民泊、ホステル、インバウンド。新しい宿泊スタイルと街づくり

ホステルも環境も、魂を込めたものが勝つ

テキスト:
Time Out Tokyo Editors
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2016年3月1日(火)、タイムアウト東京が主催するトークイベント『世界目線で考える。民泊、ホステルと街づくり編』が開催された。今回は、世界のホステル、民泊の事情に精通する『バックパッカーズリンク』の代表で『GuesthouseToday』の編集長でもある向井通浩と、東急沿線のマーケティング、ブランディング、プロモーション、エリアマネジメントを統括する街づくりのエキスパート、東急電鉄 都市創造本部開発事業部事業計画部 統括部長の東浦亮典が登壇。第1部では、それぞれにエキスパートの目線から、ホステルやゲストハウスなどの宿泊施設、そして、街づくりに関して語られ、第2部では、タイムアウト東京代表の伏谷博之が聞き手として参加し、多岐にわたるトークセッションが行われた。終了時刻を約30分押すほど、白熱した、熱いトークが繰り広げられた今回のイベント。今後、さらに話題となっていくであろう内容がたっぷりと詰まっているので、ぜひ最後までじっくりと読んでみてほしい。

向井通浩:初めましての方がほとんどかと思うのですが。いくつか立場があります。『Japan Backpackers Link(ジャパンバックパッカーズリンク)』と言いまして、だいたい10年くらい経つサイトです。私が36歳になったときに、もし江戸時代だったら、40くらいになったら自分の長男に家督を全部受け渡して、お伊勢参りにでも出る年齢だなと考えたときがありました。あと4年で40じゃないかと。一度はバックパッカーという世界に身を置いていたので、私がわりと真面目に働き始めたのが28歳からでして。そこから36歳までは一生懸命働いたんですね。だから、もうそろそろいいんじゃないかと。人生70年なのか80年なのか。身体が動くうちに、残りの人生何かやりたいことはないのかなと。

自分が旅をしたい、それはもちろんそうなんですが、一番海外にいた大学生のころ、あるいはその直後というのはバブルの時代で、日本人が最も海外に出ていた時代だったんです。大学生なんか当たり前のように春夏秋冬と海外に行くか、スキーに行くか、テニスに行くか。なんにせよ、どこかに行くという選択肢の中に、海外へ出るということがいつもあった時代です。どんな部に所属していても、部室には先輩たちが使った地球の歩き方というガイドブックが転がっていたりして。マンドリン部にいようが、鉄道研究会にいようが、漫研にいようが、自然と長期休みは海外に行くのが普通で、当たり前なのかなと。そんな時代に、狂乱のバブル、強い円。それを利用して、僕らの世代は世界中で好き放題やっていたんです。

そのころに毎年何万人も旅に出て、みんなが言ったことがあったんです。ホステル、ゲストハウス、バックパッカーズって、これみんなだいたい同じものを指すんですけども。ヨーロッパではホステルと呼ばれ、アジアではゲストハウスと呼ばれ、それからオセアニアですね、オーストラリアとかニュージーランドではバックパッカーズと呼ばれます。バックパックを担いで少しでも長く旅をしていたい。別に貧乏旅行が好きなわけではないです。持ち金は30万円かもしれない、50万円かもしれない、20万円かもしれない。とにかく、持ち金を節約して節約して、少しでも長く海外に身を置いておきたい。そんな想いから節約貧乏旅行が始まるわけなんですが、バブルの時代に海外に出た若者たちみんなが言ったのは、「なんで日本にはゲストハウスがないんだろう」「ホステルがないんだろう」「バックパッカーズがないんだろう」「これ日本にあったらすげぇいいよな」「帰ったら絶対に作るよ」。そういう風に100人いれば98人くらいが言いました。でも、様々な事情で日本に帰ってくると作れない、やらない。

ところがですね、それを実践した人たちが何人か現れてきました。最初に実践した『カオサン』。今やどこもグループになっていますが、『カオサングループ』、『ケイズハウス』、『ジェイホッパーズ』。これらが、三大グループとして日本のなかで10軒とかの規模で、全国展開するようになっています。36歳くらいのときに、日本にもゲストハウスとかバックパッカーズってどのくらいあるのかなと、ググれる範囲で調べたんです。そしたらなんと44件しかありませんでした。日本中です。たとえば、お隣の韓国はソウルだけで940軒あります。どれだけ日本がバックパッカー後進国というかですね、非常にひどい状態だったわけです。先進国のなかでも、それどころかアジアの国、もしかしたらみなさんが名前も知らないような国と比べてもはるかに劣っている。バックパッカー環境が。最も進んでいるのがオーストラリアなんかですけども。もうオーストラリアだとですね、1万人くらい、それどころか5千人くらいを超えるような街には必ずキャンプ場があって、そこにキャラバンパークがあって。もうちょっと大きい街になるとバックパッカーズという旅人を受け入れる場所がある。コインを入れてバーベキューがすぐできるようになっているコインバーベキューが公園とか、そういうところにもどんどん設置されている。そんな状態を見てきて、これはちょっと日本の旅環境、特にバックパッカー環境って、なんとかしなきゃいけないんじゃないのかなっていう風に思って10年くらい前に始めたのがこのサイトなんです。

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日本に旅環境を作りたい

実は、最初は英語で始めました。英語でとにかく外国人の方もウェルカムですと。2,000円とか3,000円くらいで1泊素泊まりで泊まれる宿を、リンクを作っておけば旅人っていうのは必死で調べますから。とにかく見つけて来てくれるだろうとやっていました。そのうちに震災があったりして。特に東京なんかも(2011年ころには)外国人が99%っていうゲストハウス、ホステル、そういうのがいっぱいありましたから、その予約の9割がキャンセル。それが半年以上続くっていう状態で。そのときに(宿の営業を)やめる、1回従業員を解雇するなんていう、そういう状況もありました。

ゲストハウスとかホステルって、数え方の定義がなかなか難しいんですが、私の定義では昨年度の10月末の時点で627軒あります。10年で軽く10倍以上になったということです。最初のころ44軒でした。私が自分で1店舗目を作って、それで頑張って頑張って10軒にするのにいったい何年かかるだろうと、色々考えたときに、宿を実際に運営していく人はきっとこれから増えていくだろうから、環境というか流れをつくりたいと思いました。自分1人でやれることは小さいので、なにかこう流れを作りたい。旅環境を整えていく、バックパッカー向けの、あるいは安価な宿泊施設があって日本を縦横無尽に自由な旅ができる、そんな環境を広げていきたいと思ってこのサイトを作りました。そのうちに日本人、外国人、どちらもどんどんアクセスしてくれるようになってきまして。ほとんど唯一無二のサイトだったんですね。そして、いろんな人がいろんな形で参入してくるようになったのですが、いろいろと問題がある宿とか、いろんなものが出てきました。でも、私がそれをいちいちどうこう言える立場でもない。みなさん生活をかけて宿をやられているわけですからね。じゃあ健全な形で、なるべく日本独自の形ではなくて、世界基準で見て旅人から喜ばれる、合格がでる宿、そういう宿が増えていってほしいなということで、おこがましくも勝手に「JBL」、これJapan Backpackers Linkですが、『JBLゲストハウスアワード』というのを毎年やるようになりました。

去年今年版で6回目くらいになるんですけども。私、『Twitter』が幸か不幸かフォロワーが9万人くらいいるんですが、「こういうの始めるからみんな泊まったら情報入れてよ」って言ったら、実は同じ考えだった人がものすごくたくさんいたんですね。日本に旅環境を作りたいという。それで、協力してくれる方が大体220人ほどいまして。家族の人、一人旅の人、彼女と行く人。いろんな人がいますけども、どんどん情報を入れてくれるようになりました。だいたい2500〜2600件。毎年泊まって、あーだった、こーだったと、そういう情報を入れてくれるようになりました。

HOSTEL North+Key Kyoto(京都市)

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去年、今年の大賞は、京都のホステルだったんですが(写真はドミトリーと呼ばれる共同の部屋で、これは女性専用のドミトリー)。バックパッカー宿っていうと、汚いとか、むさ苦しいとか、南京虫に刺されるとか、そんなイメージだったんです。それもほんの5、6年前まで。ところがやっぱり日本人って凄いですね。日本人の競争力とか発想力とか、そういうものが凄くてですね。どんどん後からオープンするところが、ほかのところよりも絶対に喜んでもらえる宿にして100円でも安くと。50円でも安くと。

ちなみに、日本か海外でゲストハウスとかホステルとか、バックパッカーズに泊まられたことがある方ってどのくらいいらっしゃいますか。(会場にいるほとんどの人が手を挙げる)え、なんでこんなに多いんでしょう。不思議なくらいなんですけど。それならあまり細々した説明はいらないですね。ゲストハウスといっても、たとえば東京の場合はですね、実際にオープンしてみると、バックパッカーはもちろんですが、普通の観光旅行者、それから就活の子とかね。あるいは、公務員試験を受けるために上京した子とか。あと最近は、大学が9月入学とかの関係で、ちょっと日本の社会の始まりというか、スタートの時期とズレるので、その間どうしようかとか。いろんな事情の人が泊まるようになります。なぜかというと、やはりこういうレベルに来てるからなんですよね。女性でも安心して泊まれる、そういうレベルに来てるからです。
 

カオサン東京オリガミ(台東区)

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こちらは、浅草にあるカオサン東京オリガミ店です。この写真を見てもらうと分かると思いますが、ここには、お客さんも、スタッフも、グループの社長も写ってるんです。これが、ゲストハウスがほかのホテルや民宿、旅館、カプセルホテルと違うということなんです。日本で最大のグループの社長もこの中に写ってるんです、スタッフと一緒に。これは多分オリガミ店だから折り紙教室かなんか一緒にやっているんだと思うんですが、旅を海外でしている方はよく分かると思いますが、実は現地の人との交流って、交流しているようであまりないんですよね。食事するのとか、道聞くとか、お店聞くとか、切符買うとか、そんなときくらいで。あとは、友達とか連れがいれば連れと話しているでしょうし、ホテルに帰ったらホテルのフロント以外は誰も話す人いないですし。ところがホステルというのは、本当にお客さんとお客さんが近い。お客さんとスタッフが近い。それどころか、経営者も輪の中に入って一緒に楽しんでいる。スタッフも仕事が終わってもうとっくに帰ってもいいところなのに、楽しいから一緒に飲んでる、一緒にご飯を食べている。自炊設備がありますからね。そういう感じです。

カオサン東京 歌舞伎(台東区)

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こちらもカオサンのグループの『カオサン東京歌舞伎店』です。こちらはアジアでも3位かな。そのくらいの実力の評価を受けています。きっと、学生時代はバックパック背負って旅してたけどしばらく離れてるっていう人には、ちょっと衝撃だと思います。もうあまりに綺麗で、これが本当にバックパッカー宿なんですか、というような感じです。

広島ゲストハウス碌roku(広島市)

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これは、広島の宿です。日本はゲストハウスが非常に小さいものが多いんです。これは法律との関係で、延べ床面積が100平米以下だといろんなものがちょっと緩和されるものですから、その枠を使って、若い子たちが次々にオープンさせています。500万円握りしめて、友達を10人引き込んで、ワークショップといって30人くらい一般から募集して、自分たちでオープンまでさせてしまいます。電気工事、あるいは基礎工事、そんなところ以外は全部自分たちでやってしまいます。

山口県萩市のゲストハウスruco(萩市)

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デスティネーションが目的になる

山口県の萩に、『ルコ』というとても素敵なゲストハウスがあるんですが。山口県の萩に旅に行こうと思って、じゃあどこに泊まろうかと考えて、ネットで探してここに辿り着くのではないんです。ここに来ている多くの、若者だけじゃない、おっさん、おばさん、いろんな人がいますが。この人たちは、噂で山口県の萩に『ルコ』っていうちょっと面白いやつらが集まる宿があるらしいと聞いて来るんです。ここに泊まることが、デスティネーションが、目的になるわけですよね。ここに泊まって、とりあえずここの宿の人とか泊まっている人に、どこに行ってきたの?明日半日だけ時間あるんだけどどこに行けばいいかな?って聞いて、仲良くなって。一緒に回ったり、車で来てる人に乗せてもらって自分が帰る方向まで一緒に行ったり、そこからヒッチハイクで回ったり。まあ、いろんなことをするんですが。

今年は熱海を含めた、伊豆と箱根が温泉付きゲストハウスのオープンラッシュになっていて、非常に熱い状況になっているんですが、熱海へ行こう、箱根へ行こう、というのではなくて、箱根に「〇〇ゲストハウス」っていう温泉付きのところがオープンしたらしい、すごく面白いらしいぞと行く。若い人が運営している自由な感じ。お客さんとスタッフ、あるいはオーナーとの距離がすごく近いところがウケて、そこへ泊まりに行くために行く。ついでに観光2、3ヶ所あればしてくる。そういう旅の仕方がどんどんできてきています。

西浅草レトロメトロバックパッカーズ(台東区)

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女子旅。女の子は、ゲストハウスに対して最初は抵抗がある人もいるんですが、若い女性経営者がやっていて、自分が一人旅をしたときに寂しい想いをした、アウェイ感を感じた、どこに身を置いたらいいのかよく分からなかった。安いビジネスホテルなのか、普通のホテルなのか、民宿なのか、旅館なのか、女性専用カプセルホテルなのかと巡ったが、どこも違った。女性専用もありますが、意外と専用ってウケてなくて。男女ともに泊まれるけども、女性にすごく優しいゲストハウス。こういうものが流行っています。これは浅草にある『レトロメトロバックパッカーズ』ですが、女将が気が向いたらいきなりおでんとか作って。みんな出かけようとしてるのに、もう出かけなくていいとか言い張ったりして。みんなでこれ食べるぞとか言って、いきなり始まったりするです。そういう意外性なんかもウケています。

『トライシー』という、業界ではそこそこ大きい観光サイトがあるんですが、そこで『Guesthouse TODAY』というニュース配信サイトもやっています。ちょっと面白い動きが出てきているんで、一例紹介して終わろうと思います。なんと山口県の下関市で、現首相の奥さんがゲストハウスプロジェクトを立ち上げて今、作っています。改装費が1億円ちょいなんですが、そのうちの3000万円はクラウドファンディングで集めています。まだ集めている最中で、昨日の時点で1200万ほど集まっていました。今日は、民泊の話がたくさん出てくると思うんですが、民泊を進めようとしている安倍首相。それに対して、既存の枠のなかでゲストハウスを作っていこうという奥さん。この夫婦対決なんかもね、これから安倍家の中で始まるんじゃないかと思って僕はとても注目しています。ちょっと時間になるみたいなので、いったんお返しします。

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東浦亮典:続きまして東急電鉄の東浦と申します。よろしくお願いします。今日は事前の打ち合わせもなくですね、『Facebook』では繋がってましたけど、向井さんとも、お会いするのは初めてということで。社会のいろいろな束縛から解き放たれて世界を股にかけて活躍される向井さんと、社会の束縛にがんじがらめになっている会社員の対比ということで、どういった話になるのか楽しみにしていていただきたいと思います。

この時間、恵比寿のタイムアウトカフェ&ダイナーでしたっけ?ということで、どんな雰囲気になるのかなと思ったら意外とうちの社員が多くてびっくりしていますが。この辺みんな社員ですよね。まあ、これだけこういう民泊とか、ゲストハウスというところにうちの社員も関心を持って。特に建築系の人間が今日は多く見受けられますけど、どっかで計画しようとしているのかな?それはお楽しみに。ということで、今日はタイムアウト的なので、あまり堅いプレゼンということではないですが、街づくりの視点から何か喋ってくれということで伏谷さんからも言われましたので、私も気づいたことをちょっとお話しさせていただきます。

好きな街に抱かれろ

「好きな街に抱かれろ」ということですが。今、向井さんが、この10年くらいでゲストハウスを取り巻く環境がガラッと変わってきたということを話していましたが、我々が街づくりをしていくなかでもですね、本当にそんな感じがしております。都内の場合は、人口減少っていう問題はまだあまり影響を受けていないのですが、高齢化とかですね。あと、特に我々はオフィス、商業、住宅なんかを街づくりの舞台としてやっているので、働き方が変わるとか、買い物の仕方が変わるとか。最近だとインバウンドっていうことでいろんな方が来るので、それにどう対応するかみたいなことで。私、入社して30年ちょっと経つんですが、そのくらい前には、街づくりの業界ではあまり議論されてこなかった、誰も意識しなかったようなことを、これからは相当意識していかなきゃいけないなと思っています。

で、いきなりちょっと飛びますが、そういったなかでは、経済圏っていうんですかね。どんどん変わってきて。日本は、物作りが強かったわけですが、そこから情報経済ということで、日本には世界に冠たる電機メーカーなんかもたくさんあって、優秀なパソコンとかも作ってましたが、よく言われるこの創造系経済への移り変わりが下手だったということで今、SHARPさんは買収されたりですね、ほかの会社さんも非常に苦境に立たされています。一方で「Japan As Number One」なんて言われていたときにアメリカは非常に苦しんでいたんですが、逆に一気にこの創造経済の方に軽やかに移っていって。私が説明するまでもないんですが、世界を牽引しているような、経済を引っ張るような会社が、この数年間でも出てきています。これからは、都市戦略とかを考えるときでも、特に渋谷を中心とした経済圏なんかでは、この創造経済というところを意識しないと街づくり、箱づくりなんかも失敗しちゃうなー、なんていう風に思っている次第です。

そういったことで、働き方がいろんなネットワークデバイスの関係で変わってくるので。我々デベロッパーとしても、ターミナルに賃貸オフィスばかり作っていても、もしかしたら借り手がいなくなるかもしれないなと。今は渋谷絶好調なんです。空前の空室率の少なさと賃料が港区なんかと比べても遜色ないくらい良いんですが、分からない。将来は分からないんです。

それから、一番保守的だと言われていた住まいの部分についても、我々よりちょっと下の世代の人たちは、もう親父たちの世代のようないい夢は見れませんので。そういう意味では、30年のローンを組んで家を将来買うというような行為を果たしてするのかなと。あるいは、することがいいのかなと。そういう意味では、リノベーションとかシェアとかデザイナーズとかですね。住まいの世界でも、いろんなキーワードが出てきているわけです。特に郊外部に関しては、今日もね、若い方いらっしゃると思いますが、郊外部に自分の終の住処をローンを背負って買うということをするんでしょうかと。そういったことは、我々デベロッパーにとっては大きな問題になります。そして買い物もですね。皆さん、もう手にしたスマホからちょいちょい買い物されちゃいますので。ターミナル型の百貨店とかショッピングセンターあたりは、結構これからきつくなります。そんな環境になっています。

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というなかで、宿泊のスタイルも変わってきているのではないでしょうか。それに対して先ほど、向井さんからも話がありましたが、多分まだほんのとば口に立ったばかりの話だと思うので、後でディスカッションの中でも出ると思いますが、泊まる人のTPOとか、感性に合わせた宿泊スタイルの多様な選択肢を、都市側が、ちょっと大仰にいうと、さっきゲストハウスなんかを若い人がぽーんと作るという話もありましたけど、街側が用意できているのかなというと、まあ今の段階だとちょっと。ということで、私も東急沿線でいろんな街づくりに関わっているんですが、渋谷区ということで、今日は渋谷の事情というところを中心にお話ししましょう。

渋谷は、ご説明するまでもなく毎日300万人の乗降がある一大ターミナルなわけで。そのなかで、東急の拠点の街でもありますので、いろんなことを考える上でも後背に豊かなマーケットをもっているということは結構大きくて。住みたい街のランキング上位に位置されるような街もたくさん抱えております。それで、マーケットとしてはですね、我々は「グレイター渋谷」ってよく言うんですが、渋谷という、あのすり鉢の底のところだけではなくて、原宿、表参道、代官山、恵比寿、裏原みたいな感じで、周りに非常に個性豊かなマーケットを抱えているということも魅力のひとつです。そして、よくワールドエコノミー、ニューエコノミーという話で対比しますけども、渋谷「区」ということに関して言えば、IT、クリエイティブ系の産業の創業の地となっておりまして、これはみなさんが想像する以上に港区なんかよりも全然、数としては多いということで。昔、渋谷、「渋谷(しぶたに)」だから「ビターバレー」、「ビットバレー」と言われていて、一時、IT長者がもてはやされたときもありましたが、ITバブルが崩壊したあとに、今また不死鳥のようにですね、「ビットバレー2.0」なんて言われて、新しい起業がどんどん起きていると。それから、それを支えるようなエコシステムもでき始めているということです。そして、スクランブル交差点が代表になりますが、いろんな大型ビジョンもあって。インバウンドのお客さまも、このスクランブル交差点には必ずお寄りいただくようですが、情報発信力としても非常に高い街。そして、外国のお客様も多数お見えになっていまして。よく中国の爆買いということがありますが、幸か不幸か渋谷の場合は大型バスの発着場というものを持っていません。そういう意味では、団体客にはあまり優しくない街ですが、それがいいのか、どちらかというと欧米系とか、あるいは旅慣れて日本に3回目、4回目っていう人が渋谷を訪れているケースが多く、かつですね、私も渋谷のオフィスに毎日通っていますが、昔はあの谷底にチョロチョロっと、マルキューに行ったり、そういったところでパッと帰られていたのですが、最近は夜な夜な神泉の奥の方だとか、こんなところに外国のお客様がいらっしゃるのかなっていうところまで、彷徨って楽しんでる様を見ると本当に変わってきたなという風に思います。

渋谷の強みを今お話ししたんですが、弱点はホテルの少なさです。ほかの街と比べても、数として全然足りなくて。大所でいえば、セルリアンとか、エクセルとか、東急レイホテルとか、東急系のホテルがわりと多いんです。それ以外にも小さなものはあるんですが、名の通ったところはあまりない、というところです。今の段階だと、品川とか新宿にお泊まりになって、渋谷は遊びに来る、というような状況になっております。

どうしてこんなことが起きてるかというと、ほんの数年前、10年くらい前ですか。神泉というか円山町あたりにラブホテル街があって、お使いになったこともあるかもしれませんが。そこがあまりにもひどいじゃないかということで、ちょっとこれを規制しようという動きがありました。渋谷区の中に、このラブホテル建築規制条例っていうのがございます。興味のある方は渋谷区のホームページからダウンロードしていただきたいんですが、こういうのはラブホテルだ。こういうのじゃなけりゃラブホテルじゃない、というようなところで細かい規定が出ています。ちょっと全部は紹介できないんですが、外部からフロントロビーを見渡すことができて、営業時間中に自由に出入りできることとかですね。食堂、レストランとか、ほかの付帯施設があることとか。ユニットバスを備えた18平米以下の一人部屋の床面積の合計が、全客室の3分の1以上である構造であることとか。総客室数の5分の1以下のダブルベッドを備えた構造であるとか。窓ガラスが透明であることとか。いろいろ事細かに規定されております。こういった規制があることによって、なかなか渋谷にはホテルが成立しないというようなことが今まではございました。ところが、私どもも渋谷をこういう街にしていきたいと、エンターテインメントシティというコンセプトでやっていて。タイムズスクエアとか、ブロードウェイを真似するわけではないんですが、ライブハウスとか劇場なんかも多いですから、遊びに来た方が、発見とか驚きとか楽しみを持って訪れてお帰りいただくというような街にしていきたいと思っております。それなので、やはり数時間滞在するっていうのはもちろん結構なんですが、気に入っていただけたらもうちょっと長く滞在していただけるような環境というのを整えなければいけないと思っていますが、ちょっと今はできてないという状況です。

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みなさんには多大なご迷惑をおかけしていますが、渋谷はまだ10年近く工事が続くということで、100年に一度と言われる大改造をしております。そんななかで、あともう少し、10年くらい我慢していただくとこんなような状況になるという絵でございます。

 

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2027年頃の渋谷の未来予想図

左上の方が渋谷のヒカリエといってもうすでにできているビルです。ヒカリエが180mのビルなんですが、それより50m高い、230mという高さのビルが駅上にドーンとできます。その周りにもいくつかの高層ビルができ上がって、こんなような街になっていきます。ハチ公前のスクランブル交差点の向かい側ですね、QFRONTというところから見ると、今はこんなような景色です。左側がヒカリエってことになりますけど、これが将来、オリンピックのころまでには、この高いビルはでき上がる予定になっています。このような環境になって、渋谷はもうちょっとお迎えする環境として整ってくるのかなということです。

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現在(駅街区着工前)の状況

将来(完成後)の状況

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この230mのビルの最上階には、360度見回せるような屋上展望台を作るという発表もしています。ここの使い方はまだ決まってませんが、ウエディングパーティーをやったりですね、企業の新商品の発表会やったり、いろんな自由な発想で使い方はできるかなというように思っています。

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それからもう一つ。駅街区といわれるビルの南側に昔の東横線の、今、東横線は地下5階に入ってしまって副都心線と相互直通しているんですが、その東横線のあった跡地(跡地街区)に、新しいビルをもう1本建てておりまして。ようやくここに、東急ホテルズが180室のホテルを作る予定になっています。ここのビル自体が、クリエイティブハブを目指すということで、こういうクリエイティブコンテンツ産業の拠点となることを目指しております。ちょっとまだホテルの概要は決まっておりませんけども、あまり四角四面のホテルというよりは、もうちょっとそっちよりの雰囲気が出せるようになるといいんじゃないかなーという風に思ったりしております。いろいろググってると、東京だけじゃなく地方もそうですが、インバウンドのお客様が多いので、なかなかホテルの部屋が取りにくい状況になっているという風に聞いています。統計を見てみるとこの数年、あるいはこの1年を見ても確かに客室数は増えていますが、それを超えるインバウンドのお客様の増加があって、ビジネスホテルを中心に価格が上昇していますし、なかなか取れない状況があるように思います。私も専門ではないんですが、宿泊関連ビジネスを見てると、いろんなバズワードが出てきているなと。渋谷もこれから国家戦略特区を申請していって、いろんな規制緩和を受けようということで準備しております。キーワードとしては、2020というオリンピックをまず一つの起点としながら、近接性のある羽田の国際化も含めてインバウンドのお客さんがたくさん来ます。ただ、さっきも言ったような規制条例もありますので、バンバンホテルができるという状況ではありません。そういう意味では、イノベーションして街づくりに貢献していくとか、シェアエコノミーだとか、今日のバックパッカーズというようなとことか。うまく活用しながら、奥渋谷、裏渋谷みたいなところまで、そういった方々をお迎えするような環境を整えていければいいのではないかと思っています。

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官能的な街づくり

空き家対策とか、地方に行くと地方創生なんていうテーマにも重なってきます。あともう一つは東急沿線。渋谷ではないんですが、昨今出てるのが、さっきちょっとお話が出た民泊という話です。これも、いわゆる国家戦略特区の42事業といわれるものの中の一つで、いろんな規制緩和の項目がありますが、旅館業法の特例を規制緩和するのが1項目だけ、1地域だけ認められておりまして、それが大田区が手を挙げたものです。大田区は、羽田の国際化ということにかこつけて、自分の地元を民泊の特区にしようということで頑張ってらっしゃって。そういった意味では、大田区の地図でいうと、この一種住居と言われるような用途より上のところ、だいたいルールとしては民泊できるような形で緩和されているんで、半分以上、3分の2くらいのところは大田区のどこでも結構できちゃうというような感じになっています。ただ、留意点としては、近隣苦情対応、それから身元確認、消防法、建築基準法から滞在は7日間以上とか、宿泊者数や面積なんかも決まっていたり、実際やるには色々な規制があります。でも、大田区は特区を申請して、ものすごい短時間でパブリックコメントなんかも取りながら、わりと早く規制緩和にこぎつけました。大田区の行政指導ですが、結構期待するところは大きいようで、商店街と連携しようとかですね。これ民泊セットって言ってたかな。せっかく外国人に来てもらって民泊してもらったら、銭湯には黒湯があるから銭湯に入ってもらおうとか。そんなパッケージを用意されて、商店街とか公衆浴場組合なんかと連動しています。だけど、やっぱり一方ではゴミの問題とかですね、それから、火災の問題っていうのはすごく心配されてるようです。

そういったなかで本当に準備が良かった業者さんがありまして、早速認定第1号案件っていうのが出ています。私も現場、現物見ていないので、ネット上でしか分からないんですが、見たところ、綺麗な感じのリノベーションみたいな物件で。こういうのは、さっき向井さんが言っていたような、文化とか、コミュニティとか、交流とかっていうのがあるようなゲストハウスとはちょっと一線を画す、まったく違う代物なんじゃないかなという風に私は感じています。そういったなかで、街づくりをしている企画屋としては、最近、ホームズ総研というところの島原万丈さんという人がすごくいいキーワードを出してくれまして。都市の魅力度を測るものの中に『Sensuous City(官能都市)』、官能性というところをキーワードとして出してきました。ランキングされる信用としては、ちょっとまだ工夫が必要かなという部分がありますが、このキーワードに私はかなり惚れ込んでいまして。こういった視点で都市、旅行者、あるいは住んでいる方もそうですが、少し官能的な、単にエッチができるとかそういうところではなくてですね。旅行者として来たなら、朝から夜までこの街を堪能したいな、という感じの街になっていってほしいとは思います。そういう意味では、いろんな旅行者の選択肢は残してほしいし、あまり機能的なものばっかりじゃつまらないし。価格にも、常識ってもんがあるだろうと思いますし。都市というのは、いろんな機能が街中にもうすでに備わっているので、なにもその施設の中にすべてを整えてくれる必要はなくて。ホテルライクなものでいいのだと思います。そういったなかで、街の魅力を使い倒して、でも、なんか期待しちゃう要素がちょこっとだけ、1個でも入ってると嬉しい。そういったなかでこれから、たくさん雨後のタケノコのごとく、民泊ブームに乗って、いろんな業者さんが入ってきていますが、やっぱりいい民泊と悪い民泊、いいゲストハウスと悪いゲストハウスというのが、いずれはお客様の目によって淘汰されてくるのかなという感じを私としては思っております。ということで、今日は街づくり、抱かれたい街づくりを目指してということで、私の話を終わらせていただきます。ありがとうございました。

伏谷博之:ありがとうございました。もう一度拍手をお願いします。非常に様々な要素の入ったプレゼンテーションで、どの辺からお聞きしていこうかなと思いながら後ろで聞いていました。最初に向井さんに、バックパッカーって何?とお聞きしたいです、ただの貧乏旅行ではなくて、バックパッカーカルチャーっていうのがあるんだなと思うのですが、その辺り、少し説明いただいてもよろしいですか。

向井:バックパッカーっていう言葉の前にまず、バックパッキングって言った時代もあったんです。どうですか?バックパッキングって聞いたことないですか?どっちかっていうと、元々はもっとアウトドアな系統で。ロングトレードを歩くような、ようは、バックパックを背負って旅をする人ですよね。これがバックパッカーなんですが、後にヒッピーブーム、ヒッピーカルチャーなどと相性が良くて混ざりあったり、あるいはインドのゴアなんかで自然発生的に起こったゴアミュージックとか、そういったものと融合して。最近ではバックパッカーになるとか、バックパッカーがしたいですっていう人も出てきました。たとえば、高校生で受験生なんだけど、終わって大学に入ったら即バックパッカーになりますというような。う〜ん、バックパッカーになるってどういうことかなって、考えるときもあるんですよね。

伏谷:最近、世界一周してきました!みたいな若い人多いですよね。

向井:まあ、鼻くそですね(笑)。考えてみてください。世界一周チケットかあるいはLCC繋いでもいいですけど、たとえば3ヶ月くらいで15ヶ国30都市行ってきました。移動を除くと1都市あたりの滞在何日ですか?って話ですよ。こんなちっちゃな日本を3ヶ月かけて旅したって半分も見られないですよね。どうですか?北海道と四国と九州くらいでも、3ヶ月じゃ難しいんじゃないですか?そう考えたら、まあ、鼻くそだって話ですよね(笑)。それでも行かないよりはいいですよ、それはそれで貴重な体験だと思います。若い世代はどんどん旅に出て下さい。

伏谷:向井さんもバックパッキングして旅に出るようになったわけですけど。さっき後ろの楽屋でお話を聞いてたら、幼稚園くらいからDNAに刻み込まれた放浪癖というか、そういうのがあったと聞いたんですが(笑)。

向井:今から考えればなんですけど、幼稚園の年長くらいですかね。まだ自転車の補助が取れてなくて、後ろに補助輪が付いている状態で。日曜日なんかだと親が朝寝坊しますから、僕は朝6時くらいに自転車を出して「今日はこの道」って決めたらその道をひたすらまっすぐ行くんですよ、自転車で。補助輪がついてる年長といえども、5時間くらい飲まず食わずで走ると結構な距離進むんです。

伏谷:だいぶ行っちゃいますね。

向井:公園で休憩したりしてさらに走ります。それで、当然ですけど、まっすぐ来たつもりでも何回か曲がってるんですよね、実は(笑)。

伏谷:なるほど。人生のようですね(笑)。

向井:はい。それで帰り道は分かりません。だから、暗くなる前に近くの大人に「迷子になりました。家に電話したいので電話貸してくれ」って言って家に電話する。で、そのおじさんに代わって今の場所を説明してもらう。そうすると、親父が焦って車で来て、トランクに自転車を積んで家まで帰る。まあ、そのようなことをやっていましたね。

伏谷:もう年長さんのときから?

向井:はい。幼稚園の年長から小2くらいまで。そこから小学校いっぱいはおとなしくしてたんですが、また中学から病気出ちゃいました。

伏谷:中学だとまたスケールが大きくなって。

向井:そうですね。土日のたびに寝袋野宿1泊で千葉県一周右回り、左回りとか。私、千葉県の野田っていうところに住んでいるんですが、そこから自転車で勝浦まで10回以内しか道路に足つかないで行くとか。そんなことばっかりしていましたね。

伏谷:なるほど。東浦さんもこの間、昨日でしたかね?ちょっとお話伺ってたら、結構長距離歩いてますよね。

東浦:そうですね。僕は、小中学校くらいまでは比較的おとなしくしていたと思うんですが。さっき楽屋で話したときに、その行っちゃう気持ちは何かっていうと、その先に何があるんだろうっていうのですっていう話で。そこは同じで、僕もよくジョギングとか街歩きとかするんですが、とにかく知らない道があったら、路地とかあったら絶対行っちゃうので。どうしても魅力的な道を見つけたら走破したくなっちゃう。去年の暮れですかね、二子玉川から旧大山街道っていうのをどうしても歩きたくなって。夜8時にスタートして13時間歩き通して、60km。大山阿夫利神社まで行ってくるっていうようなことをやったりとか。そんなことはやるし、海外旅行に家族を連れて行っても、2~3時間必ず私はすっといなくなって、一人単独行動して知らない路地裏とか歩くっていうのは、やっぱり好きですね。あと、私会社30周年ちょっとなんですが、20周年になるとリフレッシュ休暇というのをうちの会社はくれまして。連続5日の休暇と10万円をくれるんです。で、土日土日をくっつけると9連休になるので、私はリフレッシュ休暇なんだから家族とは別々になりたい、一人旅させてくれって言ってね。一人旅に行って来ました。石垣島とか竹富島とか、激安のオフシーズンに。とにかく会社からもらった10万円以内で行くからということで、ゲストハウスとか民宿に泊まってずっと南の島にい続けたと。そのゲストハウスも、当時『mixi』やってたので、『mixi』で知り合った、会ったこともないゲストハウスの経営者のところに泊まらせてもらって、現地の人たちと三線弾いて楽しむとか。そんなことはやってましたね。

伏谷:一見プロフィールだけ見ると、異種格闘技的な集まりにも見えますけど、本質的なところでは似通ったところをお2人はお持ちなんですね。

向井:やっぱり呼ばれちゃうんでしょうね。お互いに(笑)。

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新市街地はつまらない

伏谷:旅をしていて、こういう街は面白くないけど、こういうところは面白いんだよね、という話を向井さんされてたじゃないですか。そのあたり聞かせてもらってもいいですか。

向井:街づくりのプロを横におこがましいんですが、旅人からしたら、まず碁盤の目のようになっているような、新しく作られた都市は面白くないんですね。

伏谷:京都は大丈夫なんですね。碁盤の目でも古いから。

向井:んー……。まあ京都はちょっと異種独特な、文化自体も独特ですからね。だから、やっぱり旧市街がいいんです。路地裏があって、どぶ板通りあって、舗装されてない道もあって。別にお金払って観光するところには僕ほとんど行かないので。結局は街歩きをしていて。不思議なんですけど、日本語どころか英語も通じない海外で子どもと爺さん、婆さんっていうのは、言葉分かんなくても通じ合えるんですよね。不思議ですよ。旅人と子ども。旅人と爺さん、婆さん。これがね、働いてる世代の人とかだとなかなか難しいんです。だからね、お互いに暇なもの同士っていうのは通じ合えるんです。これね、バックパッカーあるあるで旅の真実だと思います。あと、中国なんかで、お前ら麻雀牌でかいなーなんて言ってると、できるのか?座れとか言われて。分かんないながらも、一生懸命教えてもらいながら中国流の麻雀をやったり。そんなことが楽しくてしょうがないんですね。だからテーマパークとかは……。まあ、カジノくらいは一か八か、旅の資金を増やそうと思って行くこともありますけど。それ以外のテーマパークっていうのは、ほとんど行くことがないですね。

伏谷:なるほど。東浦さん、今の話を伺ってると、前にちょっとだけお話しした、丸の内みたいな街と渋谷の違いみたいなものと通じるところありますよね。

東浦:ありますね。僕もまったく旅行者目線、まあ、街歩きの目線もそうですけど、新市街地は全然つまんないですよね。やっぱり効率重視の街とか、ピカピカなビルとか全然興味ないので。

向井:あれは、やっぱり不動産利回りと利益とか利率とか。それを考えるからつまらなくなるんですよね。

東浦:そういうことですね。うちの会社も、昔はもっと親方日の丸的なほんわかした時代がありました。そのときって、企画を担当してる者の趣味性みたいなものが出せたんです。うまくいくならいいじゃないか、みたいな感じで。失敗したら大変ですけどね(笑)。ボロボロに言われますけども。最近はやたらと、なんとか率みたいなので全部計られて。この、なんとかレートがいってねーじゃねえか、みたいな感じで否決とかですね。もうちょっとなんとかならんのか、みたいなね。で、その裏には財務屋さんがいて、その裏には銀行屋さんがいたりする。投資家さんがいたりするんです。まあ、その人たちが一番つまらなくしてるような気はしてるんですが。相場感っていうことだけでいうと、一番この街の相場にぴったり合ってくるものを作ろうとすると、そういうものができちゃうんだけど、僕は相場ってあまり信じるなっていうか。自分で需要創造とか、相場を作っちゃうっていうほうが面白いし、そうすべきだと思っていて。そういう意味では、あんまりそういうレートとかを気にせず、自分で独自のマーケットを作って、人を呼んで、まったく相場とかけ離れた指標で考えるほうがいいんじゃないかなと個人的には思ってるんです。

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伏谷:なるほど。前に、渋谷の長谷部区長とパネルやったときにお話ししたんですけど。街づくりをするときには、インフラとか環境を用意するデベロッパーさん側とか、あるいはその区側の意図があって。そこに文化を育みたいよねっていうのが、必ずテーマとして出ていて。僕なんかも、いろんなエリアの勉強会みたいなのに呼ばれたりするんですが、どこに行っても、たとえば、ラボ的なものをここに作りましょうとか、なんとかラボを作ってITの若いスタートアップを入れましょうとか。あるいはシェアドオフィスをここに置きましょうとか、そのホステル的な宿をここに作りましょうとかいう話が、出てくるんです。箱としてはそういうものは用意できるけれども、じゃあ中身はどういう風に育てるのかみたいなところがあるように感じていて。その辺り、さっきバックパッカーカルチャーっていうのをお聞きしたのもそういう意図なんですが、世界を回って、地元の人たちと交流しながらできるだけ長い間接点を持って、滞在して、文化を吸収していくみたいなところの観点から見て、そういう最近の動きってどういう風に見ていますか。

向井:さっき言い忘れたんでちょっと補足なんですが。バックパッカーになりたいとか、バックパッカーやりたいって今の若い子たちが言うのにすごい違和感があるんです。バックパッカーしたいなんて思ったことは一度もないんですよね。ただ、持ち金を節約して、1日でも長く海外をほっつき歩いていたいから、そうするとあのスタイルにならざるを得ないというだけです。僕がものすごくお金を持ってたら、空港からずっとタクシー貸切で回りますよ。で、高級ホテルに泊まって、路地裏行けばいいじゃないですか。交流すればいいじゃないですか。ただ、なかなか人生はそうはうまくいかないので(笑)。日本人って華道、茶道、剣道、バックパッカー道みたいなね。節約道みたいなところまで、ちょっといきすぎちゃうところがあって。賛否両論あるんですが、好きな旅をしたいと思えば一人旅ですね。ところが、一人旅は寂しいんですよ。だから生まれる何かを糧として旅をしていた気がします。ところがですね、私、2年、3年前になりますか。生まれて初めてノートパソコンとスマホを持って海外旅行に行ったんです。あ~、これは今の若い人たちが言ってる旅と、僕が言ってる旅は違うものだって分かりましたね。

伏谷:どのあたりが違ってるんですか。

向井:やっぱりね、旅から孤独がなくなりましたね。

伏谷:繋がってるから。

向井:たとえば、日本を離れて10ヶ月。インドのカルカッタの、今でいうコルカタですね。そこの安宿の汚いベッドの階段の下、元々は掃除用具入れだったようなところをベッドに改造した一番安い部屋にこもっているような日本人が、「どうして俺はここにいるんだよ」「なんで俺はここにいるんだよ」「どうして来ちゃったんだよ」とかって頭抱えて泣いているような奴がいて。旅人が皆で共有している長旅の孤独感を自力で乗り越えなければいけない宿命なのが長期放浪者だからと知っていたので、嫌なら日本帰ればいいじゃんって結構みんな冷たかったりしましたけど。かっこよ過ぎちゃうけど、そういう孤独を枕に寝るとかですね。本当に誰も日本人がいない、知り合いがいない、下手すると英語を分かってくれる人が誰もいない。そのなかで、神経を研ぎ澄ませて、次から次へと状況判断をしていかないと国境は抜けられないとか、国境が抜けられなければ、ぐるっと回ると300ドルくらいロスする。もうその300ドルもバックパッカーにとっては大変なことですから、1日300円とか500円で生きてるのに。そういうなかで、くぐり抜けていくっていう孤独感との戦い。2ヶ月ぶりに日本人に会ったとき、まったく知らない人なのに思わず手を握りしめてしまうとかね。『女性セブン』が宿にあったのを見て泣きそうになったりですね。日本では一度も読んだことないのに。

伏谷:バックパッカー的な旅をしていても、今はネットで繋がっているから、そういったものがなかった時代とは変わってるっていうことですね。

向井:そうですね。『LINE』、『Skype』、『Facebook』。ほとんど自宅の部屋にいるのと何も変わらないことが安宿に居てもできますね。

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スーツの人が5割以上いるところは絶対成功しない

伏谷:最初は「海外でもこういうカフェを作りたい」といって作っていたものが、表層だけをコピーして、それらしくなんでもできちゃうような時代になっているなかで。きっと、ゲストハウスやホステルも、強い想いで作られているところと、上っ面だけちょっと真似して作ったみたいなものとが出てきているのかなと思うんですが、その辺の事情って、実際どうなんでしょうか。

向井:現在ですね、大手がインバウンド、東京オリンピックを踏まえて、これは儲かりそうだからって言って。いわゆる不動産投資利回りビジネスとして、一部上場企業なんかも入ってきています。銀行やファンドなんかと組んで、都内と川崎で合わせて6件、札幌1件、金沢1件という風に入ってきています。次々と。しかし、総コケです。

伏谷:総コケっていうことは、いわゆる大手参入しているホステルはうまくいっていないと。

向井:はい。同じような規模でやっている、バックパッカーあがりが作って大きくなった会社。たとえば、『カオサン』、『ケイズハウス』、『ジェイホッパーズ』という三大グループがありますが、そういうところの、わずか300m、400m、場合によっては500m。そのくらいのところに同じような規模の、同じような建物があるわけです。ところが、カオサングループのほうは年間通して90~95%稼働。それに対して、儲かりそうだからと新規で入ってきたところは、閑散期の平日などは30%稼働。もう見るも無残な状態ですね。

伏谷:それは、具体的には何の違いなんでしょうか。

向井:本当によく聞かれます。これから新規ににホステル出店しようとする企業からは、何らかの形で連絡が来て、計画を見せていただいて進言させていただくんですが、ちょっと分かりにくいかもしれないですけど、「仏作って魂入れず」って言うんですかね。仮に流行っている年間稼働率95%のものを綺麗にコピーしたものを隣のビルで作ったとするじゃないですか。まったく同じ、間違えちゃうくらい。なんだったら名前も同じにしてもいいです、試しに。それでもピタッと流行る方は流行って、流行らない方は流行らないんですよ。なぜかっていうと、やっぱりそこにバックパッカーマインドがないからです。地方なんか行くと特に思いますけど、個室バストイレ付き2,980円で朝食付き。朝食だってそこそこの朝食ですよ。そういうビジネスホテルの隣に、ぼろっぼろの家で、そこに500万円くらい握りしめた大学卒業して社会人経験なんてさほどないような若者が、2人とか3人で宿を作り始めて。友達10人連れてきて手伝わせて、ワークショップだって言って一般から20人くらい募って、ガテン系の人とかいろんな人集めて、ホームセンターでこれはどうやるんですかって一から全部教えてもらって作ったところにお客が吸い込まれていくんです。料金は、同額で相部屋でトイレシャワー別共用の素泊まりなのに。あるいは、企業が1億円くらいドーンといれて、これだったら利回り相当取れますよって、もうにやにやにやにやしながら電卓叩いて、こんな儲かっちゃっていいのかなって計画してたところが簡単に500万円のゲストハウスに負けてしまう。これが、バックパッカー相手のビジネスの非常に面白いところであり、怖いところだと思います。この世界だけは、日本でも非常に数少ない、極小、小、中、大すべての規模が共存できる世界なんです。異業種企業新規参入の大箱がみんなこけてるんです。なめすぎなんですよね。

伏谷:東浦さんいかがですか、今の向井さんの話を受けて。もちろん東浦さんたちも環境を作って、そこに魂を込めてっていうことをやってきていらっしゃるわけですが。

東浦:今の話は、ゲストハウスとかバックパッカーズだけの話じゃないなと思いながら聞いていました。不動産屋さんも、常に世の中のトレンドをウォッチしながら、次は何が儲かるんだろう、流行るんだろうっていうのは、ちゃんとリサーチしてますよ。そういったなかで、僕も20年くらいずーっといろんなことを企画してますけど、たとえば、賃貸住宅も昔は四角四面の賃貸住宅だったのに、今じゃ普通になりましたけどデザイナーズっていうのが流行った時代があります。デザイナーズ賃貸ってのを最初に名付けたのが僕の友達にいるんです。その人はうまく自分のビジネスに魂入れながらやっているんですが、デザイナーズっていうのをやると儲かるらしいって思った不動産屋さんが、うちもそのうちの1つかもしれないですけども、雨後のタケノコのごとく、なんちゃってデザイナーズ物件とか、よく分からないような独特のカテゴリーのものができてくると飽和していったりとか。デザイナーズが儲かるなら、大型デザイナーズがいいだろうとかね。80室ありますとか。そういう風にやっちゃってコケちゃったりとかも実はあったり。あと、スーパー銭湯が当たった。じゃあどんどんスーパー銭湯やろうとかね。シェアハウスとかも、大手はあんまり参入してはどうなのかっていうところはあるんですが、もう参入しちゃったりしてるんですけど。やはりシェア文化とか、デザイン文化とか、今のバックパッカーにも共通していて。なんかあれが当たっているらしい、儲かるらしいっていうと、大手さんがあの手この手で参入しますが、最後まで自分で面倒見る気はさらさらないですから。どこかオペレーターに任せてみたいなね。それでも、まだその気持ちの入ったオペレーターさんに任せている間はいいんですが、グループの管理会社に任せてデザイナーズを管理させようとか、シェアを管理させようとかとなると、そちらにはそういうメンタリティーも文化もないので無理ですよね。そういうことは、ゲストハウス以外でもそこら中で起こっています。

伏谷:なるほど。向井さん、『Facebook』でよく、新しい物件を見に行って「あ!やっちゃったね」みたいなこと書かれてますよね。あれは、具体的にどこを見てるんですか。

向井:物件を見て分かるというのもあるんですが、それ以前に、第1回目のミーティングがありました、大手さんなんかだと、施工部隊、デザイン部隊、コンセプト部隊、なんちゃら部隊って、本社陣営に運営会社、もう精鋭が集まって、そんな形で立ち上がるぞってやるわけです。で、そこそこの年齢で集まった人たちが、やるぞーって決起にビールかなんかを持ってパシャっと撮った写真を『Facebook』に1枚あげますよね。その写真をじーっと2分間くらい見て「ああ、これは絶対成功しない」って分かります。

伏谷:そこで分かるんですか(笑)。それはどうしてですか。成功しない人相の人がいるとか、そういうことですか(笑)。

向井:これ、感覚的なもので面白いんですけど、過去のゲストハウスやホステルのオープニングパーティーを見てきた経験としか言いようがないのです。たとえばオープニングパーティーって、1回のところとか、2回やるところ、3回やるところなどケースバイケース。まず、一番初めのオープニングパーティーって、たいていが業者さんとか仲間内、親会社、金融関係、そういう人たちを呼んでのパーティーであることが多いと思うんです。そこに、ダークスーツの人が5割以上いるところはハズしますね。ちゃんとバックパッカーマインドがある経営者だったら、カジュアルな格好でお越しくださいって必ず一言添えるはずなんです。箱をどんなに用意周到に作っても、そこにスタッフや旅人が入って宿っていうのは完成するんです。ところが、バックパッカー宿にいる人たちがスーツだらけというのだと、プレスやパワーブロガーが折角パーティーに来てくれていても、もうその写真を使う気にすらならない。せっかく参加者の多くがSNSに写真を投稿してくれても、それを見た人がスーツ族のおっさんばっかりがひしめいているホステルの写真を見て、自分が泊まる姿を投影できないですよね。スタート時点でホステルビジネスの基本的な立ち位置からほど遠いんですね。ズレズレなんです、メンタリティーが。

東浦:同じ経験がありますよ。その通りだなって思って。さっきのデザイナーズ賃貸ってうちもだいぶ前に、2000年の始まったころに、わりと早めに目をつけてやったんです。デザイナーズの世界では有名な事務所に手伝ってもらって、その世界の建築の人にやってもらって。見てくれはわりとデザイナーズ賃貸になりました。オープニングパーティー、スーツだらけです。で、デザイナーズ物件を見歩いている目の肥えた人に言われました。「ここ、雰囲気変だよ」って(笑)。そういうところはやはり共通しますね。

伏谷:面白いですね。僕なんか、前職のタワレコでは、お前らはなんで1年中シーズンの分からないような格好をしてるんだ、と言われて。逆に大人のTPOを学べみたいなことをすごく言われてましたけど(笑)。逆もあるってことですね。

向井:どの商売もそうだと思いますけど、世界観を売っていたりするわけですよね。たとえば、若くして大成功を収めた、2号店、3号店とかって伸ばしているようなホステルへ行くと、バーなんかがあって。そこに泊まらなくても飲みに来ている若者たちが、そこの社長と友達だとか、知り合いだっていうことさえステータスだったり、かっこよかったりするわけです。そういう、覚悟を決めて雇われない生き方を選んだその生き様、それらをも含んでの文化体験だったりするわけです。規模が小さくたって大きくたって、1億引っ張って作れる経営者もいれば、予定の半分の300万円でとりあえずオープンしちゃったっていうケースもある。オープンしながらも、宿泊客から日々2,000円、3,000円って頂くお金でセメント買って、今こっち半分は作ってるところなんです、みたいなところもある。でもね、年間の稼働率とかでそういうところが勝ったりするんです。これが、非常に面白い世界です。

東浦:それって別にそういう箱物じゃなくても、ホームページとか『Facebook』とかでもそうですよね。『Facebook』が広告媒体として有効らしいみたいな感じで企業がざわざわやり始めて、気持ちの入ってないページを作っても誰も見に来ない。むしろ、向井さんの『Twitter』のフォロワー数、何万人って言ってましたっけ?

向井:9万人です。

東浦:9万人のフォロワーがいるとかね。まあ、僕もそんなには多くないですけど、サラリーマンのわりにはっていう。

伏谷:かなりいらっしゃいますよ。

東浦:そんな感じで、その人が考えてることが面白いとか、人間、生き様が面白いってことでつくわけですよね。企業でも、企画した最初のやつは面白かったりするし、気合も入ってる。でも企業って人事異動があるから「うまくいったね、じゃあ君はもう次の部署でやって」って、2番目のやつが来た瞬間につまらなくなるとかね。そんなことも普通にある。別にゲストハウスに限ったことじゃないです。

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伏谷:では、そろそろ民泊の話にいこうと思います。全国的に宿が足りないという話になっていますが、向井さん、実際に足りてないんでしょうか。

向井:今日は、それを話しに来たんです。テレビで流れている情報、新聞で流れている情報、明らかにおかしいです。やっぱりね、国策なんですよ、これ。報道統制がされているまでとは僕は言いません。そんなことはないだろうと信じています。ただやっぱりね、国策に乗るっていう感じです。たとえばこの前の春節の報道。中国人の爆買いは相変わらずだけども、それだけじゃなくて、地方へ、奥へ、深く深くディープジャパンを楽しむ中国人たちが増えてきましたよって、どの局も全部同じ内容です。ほんとにおかしいですよね。どうして全局が同じ切り口なのか。こんな感じで今度の春節報道はよろしく頼むよ、ぐらいは省庁からあったのかなって。こんな風に考えてしまうくらい、まったく同じ報道。不可思議ですよね。

伏谷:向井さんの情報アンテナから入ってくる感じだとどうなんですか。

向井:サラリーマンの方々、役職つかない方々はもう本当に涙ぐましい。深夜バス使ったり、深夜喫茶とか、漫画喫茶とかで寝泊まりしてって言ってますよね。これ、事実は事実です。ちなみに、ホテルが足らないっていうのは、東京、大阪、京都、金沢、札幌、以上です。それ以外のところでは、ホテルが足らないなんて話、ちゃんちゃらおかしいですよ。だから、ホテルが足らないっていう一部の話と、全国的に宿泊施設が足らないっていうのと、オリンピックのほんの3週間ですか?の間、宿が足らなくなるっていう話を一緒くたにして、全国的に民泊やりましょうっていうロジックで伝えられているのは、非常に違和感を感じています。あと、情報が古いんです。たとえば東京。東京は2015年8月で解消されています。去年は、ふるさと旅行券があったのでシルバーウィークのあたりはとんでもないことになりましたけど、もしもあれが今後ないだとか、少し落ち着きを見せるっていうことであれば状況はガラリと変わっています。京都はすごくシーズナリティがあって、ゲストハウスの1泊3,000円が、冬には1,500円くらいになる。半値まで落ちてしまうんです。半値だったのが、ピークには倍に上がるんじゃないんですよ。ピークの値段がもともとのラックレートで3,000円、ちなみにゲストハウスってのは薄利多売と思われてますが、本当は薄利多売じゃないんです。かなり利益率良いんですけどね、びっくりするくらい。昨年9月の頭からシルバーウィークまでの間、とうとう東京が初めて、ドミトリーが1,500円くらいまで下がったんです。結局は、人気のあるところから埋まって、入れなかった人が溢れていくわけですから。人気が真ん中よりも下位のところがそういう値段で出してきたっていうのもあります。そして、東京は民泊の影響が非常に大きいです。東京の場合は店舗によるものの、ゲストハウスとかホステルを利用している外国人でバックパッカーって、実は3割くらいなんです。普通アジアを旅をするんだったら、一つ星ホテルとか、無星でもホテルに泊まるのが普通だというような層が、日本はアジアといってもさすがにちょっと高いので、いつも泊まってる金額くらいまでか、なるべく安く抑えたいとなります。そうすると、ゲストハウスかホステルになってくるんですよね。だから、普段はホテルに泊まるような層を(ゲストハウスやホステルは)取れてたんです。ところが今後、民泊に流れる人はどういう人かっていうと、人と交流したいとか、バックパッカーマインドがあるとか、そんなことは何にも関係ない中国系の方々が多い。そういう方たちは、誰にも会わない、誰にも文句を言われない、自分たちだけで自由にできる、家主が住んでない完全な一棟貸し、マンション1室貸しとか、一軒家一棟貸し。こういう民泊の方に流れたっていう。それはすごく影響大きいです。

伏谷:地方都市での民泊の影響についても聞きたいんですが。昔から、地元にあった宿泊施設への影響っていうのは出ていたりするんですか。

向井:地方っていうと、パッと浮かぶのは民宿だったりしますけど。民宿って、だいたい平均が年間稼働率35%くらいです。下手したら海辺の民宿なんていったら、3月でも厳しいでしょう。ゴールデンウィークくらいから9月、10月、釣りのお客さんが来る、そんなものです。11月から3月はお客ゼロとか、馴染みの会社が宴会やってくれるとか、そんなものではないですか。そんなところへ、民泊がなんの制限もなく解禁されていくと壊滅的なことになると思います。簡単に言うと、よく3万円とか300ドル介入とか、300ドル民泊って僕なんかよく言ってますけど。誰も幸せにならないというんですかね。月に3万円とか300ドルくらいを民泊で稼げる人がいっぱい出て、家族全部を養い、そのほかにも雇用を生み出してるような、小さくても頑張っている民宿とか旅館とかが食われて立ち行かなくなっていく。民泊だけでは食えないじゃないですか。そういう、スモールビジネスとも言えないような、マイクロビジネスを増やして、一体誰に何が得なのかと。

伏谷:東浦さん、どうですか。民泊って。渋谷から二子玉川あたりも需要としてありそうですが。

東浦:今日、出そうでまだ出てないキーワードが『Airbnb』。これ、知らない間にものすごく増えてるんだなと思って。検索してもいっぱいあるし、何しろ僕の知り合いでもやっている人いるし。代官山のマンションで。その人は、全部貸すんじゃなくて家族と交流してるっていう感じで、『Facebook』にもあげている方なんですけども。マンションの管理組合からこの間文句言われて、辞めざるを得なくなったって言ってました。一方で大田区で『Airbnb』をやっている方は、こういうマーケットを健全にもっと伸ばしたいと言って活動されてる人もいます。大田区の民泊基本は、さっきもちょっとお話ししましたけど、そばで見ていても性急な感じはしますよね。池上っていう街で我々も街づくりしていまして。街づくりワークショップを地元の方とやっているときにその話が出て、やっぱり地元のおじさまとかおばあちゃんとかは、なんかまだ気持ち悪いものを感じているんですね。民泊みたいなのが「うちの近所に来たら嫌よ」みたいな話は普通にされてました。さっき出ていた民泊第1号みたいな、どなたが借りるのか分かりませんけどね。オーナーはいなくて、契約すると7日間住めます、みたいな。

向井:取材宿泊させてくれと申し込んでるんですけど。

東浦:僕もね、申し込もうとしたんです。

向井:返事来ないんですよね。

東浦:僕もここね、泊まってから今日来ようと思ったんですよ。そうしないと、なんか言えないかなって思って。そしたらダメだったんですよね。

向井:結局大田区には260件の申請、あるいは問い合わせがあって。泊まれるという民泊マッチングサイトが試験的にっていうか、需要を喚起するために採算度外視で基準をクリアして始めたみたいなのが2~3軒のみなんですよね。要するにですね、(条件が)厳し過ぎてクリアするのも難しいし商売としてあわないんですね。僕はもうこれに関しては相当にグリグリやりまして。ちょっとね、最近、関係官庁に入れなくなってまして(笑)。

伏谷:入れない?入れないってどういうことですか(笑)。

向井:ちょっとやり過ぎちゃって(笑)。そのくらい突っ込んで色々やってるんですけど。春にはね、なんとか入れてほしいなと思ってるんです。シェアエコノミーって色々ありますよね。僕は、シェアエコノミーは、すごくいいと思ってます。『Airbnb』も、実は僕、すごくいいと思ってました。ただ、現状の日本の状態をつぶさにみると、馴染む国と馴染まない国があると思うんですね。最初から、1ヶ月、2ヶ月部屋空けるんで、貸してバカンスに出かけてしまうっていう。そういう習慣が元々あるようなところはいいですし。それから、オッケーになってる国でも、シンガポールなんかは非常に厳しいですよ。事業的な規模で民泊を運営していると、1回注意して、2回目見つかると日本円にして約1,200万円の罰金。そこまで厳しくなくとも最初はノーな国も多かった。しかし『Airbnb』のロビー活動が実を結び欧州でもオッケーに傾いた。どんどんオッケーになってる。フランスだってオッケーになってる。どこだってどんどんオッケーになってるって『Airbnb』側は言うんです。でも、年間に60日までとか、90日、120日までとか。やっぱり制限を設けていたりしています。『Airbnb』、『Couchsurfing』と、だいたい同じくらいに出てきて、結局『Airbnb』が大勝ちなんですが、『Airbnb』って、もともとの精神とか打ち出しは、自分が住んでいるところがあって、そんなに使ってない部屋がある。子どもがもう出ちゃったとかね。あるいは、ちょっと広いから1部屋空いているとか。そこを有料で貸しますよって。それで、暇なら夕食時に一緒に飲んでもいいし。次の日、日曜日だから、なんだったら観光案内でもしますよ、ぐらいな感じだったんですよ、最初は。今でもそんな感じで捉えられている国もあるんです。でも、日本では、大手不動産会社やマンション供給会社など、大手なんかが余っちゃってどうしようもない物件を何十万軒単位で民泊にぶっ込んでなんとかしようとか。『Airbnb』を使って一気に形勢逆転しようっていう大手事業者がものすごく入ってきちゃったんですね。法律できっちり決めるのがなかなか難しい仕組みとかシステムでもあるし、僕は日本ではちょっとそぐわないんじゃないかと思うんです。アメリカ本国では何が起きてるかっていうと、物件の持ち主は誰だって1ドルでも高く貸したいですよね。だから、普通の貧乏な大学生とか若年層の社会人に貸すよりも『Airbnb』として貸し出した方が儲かるんだったらと、『Airbnb』業者に貸し出すんですよ。そうなることで、家賃が高騰し、一般の学生とか一般の普通の労働者が住む場所が、どんどん取り上げられていってるんです。こういう状況もあるんです。

伏谷:それはマズいですね。

向井:だから、シェアエコノミー、シェアエコノミーっていうけれども、この『Airbnb』、まあ『Airbnb』だけじゃないですけどね。『エクスぺディア』が買ったホームアウェイなんかもありますけど。やっぱり、もうちょっと皆さんよく見てほしい。それで、惑わされないようにしてほしい。特に、シェアエコノミー推進の新経団連。正直、ネットの世界ってどうにでもいじって流れを作り出せちゃうじゃないですか、あの人たち。なんとでもトレンドを作れちゃう人たちなんですよね。

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旅人宿はリアルSNS

伏谷:さっき向井さんのお話の中にあった、ゲストハウス自体がデスティネーションになってるというのは、ちょっと新しいなと思って聞いていたんですけど。カオサンとかに遊びに行ってもロビーとかでみんなやってるじゃないですか、ネットで。リアルなノマドというか。そういった人たちの情報ネットワークみたいなところを、インバウンドに絡めて少し聞いてみたいんですけれど。

向井:これは私もカオサン社長の小澤さんと2人で話していて気づいたことなんですけども。ネットがこの世の中にある前から、旅人宿ってリアルSNSだったんですよ。東から来た人と西から来た人が出会って、国も宗教も年齢も違う。こっちの人は1年間旅してて、こっちの人はまだ旅に出て2週間かもしれない。でも、自分が行ったことがないところから来た人は、みんな先生なんですよね。すでに直近に見てきた人ですから。要するに『地球の歩き方』とか『ロンリープラネット』とか見たって、そんなの1年以上前の情報じゃないですか。ネットだってそうですよね。本当に昨日行って来たんだよと言う人に、どうだった?国境開いていた?みたいな。たとえば、タイとミャンマーなんかだと、実はみなさんが知っている以上に出入国している国境って凄くいっぱいあるんです。ただ、現地人同士は通れるけど外国人は通れない。国際国境といわれる外国人が通れる国境のほかに、現地人同士が便宜上通っている国境っていっぱいあるんですね。国境の幅は荷物担いで、担ぎ屋が通れればいい幅です。だからね、そこを外国人は通れないって言われるわけですよね。通れないって言われて諦める人もいれば、本当に通れないのかそこまで行って確かめて来ようって人もいるわけです。そんな情報が旅の安宿には集積しているんですよね。情報ノートって呼ばれるものがあります。特に日本語で書くと外国人読めないから、好き勝手書けたんです、昔は。今はね、外国人でも本当に日本語読める人増えちゃって困りますね(笑)。悪口書いてるとすぐに分かっちゃうっていう。

伏谷:この『世界目線で考える。』というイベントが、2011年に始まっていて。当時、カオサンの小澤さんにも来てもらって色々話をしたんですが、さっき向井さんがおっしゃっていたみたいに、(震災で)9割方予約がキャンセルになってっていうすごい大変な状況のなか、逆にカオサンに「今、日本はどうなってるんだ」とか、情報を求めて、いろんな問い合わせが入ってくるみたいなこともあったと聞いて。メディア役割をやっているんだなとそのときにすごく感じました。

向井:3.11以降、ロッカーの斉藤和義さんも「みんな嘘だったんだぜ」って歌ったりして、たいていの言葉はコマーシャリズムで嘘だったっていうのがばれちゃいましたが。そんなことを今更分かったのは日本人だけで。世界の人はみんな政府発表とか、企業が金出して書かせて流しているとか、宗教が金出してこういう風に流させてるとか。日常的にそれが分かってるなかで普通に生きている人たちは、現地から今帰ってきた人の情報が欲しかったんですね。それが、報道関係の人はホテルじゃなくて、ホステルだったんですよ。なぜなら、ベッドにいようが、ロビーにいようが、トイレにいようが、リビングにいようが、キッチンにいようが常にWi-Fiがキャッチできて、本国と連絡が取れて最新の情報が入ってくるから。CNNはこう言ってるけど実際現地はどうだったのか。その確認は、東京のホステルで行われていたんですね。プレスセンターじゃないんです。

伏谷:インバウンドにおいて、ホステルとかゲストハウスの役割は、実際にすごく大きいなと思っています。すでに、そこにたくさんの外国人が泊まっているわけですから、その人たちとどうやって接点持つかを考えてみたらいいんじゃないかと。その辺り東浦さん、いかがでしょうか。

東浦:今、ここにお邪魔する前にまさにそういうミーティングをしていまして。社内のミーティングだったんですが、やっぱり、爆買いを渋谷は取り逃していると。だから、なんとかそれを渋谷に呼び込めるように街づくりをした方がいいんじゃないかという意見の人がいたんですが、そこの会議に出てたかなりの大半が、それはやめようよと。長い目線で議論していたんで、今とかっていうならまだしも、5年後、10年後っていうことでいうと、そのために街の骨格を変えるのは、ちょっとナンセンスで。中国の方も、今は必需品を買って自分で使ったり、それを人に売るみたいなビジネスも成り立っているけど、数年後にはそんなのなくなっている可能性もあるし。民度がもっと上がったり、富裕レベルが上がってくれば、そんなものを買う人がいなくなってくるでしょうと。今爆買いがあるからといって、渋谷で爆買い対応をするのは、渋谷としては街づくり的に違うよねっていうので会議は終わったんです。うちがそう思っているだけで、ほかでやっちゃうかもしれないですけどね(笑)。あまりそういうことを意識するよりも、もっと多様な方が渋谷には来られているんで、そういった方々にきちっと届くメッセージとか、情報、あるいは、シームレスな環境でいけるとかっていうことをこれからはトライしたいなっていう風には社内で言っています。

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伏谷:時間が結構押してきましたので、話は尽きないんですが、ちょっと強引にまとめに入りたいと思います。その前にQ&Aやりましょうかね。

向井:ちょっと1点だけ質問させてもらってもいいですか。東浦さんに質問なんですけど。先ほど、渋谷は開発が色々あると。このなかでいろんなものを作っていくんだけども、渋谷の1点弱いところが、バスターミナルがないっていうお話あったじゃないですか。さっきの開発の中に、バスターミナルが入るビルってあるんですか。

東浦:あります。

向井:そのビルの話なんですけど、最初の一次的な図面には載ってないけど、実は国土交通省が裏でねじ込んできて、ホステルというほどでも、カプセルホテルというほどでもないけども、1000ベッド程度の簡易宿泊施設を作ったらいいんじゃないのかと。いいんじゃないのかっていうのは作れっていう意味ですよね。作ったらいいんじゃないのっていうことは分かるよねっていう形で、ものすごく強い意向があのビルに国土交通省から注がれてるっていう話がちょっと聞こえてるんですけど。

東浦:多分そのビルは、東急電鉄のビルじゃないんですよね。バスターミナルがあるっていうことだけで理解すると、元東急プラザがあったところですね。そこは、別に爆買いのバスを停めるためのものではないんですけども、まあバスターミナルで。そこのことだけ言うんだったら、ちょっとそれは東急不動産の方の話なんで、僕はあんまりコメントはできないんです。実は弊社でも数年前、ほんの数年前ですよ。まだ新しい物件開発のときにホテルを入れますって言ったら、バカか、お前はって、結構社内で怒鳴られて、怒られて、無視されて。ホテルなんて手間のかかって儲からないものやるのかって感じでですね。でも今は違います。どこかホテル入れるところないのかって経営層の方も新しい物件を見ると、これホテルにならないかと。すごいですね。そのくらいの勢いがあることは事実です。それがどこからのプレッシャーなのかは分かりません(笑)。

向井:そのバスターミナルが入るビル、バスターミナルは、羽田に入ったお客さんを近隣の温泉なんかに取られないで一旦渋谷へ持ってきて、渋谷で受け皿として受けようと。1時間、3時間、半日から1泊までプランを用意して、その代わり、2泊、3泊は泊めるような宿じゃない。あくまでも、簡易的なスペースっていうんですか。それで、そこにバスターミナルあるんで、バスは入れる。で、このバスが入るのに関しては、ここから日本中の、電車では行きにくいようなところも含めて外国人を全国へ送客しようと。なおかつ、英語対応がバシッとできる。サイトも窓口も運転手もある程度。そういうバス会社から優先的にどんどん入れていけばいいんじゃないかと。そういう意向が強く強くねじ込まれていると(笑)。

東浦:うちも含めて、すごくやりたいって言っている蒲蒲線と言われるやつですね。東急の蒲田から京急に乗り入れて、羽田まで行くっていうのができると、24時間化されてますから。羽田から真夜中に着く人もいるんだけど。電車が動いてる間であれば、最初に着くのがたとえば渋谷だ、みたいなことはありうる。だから、そこから来ている話かなとちょっと想像するんですけども。


伏谷:その辺で大丈夫ですか?(笑)

向井:大丈夫です。

伏谷:それでは、ちょっと時間が押してるので2人くらい。ご質問、もしくはご意見ある方いらっしゃいましたら。

質問者:都内でホステルを経営しております。これまでのゲストハウスとか、民泊の分析などを聞かせていただいたんですが、今後についてのご見解をお伺いしたいと思いまして。たとえば今、外国人、訪日観光客、去年2000万人届きませんでしたけども、今後これがますます増えるのか、それとも頭打ちなのか。もしくは民泊の業界がこれから爆発的にもっともっと流行るのか、それとも、そうじゃないのか。というようなお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。

向井:民泊なんですけど、今回、大田区が日本で一番初めに先陣を切って民泊オッケー区域内になったと。民泊オッケーになったといっても、大田区の中で民泊オッケー地域というのを決めて、その中だけですからね。ですから逆に言うと、そのほかの大田区区域で民泊をやってる人は急いでやめてください、あの人たち全部違法ですからねってことが決まったんです。で、あれがですね、どのような紆余曲折を経て、どういう圧力、誰が意見を出して決まっていったかっていうと、非常に強いのは、やっぱり既存の宿泊業界。それから警察ですね。この2つの意向が非常に強い条例となりました。決まった内容を精査、さっき言ったように260件の問い合わせとトライがあって、2軒しか今の所は開業できていない。特区というのは、本来はダメなものを片目つぶってオッケーにして、なんでもまずはやってみましょうよって、トライしてみましょうよっていうことなんですけど、あのルールだと全然トライできません。はっきり言うと、あれは民泊封じですね。民泊を封じるために作ったんです。オッケーにしましたよ、みなさんどんどん民泊やりましょう。でも、実際にはやりようがないです。あれだったら民泊じゃなくて、普通に旅館業法上の営業許可とってやる方が緩いです。

伏谷:グレーゾーンをあぶり出して、許可は出していないみたいな状態になってるってことですか。

向井:許可を出してないっていうのではなくて、これだともう商売として合わないってことですよね。通すまでに費用がかかって、運営にも手間が非常にかかる。だって、普通に旅館業法上の許可をとって運営するにも、大田区民泊は運営に手間がかかりますもん(笑)。大田区の場合ですよ。でも、あれに都内のどこも準じると言ってますし、大阪も準じると言ってます。実は、あの特区っていうのは、全国的に民泊を解放しなきゃならないから、逆に国の要所は特区に申請してそこに民泊が入れないように、防御したんじゃないかという話まで出ていて、これは笑い話半分ですけど。でも、そんな話まで出るくらいなんです。東京23区は民泊が最もやりにくい。日本で最も厳しい地域になるはずです。次に訪日観光客が増えるのかどうかですが、現在の訪日観光、インバウンドっていうのは、国策です。2つの国策。円安誘導。それからもう1つ、アジア向けのビザ緩和バブル。完全なインバウンドバブルを作り出しています。まだ有望市場でやってないのは、インドネシア。まだフリーにはなってません。人口だけは非常に多いです。ベトナム開けたところでそんなにすごい影響があるとは思えないです。インドも開けたところで、お金持ちだけでしょうね。ちょっと遠過ぎるかもしれないです。そう考えると、もうおいしいところはみんな開けてしまったので、ここからさらに2弾、3弾って今までのようなビザ緩和バブルは作り出せないと僕は思っています。

伏谷:東浦さん、いかがですか。

東浦:そうですね。民泊に限らず、さっき42事業あるといった特区、我々も旅館業法に限らず規制緩和は色々考えているので、特区という手法をとるとどうなのかと色々考えたり、トライしたりはしていますけど。民泊の事情ほど露骨なのかどうかは別として、やっぱり日本の特区という耳触りのいいものというのは、ドローンもセグウェイもそうでしょうけど、そんな簡単じゃないぞと。ほとんどみんなが諦めざるを得ないような状況が、競技場とかを作っていても確かにあると思うんです。だから、民泊のその裏事情に関しては、私は専門家じゃないので分からないですけど、推して知るべしみたいなところは感じます。

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伏谷:ありがとうございます。もうひと方よろしければ。

質問者:本日は貴重なお話ありがとうございました。世界目線で考えるというテーマと、今回の民泊みたいな宿泊者、外国人旅行者の目線で見たときに、昨年おそらく『トリップアドバイザー』さんが発表されていたなかで言うと、今の次から次へとホテルが建ち、稼働率が少ない大手さんもあるというなかで、非常に大事だなと思うことがありまして。それは、まだまだアクティビティが圧倒的に足りないんじゃないかということなんです。これは多分足りないんじゃなくて、日本にいらっしゃる外国人と、アクティビティを結び付けられてないという方が正しいんじゃないかと思っています。ここに関しては、ぜひ僕もこの先事業としてトライしたいなと思ってるところなんですが、たとえば、実際にその観光地に遊びに行った、でも観光しにくいとか。あとは、文化体験とかを求めて観光をされているにもかかわらず、どこで何の体験が楽しめるのかも分からなければ、どう楽しんでいいかも分からない。具体的には、ジブリ美術館のチケットを取るのに日本人に頼んでチケットを代わりに買ってもらわなきゃならないとか。そこがうまく結びついていないところで、『トリップアドバイザー』さんでは、世界で訪れて良かった都市として東京が世界ナンバーワンだったんですよね、でも、内訳をたどってみると、安全性であるとか、綺麗さであるとか、交通網であるとか。そこらへんは、圧倒的に世界を離して1位だったにもかかわらず、アクティビティの部分であったりとか、観光地の他言語表記ですかね、とかの部分が20位以下だったんですね。そこらへんにまだ僕は可能性を感じていて。先ほどのインバウンドを伸ばされる部分でも、ここらへんの取り組みとか、感じていらっしゃることをお聞かせいただければと思うんですけども。

伏谷:では、お願いします。

東浦:まさに、その通りだなと思います。渋谷も、爆買いはいいとして、インバウンドはやっぱり伸ばしていくとか、あるいはもっとお迎えしていこうという精神を今色々社内でも検討していまして。まさにその表記の問題、他言語表記の話は全然できていないんですね。特に渋谷って、日本人でも複雑で困っちゃうくらい。たくさんクレームもいただいてますけども、分かりにくかったりします。それは単純に鉄道事業者さんだけ、JRさんとかメトロさんとか京王さんと言うわけじゃなくて、工事期間中で通過も時々変わったりするので。全員がひとつの上できちっと案内できてるかっていうのを検証できてないものですから、時々変な案内が残ってたりとかですね、ましてや他言語変換できてないし、ピクトグラムみたいなものでも共通化できてないんですね。で、これを今、東京都さんなんかともやりながら、これから渋谷のひとつのルールでやってこうねという議論をしている最中です。それから、やっぱりもうちょっと情報発信とか、おもてなしとかっていうのは、もちろんタイムアウトさんも大きな役割の1つだと思いますけど、我々渋谷区もと思っております。渋谷区観光協会っていうのが一応あるんですけども、関係者がいたら申し訳ない、いないと思いますけども。ちょっとここがやっぱり、あまり機能を果たしていなかったりっていうこともあって。でも、来年度からは組織が刷新されます。そこに渋谷区さんも、我々も相当コミットして、渋谷区観光協会を軸にしながら、もっときちっと外国人の方に本当の渋谷、本当の東京を楽しんでいただけるような情報発信とか、お手伝いをしていこうというような準備を、今これからするところでございます。そういう意味では、アクティビティを繋げていくっていうのは大事なことだなと思います。

伏谷:向井さんいかがですか。

向井:『トリップアドバイザー』に操られない人生と旅ライフをぜひとも(笑)。以上です。

伏谷:(笑)

向井:ああいうランキングみたいなところ、どこのラーメン屋がどうとか、外国人が選んだとんかつ屋とか、大阪の美味しいもの屋ランキングとかアクティビティとか。ああいうのはですね、『トリップアドバイザー』にかかわらず、いかようにも変わっていきます。いろんな要素で、裏の大人の事情で。ですから、あまりそういうのにこだわることはないと思いますし、あと、そこまでもてなさなきゃいけないんですかねと。ごめんなさいね、僕ね、基本属性はバックパッカーなので、周到にお金を儲けるために用意された観光システムっていうのには人の何十倍も鼻が利くんです。物に定価が無い国を旅すると、嫌というほど物の値段とは何なのかを考え抜きますね。で、バックパッカーっていうのは、そういうのが大嫌いなんですね。自分で見つけて楽しむ。たとえばそういうの(用意された観光システム)だとしても、納得して「あ、確かに自力だとこの値段じゃ回れないな」とか。この短時間でこれだけ回れるなら、外すかもしれないけど行ってみる価値はあるかとかね。外国人が日本で困る看板や標識が読めない問題。バンコクなんかだって長いこと日本人はもう苦労して苦労して。バスのルートが分かんなかったけど、困ってるから結局は日本人の誰か住んでる人が自分の足で歩いてバスマップを作って。そしたらそれをタイ人がすぐにパクって、勝手に街角で、あっちこっちで売るようになって。まあそんなもんだと思うんですよ。そんなに表示に関しても、たとえば日本橋は「Nihon Bridge」なのか「Nihonbashi」なのか。「Nihonbashi Bridge」って書いてましたよね。そう書かなきゃダメなんでしょうかね。

東浦:そういうのはいっぱいありますよね。基本的には、いろいろ街にダイブして自分で路地の裏に入って体験することの方が楽しいと思っているので、僕はどっちでもないんだけど。やっぱりご意見のなかには、そうしてくれっていうのもあるし。東急グループのほうも、そうしようっていうのもあるんだけど。

向井:アクティビティいっぱいのアメリカンリゾートがお好みなのか、ゆっくり自分次第でどうにでもなるヨーロピアンリゾートがお好みなのか。っていうような趣向の問題もあるかもしれないですね。

伏谷: 外国人観光客に関してはターゲットが漠としてる状況を、少し深めていった方が良いのかなって思ったりしますね。外国人観光客もめちゃめちゃ多様化してると思うんですよ。多様な人たちが来ているので、こうやったらこうなるよねって単純なことではないなっていう風に思います。あと、地名も外国の人は日本人に聞ける方がいいですよね。だから、日本人が読んでる読み方で書いてある方がいいと思います。「Nihonbashi」って書いてあれば、その辺のお婆ちゃんにも、「にほんばし」どこですかって聞けるからいいけど、にほんブリッジ?ブリッジって言った瞬間、それが日本橋かどうか分からなくなるから、逆に案内が不親切になるってこともあるんで。できるだけ、地元の人が使ってるものがいいのかなって思いますね。

向井:浅草の雷門だって、どうやって説明したらいいんだろう。だいたい近くの宿の人は「ビッグ ランタン ゲート」って言ってますよね。

伏谷:そうですか(笑)。それは知らなかったです。

向井:おっきい提灯の門。

伏谷:それは世界的に結構浸透してるんですか。

向井:う~ん、それはどうでしょう。何百回も尋ねられて説明する経験の中で、それがい一番伝わりやすいのでしょう。

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いい民泊、悪い民泊を目利きできるように

伏谷:さて、だいぶ白熱して30分も押しています。面白い話がたくさん聞けました。最後に、東浦さん、どういう街を作ったら面白いですかね。民泊とかホステルとか、いろんなものをミックスして。

東浦:なかなか難しいんですけど。邪悪な投資家というか、こう1円でも、1%でもって言ってる人が支配してる世界じゃない方が良くなるなとは思うんですね。そういう意味では、その小商いというか、韓国はさっき(ホステルが)ものすごく多いのにっていう話を聞いて。僕は、昔韓国人の部下がいた経験から、韓国の人間って大きな組織に雇われるというよりも、自分で商売できるならやっちゃうっていう民族性っていうか、文化性があるっていうので、多分そういう風に流れていったと思うんですけども。日本人って、どっちかっていうと大きな組織に入りたがる、まあ一般的にいうとね。最近、安全志向が行き過ぎちゃって、若い人ほどそういう風になってる可能性もあるんですが。やっぱり、500万円握りしめて、自分の夢と度胸で、みたいなね。リスクはちょっとあるけどみたいな感じで、やれるような人が多く出るような社会になるってことと。それから、どうしても儲かるからっていう気持ちがあって入ってくる人は、防ぎようがなくて絶対入ってきちゃうんですけど。ユーザー側の意識が、いい民泊、悪い民泊っていうのをきちっと目利きできるようになって、きちっと使っていく。で、本当に良い体験ができる、シェアできるっていうような、本当の意味でのシェアエコノミーをみんなで作っていけば、だんだんそういうものも排除できるのかなという風に思います。そんな感じぐらいしかないですかね。あとは、その投資家側に最近ESG投資とかっていって、環境とか、社会的インパクト投資みたいな感じで良いことの方にむしろ利回りを投資するっていう人も若干ながら投資家として出てきたので、そういう人たちのピュアな気持ちを信じて、そういうものを応援していくような文化ができると多少はいいのかなって風には思うんですけどね。

伏谷:なるほど。ありがとうございます。じゃあ向井さん最後。

向井:官民でもう第6回、去年から6回くらいになるんですかね。いわゆる特区ではなくて、全国的に民泊どうするのかっていう話し合いがされているんですけども。その話し合いのなかで新たに出てきた、すごくキーポイントになるんじゃないかっていう民泊に対する考え方があるんです。自分が住んでる物件でやるものと、空いてる物件を借りてまでやるもの。あるいは、自分のまったく住んでない物件を民泊、『Airbnb』に登録してやるっていうのは分けようじゃないかと。自分が住んでいるマンション、自分が住んでる自宅の1部屋を貸すっていうのと、事業的に5千とか1万とか1万5千件とかを、『Airbnb』へ流し込んでやるというものを分けてやろうじゃないかと、それを一緒に考えるのは、シェアエコノミーという立場から見てもおかしくなってしまう。そこを分けて考えるやり方ができるのであれば、分けませんかっていう意見が出てきて。僕はこれはすごく現実的だなと思って。もしかしたらピタッとはまる可能性があります、日本っていう風土に。ですから、まだまだ民泊については、非常にグラグラグラグラとしていて。衆参同時選挙なんていう話も出ていますけど、政権交代がなくても、何がどういう力学で、どうなるか分かんないです、正直、民泊は。

伏谷:期待感はあります?それともないですか。

向井:ん~。日本にはまるものが出てきたときには、また日本人がミラクルなことを起こすような気がします。日本人、すごいところありますから。

伏谷:それでは、長丁場となりましたが、非常に多岐にわたる面白いお話をありがとうございました。

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向井通浩(むかい みちひろ)

日本最大級のバックパッカー情報集積サイトJapan Backpackers Link 代表にして週刊『バックパッカー新聞』創刊編集長。若き有望な旅人を発掘する目には定評がある。 ホステル・ゲストハウス・バックパッカーズ専門ニュース配信サイトGuesthouseToday編集長。日本で唯一のホステル&ゲストハウス・ジャーナリスト。民泊にも精通した専門家。各種TV・ラジオ・新聞・雑誌・ネット媒体へこの分野での寄稿や情報提供者、コーディネイターとしても知られる。

中学2年より国内自転車旅行、高校2年より世界一周を誓い海外バックパッカーを始める。大学卒業と同時に長期海外放浪を繰り返す。更生しようと数年勤め人をするが「旅バカ」という不治の病と認識する。モットーは「誰もやらないなら俺がやる」。現在も世界一周中でたまたま日本に沈没中。


東浦亮典(とううら りょうすけ)

東京急行電鉄株式会社 都市創造本部開発事業部事業計画部 統括部長
1985年 東京急行電鉄入社。自由が丘駅員、大井町線車掌研修を経て都市開発部門に配属。
1992年 東急総合研究所出向。
1995年 東急電鉄復職、以降商業施設開発、コンセプト賃貸マンションブランドの立ち上げ等を担当。
現在は、東急沿線のマーケティング、ブランディング、プロモーション、エリアマネジメントを担当。

http://www.shibuyabunka.com/

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