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©︎Nobuyuki Aoki / MSC

第1回:漁業資源からSDGsを考える

サステナブル特集:魚大国ニッポンは海の資源を守れるのか(前編)

作成者: Yoko Asano
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タイムアウト東京 > Things To Do > 魚大国ニッポンは海の資源を守れるのか(前編)
テキスト:浅野陽子

SDGs(エスディージーズ)という言葉を聞いたことがあるだろうか。「サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ(Sustainable Development Goals)」の略称で、2015年に国連が採択し、環境破壊や気候変動など地球上の課題をカテゴリー別に落とし込んだ目標のこと。正式な日本語名称は「持続可能な開発のための17の目標」だ。

このSDGsの国別達成度ランキング(2020年)を見ると、日本は162カ国中17位。1位のスウェーデンを筆頭に、フランス(4位)、ドイツ(5位)、オランダ(9位)、イギリス(13位)と、主要国を大幅に下回る。大量の食品ロス、魚の獲り過ぎ、プラスチックごみで侵されている海の資源の問題などがマイナス点として指摘されている。

しかしもっと深刻なのは、この事実を多くの日本人が知らないことだ。昨年7月にはレジ袋の有料化がスタートしたが、今年2021年はほかの先進国のように、日本人のサステナブル(持続可能)への意識を高めることができるのか。

今回、「海の資源編」と「食品ロス編」を全5回にわたって特集し、日本でサステナブルに取り組んでいるプロフェッショナルたちの活動を追っていく。

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日本の海と食卓から魚が消えている

地球の海から魚が消えつつある。「昔よりマグロが獲れない」「ウナギが出回らない」と近年、ニュースで頻繁に耳にするようになった。魚や環境にさほど興味がない人でも、なんとなく感じているのではないだろうか。

スーパーの売り場からも魚が極端に減っている。日本の秋の風物詩でもあったサンマが、2020年ではハイシーズンでも1匹300円前後で販売している店が多かった。

「一山100円」などが普通だった、昭和の時代では考えられないほど値段が高騰。豊洲をはじめ、全国の市場や漁港からも「魚が獲れない」「小さいものしか釣れない」と悲嘆の声が上がる。

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MSCジャパンのプログラム・ディレクター、石井幸造(Photo: Keisuke Tanigawa)

海の魚は「これ以上獲れない状態」が30年続いている

一口に「魚」と言っても、大きく二つに分けられる。海で泳ぐものを漁師が釣り上げる天然魚と、陸や海中で人工的に育てる養殖魚だ。1950年、世界の天然魚の漁獲量は2000万トンで、1990年代には4倍の8000万トンまで増えた。

しかしそれをピークに天然魚の漁獲量は現在まで増えておらず、ほぼ横ばいの状況が30年以上続いている。要は頭打ちで、「地球の海から魚はこれ以上獲れない」ギリギリの状態なのだ。

一方、天然魚が獲れない状態なのに、魚を食べたい人のニーズは急増している。全世界の魚の消費量はこの50年で2倍以上に増加。国別に見ると、国民一人当たりの消費量ランキング(2018年)は、1位韓国、2位ノルウェー、3位ポルトガル、4位ミャンマー、5位マレーシアだ。

意外なことに気付いただろうか。和食の無形文化遺産登録などで世界的にも「魚をよく食べる国」として知られているはずの日本は、トップ5にも入っておらず、第6位。今から60年前の、1961年は日本が世界で1位だった。

半世紀前と比べ、魚を食べるようになった人が世界で2倍に増え、もともと魚をよく食べる国であった日本をどんどん追い抜いている。その背景には、健康的な食生活を求める世界的なトレンドや地球規模の人口増加、またアジア諸国など、かつての新興国が豊かになったことがある。

その一方で、海で獲れる魚の量は頭打ち。現在は足りない分の魚を、養殖で補っているのがリアルな世界の状況だ。「天然の魚が獲れないなら、養殖魚を増やせばいい」と考えがちだが、養殖の魚も自然環境を壊して漁場を作ったり、魚種によっては餌に天然魚が必要になったりする場合もあるため、やみくもには増やせない。

獲れなくなっている魚と、増え続ける「魚を食べたい」人のニーズ。海の資源を未来でもサステナブルにするには、一体どうすればいいのか。この解決策を、MSCジャパンのプログラム・ディレクター、石井幸造(いしい・こうぞう)に聞いた。

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Photo: Yoko Asano

国際認証ラベルが付いた魚を選ぶ

石井によると、現時点で地球の海に残っている天然の水産資源を維持、回復させるために適切な量の漁獲を行っていくことが最善となる。「海の資源管理を徹底する=海の資源の持続可能性(サステナビリティ)」を守ることにつながるのだ。

ただし海の資源管理は非常に複雑。現状を把握し、将来への回復力を考えた適切な漁獲量を科学的に精査する必要がある。現在それを担保する、最も信頼性が高い国際認証制度はただ一つ。MSC(Marine Setewardship Council=海洋管理協議会、本部ロンドン)が管理するMSC認証だ。

MSCの認証漁業がある国は日本を含め42カ国で、認証業業で獲られた天然の魚であることを示すMSC「海のエコラベル」の付いた水産品は世界約100カ国で承認、登録されている。
※養殖魚にはASCAquaculture Stewardship Council=水産養殖管理協議会、本部オランダ)が管理する「ASCロゴ」がある。

こうした国際認証エコラベル付きの製品は、イオングループや生活協同組合(生協)で販売している。大手水産メーカーの弁当用のフライなど冷凍食品やおにぎり、寿司などもある。「『なかなか目にしない』という声もありますが、2016年以降日本国内でMSCラベルが付いた製品は急激に増えており、現在登録されているものは900点を超えています」(石井)。

MSC「海のエコラベル」付きのシーフードは身近にある(Photo: Keisuke Tanigawa)

MSCは日本ではまだあまり知られていないが、海外では広く浸透している。ウォルマートやテスコ、ホールフーズマーケットなど大手小売企業は2000年初頭から導入し、海外でこれらのスーパーへ行くと店頭にずらりとMSCラベル付き製品が並んでいる。

記事冒頭で紹介した、SDGsランキング上位のオランダやイギリスなどヨーロッパの国では、「MSCラベル付きのシーフード以外は買わない」というポリシーを持った消費者もいるほどだ。主婦や学生なども含まれる。

サステナブル特集
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Photo: Keisuke Tanigawa

東京オリンピック開催延期の結果

自国でのオリンピック開催をきっかけに、海の資源の関心が高まったケースもある。2012年のロンドンオリンピック、パラリンピックでは大会会場内のレストランや、選手村でアスリートたちが食べる食事にMSC認証製品を使ったシーフードメニューが提供された。

街中でもマクドナルドを含むファストフード店やレストラン、スーパーでの取り扱いが増えたことで、イギリス国内の若い世代でも海の資源の問題に興味を持つ人が急増し、エコラベルの認知度も上がった。そして2016年開催のブラジルのリオ大会でも同様に行われ、広まった。

2020年に開催予定だった東京オリンピックでも、同じように持続可能なMSC認証水産物を使用したメニューが提供される見込みだった。東京大会を機に日本でも、環境意識が一段と高まることが期待されていたが、開催が2021年に延期にとなってしまう。

しかもコロナ禍は終息の気配がない。「大変な状況のなか、環境どころではない」という人も少なくないかもしれない。しかし、石井からは意外にもポジティブな話が出てきた。

「コロナによる混乱もいまだに続き、2020年のうちにオリンピックをきっかけに、MSCやサステナブルシーフードのことを知ってもらうことはできませんでした。しかし一方で、小売店での水産物の販売はそれほど落ち込まず、日本国内でのMSCラベル付き製品の取り扱いは増えたのです。

またMSCが2年ごとに行っている世界規模の消費者調査でも、日本でのMSC『海のエコラベル』の認知度は、前回の12%から2020年は19%まで上昇しました。オリンピックの開催とは関係なく、日本人の海の資源への意識は高まっているのが数字で分かります」(石井)

その理由を「コロナ禍によって『人間一人一人の行動や活動は、自然環境と密接に結びついている』と再認識した人も多いのではないでしょうか。外出自粛により自宅で過ごす時間が増えたことで、日本の人々が自分の暮らしや食生活とじっくり向き合い、地球環境をも見つめ直すきっかけになったのかもしれません」と石井は分析する。

魚は減っているが、未曽有の事態を経て少しずつ変わりつつある日本人の環境意識。それが2021年にさらに飛躍することを期待したい。

次回は、日本の飲食業界での取り組みについて紹介する。

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ライタープロフィール

Yoko Asano

フードライター。食限定の取材歴20年、『dancyu』『おとなの週末』『ELLE a table(現・ELLE gourmet)』『AERA』『日経MJ』『近代食堂』など食の専門誌を中心に、レストランや料理人への取材多数。テレビのグルメ番組への出演実績もある。『NIKKEI STYLE』(日本経済新聞社)の人気コーナー『話題のこの店この味』で毎月コラム連載中。
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