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有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開

西早稲田「THE MIRROR」で開催、好評につき5月28日~6月22日まで会期延長

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 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa1階の展示風景
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西早稲田のコンテンポラリーギャラリー「ザ ミラー(THE MIRROR)」で、企画展「春の音色を聴く〜有元利夫 in 松川ボックス〜」が2024年5月28日(火)から6月22日(土)まで開催する。当初、4月9日(火)から5月18日(土)までの開催予定だったが、好評につき会期延長となった。

1985年2月、病により38年の生涯を閉じた有元利夫(ありもと・としお)は、わずか10年ほどの作家人生ながら唯一無二の世界を描き、没後40年がたとうとする今でも多くの人を魅了し続けている。作品がまとまって展示される機会が少ない中、有元自身も大切に向き合っていたという版画の連作を名建築の贅沢な空間で鑑賞できる、またとない機会だ。

有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa「Les QUATRE SAISONS : 「四季」(1983年)より「秋」

実現しなかったアメリカ展のための作品群が待望の初公開

有元は、1946年岡山県津山市生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科に在学中、イタリアでルネサンス期のフレスコ画と出合い、ピエロ・デラ・フランチェスカ(Piero della Francesca)の作品に魅せられる。日本の仏画にも共通する美を見いだそうと、岩絵具や箔(はく)を用いた独自の表現と技法を追求した。

会社員を経て画業に専念すると、1978年に「花降る日」で「第21回安井賞特別賞」を、1981年には「室内楽」で「第24回安井賞」を受賞。安井賞は「画壇の芥川賞」とも呼ばれた具象絵画の新人賞であり、有元は数々の作品を精力的に発表し続けた。日本洋画界から大きな期待と注目を集めていた矢先の訃報は、本当に悔やまれてならない。

 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa「3 pieces de JEUNES FILLES :「3人の少女」(1983年)シリーズ

本展で展示されている作品は、いずれも1983年に制作されたリトグラフやエッチング。実は、アメリカでの展覧会のために準備されていたものだという。しかし有元が体調を崩したため開催はかなわず、それから一度も展示されることなく大切に保管されてきた。40年もの時を経ての、待望の初公開だ。

 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa「NOTEBOOK 1983」(1983年)

カラーリトグラフ4点の連作「Les QUATRE SAISONS : 「四季」(1983年)の一つで、春をテーマに描かれたものが、本展のメインビジュアルに用いられている。バロック音楽をこよなく愛した有元。言わずもがな本作は、アントニオ・ヴィヴァルディ(Antonio Vivaldi)のバイオリン協奏曲「四季」になぞらえた連作だろう。まるで刷り上がったばかりのような淡く美しい発色には目を見張る。柔らかさと静ひつさが共存する何とも穏やかな作品だ。

 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa「8 pieces d’ARLEQUINES:「8人のアルルカン」シリーズ(1983年、左・中)、「Les QUATRE SAISONS : 「四季」(1983年)より「春」(右)

会場にBGMとして流れていたバロック音楽の楽曲も、耳にとても心地良かった。本展の会期中、5月12日(日)には、「春の音色を聴く」の展覧会名にふさわしく、バロック音楽の演奏会も予定されている(事前予約制・有料)。

また、筆者が取材に訪れた日はあいにくの空模様だったが、雨音も有元の作品によく似合っているように感じられた。大きな窓のある空間なので、訪れる日の天候や時間帯によって作品の印象が変化するのは、個人の住宅のようなギャラリーならではの魅力だろう。

 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa「Les QUATRE SAISONS : 「四季」(1983年)より「冬」

宮脇檀の名建「松川ボックス」がギャラリーに

2023年秋、西早稲田にオープンしたザ ミラーは、建築家・宮脇檀(みやわき・まゆみ)の名建築「松川ボックス」の空間を生かしたコンテンポラリーギャラリーだ。室内はほぼ建築当時の状態のままで、天窓からの柔らかな自然光が室内全体を明るく照らしている。

ふんだんに使われた木材と、柔らかなライトグレーのカーペット、和室のモダンな紺など、調和の取れた全体の色調は、オーナーが好きだったという染色家・芹沢銈介(せりざわ・けいすけ)の作品からインスピレーションを得ているそうだ。

 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa2階の展示風景
 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa1階の展示風景

同館のアーティスティックディレクターである清水敏男は、「東京都庭園美術館」に開館時からキュレーターとして携わり、「水戸芸術館 現代美術センター」の芸術監督を経て、1997年からインデペンデントキュレーター事務所を主宰している。

10年ほど前から松川ボックスにオフィスを構えている清水は、コロナ禍を機にスタッフのリモート勤務が定着したことや、個人宅を手がけることの多かった宮脇の名建築を広く観てもらう機会になればと、ギャラリーとして運営しながら公開することを決めたという。

オープニング展では、清水と30年来の交流があるという現代美術家、アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)の個展を開催。美術好きだけではなく、建築愛好家や関係者も多数訪れたというのもうなづける。ホワイトキューブではなく住宅のような空間で、カプーアのパワフルな作品とともに過ごす時間は格別だっただろう。

第2弾となる本展も、作品の所有者が清水の友人だったからこそ実現した、有元作品のファンには夢のような企画展だ。

 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa「8 pieces d’ARLEQUINES:「8人のアルルカン」シリーズ(1983年)

ギャラリーの名前「THE MIRROR」は、シェイクスピアの「ハムレット」第3幕に登場する有名なせりふ「to hold as ‘twere the Mirror up to nature」に由来する。2014年秋に同名の展覧会を当時銀座4丁目にあった解体予定のビル「名古屋商工会館」でプロデュースしたのが清水だ。

同展では、先述のカプーアのほか、浅葉克己や名和晃平、李禹煥ら34組が作品を展示。デザイナーやミュージシャン、建築家、作家、キュレーター、編集者などによるトークやワークショップ、パフォーマンスが連日行われ、完全予約制ながら多くの観客で連日にぎわった。

その名前を引き継ぎ、改めてギャラリーをスタートさせた理由について、清水は「ザ ミラーは単なるイベントではなく、クリエーティブな人々の運動体として考えました。新しい時代の表現を産むには、ジャンルを超えたコラボレーションが必要です」と答えてくれた。

 有元利夫の連作版画が名建築「松川ボックス」で40年越しに初公開
Photo: Keisuke Tanigawa2階の展示風景

なお、空間や作品をゆっくり楽しんでもらいたいいう思いや、自主企画展ゆえ経費をサポートしてもらえたらいう希望もあり、ギャラリーは有料・事前予約制だ。13~17時(1時間入れ替え制)で日・月曜日休館、料金は一般1,000円、学生500円、中学生以下無料(全て税込み)。詳細は公式ウェブサイト予約フォームで確認できる。

本来であればめったに立ち入ることのできない空間で、まるで自宅のようにゆったりとくつろぎながら、良質な芸術作品とともに時間を過ごす体験は、本当に豊かな気持ちになるだろう。ぜひ、定期的に訪れてみてほしい。

なお、5月28日(火)から6月22日(土)までは、浜口陽三による初公開作品「サンフランシスコの赤いカモメ」のみを展示する展覧会「サンフランシスコの浜口陽三」も同時開催する。

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