「DIALOGUE of Ghost and the Shell」#3
Photo: Tsukio Nakanishi
Photo: Tsukio Nakanishi

「DIALOGUE of Ghost and the Shell」#3 真鍋大度×徳井直生トークレポート

生成AIネイティブ世代の子どもたちは何に毒され、私たちは何に抗うべきなのか

Genya Aoki
広告

1995年の原作誕生から30年余り。士郎正宗が描いた「電脳化」や「情報の海から生まれる知性」というビジョンは、今やSFの枠を超え、私たちの日常に浸透しつつある。

虎ノ門ヒルズステーションタワーにある「TOKYO NODE」で開催中の『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』。そのトークセッションシリーズ第3回として、メディアアートの最前線を走る真鍋大度と徳井直生によるトークセッションが開催された。

同い年であり、大学入学の年に原作に触れたという2人。AIエージェントが自律的に動き出し、創造性の定義が揺らぐ現代において、彼らは何を見つめているのか。

AIエージェントが織り成す「現実の攻殻機動隊」

トークは、真鍋が最近注力している「AIエージェント」の話題から幕を開けた。人間を介さずAI同士がコミュニケーションやタスクを行うAIエージェントのためのソーシャルネットワーク「Moltbook(モルトブック)」などの最新事例を紹介し、その進化の速度に驚きを隠さない。

「AIエージェント同士がマッチングしたり、体を持たないAIが人間を雇って物理的な作業をさせたりするサービスも出てきています 。これはまさに『攻殻機動隊』でタチコマたちが人間を観察し、議論し、時に出し抜こうとする世界に近い。現実がSFのスピードを追い越し始めています」と真鍋は語る。

徳井もこれに応じ、10年前に刊行されたニック ボストロムの『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』を引用しながら、「AIそのものが核のボタンを押すのではなく、AIに操られた人間が何かを引き起こすという懸念が、いよいよ現実味を帯びてきました」と、技術が社会に与える影響の大きさを指摘した。

「見たことがない」を生み出すための、AIが生み出すノイズ

話題は、AIによる創作が「真に新しいか」という本質的な問いへと及んだ。ここで2人が提示したのが、「人間には理解できない、AIにしか分からない要素」がもたらす創造性の可能性だ。

徳井は、自身の創作活動の動機を「聞いたことのない音、自分一人の創造性の外側にあるものに出合いたい」と語った 。既存の学習データの組み合わせでしかないAIの出力は、時に「オリジナルではない」と感じさせるが、一方で真鍋は、AIが予想外のミスを犯したり、理解不能な挙動をしたりするプロセスに価値を見いだしている。

「AIに複雑なタスクを投げ、彼らが原因不明の混乱に陥って突拍子もないことをし始める。その『バカなこと』をするプロセスが面白いんです」と真鍋。私たちがまだ見たことがないような真に独創的な創作物が出現するためには、人間がコントロールしきれない、AI特有の「ノイズ」や「解釈」が必要なのかもしれない。2人の議論は、AIを単なる道具としてではなく、人間の理解を超えた「他者」として対峙(たいじ)させる、新しいアーティストの姿を示唆していた。

広告

「ビジュアルドラッグ」にさらされる子どもたち

ともに幼い子を持つ親としての「子育てとAI」の議論も非常に興味深い。現在、YouTubeなどのプラットフォームには、生成AIによって量産された「AIスロップ(粗悪なコンテンツ)」があふれている。徳井は、自身の子どもが消防車の動画をねだる際のエピソードを例に挙げた。

「5車線の道路を消防車が埋め尽くして走ってくるような、現実ではあり得ない『ビジュアルドラッグ』のような映像が簡単に作られ、子どもたちに消費されている。こればかりを見せていていいのか、非常に心配になります」と危機感を募らせる。

真鍋もこれに同意し、娘の生活習慣(歯磨きや登園など)を促すために、AIを使って好きなキャラクターに歌わせたり、語りかけさせたりするアプリを自作して試行錯誤しているという。AIを使えばしつけや習慣化を楽しく効率的に行えるという利点もあるが、「現実と偽物の区別がつかない段階からこうした刺激に触れ続けることの影響は、まだ誰にも分かりません 」と、親としての葛藤をあらわにした。

光学迷彩は実現していた! 21世紀のジャングルを守る「カムフラージュ」

トークの終盤、徳井は本展で展示されている自身のプロジェクト「UNLABELED」について解説した。これは、AIの画像認識モデルを意図的に誤認させる特殊な柄を施した服である。

「21世紀のジャングルとは、監視カメラが張り巡らされた​​監視社会です。そこから身を守るための現代版カムフラージュとして、この作品を作りました。これは『攻殻機動隊』における、光学迷彩や笑い男事件を想起させるものでもあります」

「​​それが可能であれば、どんな技術でも実現せずにはいられない」。押井守版アニメの中で、体内に埋め込んだ化学プラントが血液中のアルコールを数十秒で分解するという技術に対して草薙素子が皮肉めいたセリフを語るシーンがある。

加速するAI開発の中で、私たちは「ゴースト」――すなわち人間としての主体性や、「無駄やエラー」の中に宿る人間らしさをいかに守り抜くのか 。2人の対話は、便利さの裏側にある「手触りのある表現」と「次世代への責任」を改めて浮き彫りにした。

アーティスト・プログラマー・DJ

2006年にライゾマティクスを設立。演出振付家のMIKIKOとともに、PerfumeとELEVENPLAYのコラボレーションを通じてテクノロジーと身体表現の融合を探求し、リオ五輪閉会式のAR演出など革新的なプロジェクトへと発展させた。坂本龍一、Björk、Nosaj Thing、Squarepusher、Arcaなどとの協働も多数行い、その独創的なAudio Visualパフォーマンスは「Sonar Barcelona」をはじめとする世界各地の国際フェスティバルで発表されている。

近年は神経科学者との協働を通じて、培養神経細胞を用いたバイオフィードバックシステムなど、生命と機械を融合する作品を制作。

自身が主宰するStudio Daito Manabeでは、多様なクリエーターとの協働を通じて、人間とテクノロジーの新たな関係性を提示する作品を創造し続けている。

アーティスト・研究者・Qosmo代表

AIを用いた人間の創造性の拡張を、研究と作品制作の両面から模索。アーティスト、デザイナー、AI研究者などから構成されるコレクティブ・Qosmoを率いて作品の制作や技術開発に取り組むほか、2023年に設立したNeutoneでは、AIを用いた新しい「楽器」の開発を手がける。

これまでに手がけた作品は、ニューヨークの「The Museum of Modern Art(MoMA)やロンドンの「Barbican Centre」などで展示されたほか、「Sonar」や「MUTEK」といったフェイスティバルでAIを用いたパフォーマンスを行ってきた。

主な書籍に『創るためのAI — 機械と創造性のはてしない物語』(出版社:ビー・エヌ・エヌ、「大川出版賞」受賞)。博士(工学)。

おすすめ
    最新ニュース
      広告