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食品ロス特集
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第3回:映画からSDGs「食品ロス」問題を考える

サステナブル特集:美食の国ニッポンと「もったいない」の解決(前編)

作成者: Yoko Asano
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タイムアウト東京 > Things To Do > 第3回:映画からSDGs「食品ロス」問題を考える
テキスト:浅野陽子

SDGs(エスディージーズ)とは「サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ(Sustainable Development Goals)」の略称で、2015年に国連総会が採択し、地球上の課題をカテゴリー別に落とし込んだゴールのこと。SDGsの世界の国別達成度ランキング(2020年)では、日本は主要国を大きく下回り、162カ国中17位だった。

大量の食品ロス、魚の獲り過ぎ、プラスチックごみで侵されている海の資源の問題などがマイナス点だが、この事実を知る日本人は少ない。

第1回と第2回では激減する海の資源の現状と、日本国内でそのサステナブルな解決に取り組む、飲食業界の最新事例を書いた。第3回では日本の食品ロス問題について映画を通して取り上げる。

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日本人は毎日おにぎりを1個ずつ捨てている

日本にいると想像しにくいが、2021年の現在も世界には飢餓に苦しむ人がいる。その数約8億人。世界の人口約74億人のうち、9人に1人が明日食べるものがなく命を落としている。

一方で、経済的に豊かな先進国では昨日も今日も、大量の食べ物が捨てられている。レストランや家庭の食べ残しや、期限切れで販売できなかったものなど、捨てられる理由はそれぞれだが、いずれも「まだ食べられるのに捨てられるもの」だ。これを「食品ロス」という。世界中で日々生産される食料のうち、3分の1が廃棄されている。 

 日本ももちろん例外ではなく、日本国内で出る食品ロスは年間612万トン。巨大な数字で分かりづらいが、大型の10トントラック1700台分、おにぎりの重さで数えると、日本の全国民が毎日1個ずつ食べられるおにぎりをゴミ箱に捨てていることになる。

また、それを廃棄するための水や資源も必要で、いかにムダで環境に負荷をかけているか実感できるだろう。

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食品業界に一石を投じた映画『もったいないキッチン』

よく耳にする消費期限と賞味期限の話など、日本の食品ロス問題についてなんとなく「見て見ぬふり」をしてきてしまった私たち。そこに昨年大きなインパクトを与えたのが、20208月に全国公開された映画『もったいないキッチン』だった。 

この作品は、オーストリア出身で映画監督フードアクティビスト(食材救出人)のダーヴィド・グロスが日本特有の「もったいない」という言葉に魅せられ、日本全国を旅して食品ロスの現状を調べ、解決方法を見つけていくドキュメンタリーだ。

東京、大阪、福島、鹿児島の各都市をキッチンカーでめぐり、期間は4週間、総距離1600キロメートル。東京ではコンビニ食品の大量廃棄のリアルを紹介し、ある時は農家で捨てられる野菜を生かすレシピをシェフと考える。また野草料理や僧侶が出す精進料理、温泉街の地熱で作る郷土料理など日本各地の素朴な食事をダーヴィドが味わい、食の原点に立ち戻り……と、あらゆる角度から食べることの意味と大切さを訴える作品で、見た人は考えさせられるだろう。

映画の詳細は、以前タイムアウトでも取り上げた。こちらの記事(『日本を舞台にしたフードロス解決映画が公開』)を読んでほしい。

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メディアに多数露出、文科省選定作品にも

映画を製作したのは、福岡にある映画配給会社、ユナイテッドピープル株式会社だ(以下「UP社」)。代表の関根健次(せきね・けんじ)がプロデューサーとなり、監督のダーヴィドと企画や構成、チーム編成まで共同で行った。

UP社は今回のような食品ロス問題をはじめ、社会的なテーマを扱うドキュメンタリー映画を買い付けて輸入し、日本で配給している。同作品は初の自主製作映画となった。 

過去には配給作品がメディアに取り上げられることも少なくなかったが、今回の『もったいないキッチン』は最も反響が大きかったそう。銀座の劇場をはじめ、全国40カ所以上で半年間にわたって公開された。

映画を見た客が「良い作品だからうちの地元でも上映してほしい」と地域の映画館に話を持ち込み、急きょ公開が決まったケースもあったという。

劇場公開は今年2月で終了したが、文部科学省の選定作品となったことで、学校の授業や、行政主催のイベントでも引き続き上映されている。小・中学生の授業用には35分に短縮した日本語吹き替え版もあり、UP社の配給作品の大ファンだという俳優の斉藤工(さいとう・たくみ)が音声を担当した。

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映画の力で世界を変える

代表の関根は19年前にUP社を創業し、現在に至る。大学時代に描いていた夢は南仏でのワイナリー経営で、卒業旅行に世界のワイン産地を回った。その時に旅したイスラエルから偶然、紛争地帯のパレスチナのガザ地区に足を踏み入れたことで、人生観が変わる。 

「現地の子どもたちが『今日一日を無事生き抜けるか分からない』という究極の状況で暮らしているため、全く子どもらしくないのです。

ある少年に将来の夢を聞くと、オリンピック選手やお金持ちになる、でなく『敵を大量に殺す』『爆弾の開発者になる』などと話す。同じ時代に同じ地球に生きている子どもが普通の夢を語れないという、日本では決して知り得ない現実にがくぜんとしました」 

帰国後はしばらく一般企業で会社員をしていたが、大学卒業時に見た光景と、「子どもたちが子どもらしい夢を描ける未来を創りたい」という切実な思いが忘れられず、UP社を起業。世界を変えるため、自分ができることとしてたどり着いたのが映画の力だった。

「僕はリアルに紛争地帯に足を運びましたが、誰もが現地に行かなくても、映画を見ることで同じ衝撃や感動が味わえます。人は心を揺さぶられると、行動を起こします。こういう方法で社会は良くなる、未来は輝く、と伝えられる作品を見つけることで、世界は変わっていきます」

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批判や嘆きからは食品ロスは解決できない

今回の『もったいないキッチン』も、親子で鑑賞した人から「映画を見て食べ残しをしないようになりました」と言われたり、「自分の生き方を見直した」「いただきます、の意味を思い出した」など、見た人の心の底まで届いた感想を目にしてうれしかったそうだ。まさにメッセージが伝わり、行動にまでつながったと感じたという。

「もったいない→ありがたい→いただきます」。この一連の流れを心に取り戻すと、人は簡単にフードロスをできなくなる、というのが関根の結論だ。

「世の中の課題や、厳しい現状はただ批判したり、嘆いていたりするだけでは前進しません。『もったいないキッチン』も、いろいろ問題はあるけれど、みんなでこういう形で解決していきませんか』という提案型の作品にしました。

食品ロスの問題は、『ムダが起きているこの部分を改善しよう』という定点的な解決では良くならない。もっと壮大な視点で、地球や自然で起きていることを多くの人が理解し、生き方や暮らし、行動を根本的に変えていくことで良くなっていくと思っています」

映画を通じて、希望が感じられるようなアイデアをたくさん提示して、持続可能な未来を作っていきたい、と夢を語る関根。今後も作品に注目していきたい。

次回は、日本で食品ロス問題に取り組むミシュランシェフの例を紹介する。

 

参考:政府広報オンライン、環境省「食品ロスポータルサイト」「エコアクション21」、消費者庁「食品ロス削減特設サイト」、SDGs Journal、、United Nations「Food Loss and Waste Reductions」, FAO'「Food Loss and Food Waste’」

ライタープロフィール

Yoko Asano

フードライター。食限定の取材歴20年、『dancyu』『おとなの週末』『ELLE a table(現・ELLE gourmet)』『AERA』『日経MJ』『近代食堂』など食の専門誌を中心に、レストランや料理人への取材多数。テレビのグルメ番組への出演実績もある。『NIKKEI STYLE』(日本経済新聞社)の人気コーナー『話題のこの店この味』で毎月コラム連載中。
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