トークイベント『世界目線で考える。訪日観光マーケティング総括編』を開催
Photo: Time Out Tokyo Editor

世界目線で考える。訪日観光マーケティング総括編

マーケティング目線を持つために必要なこととは

Mari Hiratsuka
テキスト:
Mari Hiratsuka
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毎回多彩なゲストを迎え、訪日観光や夜間経済など様々なテーマで意見を交わすタイムアウト東京主催のトークイベント『世界目線で考える』が2017年12月14日(木)、恵比寿のタイムアウトカフェ&ダイナーで開催された。今回のテーマは「訪日観光マーケティング総括編」。ジャパンショッピングツーリズム協会専務理事/USPジャパン代表取締役社長の新津研一と、トリップアドバイザー代表取締役の牧野友衛の2人をゲストに迎え、インバウンドツーリズムのマーケティングをキーワードとして議論した。

新津研一

第1部では、ゲストがそれぞれの取組みを紹介。伊勢丹で19年間新規事業を担当し、現在は一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会の中心人物としてマーケティングに関わる新津が登壇。

「インバウンド事業に関わってきた5年間での一番大きな変化は、マーケットや自身の価値観。外国人が増えたのは、訪日ビザの緩和が要因で、5年前は犯罪が増えるという理由で反対派が7割だったが、今ではビジネスの相手として普通になった」と振り返った。

新津は、eコマース(電子商取引)とインバウンドビジネスには共通点があり、マーケティングのヒントが隠されていると言う。共通点として、「マーケットのサイズ」と「多様なアピール」の2点を挙げた。「たとえば、eコマースでは、1万人のマーケットを狙うのではなく、10人のマーケットを1000個集め、消費者のニーズに合わせたカスタマイズをした発信をしている。これをインバウンドに当てはめると、韓国語のページを作成したとしてもインド人には響かないというように、1つの見せ方では客を取り込むことができない。多言語で異なる国々の人たちに発信をしていくなど、見せ方を工夫することが必要」と強調した。

発信の方法として、インバウンドやeコマースでは、買ってもらう前に関心を持ってもらうのが重要なポイント。新津は具体例としてマツモトキヨシを挙げた。「マツモトキヨシでは、1つの商品の関心度を増やすことを重点にしている。類似品や関連商品は置かず、その商品に集中させて徹底的に売るといった取り組みをしている。どう定着してもらうかロジカルに導き出すことが大切」。

この3年間でインバウンドに参入する人は増えたが、やめてしまった人も多い。「これまで国内の1億3千人のことしか考えていなかった経営者が、巨大化したインバウンドマーケットをどうすればいいか分からなくなってしまったことが理由」という。新津は、インバウンドに参入するときの陥りやすい罠として、以下の3つを挙げた。

1.外国人とコミュニケーションをすることを楽しんだだけで終わる

2.マーケットが大きいため、様々な取り組みに無謀に挑戦してしまう

3.自分たちのフレームワークに閉じ込めてしまう

新津は「自分たちのフレームワークやセオリーに閉じ込めてしまうことが最も危険」と振り返った。

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牧野友衛

2016年から牧野が代表取締役を務めるトリップアドバイザーは、ホテルやレストラン、観光施設など旅行に関する口コミサイトとして2000年にアメリカでスタートした。旅行アプリとしても世界で4.2億以上のダウンロード数を誇り、世界一だ。牧野は、2017年のインバウンドビジネスの考察と、2018年以降のトレンドの行方について話した。

近年、インバウンド業界では、「モノ消費からコト消費へ」と言われている。日本ならではの体験を求める訪日外国人旅行者が増えてきており、トリップアドバイザーで去年より口コミが増えたことを定義に施設のランキングを出したところ、トップ10はすべて、着物の着付けや料理教室(寿司作り)などの体験型施設。レストランでは、地方の店が上昇中で、訪日リピーターが増え、日本各地に足が伸びていることが分かる。

この結果から、2018年の観光のトレンドは、体験を求める人がさらに増加すると予測。一方で、トリップアドバイザー全体に目を向けると、スペインのサグラダ・ファミリアの口コミが一番多く、モノからコトに完全に移っているわけではないことも指摘した。

牧野は、マーケティング目線を持つために必要なこととして、公開データの活用を挙げた。「観光と旅行についてのデータは、観光庁や国土交通省の公式サイトなどで無料で公開されている。アクセス動向や滞在日数などのデータを分析して活用すべき」と力を込め、「マーケットを知らない人にビジネスを提案するとき、データが必須。データを集めていたことが、マーケティング的な目線からインバウンドにアプローチできていた」と自身の経験を語った。

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第2部では、タイムアウト東京代表の伏谷博之が聞き手として参加し、第1部の話題を踏まえながらトークセッションが繰り広げられた。前職で、伊勢丹の売場作りや新規事業開発などに携わっていた新津と、Twitter JapanやGoogleなどネット企業で働いていた牧野。異業種からインバウンドの世界に参入した登壇者たちだが、今の業界に入って疑問に感じたことはなかったかと、伏谷は2人に尋ねた。

新津は、ポテンシャルはあるが発想が乏しいことを指摘し、「旅行業はマーケティング目線が欠落しており、消費者の反応を見ていない。旅行業は、『B to B』の商売を行っており、ホテルから仕入れ、それを卸すという代理店としての機能に留まっている」と苦言を呈した。

牧野も「ネット業界は、スイッチングコストが低く、少しでも不満が出るとユーザーを失う。なので、常にユーザー目線で考えてきた。トリップアドバイザーの代表になった2016年に参加した会議で、お客さんの目線から距離を感じる旅行業界の現状を目の当たりにして驚いた」と語り、両者ともユーザー目線の欠落に驚いたようだ。

訪日外国人市場は、ここ数年、順調に成長を続けている。伏谷は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが約1000日後に迫り、特に感じた変化はあるか2人に尋ねた。

牧野は、「当初は外国人の『お客さん』という大きなくくりだったが、欧米豪、アジアと組み分け、それぞれをターゲットにした事業のほか、日本のブランディングの強化をこの半年に良く聞くようになった」。新津は、「1000日を切ってから、真剣に英会話に通う人が増えた。ただ単に増えただけではなく、訪日外国人数が増え、街を歩けば多くの外国人と直に接する環境があるため以前よりも学びが早くなった。自分たちの進化を感じた」と話した。

インバウンド事業は未だ手探りの状態。だが今回のトークセッションを通じ、多様性への対応とデータの探求の重要性が浮き彫りになった。伏谷は、「外国人対応のヒントは日本人対応にある。多様な働き方や考えが増えてきた昨今、日本人同士でも説明し合わないと分からないことがあるのが当たり前。国籍というくくりで考えるよりも、個人のニーズを考えたサービスが重点になっていく」と締めくくった。

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