村上春樹ライブラリー
Photo: Kisa Toyoshima

村上春樹ライブラリーでしかできない6のこと

10月1日オープン、寄贈レコードのオーディオルームや仕事場の再現空間も

テキスト:
Genya Aoki
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2021年10月1日(金)、世界が注目する図書館、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)が開館する。この施設は国際文学や翻訳文学、そして村上春樹文学の研究に取り組めるよう建設された新しい図書館。早大出身の作家、村上春樹が自身のレコードコレクション(361枚)や『ノルウェイの森』などの代表作や貴重な資料を寄贈し、50言語以上に訳された村上作品も所蔵されている。

演劇を専攻していた村上が、学生時代によく通ったというのが、キャンパス内にある坪内博士記念演劇博物館だ。思い入れの場所ということもあり、新図書館は博物館横にある4号館の一部をリノベーションして建設した。

設計は隈研吾が担当し、地上5階地下1階の中に書籍はもちろん、ギャラリーラウンジ、カフェ、スタジオ、オーディオスペース、展示室などが併設している体験型図書館だ。一般開放されていない3階から上の書庫には、1万冊を超える村上寄贈の資料などが眠っている。ここでは、同施設の地下1階から2階までの中にある「ならでは」の魅力を6つ紹介しよう。

1. 本棚のアーチをくぐり抜ける。

村上春樹ライブラリー
「階段本棚」(Photo: Kisa Toyoshima)

館内に入ると視界に飛び込んでくるのが、1階から地下1階へ降りていく「階段本棚」だ。同館のシンボルともいえる場所で、大きな階段の壁面が2階まで伸びる本棚になっており、 村上作品や作品同士のつながりや広がりを持った本が陳列されている。

村上春樹ライブラリー
「階段本棚」(Photo: Kisa Toyoshima)

選書は期間によって変わるが、オープン時には「村上作品とその結び目」「現在から未来につなぎたい世界文学作品」という企画を展開。「村上作品とその結び目」では、村上作品を起点として「ジャズについて少し」「食べる」「走る」などキーワードごとに分類し、関連書籍が並ぶ構成になっている。館内のみだが閲覧可能で、階段に腰を下ろして読むこともできる。ThereThereがデザインした、棚の中やステップに座っているかわいらしいフィギュアも注目してほしい。

2. 村上ワールドに浸る。

村上春樹ライブラリー
「ギャラリーラウンジ」(Photo: Kisa Toyoshima)

1階のメインルームには、村上が1979年にデビューしてから2021年までの作品が一挙に展示してある。ここに並ぶほとんどが村上から寄贈された本で、その数は約1400冊を超す。そのうちの多くが初版本という、ファンなら思わず落涙してしまうエリアだ。日本だけでなく世界各国のさまざまな言語に訳された作品や、村上が翻訳した海外作品なども陳列されている。

村上春樹ライブラリー
「ギャラリーラウンジ」(Photo: Kisa Toyoshima)

そのほか、彼のアートワークを年代別にまとめた「著作年譜」や、村上がこの施設のために書き下ろしたメッセージボード、村上の書斎の写真と呼応するように配置された『職業としての小説家』を軸にした象徴展示、小説『羊をめぐる冒険』に挿絵として登場する羊男のイラスト、ピーター・キャットで使用していた椅子(村上寄贈品)などがあり、まさに村上ワールドの総結集といえるだろう。 

3. 名作家のインスピレーションを得る。

村上春樹ライブラリー
「村上さんの書斎」(Photo: Kisa Toyoshima)

なんと地下1階には、村上の現在の書斎を再現した部屋、その名も「村上さんの書斎」が存在する。机やパソコン、ランプ、応接用家具のみならず、本人から寄贈されたレコードプレーヤーも完備。アンプや椅子は同じ商品を設え、ソファやじゅうたんは似たものを使用している。壁面のレコード棚には順次、村上から寄託、寄贈されたレコードが並ぶ予定だ。

残念ながら自由に入室できず、外のラウンジから室内を眺める形になるが、それでも名作家の仕事場から受け取れるものは大きいだろう。

村上春樹ライブラリー
「村上さんの書斎」、壁面のレコード棚には村上から寄託、寄贈されたレコードが並ぶ(Photo: Kisa Toyosima)

4. 村上夫妻好みのコーヒーを試してみる。

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オレンジキャット(Photo: Kisa Toyoshima)

地下1階に行ったら、橙子猫-オレンジキャット(ORANGE CAT)-という落ち着いたカフェで一息つこう。村上が学生時代に夫婦でジャズ喫茶、ピーター・キャットを開業し、専業作家となるまで経営していたことを受け、同カフェは早大生が独自に運営、経営している。この試みは早稲田大学としても初だという。

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『季節野菜のドライカレー』(Photo: Kisa Toyoshima)

コーヒーは堀口珈琲と共同で開発したオリジナルブレンド。村上春樹、陽子夫妻にも相談し、2人が好みのテイストに近づけたそうだ。そのほか、『季節野菜のドライカレー』『パニーニ』『ドーナツ』などの食事メニューも提供する。

5. 秘蔵のレコードに耳を澄ます。

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「オーディオルーム」(Photo: Kisa Toyoshima)

村上の自室のサウンド環境のエッセンスを伝えるために作られた「オーディオルーム」も見逃せない。村上のオーディオアドバイザーである小野寺弘滋が、同館のオーディオシステムの選定とセッティングを担当しており、LUXMAN PD-171Aのレコードプレーヤー、Accuphase E-380のプリメインアンプ、JBL L82 Classic、SONUS FABER Lumina IIIのスピーカーを完備する。

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「オーディオルーム」(Photo: Kisa Toyoshima)

村上寄贈のジャズとクラシックのレコードが並び、それらの名曲たちを聴きながら「ギャラリーラウンジ」の村上作品を読むことができる。極上のひとときをぜひ自分の体で体感してみよう。レコードジャケットの裏面に押されたピーター・キャットのはんこも見逃しなく。

6. モダン家具を堪能する。

村上春樹ライブラリー
「ラウンジ」(Photo: Kisa Toyoshima)

同館には、村上が寄贈したさまざまな家具や調度品以外にも良質な家具が多数配置してある。オーディオルームのソファは、Ole Wancherの代表作と名高い1940〜60年代のSanatoeシリーズ。ほかにもニューヨーク近代美術館をはじめ多くでコレクションされている家具デザイナーのhans J. Wegnerによる希少価値の高いビンテージテーブルなど、モデルルームかと紛うほどの名器が惜しげなく置かれている。

また、1階の「コクーンチェア」は、包容力と吸音性に特化し、「物語の世界に没入できる」ようなユニークなデザインの椅子を丹青社が作製した。地下1階の「ラウンジ」やカフェにも20世紀を代表する数々のモダン家具な並んでいる。素通りせずに、使用できるものは触れてみてほしい。

村上春樹ライブラリー
「コクーンチェア」(Photo: Kisa Toyoshima)

ほかにも、ピーター・キャットでライブ演奏の際に使われていたグランドピアノや、各国で披露された『海辺のカフカ』舞台版で使用された舞台装置、『村上ラジオ』の収録現場をイメージしたスタジオなども展開している。

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『海辺のカフカ』の舞台装置(Photo: Kisa Toyoshima)

2階では、定期的に早大の国際文学館がキュレーションした展示会を実施。初回は『建築のなかの文学、文学のなかの建築』という企画展を2022年2月4日(金)まで鑑賞できる。同館リニューアルにおける設計から建築までの過程や建築と文学にまつわる書籍などが展示してあり、同館の成り立ちをより深く知ることができるだろう。

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企画展『建築のなかの文学、文学のなかの建築』(Photo: Kisa Toyoshima)

隈は「単に本を展示するだけの場所ではなく、コーヒーを飲みながら村上作品や文学の未来について語り合えるような『生きたライブラリー』にしたい」と、コメントしている。

新型コロナウイルス感染症対策のため、当面の間は早稲田大学の特設ウェブサイトから事前予約が必要。来館予約は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県在住の人しかできない(同大学生、大学院生、教職員は除く)。予約は先着順、1回の定員は30人(3人まで予約可能)。4つの指定時間帯から選択する方式で、来館希望日の1カ月前から予約受け付けを開始する。予約なしでは入場できないので注意しよう。

希代の名作家の世界をさまざまな点から体験できる施設に、一度は足を運んでみてほしい。

早稲田大学国際文学館 村上春樹ライブラリーの詳細情報はこちら

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