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Photo: 三菱大也、写真AC

車いす目線で考える 第25回:アフターコロナの旅行

バリアフリーコンサルタント大塚訓平が考える、Go To トラベルの活用法

テキスト:
Time Out editors
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新型コロナウイルス感染症拡大の影響は業種業界問わず見られるが、特に観光産業は大きな打撃を受け、その傷が深いのは誰の目にも明らかだろう。感染者数は既に世界で2000万人を超え、日本国内では6万人を突破した。

第2波とも思える感染拡大が起こる中で、お盆休み期間中の移動や帰省について各都道府県知事の見解はさまざま。都道府県境をまたぐ移動を自粛すべきとする意見があれば、感染予防対策をしっかりとした上でなら一律に自粛を求めないとする意見もあった。

こうした中で、政府が進めるGo To トラベルは国内観光、旅行需要をどのように喚起していくことができるのだろうか。Go To トラベルに対しては賛否両論があるが、ここではポジティブな面にフォーカスして考えたい。

Go To トラベルに先駆けて星野リゾート代表の星野佳路は、「3密」を回避しながら自宅から1、2時間圏内で宿泊または日帰り旅行を楽しむという、マイクロツーリズムを提唱した。これによって、自分の住んでいる地域や近隣エリアに改めて目を向けるようになり、地元の新たな魅力を再発見した人たちは結構多いのではないだろうか。

実際、僕も最近小学校時代に遠足で訪れた日光の中禅寺湖へ行ってみると、子どものころには得られなかった新たな感動を覚えた。美しい湖に心地よい風、鳥や虫の鳴き声など自然の豊かさに癒され、地元の食材を使った料理に舌鼓を打ち、温泉に入るなど滞在時間を楽しんだ。我が地元には、こんなにもすてきな観光資源があるのだと気づかされ、旅行を終えるころにはこの体験を誰かに伝えたいと思うようになったものだ。

感染拡大が収まらない中、Go To トラベルはマイクロツーリズムとセットで考えると、アフターコロナに向けて良い作用を生み出すのではないかという感想も抱いた。地元を改めて調べてみることで、魅力を知り、訪れてみたくなる。そして、実際に行ってみた体験談や楽しい旅の仕方をほかの誰かに伝えることができる人、つまり「旅のアドバイザー」がどんどん誕生していくことが予想されるからだ。

このことは中長距離の旅行にある一定のハードルを感じている、車いすユーザーにとっても良い流れだと思う。旅のアドバイザーがどう誕生するか。それはおそらく次のような流れをたどることだろう。

①車いすユーザーが安心して行ける、近距離の旅行を楽しむ

②地元のバリアフリー情報を取得し、SNSや口コミサイトに投稿

③②の情報をもとに、別の車いすユーザーが旅行を計画

④実際に訪れて、さらにバリアフリー情報を追加していく

次の車いすユーザーに伝わり、また新たな旅行計画が生まれる

このような過程を経てユーザー同士のつながりが生まれると思う。車いすユーザーは常に情報のバリアと戦っている。なぜなら、交通手段やトイレ、観光名所、宿泊先のアクセシビリティ情報など本当に必要としている情報が、ウェブサイトに掲載されていないことが多いからだ。そのため、各施設や事業者に直接電話やメールで問い合わせをするのだが、残念ながら的を射た回答を得られないこともある。

一番有益な情報は、実際にその場所に行ったことのある車いすユーザーからの情報(体験談)だと思う。例えば、「Aという地域を旅しようとしたときには、Bさんに教えてもらおう!」と考えて気軽に電話やメールで問い合わせることができたら、かなり便利だ。そのためには、全国にいる車いすユーザーが互いに協力し合い、まずは地元の旅を楽しんで、そこで得たバリアフリー情報に魅力的な観光情報を添えて発信する。それによって、その地域にまだ訪れたことのない車いすユーザーに情報を届け、新たな旅の計画につなげていくことができれば、日本全国どこでも旅行が楽しめるようになるのではないだろうか。

Go To トラベルでは、旅の費用が支援されるのでいつもより安く旅行ができる。それによって国内観光や旅行の需要を増やし、宿泊業や観光産業を盛り上げることもできるだろう。そして、車いすユーザーも旅の可能性や選択肢を広げることにもつなげられる。GoTo トラベルの開始時期や東京が対象外になったことなどネガティブな意見もあるが、感染予防対策をしっかりとした上で、近距離の旅行を楽しむことは日本経済においても必要不可欠だと思う。

大塚訓平(アクセシブル・ラボ代表理事)

1980年、栃木県宇都宮市生まれ。2006年、不動産会社オーリアル創業。2009年に不慮の事故で脊髄を損傷。車いすで生活を送るようになったことで、障害者の住環境整備にも注力するように。2013年には、外出環境整備事業に取り組むNPO法人アクセシブル・ラボを設立。健常者と障害者のどちらも経験している立場から、会社ではハード面、NPOではソフト面のバリアフリーコンサルティング事業を展開中。

車いす目線で考えるを振り返る……

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