1. 銀座
    Photo: Keisuke Tanigawa
  2. 鼎談
    Photo: Time Out Tokyo
  3. 銀座マップ
    Design: Matthias Corbeel

銀座が紙のガイドマップを作り続ける理由

タイムアウト東京のマップ「銀座でしかできないこと」は9年目、累計9シリーズを発行

テキスト:
Genya Aoki
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かつて、街歩きや観光の際、誰もが紙のガイドマップを携えていた。それなしではどこにも行けなかった時代は、スマートフォンの普及とともに過去の遺産になろうとしている。

そんなデジタル時代でも、紙のガイドマップを作り続ける街がある。東京屈指の人気エリア、銀座だ。全銀座会下部組織である銀座インフォメーションマネジメント(以下GIM)とタイムアウト東京が提携して発行している銀座エリアのガイドマップは、2014年にスタートし、2023年で9シリーズ目を迎えた。

銀座という街はなぜタイムアウトのガイドマップを必要としたのか、作り続ける中で得たものとは、そして今の時代に紙である理由とは何なのだろうか。

GIMの事務局長である升田綾子と、アートと社会の間に新しい関係性を育むことを目指す合同会社渚と代表社員の森隆一郎、タイムアウト東京を運営するORIGINAL Inc. 取締役副社長の東谷彰子の3人が、この銀座ガイドマップについて語り合う鼎談(ていだん)を2023年6月7日に開催した。

ここでは、その様子をレポートするとともに、同マップによって引き出された銀座の魅力について紹介しよう。

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升田:タイムアウト東京とのかかわりは2014年からになります。銀座にまだ公式ウェブサイトしかなかった頃、もう少し銀座の情報発信を拡散したいと思い、「グランド ハイアット 東京」や「アマン東京」といったさまざまなホテルのコンシェルジュさんにヒアリングを行ったんです。

そうすると、海外ゲストの多くはタイムアウトの英語のガイドマップを手に取ることが分かりました。けれど、(渋谷や新宿といったエリアガイドがある中)銀座のガイドはありませんでした。早急に提携ガイドブック「Things to do in Ginza」の第1版を2014年10月に作成しました。その後もご縁があって、継続して作っております。

東谷:その時は「101 Things to do in Ginza」というマップを発行しました。このタイムアウト東京の「Things to do in 〜(【場所】でしかできない『いくつか』のこと)」というマップは2012年からさまざまな街で出しているシリーズです。

タイムアウトは現在、世界の333都市に展開しており、それぞれの都市の編集者同士が気軽に情報交換ができるようなネットワークになっています。その中で、成功体験を共有し合い、世界中で評価されるコンテンツの知見を蓄えていくのです。

「Things to do」のスタイルは、タイムアウトの中で最も定番であり、多くの都市で愛されている形式です。その街でしかできないことを具体的に行動を喚起するような形で紹介していくというもので、これをマップにまとめたものが「Things to do in Ginza」マップです。

オンラインで買えるものを銀座で買う体験価値

升田:第1版の配布率が高かったため、次年度に第2版を発行しました。その後、2016年にGIMで街の観光案内所を発足することになり、そこでのコミュニケーションツールとしても絶対にガイドマップは必要だろうと考え、引き続き作成。この頃から、訪れる人の志向が体験型に変わっていきました。それに合わせて、私たちもより「Things to do(何が体験できるのか)」にフォーカスしてきたのです。

森:「体験」というのはとても大切ですよね。私は文化・芸術が専門なのですが、私の働くキーワードは「いかに人に消費させないか」なんです。「何でも買えば済むと思うなよ」みたいな気持ちがいつもあって、そういう意味では銀座は体験しに行く場所ですね。

買い物だって、同じ「物」ならインターネットの方が安い。それでも銀座で買う、あるいは「銀座で買った」と言いたい、みたいなことが、おそらく銀座という街が持っている価値の一つなんです。 これは長い歴史の中で、みんなにとっての銀座のイメージが培われて、やっと生まれたものです。この隠れた魅力が、消費とは異なる一歩進んだ体験につながっているのではないでしょうか。

東谷:森さんのおっしゃる通りで、銀座マップでは、買い物をするのでも体験に置き換えて紹介しているんです。銀座で買い物をすることにどのような付加価値があるのかを十分に検討した上で、コンテンツを作っています。 ただ買う、安く買うのではなくて、そこで買う意味や店主とのコミュニケーションなど、別の切り口で体験に変えていく。例えば「店主に箸を選んでもらおう」というコンテンツもありましたよ。

森:そうですよね。(箸専門店の)銀座夏野さんが紹介されていたと思いますが、夏野さんでは箸の用途を話したり、相談したりしながら買えます。

東谷:納豆をかき混ぜるための箸など本当にいろいろな種類の箸がありますよね。一人一人にどんなシチュエーションで使うのかや、どんな体のサイズの人が使うのかということまで聞いてくれる。それはただ「箸を買う」という体験ではないんです。

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街全体で取り組むダイバーシティーを可視化

升田:2019年には東京オリンピック・パラリンピックに向けて、障がいのある人や高齢者にも安心して街を巡っていただきたいと「アクセシブルガイド」を作りました。

東谷:このガイドは、エレベーターの詳細な位置や多目的トイレの手すりの左右方向などが記されています。それだけはなく、移動に何らかの困難がある人々が行動しやすくなるということを考えて作りました。障がいのある人から、ベビーカーを押している人、大きなトランクを引いている外国人旅行者まで想定して、そうした人が動きにくくないように案内したガイドです。

升田:コロナ禍に日本語版も発行しました。訪日外国人客がいらっしゃらない中で、日本人のお客さまの大切さに改めて気付き、日本の高齢者や障がいのある人も銀座に来てほしいという思いから。主に高齢者の利用者から「こういうものが欲しかった」という声をいただいた時は、本当に作って良かったなと思いました。

東谷:私も日本語版を作って本当に良かったと思うことが一つあるんですよ。ちょうどさまざまな店がテイクアウト提供を始めた頃だったので、日本語版にはテイクアウト情報を追加したんです。

銀座にはオリジナリティーのある個店がたくさんあります。けれど、その中には多目的トイレがなかったり、そもそも入り口や通路が狭くて、車椅子だと入れないレストランもある。「一度は食べてみたいけれど……」という店が車椅子の人々には多かったんです。それがテイクアウト提供を始めたことから、店のスタッフが外まで持ってきてくれるようになった。

銀座という街のもう一つの良いところは、フリースペースが豊富にある点です。商業施設の中にも、多目的トイレや休憩できる場所がたくさんある。それらを活用した人から、「今まで食べたかったけれど食べられなかった店のメニューを味わうことができた」という声を聞きました。とてもうれしかったですね。

銀座の街全体で連動して、ダイバースな街づくりを目指しているのが、届くべき人に届く形で表に出て良かったと思います。

紙を開くことで人と人がつながりコミュニケーションが生まれる

升田:銀座の街には、銀座通連合会や町会といったいろいろな団体があります。2023年の最新マップは町会をメインに作成したもので、横のつながりに貢献したマップになっているんです。

東谷:そうなんですよ。GIMだけでなく京橋二の部連合町会、京橋三の部連合町会、京橋四の部連合町会と提携したもので、外に発信するだけでなく、中の連携をより良くしていくために作ったマップでもあります。この3つの町会それぞれの良さがあって、発信したいこともそれぞれにある。そこを1冊にまとめて、一緒に作るのはとても面白い作業でした。

森:銀座には、銀実会や銀座料飲組合などいろいろな団体があって、そういう人たちがモザイク状に入り混じって街づくりをしているようなエリアなので、そういった人たちが関わるたび、視点が変わっていって、永遠に作っていられそうですね。

升田:一方で「ペーパーレス化」といわれる時代で、うちはあえて紙を使っています。観光案内所などでは、マップを開いて銀座を面で見ながら説明することが、お客さまとのコミュニケーションの一つになっているんです。

東谷:実際に観光案内所で、リアルな接点が持てるのは一つの理由ですね。また、一貫して英語での発信に特化している点も銀座らしいところです。発信するターゲットを明確に持たれているので、これまでコンテンツを重ねてこられたのかなとも思います。

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末筆ながら、ガイドマップの知られざる付加価値の一つとして、筆者からも紙媒体の記憶優位性も挙げておきたい。東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉らとNTTデータ経営研究所の共同研究によると、スマートフォンなどの電子機器でメモを取るよりも、紙の手帳に書いたときの方が、記憶の定着や想起活動に効果を持つことが明らかにされている。

コミュニケーションツールとしての価値だけでなく、記憶力や創造性につながる紙媒体の重要性に今一度目を向けてみては。

鼎談登壇者

升田綾子

一般社団法人銀座インフォメーションマネジメント(GIM) 事務局長

GIMは銀座公式ウェブサイト「GINZA OFFICIAL」や観光案内所「G Info」の運営などを行っている。

森隆一郎

合同会社渚と 代表社員/アーツカウンシルさいたま プログラムディレクター

芸術文化の現場制作・広報やリサーチなどに携わる。陸と海の境界線が揺らぐ場 =「渚」にちなんで、アートと社会の間に新しい関係性を育むことを目指す。これまで、東京都江東区や福島県いわき市で文化施設の新たなあり方を実践、アーツカウンシル東京でPRディレクターを務め、2018年に独立。現在は、東京藝術大学のプロジェクトや銀座ヴィジョン会議など多様な活動を進める。2022年10月よりアーツカウンシルさいたまプログラムディレクター。共著に「文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと」(水曜社)

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東谷彰子

ORIGINAL Inc. 取締役副社長、タイムアウト東京副代表

銀座マップやエリアガイドをもっと知る……

  • Things to do

タイムアウト東京は、銀座インフォメーションマネジメント(GIM)と提携したガイドマップ「30 THINGS TO DO IN GINZA」(英語版)を2023年2月28日に発行した。

銀座エリアを対象にした英語版のガイドマップをリリースするのは、誰もが快適に楽しめる銀座を紹介した2019年の「ALL-ACCESS GINZA Your guide to accessible, barrier-free Ginza」以来。訪日外国人客数も復活してきている現在、銀座で訪れたい30ヴェニューに加え、無料で座れるスポットや災害時の一時滞在施設なども掲載した本マップでは、改めて今の銀座を切り取っている。

  • Things to do

タイムアウト東京が銀座インフォメーションマネジメント(GIM)とともに制作したガイドマップ『ALL-ACCESS GINZA Your guide to accessible, barrier-free Ginza』が、7月31日にリリースされた。

本マップは、車いすユーザーや高齢者、子ども連れ、大荷物を抱えた観光客などを対象に「誰もが快適に楽しめる銀座」を紹介。監修にバリアフリーコンサルティング事業を展開するNPO法人アクセシブル・ラボの代表理事を務める大塚訓平を迎え、銀座駅周辺の「アクセシブル(誰もがアクセス可能な)」なレストランやショップ、ギャラリー、商業施設などを掲載している。

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  • Things to do

タイムアウト東京は、銀座インフォメーションマネジメント(GIM)と提携したガイドマップ『銀座 アクセシブルガイド』(日本語版)を2021年3月5日(金)に発行した。これは、2019年7月にリリースした『ALL-ACCESS GINZA Your guide to accessible, barrier-free Ginza』(英語版)を日本語版としてアップデートしたものだ。

英語版に引き続き、本マップの監修を担当したのは、独自の目線でバリアフリーコンサルティング事業を行う大塚訓平(オーリアルおよびNPO法人アクセシブル・ラボ代表)。日本語版では、銀座のトイレ案内や、災害時の一時滞在施設なども含めながら、誰もが安心して、銀座を楽しく散策できる内容にしている。

  • Things to do

創業100年を超える老舗商店やハイブランドが軒を連ねる大人の街、銀座。コロナ禍で外国人の姿は少なくなったが、2020年の銀座駅大規模改装のほか、2021年には銀座ライオンビルが登録有形文化財に指定されるなど、伝統と革新が同居した街の魅力は深まるばかり。

本記事では、注目のニューオープンから、知る人ぞ知る穴場、おすすめのバーやアートスポットまで銀座を大特集する。

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