第2部の後半では、パネリストによるディスカッションが行われた。宗像大社宮司の葦津は、日本の「地域の宝」の価値を世界に伝えていく難しさについて言及。「文化や言語が違う海外の人々でも理解できる価値の共通項を示すことが重要」と改めて強調した。
議論の中で焦点となったのは、世界遺産登録後の史跡の保存と活用の両立だ。葦津は、世界遺産登録後、沖ノ島への一般人の上陸を全面禁止したことに触れ、「遺産の保全、管理の側面から必要だと判断した」と話した。
「沖ノ島は観光地である前に、2000年の歴史を持つ神域。世界遺産になっても、守るべきものと開示すべきものはしっかりと分ける必要がある」(葦津)
また、宗像では世界遺産登録後、観光振興のために「美味しい店やいいホテルが必要という話題がよく出る」と葦津。「ハード面の整備だけでなく、信仰の場として、訪れる人々がもっと本質的な価値を楽しめる仕掛けをつくっていきたい」と述べた。
トリップアドバイザーの牧野も「インバウンドにおけるコト消費が増えている現状もあり、活用自体はどんどんするべき」と提言。「オンライン決済による観光地の入場券販売の仕組みが整えば、環境保全のために入場数を制限することも可能」と指摘した。
一方、葦津によると日本の神社は、人々が神との縁をもらう公共の場としての側面が強いため、拝観料を徴収しないケースが多いという。それを受けて牧野は「こうした施設にお金が落ちなければ、サステイナブルな運営が難しくなる。そのためには観光客から適正な対価を受け取ることも重要」と危惧を述べた。
高橋は「観光推進を目的にした世界遺産の活用に疑義を呈する意見はある」とした上で、「遺産の価値を正しく伝え、持続的な運営をしていくためには、多言語対応や複合的な提案が急務」と訴えた。
「例えば、オーストラリア・シドニー近郊の自然遺産(ブルーマウンテン国立公園)では、訪問者が長く滞在して楽しめるよう、イベントや見学コースの設定を工夫している。日本でも、それぞれの文化遺産が連携し、巡回できるような仕掛けが作れれば、より大きな経済効果が期待できるのではないか」(高橋)
ディスカッションの終盤では、日本を観光で訪れる外国人だけでなく、日本に定住する外国人についても言及された。高橋は「日本をよく知る定住外国人の情報発信を活用することが、インバウンド活性化の一助になるだろう」と白熱した議論を締めくくった。
今回のカンファレンスでは、夜間コンテンツや世界遺産をサステイナブルな観光資源として活用していく上での課題が整理され、今後進むべき方向についての道筋も示された。インバウンド拡大の切り札としてのナイトタイムエコノミー、そして世界遺産に今後も注目していきたい。
【登壇者プロフィール】
牧野友衛
トリップアドバイザー株式会社代表取締役。東京都出身。Google日本法人、Twitter Japanなどで要職を務め、2016年9月より現職。2014年より総務省の「異能(Inno)vationプログラム」アドバイザー。2018年、「東京の観光振興を考える有識者会議」委員に就任。
葦津敬之
宗像大社宮司。皇學館大卒。1985年、熱田神宮に奉職。1987年、神社本庁に奉職、1996年に主事となる。参事、財務部長、広報部長を経て、2012年に宗像大社に奉職。2015年6月に宮司昇任、現在に至る。ライフワークとして環境保全に取り組む。
高橋政志
ORIGINAL Inc. 執行役員、シニアコンサルタント。1989年、外務省入省。ドイツ連邦共和国等の日本大使館、総領事館勤務を経て、2009年より定住外国人との協働政策やインバウンド政策を担当。2014年よりUNESCO業務を担当、多数の世界遺産の登録に携わる。2018年10月より現職。