ニューヨークの独立系書店、山積みの箱で苦境をアピール

地元に恩恵なし、Amazonの利便性を再考する機会を提供

Shaye Weaver
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Shaye Weaver
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2020年10月中旬、ニューヨークの書店の前に山積みのダンボール箱が置かれた。まるでAmazonプライムデーで散財した人の家の玄関を見ているようだ。ショーウインドーには紙が貼られ、「独立系書店をフィクションにしてはいけない」「月を植民地化したい人ではなく、本を売りたい人から本を買おう」「本のキュレーションは、不気味なアルゴリズムではなく、実際の人がするべきだ」などの力強いステートメントが書かれている。ディスプレーされているのは、「地元の書店を殺すために」「かよわい女性の書店、巨大倉庫店に排除される」と題されたカバーが付いた本だ。

これはアメリカ書店協会(ABA)が、Amazonや新型コロナウイルスの影響で苦境に立たされている独立系書店に注目を集めようと立ち上げた#BoxedOutキャンペーンの光景。この企画には、マンハッタンのマクナリー・ジャクソン・ブックス(McNally Jackson Books)、ブルックリンのカフェ・コン・リブロス(Café Con Libros)、コミュニティー・ブックスストア(Community Bookstore)、グリーンライト・ブックストア(Greenlight Bookstore)などの書店が参加した。

キャンペーンを企画した広告代理店であるDCXは、「Amazonのダンボール箱は、まさにユビキタス。アメリカ全土の階段、玄関、メールルーム、ロビーなど、どこにでもあります。私たちは、この普遍的なシンボルを取り上げて、全国の独立系書店の経営不振がいかにつらいかを人々に考えてもらいたかったのです。山積みのダンボールをきっかけに、皮肉も含んだ書店たちの思いを読んでもらおうと試みています」と述べている。

カフェ・コン・リブロスのオーナーであるカリマ・デスーズは、Amazonとの競争は絶え間ない戦いだと感じている一人だ。彼女は「9時5時」で働いている別の仕事で得た収入で、2017年にフェミニスト書店をオープン。それ以来ずっと、扱っている本はすでに値下げされているにもかかわらず、人々からは「高価過ぎて」という感想が聞こえてくる。

「Amazonは書籍を30%から40%値引いて売ることができます。私たちの場合は、取次会社への支払いがある分、販売価格が高くなるわけです。彼らには倉庫スペースもあり、値引き販売できる体力もあります。私はAmazonが中小企業や書店に与えてるダメージを、予想してない形で実感しました。メールで地元の人が、私の売る本が高いと教えてくれたのです。議論の余地はまったくありませんでした。アメリカでは女性、そして有色人種の女性が稼いでいる額は、白人の男性の比べて少ないということに異論はないでしょう。この指摘には、心が折れました」と彼女は語っている。

2020年8月に行われたスモール・ビジネス・マジョリティの調査では、中小企業経営者の26%が、追加資金がない場合は今後3カ月の事業継続が難しく、5人に1人近い経営者が4カ月から6カ月以上は続かないだろうと回答している。

ABAの最高経営責任者であるアリソン・ヒルは「こうした状況下で、Amazonは10月13日と14日のプライムデー期間中、100億ドル(約1兆円)の収益を上げると予測されています。これらの点を結べば、利便性にはコストと悪い結果が伴うことは明らかです。独立系書店の廃業は、地元雇用と地方税の減少、コミュニティーセンターの喪失、読者が本と出合う機会の損失、そして読者が有意義な対面という方法でほかの読者とつながれる機会の損失を表しています」と述べた。

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カフェ・コン・リブロスは、クラウンハイツのコミュニティーのために、有色人種や先進的な作家の本を扱う、こぢんまりとして、居心地の良い店。政治やそのほかの重要な問題について、思慮深い議論ができる安全な空間を提供している。これはAmazonにはできないことだ。

デスーズは「書店の美しさは、その空間が経営者の物語や私たちの価値観を伝えているところにあります。コミュニティーにとっては、ニューヨークタイムスのベストセラーや新刊本が重要でないこともあるのです。例えば、黒人が経営する店での買い物自体に意味を見いだしている人もいます。私たちのキュレーションに影響しているのは、コンピューターではなく、コミュニティーに住む人々なのです。人間的なものがとても素晴らしいのは、そういったことを反映できるからです」

彼女はこの企画に参加することで、近所の人や顧客がどこにお金を使っているのか、Amazonで得られる買い物の即効性が本当に必要かどうかについて、もっと深く考えてくれることを期待している。2019年にABAが行った調査によると、独立系書店の全売上高の約28%は、すぐに地域経済へ再循環されているという。

デスーズはキャンペーンに参加した理由を「私のコミュニティーのメンバーに対話を続けてほしいから」と語り、「自分たちにとってのAmazonの意味を考え、そして私たちが便宜的な手段を放棄することについて意識を向けてほしいです。なぜなら、私たちはAmazonの国にいるからです。本は、私たちの毎日の生活に必要なもの。Amazonはほかにも多くの方法で収益を上げているので、一部から手を引いたとしても、問題なく常に私たちの上を行けるでしょう」と続けた。

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カフェ・コン・リブロスを含め、多くの書店が、Amazonのようにオンライン、また電話での販売機会を提供している。しかし、これは決して彼らへの対抗しているものではないという。出かけずに買い物が必要なタイミングはあるだろう。例えば、彼女は出産直後、すぐ必要なものがあった時は便利に感じたようだ。

彼女は最後に「人々がAmazonでの買い物を恥だと思う必要はないと思います。二者択一ではない。Amazonはあらゆる問題を抱えているが、良いこともある。企業と社会的責任について考えることが重要なのです」と付け加えた。

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