジェルソミーナとザンパノの関係が印象的でしたね。夫婦みたいでもあるし、恋人みたいだったり、お母さんと子どもみたいなところもあって、切ない。2人の関係性からは、国境や人種を超えた、人間として誰にでも息づいているものが垣間見えて、胸に響きました。でも、実を言うと僕、最初は(ザンパノとしばしば衝突する綱渡り芸人である)イル・マット役と聞いていたので、映画もそのつもりで見ていたんですよ。イル・マットがジェルソミーナに小石を渡すシーンって、映画史に残る名シーンじゃないですか。だから「どんな言い方しようかな?」と考えていたのに、ルヴォーさんから「剛は絶対にザンパノだよ」と言われて。僕も、おだてられれば木に登るじゃないですけど、そう言ってもらったら「そうか、ザンパノか、じゃあ身体を鍛えなくちゃ」となりました(笑)。ザンパノは、サーカスで鎖を胸筋で引きちぎってみせる人物ですから。

―ザンパノとイル・マットでは、真逆と言ってもいいくらいタイプが違いますね(笑)。

草彅:映画でザンパノを演じているアンソニー・クインも身体が大きいし、うちの(香取)慎吾ちゃんがやったほうが似合うんじゃないかという役なので、これまでとは違う僕を観てもらえると思います。でもルヴォーさんは、ザンパノとイル・マットは全く違う人間のようでいて、どこか似ているところもあるんだと話していましたね。だから気になるし、ぶつかり合う。また、ザンパノやイル・マットだけでなく、この劇には個性の際立った人物がたくさん出てきますし、コロス(合唱)も入ります。コロスの歌はこの劇の重要な部分なのですが、僕らの稽古を見ながら作られたオリジナルの曲なので、その歌に背中を押されて演じ切れそうです。

―ザンパノは寡黙な人物なので台詞もさほど多くはありません。その分、舞台での居方が難しかったりはしませんか。

草彅:確かに人の台詞を聞いている時間は長いですけど、舞台に流れる感覚ってリアルタイムとは違うので、その時その時で気持ちをちゃんと持っていれば、間(ま)は気になりません。舞台のマジックだと思うのですが、あまり動き過ぎてもかえって伝わらないこともあるし、動かないでいた方が良い場合もあるので、稽古では固定概念にとらわれることなく、極端に動いてみたり動かなかったり、あれこれ試しています。そうやって面白いものを探す作業はけっこう好きですね。ルヴォーさんからは、「映画の核みたいなものをしっかり持ってさえいれば、オリジナルの舞台だから各々が感じたままで演じていい」と言われたので、大切なのは、僕がザンパノになっていることだと考えています。僕は、トランペットもドラムも練習してはいるのですが、あまりできなくて......。でも、そういうこともルヴォーさんは面白がって舞台に取り入れてくれます。その意味では、ドキュメンタリー的ですね。ザンパノって、筋肉は一番鍛えてるくせに一番小さい男というか。意気がってはいるけれど言葉でうまくいえないし、怖がりで、拗ねた子どもがそのまま大人になっちゃったような人物。楽器もやりたいのにできなくて、だからイル・マットみたいな器用な人物が面白くないんじゃないかな。こう思っているけどできないとか、こうなりたいのになれないとか、そういうところが、歯がゆくもあり、可笑しくもあり、痛々しくもある。それが最終的に感動に結びつくといいですよね。

―ルヴォーさんがおっしゃった「映画の核」とは、言葉にするとどのようなものだと思いますか。

草彅:月並みですが、人が人を思う気持ちだとか、大切なものを失った悲しさ。それからやっぱり、生きることと死ぬこと......かな。この作品には、絶望と希望という両極端なものが、サーカスという非現実的な世界と相まって描かれている。生と死、絶望と希望、再生、出発といった普遍的なものを、このオリジナルの『道』でどのように観客の皆さんに伝えることができるかが、テーマなんじゃないかと思います。

―生と死にしろ、絶望と希望にしろ、一方が煌めけば煌めくほど、もう片方がくっきり見えてくるといった具合に、舞台上で相照らすものではないでしょうか。

草彅:ルヴォーさんが、悲劇を重く見せるのではなく、劇中でイル・マットが落とす羽のような軽さで見せたいとおっしゃっていたことを、僕は噛み締めながら演じています。ふわっとした軽さがあるからこそ、観ている人が、悲しみも喜びも幸せも、より感じてくれるような、そういう舞台になればいいですね。実際、劇中で嫌なことが起きても、すぐ次には新しい良いことが芽生えて始まったりする。(ステージシートを含めて)360度の観客が観る中、自分の役を生きながら、生まれて、死んで、また生まれるドラマをきちんと表現したいです。

―風に舞う羽同様、登場人物たちもさすらいます。それは、彼らが旅芸人だからというのもありますが、そもそも、人間とはそういう存在だとも言えそうですよね。

草彅:目的はどこなんだろうと思いながら、ゆらりゆらりとさまようようなところって、誰にでもありますよね。ルヴォーさんはよく「人生は、残酷だ」って日本語で言うんですが、そういうことなんだと思います。どの役も自分から出てくるものが大きいので、今回も、自分の中にある怒りや悲しみなどの感情をザンパノに重ねて演じているところはあります。

―先ほど、生と死とおっしゃいましたが、今春に出演された舞台『バリーターク』も、死ぬということや生きることの痛みを強く感じさせる作品でした。ここに連続性は感じますか。

草彅:そうですね、人生は繋がっているので。作品との出会いは一期一会で、その時にしか出会えない作品を、その時しかいない自分がやっているから、その時しか形にできないものになるんですよね。今も毎日稽古していると、色々なことを考えます。「明日、あの場面をどうしよう?」「舞台って、やっぱりすげえな!」「お芝居がまたできるんだなぁ」「稽古早いから早く寝よう」とか......(笑)。そういうふうに、作品によって、役によって、活性化される。まぁ、生と死がテーマの作品というのは多いですけれど、もちろん、そんなことを考える時もあります。それに舞台って、汗をかいて、声を出して、台詞を覚えて、身体を動かさないとどうにもならないから、生きる上での基本要素が多いというか、フィジカルの面でもメンタルの面でも、ものすごく自分と向き合うことになります。

―1年に2作の舞台に出演されるのは、近年の草彅さんにはなかったことです。今年1年が、今後の草彅さんを占うようなものになるかもしれませんね。

草彅:実際にそうなっている気がします。人生は、舞台ですから。今回は、日生劇場のような由緒ある場所に立てることも嬉しいですし。『バリーターク』という素晴らしい作品との出会いは、自分の生きるエネルギーになりましたが、今回の『道』も、観てくれる方にも、自分にとってもそういうものになればいいですよね。結局はそれが、さっき言った普遍的なテーマに繋がっていくのだと思います。だから、よく言うことではあるんですけど(笑)、人生かけてやりますよ!

『道』の詳しい情報はこちら


高橋彩子
舞踊・演劇ライター。現代劇、伝統芸能、バレエ・ダンス、 ミュージカル、オペラなどを中心に取材。『エル・ジャポン』『シアターガイド』『ぴあ』『The Japan Times』や、各種公演パンフレットなどに執筆している。年間観劇数250本以上。第10回日本ダンス評論賞第一席。現在、『シアターガイド』でオペラとバレエを紹介する「怪物達の殿堂」、Webマガジン『ONTOMO』で聴覚面から舞台を紹介する「耳から“観る”舞台」(https://ontomo-mag.com/tag/mimi-kara-miru/)を連載中。 http://blog.goo.ne.jp/pluiedete

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