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「本場の味を届けたい」。中国屈指の老舗「馬子禄」 に認められた男の熱意

1人の男が、東京に蘭州ラーメンブームを生み出すまで

昼時の神保町。古本屋が立ち並ぶ靖国通りに行列が見えたら、そこが蘭州ラーメンの人気店の馬子禄 牛肉面(マーズールー ギュウニクメン)だとわかる。20178月の開業時は、中国の甘粛省蘭州で100年以上の歴史をもつ老舗「馬子禄」の味を日本で唯一引き継ぐ店として注目を集めた。盛況ぶりに続けとばかりに、その後、蘭州ラーメン専門店が都内各所にオープンするなど、「蘭州ラーメンブーム」の火付け役としても知られる。

しかし、歴史深い本家からのれんわけの承諾を得るまでには、店主である清野烈(せいのたける)の「本場の味」にかける並々ならぬ熱意と行動力があったことを知る人は少ない。現地出身者も「故郷の味」と慕うラーメンを東京に届けた清野に、開店までの舞台裏を聞いた。

店の戸を引くと、現地にトリップしたかのような薬膳スパイスの芳香な香りに包まれる。唯一のメニューである『蘭州牛肉面(ランシュウギュウニクメン)』は、国産牛肉にパクチー、自家製ラー油などが盛られたシンプルな見た目だが、透き通ったスープを口に運ぶと、秘伝のスパイスからなる滋養深い香りが鼻を抜けていく。手打ち麺ならではの、もちっとした食感も新しい。さっぱりとした後味は、サラリーマンから、女性、高齢者まで、老若男女を問わず惹きつけているようだ。

蘭州牛肉面(880円)。麺は細麺、平麺、三角面から選べ、辛さも調節可能

蘭州牛肉面(880円)。麺は細麺、平麺、三角麺から選べ、辛さも調節可能

 

清野がこの味と出会ったのは、1997年の大学時代。中国留学中に奥深い味わいの蘭州ラーメンの虜になり、帰国後も「蘭州ラーメン」を謳(うた)う店を回ったが、求める味には出会えなかった。「クセの強いスパイスが省かれて、日本人向けにされている気がした」というように、今でこそパクチーなどの香草も一般的になったが、当時は現地の味をそのまま提供する店はまれだったという。

そこで清野は一念発起。「本物を出す店がないのなら、自分で開こう」と、日本から中国の蘭州市へと舞い戻った。現地では1日に45軒の蘭州ラーメン屋を巡り、「一番おいしい」とたどりついたのが、現地でも行列が途切れることがないという大人気店「馬子禄」だったのだ。「スープの香りや味、肉質、麺、どれをとっても群を抜いていた」と清野は言う。

客で混雑する甘粛省蘭州の「馬子禄」の様子

客で混雑する甘粛省蘭州の「馬子禄」の様子

同民族にのみ継承を許されたレシピ

 馬子禄の日本店を開こうと心に定めた清野だったが、「社長に会いたい」と店を訪問すれば追い返され、メールや手紙もなしのつぶて。それでも、「せっかくなら中国で一番おいしい蘭州ラーメンを日本に届けたい」と粘り、中国大使館にまで協力を依頼した。

大使館の協力もあり、清野はついに社長の馬(マー)との面談を実現させたが、最初は隣の付き人が喋るのみだった。レシピや麺打ちの技術を、中国のムスリム民族である「回族」の間で守って来たという歴史があり、知らない日本人が頼んだところで、容易に教えてもらえるものではなかったのだ。しかし、清野は中国に行くたびに説得に励み、社長との距離を縮めた。

「社長は店を展開しすぎることで、味が落ちてしまうのを何より懸念しているようでした。今では、回族以外の人間でも味を守る信頼を置ければ協力しているようですが、当時は『のれん分けが難しいなら、日本でも開店してください』と頼むほど必死でしたね」。

熱意が実を結んだのは、4回ほど訪れた2016年の夏。社長は三国志の物語でも著名な「三顧の礼」を例にあげ、「こんなに訪ねられては、受け入れるしかない」と日本店の開店を初めて認めてくれたのだ。

翌年から中国の本店で始まったスープ作りと麺打ちの修行では、十数種のスパイスを組み合わせ、味付けのタイミングを逃さない厳しい味づくりの世界を体験した。現在も日本でそのレシピを知るのは清野のみで、他言は許されていない。それほど本家にとってレシピは「秘伝」のものなのだ。

中国で、麺打ちの修行に励む清野

中国で、麺打ちの修行に励む清野(左)

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日本でも味は落とせない

修行を終え帰国した清野の「自分を認めてくれた老舗の味を、日本で落とすわけにはいかない」という決意とは裏腹に、開店準備中は困難が続いた。湿度が高い日本では手打ちの麺が上手く伸びず、スパイスも求めるものがなかなか手に入らない。負けじと様々な小麦を試すなど試行錯誤を重ね、「本場の味」を追った。

そのかいもあり、開店後はすぐに話題店に。「故郷の味」を求める中国人や、ハラル料理を求めるイスラム教国出身者にも人気は広がり、店頭には連日のように長蛇の列ができた。その味は、開店から3ヶ月後、抜き打ちテスト的に店を訪れた社長のお墨付きももらえたようだ。

「社長を見つけた時は驚きましたが、彼は食べ終えたあと、3つ、これまでしたことがないことをしたと教えてくれたんです。1つは蘭州ラーメンを食べるために並ぶこと、2つめは蘭州ラーメンにお金を払うこと、3つめはスープを飲み干したことだと。笑」。 

社長にとっても、それだけ出来が良かったということ。今も、清野と社長は良い関係が続いている。

中国で面会した清野と馬社長

中国で面会した清野(左)と馬

おいしさが、中国を知るきっかけになれば

日本人でありながら、現地の味を広めたパイオニア的存在と言える清野。現在もスタッフを中国本店まで研修に出向かせるなど、味の維持に余念がない。清野がここまで「本場」の蘭州ラーメンを追う理由が、最後に語った言葉ににじんでいた。

 「中国は隣国だけど、イメージが良くない人も多い。でもここの中国人スタッフは良い人ばかりだし、日本に浸透していない中国の魅力はまだたくさんある。ラーメンをおいしいと思ってもらうことが、そこに興味を持つきっかけになればと思います」。

確かに「蘭州牛肉面」は、中国の歴史を表したかのような複雑かつ心惹かれる味だった。現地に敬意を払いそのままを追求する姿勢が、東京と世界をつなぐ架け橋となっているのかもしれない。

 

神保町にある「馬子禄 牛肉面」

神保町にある馬子禄 牛肉面

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激辛ラーメン好きはここへ行く

東京、激辛ラーメン

Text by vettsu、メンチャック 鍋料理や温かいスープが美味しく感じる冬。ラーメンもその例外ではないが、今回は特に「口から火を吹く熱さ」をもたらしてくれる激辛ラーメンを厳選し、紹介しよう。チェーン展開で人気の老舗店から話題のニューフェイスまで。胃腸と翌日の代謝管理に気をつけつつ、ぜひ各店の辛さと接してほしい。

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