観光案内所は、どうあるべきか?

青木淳、牧野友衛、伏谷博之が探る、新たなコミュニケーションハブとしての可能性

作成者: Time Out Tokyo Editors |
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テキスト:高木望

タイムアウト東京が定期開催しているトークイベントシリーズ『世界目線で考える。』。2019年5月31日に恵比寿のタイムアウトカフェ&ダイナーにて開催された今回のテーマは、「観光案内所から考える街の未来」。約70名もの参加者を前に、建築家の青木淳、トリップアドバイザー株式会社代表取締役・牧野友衛、ORIGINAL Inc代表取締役であり、タイムアウト東京代表の伏谷博之の3名が登壇。

なお青木と伏谷は、2019年12月に完成する渋谷フクラス内の小さな観光案内所のプロデュースを手がける。2020年、そしてさらにその先へと向かう東京の未来について、「観光案内所」を切り口に議論する場となった。

スマホ時代における観光案内所の立ち位置

はじめに、各人の経歴と自身の「観光案内所」にまつわる考えの発表から始まった。旅行の口コミサービス、トリップアドバイザーを運営する牧野は、「ツアーやチケットを販売している観光案内所は外国人評価が高い」と、直近の観光案内所の人気ランキングの傾向を解説する。

「外国人観光客が都内で一番評価している観光案内所を調べてみたところ、H.I.S.ツーリストインフォメーションセンター原宿がトップでした。ユーザーが評価するポイントは、都内のチケットやメトロ乗車券、ツアーが購入できること。観光案内所というよりは、ツアーやチケットを販売する場所としての評価が高いようです」(牧野)

では、観光案内情報の需要は少ないのかというと、そういうわけではない。牧野は直近の旅行者に見られる行動を例にあげ、「観光客は複数の情報源を駆使するようになった」と語る。

「今、旅行者の7割が情報源としてスマホを使っている状況ですが、一方で、彼らは観光案内所も情報源として使います。スマホを使う7割の旅行者が、観光案内所を使わない、というわけではないんです。しかも、旅行で食べる場所や遊ぶ場所をあらかじめ全て決める外国人観光客は3割ほどしかいません」

今回は、議論をリアルタイムで可視化するグラフィックレコーディングを導入

今回は、イラストと文字で議事録をとる「イラストリーム」を導入。イラストリーマーの歌がリアルタイムで書き起こしをしてくれた

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ブンシツにはなぜ人が集まるのか

一方で紙メディアや空間のプロデュースなど、さまざまな切り口からのインバウンド施策を手がける伏谷は、観光所が「世界目線で考える」ことの重要性を説く。

「今一番必要なのは、自分たちの都合で日本を紹介するのではなく、外国人目線で評価し、紹介することです。ざっくりとした外国人ターゲットではなく、各国、各人の多様性に合わせ、さまざまな目線を持って、物事を判断することが必要です」(伏谷)

また青木は、自身が新潟の十日町で設計した交流センターと設計期間中に設置したブンシツを例に挙げ、「まずは行って楽しそうな場所を作り出すこと」が、観光案内所へ人の足を運ばせる重要なポイントである、と建築家の立場から考察を述べる。

「人々の賑わいを取り戻すための交流センターを作る、というのが僕のミッションだったのですが、十日町のことを知るためにはこの街に住むのが一番だと考え、ブンシツを作ったんです。最初は設計期間中の現場事務所だったのですが、じきに訪れる人同士がコミュニケーションをとる場として変化していきました。

当初はブンシツに交流センターとしての役割なんてありませんでした。でも、毎日色々な使われ方をするようになり、人同士の情報交換が自然と始まった。交流センターとしての空間を作ろうと意識するのではなく、さまざまな可能性が広がる空間をまず作ることで、人が集まる場としての機能が備わるのかもしれません」(青木)

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青木淳
青木淳

キーワードは「いてもいい場所」

三者三様の異なる「観光案内所」への考えが明るみとなったところで、ここからは「公開ブレスト」の時間が始まった。まず、牧野は交流センターを訪れた際のエピソードをもとに、「なぜ交流センターに人が集まるようになったのか」を青木に尋ねる。

「完成して今年で3年目なんですが、いまだに地元の人たちと毎年誕生日会をやるんです。地域の人たちが支えてくれるから、第二の故郷みたいになる。ただ単純にあの場所を作るだけでは、そこまで地域に根付かなかったと思います。出来上がる少し前から地元の人たちと一緒に活動し始め、完成するころには交流センターを積極的に使う習慣ができるような、ある種の練習を重ねたんです」(青木)

「ハードが完成される前にソフトは進めておいたほうがいいんです」。そう青木が語ると、伏谷は「逆にハードが必要なくなり、わざわざその場所へ行く価値のなくなってしまった場所も増えているのでは」と一つの議題を掲げる。

「例えばオンラインショップの浸透により、街の商業施設などに出ていく理由が無くなっていく。服ももはや店舗まで買いに行かなくなりました。じゃあお店はどういう場所になるだろうか。これからの商業施設はどう変わるのでしょうか?」(伏谷)

「そこにいてもいい場所、に変わっていく必要が出てきます。例えば、街にある本屋さんに行って本を探すふりをしていれば、そこにいてもいいという、ある種のアリバイになる。コーヒーを出す、本を出すというのは二次的な問題になります。ただ、空間を管理する人は必要。本を売る人やコーヒーを売る人が、ここでいう管理人となります。案外『いてもいい場所』というのは少ないからこそ貴重です。服屋だって、そこに入れば『何をお探しですか?』と聞かれてしまう」

「旅行の記憶というのは人との出会いで占められていれると感じます。こんな経験をさせてくれた、という思い出なんです。旅行は結局人に会いに行くものだと思うと、服や靴を買いに商業施設に行くというよりも、人に会うためにものを買う、という目的の変化が生まれるのだと思います」(牧野)

牧野友衛
牧野友衛

分断的な東京を案内所が繋げる

そして、討論は「場所の価値」に関する話題から、「東京の価値」に関する話題へと変化する。伏谷は自身の生い立ちのエピソードを踏まえた上で、東京に住むことで自分が「匿名化」することに価値を感じる、と語る。

「僕が田舎か東京に出てきたことの最大のモチベーションは匿名性を獲得できることでした。近所付き合いや、自分がどこに行っても知られてしまう、ということがないのが心地いい」(伏谷)

「僕は東京の下町育ちですが、東京もコミュニティー的には伏谷さんの出身である島根と変わらないですよ。匿名的な東京は東京の一面でしかなくて、近所づきあいや近所の人に知られているということはあります。結局、全ては『自分ごと』か『自分ごとじゃないか』ですね。生まれ育った人からすると、そこは自分の街なので、人の関係性は全部『自分ごと』じゃないですか。完全に匿名的なのであればそうは思わないはず」(牧野)

「誰も知らない、という快感はありつつ、もし大学へ行って友達いなかったら寂しいんじゃない? だから、住んでいるところにがんじがらめになるのではなく、そこにいてもいなくてもいいって状態で仲間を作ることが楽しいんだと思います。東京は極端に分断されすぎている気がします。

都会は分断していて孤独、だから心地よいという側面もありますが、例えば今回こういう観光案内を作ることで、観光案内所とほかの店や場所が近所付き合いして、コミュニティを生み出すハブになれたら、面白いことが起きるんじゃないかと思うんです」(青木)

「情報収集の選択肢が増えているなかの一つとして、観光案内所をどう使ってもらえるか、という考え方はありますよね。観光客を『自分ごと化』させるためには、地元との交流を実現させる装置として観光案内所を機能させて、町内会や住民たちを巻き込む。観光客のリピートにつながるような出会いを提供できるのは、地元の人たちですから」(伏谷)

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伏谷博之
伏谷博之

マニュアライズされたおもてなしが居心地を悪くする

イベント終盤、登壇者の「東京観」にちなみ、会場の参加者からは、「東京の良いところ・悪いところを教えて欲しい」という質問が上がった。良いところは、登壇者それぞれの気付きがあったものの、興味深いことに、悪いところは「居心地」にまつわる指摘に集約される結果となった。

「世界中の良いものが集まってくる街だと感じます。世界中のレストランやアート作品が東京にそろいますよね。一方で、街の大きさもあるかもしれないけど、余裕や隙間が少なく感じます。もう少し街としてルーズであっていい。ロンドンはパブで昼間から飲んだりしていますが、そういう行動を許さない感じが街から醸し出されているんです」(牧野)

「良くも悪くもムラ社会がそのまま大きくなっていますよね。なんとなく暗黙のルールがあって、住みにくい雰囲気がある。一方で、ほかの国に比べればのんびりしていて、海外から帰るとホッとできます。これだけ人が密集していて、ムラの空気が残っているのはすごく不思議」(青木)

「居心地の悪さ」の根源にあるものを、伏谷は「マニュアライズされたおもてなし」である、と指摘する。

「居心地の良さを作らなきゃ、と日本の人たちも思っちゃう。いわゆるおもてなし症候群って感じ」(伏谷)

「観光案内所もそうなのですが、あまり深く考えなくてもいいんですよね。椅子が多いとか、広場があるとか。人が勝手に集まれるような、椅子があるだけのような場所が一番居心地の良さだと思っています。何かをしてもらいたいわけじゃないんですよね」(牧野)

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フクラスの観光案内所はどうなる?

そして、議題は今年12月にオープンする渋谷フクラスの観光案内所の話題へとシフトする。伏谷が構想し、青木が空間設計を手がける空間は、果たしてどのような姿で渋谷へ登場するのか。青木は、伏谷からオファーをもらった当初のことを回想する。

青木「単なる観光案内所、と用途がすでに決まっているのだったら、やってもしょうがないと判断したはずです。しかし伏谷さんのことだから、このインターネットで情報を得られる時代、しかも渋谷においての観光案内所がどうあるべきかを考えているだろうと思ったんです。面積の大きさに関わらず、その内容が気になりました」

「実際、面積もそこまで大きくはなく、空間の形としても不思議なフォルムなんですよね。やりにくさや難しさはありますか?」(伏谷)

「どんな空間でもやりようはある。面白い場にはなりそうです。ほかと違うことがどれだけできるかが重要で、逆に何をしてもいい気分になる。実際に住むことはできないけど、そこに人が住んだらどうなるかとか。

あと、一方通行の情報は面白くないですよね。運営側が働きかけることもあれば、訪れた人同士が情報を伝え合ったり、いろんな情報が飛び交う空間をどう作るか、という話はしています。そして場所づくりの上で大事なのは、冒頭にも言った通り『外側の完成を待たずに中身は先に進めること』です」(青木)

オープンまで残り半年。どんな観光案内所が渋谷に登場するのか、今から楽しみにしたい。なお『世界目線で考える。観光案内所から考える街の未来』は第2回の開催も予定しているので、興味のある人はぜひ参加してほしい。


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