Lily-Rose Depp and The Weeknd in ‘The Idol’
Photograph: HBO/Eddy ChenLily-Rose Depp and The Weeknd in ‘The Idol’

話題作「THE IDOL/ジ・アイドル」で描かれる魔性のハリウッド

リリー=ローズ・デップとザ・ウィークエンドが見せるポップスターの煉獄

テキスト:
Phil de Semlyen
翻訳:
Time Out Tokyo Editors
Minami Imai
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リリー・ローズ・デップの父は、映画「リバティーン」(2004年)で放蕩者を演じたが、今度は彼女が性と創造力の解放へと旅立つ番だ。A24が制作に携わったHBOドラマ「ジ・アイドル」は、ミュージシャンのザ・ウィークエンドことエイベル・テスファイが共同製作・主演する、音楽業界の闇を描いたシリーズである。

本作では、母の死後、再び栄光の座を手にしようと奮闘するポップスター、ジョスリン(デップ)が、破滅しかねない道を突き進んでいく姿が描かれている。低俗だが純粋に楽しめる場面と眠気を催すほど退屈な場面が交互に現れる。最初の2話は、権威ある「カンヌ国際映画祭」で披露されたが、金曜の夜にソファで缶ビール片手に観るのにぴったりだ。

とはいえ、公開された2話では、作品の方向性がまだ定まっていないのだ。(風刺の利いた過激な暴力と性の描写が特徴の)ポール・バーホーベン作品から風刺だけ取り除いたオマージュか? 怪しげで感傷的な スター再起の物語なのか? ザ・ウィークエンドと共に行く悪の世界への旅なのか? 今のところ、これら全てに当てはまっている。

第1話は、ハリウッドにあるジョスリンの豪邸での撮影シーンから始まる。そこでは、乳首の露出があり、厄介なコーディネーターが登場し(彼はトイレに閉じ込められてしまうのだが、このドラマ自体の露骨な性描写からして、実際の撮影現場でも同じことが起こったのかもしれない)、ジョスリンの赤裸々なセルフィーが流出する。 

そして、その全ての出来事は雑誌「ヴァニティ・フェア」の記者(演じるのはドラマ「トランスペアレント」で女優デビューしたハリ・ネフ)の目の前で起こってしまうのだ。

まるで、ドラマシリーズ「アントラージュ★オレたちのハリウッド」で描かれる人間関係そのもので、ジェーン・アダムス、ダン・レヴィ、ハンク・アザリア、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフらが演じる、レーベル関係者やマネージャー、PRアドバイザーといった、ジョスリンの仕事仲間たちの早口の会話を聞くのは楽しい。 

登場人物たちはそれぞれ少しずつ違った動きをしていくのだが、全員が楽しませてくれる。レイチェル・セノットは、ジョスリンの友人でありアシスタントでありどんなときにも彼女の内面の声を明らかにしてくれる、レイアを演じる。まるで「アントラージュ」に登場するロイドの神経質なニューヨーク版といった感じだ。

Lily-Rose Depp and The Weeknd in ‘The Idol’
Photograph: HBO/Eddy Chen

そして第2話では、ザ・ウィークエンドが演じる怪しげでカルト的なナイトクラブのオーナー、テドロス・テドロス(話はそれるがクールな名前だ)の人物像が描かれ、3話以降に期待を持たせた。カリスマ性はあるものの、ミュージシャンから俳優に転身した彼の演技には、邪悪な性的魅力がもの足りない。 

テドロスは性的には24時間衰え知らずといったタイプの男で、ジョスリンに対して心の奥底に潜む欲望を探るよう促す。首絞めプレイははっきりと、そして無責任に、その手段に含まれている。レイアがテドロスを「レイプとかしそう」と指摘する場面があるが、このドラマがラブストーリーであるなら、テドロスは(カルト指導者で残忍な連続殺人事件の首謀者だった)チャールズ・マンソンのような雰囲気を醸し出すのは抑えたほうが絶対にいい。

広く報じられたように、製作途中でザ・ウィークエンドと、ドラマ立ち上げ時の監督のエイミー・サイメッツとの間に不和が生じ、彼女に代わってサム・レヴィンソンが指名された(暴力、セックス、ドラッグなどの過激なシーンが話題となった「ユーフォリア」の制作者は、理論上はこの作品にうってつけだ)。

このとげとげしい舞台裏のエピソードは、ジョスリンがニューシングルのクリエイティブな主導権を取り戻そうとするのを助けるテドロスの努力と折り重なるが、最初の2話には、そうした方向性の違いによる引っ張り合いが透けて見えてしまっている。

3話以降を観るかって? おそらくイエスだ。デップの演技は本物だ。まるで上質な器がテーブルの縁から落ちそうな危うさがある。真面目に見ようとし過ぎなければ、低俗な楽しさがある。3話では、社会規範に背を向けた行き過ぎた過激さは放棄して、「ショーガール」的要素全開でいってほしい。

日本では、2023年6月5日(月)からU-NEXTで配信がスタート。以降毎週月曜に1話ずつ配信される。

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