久慈バイオマスエネルギーによる菌床シイタケ栽培プラントと熱供給プラント(右)
撮影:北村和也久慈バイオマスエネルギーによる菌床シイタケ栽培プラントと熱供給プラント(右)

岩手県久慈市に見る「地域を元気にする再生エネ」

エネルギー地産地消の実践現場から

編集:
Time Out Tokyo Editors
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テキスト:北村和也

日本で北海道に次いで面積の広い県、岩手県の海沿いに人口3万数千人の小都市、久慈市がある。東日本大震災では津波で犠牲者も出した。この市を一時有名にしたのは、10年近く前にここを舞台に放送された朝の連続ドラマ「あまちゃん」であった。その後光(ごこう)が消えかかる中、今度は「エネルギーの地産地消」という新しい言葉で市に注目が集まっている。

エネルギー地産地消とは、脱炭素時代の切り札である再生エネを地域内で拡大、活用する仕組みで、流出していた電気代などを地元にとどめることなどから、脱炭素だけでなく地域経済の活性化にも寄与するとされる。

久慈地域エネルギーの若林社長(左)、久慈市の遠藤譲一市長 出典:久慈地域エネルギーウェブサイト

このエネルギー地産地消の核となる会社が、4年前の2018年に誕生した。自治体も出資する地域新電力、「久慈地域エネルギー」だ。宮城建設という地場の建設会社を筆頭に久慈市に本社のある民間企業数社と市が資本を出し合っている。まさに久慈エリア100%の会社である。全国に自治体新電力は70社程度あるが、エリア内だけで構成されるケースはたいへん珍しい。

設立に当たっての動機は、事業利益ではなく、人口減少が続く地元に対する危機感であった。少しでも資金の流出を食い止めて、久慈市を元気にしたいという思いがそこにある。久慈地域エネルギーの現社長である若林は、「地元の衰退を何とか食い止めたい。儲けは考えていない。」と強調。 新電力の名の通り、市内の公共施設や民間企業、一般家庭への電力の小売りを行っている。供給先を着実に拡大するとともに、地域内の再生エネ発電所からの電力調達も増やしている。

例えば、全国有数量の水力発電所を運営する岩手県の企業局と組んで、久慈市内にある滝ダムから電力を購入し、市の文化施設であるアンバーホールなどで利用している。

地域の金融機関、岩手銀行とのコラボレーションで、太陽光発電の設置を進めていて、新しい再生エネ電源の開発にも積極的だ。電気代の高騰など厳しい事業環境ではあるが、余剰利益の一定額を市に寄付し、子育て対策などの施策に役立ててもらっている。 この地域はもともと郷土愛が強く、域外に出ても地元に戻りたいと考える人が多いと聞く。

また、岩手県では総合計画のメインテーマに「幸福」を据え、毎年「いわて幸福白書」をまとめている。抽象的な言葉を県の目標として掲げるのは、日本でここだけである。地域を愛する強い力が、久慈市では自治体新電力にたどりついたのかもしれない。

市は、自治体新電力を機に、脱炭素に積極的に動いている。国際的な再生エネ電力利用の協議体、RE100の自治体・中小企業版である「再エネ100宣言 RE Action」に参加、環境省が進める「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ宣言」も表明済みだ。

もうひとつ久慈市には、特筆すべき再生エネの取り組みがある。地域主体のSPCであり、国内最大級の再生エネ熱供給会社、久慈バイオマスエネルギーによる熱供給とキノコ栽培だ。地元で廃棄されていたバーク(木の皮)を燃料に使い、60もの巨大ハウスで菌床シイタケ栽培を行っている。

久慈バイオマスエネルギーによる菌床シイタケ栽培プラントと熱供給プラント(右)撮影:北村和也

また、余剰熱を使って乾燥させた木質チップを久慈市内の複数の施設へ供給しているほか、久慈地域エネルギーとの連携も進めて、地域経済に加え、脱炭素化にも大きく貢献している。

自治体新電力設立、地元のダムの電力調達、木質バイオマスの熱利用と久慈市と地元企業の挑戦は、着実に地域の経済循環を生んでいる。題目だけでなく、実践としてのエネルギー地産地消がここにある。

なお、久慈市は2022年11月1日に発表された環境省が募った2回目の「脱炭素先行地域」に選定された。

※本記事は「UNLOCK THE REAL JAPAN」6号に掲載された記事を翻訳し、転載。

北村和也

北村和也

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、株式会社日本再生エネリンク代表取締役。1979年民間放送テレビキー局勤務。ニュース、報道でエネルギー、環境関連番組など多数制作。番組「環境パノラマ図鑑」で科学技術映像祭科学技術長官賞など受賞。1999年にドイツへ留学。環境工学を学ぶ。2001年建設会社入社。環境・再生可能エネルギー事業、海外事業、PFI事業などを行う。

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