江藤誠
Photo: Keisuke Tanigawa | 江藤誠
Photo: Keisuke Tanigawa

「ダサい毛布」が今一番かわいい、江頭誠インタビュー

「必要とされなくなったもの」に新たな価値が宿り、新しい「かわいさ」に変わる

Mari Hiratsuka
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タイムアウト東京 > カルチャー >「ダサい毛布」が今一番かわいい、江頭誠インタビュー

ふわふわの起毛に、大胆な花柄。どこか温もりを感じさせる「花柄毛布」は、戦後の日本で独自に広まった存在だ。

江頭誠は、毛布に残る体温や生活の痕跡、時間の堆積を見つめ、日本の民芸品や日用品、さらには空間そのものまでも毛布で包み込み、独自の世界を作り上げてきた。

2015年、霊柩車(れいきゅうしゃ)を毛布で覆った作品で「岡本太郎現代芸術賞」の特別賞を受賞。さらにGUCCIの映像作品『Kaguya by Gucci』(2022年)の美術を手がけ、その名は広く知られることとなる。

懐かしいのに、どこか落ち着かない。違和感があるのに、なぜか心地いい。その曖昧な感覚こそ、今私たちが引かれている「かわいい」の輪郭なのかもしれない。

Time Out Magagize
Ardirection: Steve Nakamura | Photography: Naohiro Tsukada

―『Time Out Japan Magazine』特別号の表紙に登場する盆栽作品は、どのようなきっかけで制作されたのでしょうか?

「銀座 蔦屋書店」での個展の際、盆栽と本屋とカフェが混ざり合ったあの空間に盆栽の作品を置くこと自体が面白いと感じたんです。もともと自分は花柄毛布を使った作品を10年ほど続けてきていて、柄のいい部分だけを切り取って作品にしていたのですが、ほかの残りを捨てる行為が「動物の皮をはいで剥製を作る」感覚に近いと気付いて。

その違和感から、毛布を裁断して綿を詰め、剥製のような形にする作品を始めました。盆栽も、生き物を人間がコントロールして形づくるという意味で、その延長線上にあると感じています。人間のエゴと言い切っていいのかは分かりませんが、そうした感覚に興味があるんです。

江頭誠
Photo: Keisuke Tanigawaアトリエにて

―花柄毛布という素材に着目したきっかけを教えてください。

僕は三重県出身で、東京の大学に進学して一人暮らしを始めました。部屋の家具はわりとシンプルにしていた一方で、毛布だけは実家から持ってきた花柄のものを使っていたんです。

友達ができて、部屋に遊びに来ることになって、その毛布を見て「ダサい」と言われて。急に自分の感覚が揺らいで、すごく恥ずかしくなったんです。しかもその毛布は母親から譲り受けたものだったので、それを笑われたことへのモヤモヤもあって、いろんな感情が重なりました。その経験が残っていて、いつか作品にしようと思っていたんです。

―最初に作った作品はどのようなものでしたか。

最初の作品は、大学の卒業制作で制作したものです。『大阪冬の陣』というタイトルを付けたいと思ったのがきっかけで、毛布を使って高さ2.5メートルほどの大阪城を作りました。

当時はまだ花柄そのものを強く意識していたわけではなく、あくまで素材として使っていたという感覚です。柄を切り取ることもせず、生地として裁断して、ぬいぐるみのようにミシンで縫い、綿を詰めて形を作っていきました。

―花柄毛布の歴史を教えてください。

諸説ありますが、寝具メーカーの西川で働いている方に聞いたのは、戦後、日本に西洋文化への憧れが広がる中で、バラ柄のような西洋的なモチーフが炊飯器やポットなど、さまざまな日用品に取り入れられた時期があったようです。その流れの中で毛布にも花柄が広がったのではないか、ということでした。

自分たちの文化に対してのコンプレックスだったりとか、そういったところから流行したんじゃないかというところと、花柄は汚れが目立ちにくいという実用的な理由もあったんでしょうね。

江頭誠
Photo: Keisuke Tanigawaアトリエにて

―毛布はどうやって集めているんですか?

主にフリマアプリや「ジモティー」で探しています。メッセージでやり取りをして、「○○小学校の前で」などと待ち合わせて、知らない人が毛布を持って現れて、それを受け取ってお金を渡し、そのまま別れる。毛布一枚のためにそういうやり取りをしに行く、その体験自体がすごく面白いんです。

ただ物を手に入れるだけじゃなくて、そこに人との関わりや、小さなエピソードがどんどん積み重なっていく。そのプロセスも含めて、自分では大事にしたいと思っています。

江頭誠
Photo: Keisuke Tanigawa

―招き猫や木彫りの熊など、日本的なモチーフを包んでいる作品もありますが、それらはどのような視点で選んでいるのでしょうか?

リサイクルショップで探すことが多いですね。選ぶのは「もう必要とされなくなったもの」がほとんどです。でも本当に価値がないわけではなく、置く場所がなくなったり、時代に合わなくなっただけだと思っていて。そういうものを包み直すことで、新しい見え方や価値を与えたい。「ダサい」とされてきたもの同士をあえて組み合わせることに面白さを感じています。

―作品には、命を与えているようでもあり、同時に弔っているような感覚もありますよね。

そうですね。まさにそうだと思います。「成仏させる」という言い方が正しいのかは分からないんですけど、一度見捨てられたものをもう一度拾い上げて、何か別の形で送り出すような感覚はあります。

自分の中には、もともと「死」に対する強い意識があって。死ぬこと自体も怖いですし、それ以上に、自分以外のものが死んでしまうことが怖いんです。

だからこそ、怖いものに近づいていくような感覚で作品を作っているところがあります。弔うことで、あるいは触れることで、「死んでほしくない」「失いたくない」という気持ちに向き合っているのかもしれません。

江頭誠
Photo: Keisuke Tanigawa個展『アーティスト・プロジェクト #2.09 江頭誠 夢見る薔薇~Dreaming Rose~』展示風景

―ご自身では「かわいい」を目指して、制作しているわけではないんですよね。

そうですね。最初から「かわいくしよう」と思っているわけではありません。どちらかというと、怖いものや気になるものに近づいていって、触れてみた結果、「あれ、意外とかわいいじゃん」と感じる、そんなプロセスなんです。

すごく怖いと感じる対象があったとして、それに近づくために毛布を貼ってみる。そうすると、距離が縮まって「なんだ、そんなに怖くないかも」と思えるようになる。結果として、「かわいく見えてくる」という感覚に近いですね。

基本的には、毛布のような素材を使えば、どんなものでもある程度かわいくなると思っています。あのもこもことした質感や、ぬいぐるみのような手触りは、それだけで生き物らしさを感じさせるので。

―全国のリサイクルショップを巡っているということですが、おすすめのお店はありますか?

相模原の方に行きつけのリサイクルショップがあって、そこはもう桁違いの物量なんです。プレハブや車庫のようなスペースがいくつもあって、物がぎっしり詰まっている。値段は基本的に付いておらず、全部交渉制なんですよ。

あまり交渉し過ぎると、お店のおじいちゃんに怒られることもあるんですけど(笑)。そういうやり取りも含めて面白いんですよね。

あとは、八王子の近くに住んでいるのでよく行くのが「ハードオフ」ですね。八王子の大和田店は、ハードオフの「聖地」みたいな場所で、YouTuberの方にもよく取り上げられています。

江頭誠
Photo: Keisuke Tanigawa個展『アーティスト・プロジェクト #2.09 江頭誠 夢見る薔薇~Dreaming Rose~』展示風景

―埼玉県立近代美術館で開催されている『夢見る薔薇』という展示は、空間の中に配置された犬のモチーフが印象的でした。あの存在にはどのような意味があるのでしょうか?

実は小さい頃から犬をずっと飼いたかったんです。でも父親が許してくれなくて。僕の住んでいた地域は、ほとんどの家が犬を飼っているような住宅街だったので、友達の家に遊びに行っても、家の中には入らずに犬小屋にいたり、そのまま一緒に散歩に行ったりしていました。

そういう背景もあって、作品のモチーフとして犬がよく登場します。

―今後、新たに挑戦したいことはありますか?

これまでは、自分の内面を語るような作品が多かったと思うのですが、相手の話も引き出せるような、作品を通じたコミュニケーションの在り方を考えていきたいと思っています。

その試みとして、4月の虎ノ門「SIGNAL」での展示では、人から譲ってもらった毛布で作品を作ることにも挑戦しています。海外の方の反応にも興味がありますし、例えばメキシコにおける「ダサい」とされるものなど、国ごとの価値観の違いも見てみたいですね。

また、以前から関心のあるリサイクル品や毛布のように、誰かが使った後のものにある気配についても、もう少し掘り下げていきたいです。 今後はそうした感覚も含めて、例えばお化け屋敷のような形で表現できたら面白いなと思っています。

今後の展示情報

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