Nakagin Capsule Tower
Photo: Nakagin Capsule Tower Building Preservation and Regeneration Project

メタボリズムが託した夢、中銀カプセルタワービル解体決定

工事開始は2022年4月12日、カプセルは博物館などに寄贈

Emma Steen
テキスト:
Emma Steen
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メタボリズムのメンバーの一人であった黒川紀章が設計、1972年に完成した中銀カプセルタワービル。完成した当時は、近い未来、人々の生活がどのように変化し、都市がいかにデザインされるべきかといった先鋭なビジョンが込められていた。144の独立した部屋から構成され、すべての部屋は25年ごとに取り替えられるように構想され、生きている有機体のように、建物自体が代謝し、変わっていくことが意図されていたのだ。

しかし、思い通りにいかないのが世の常。2022年4月12日(火)にビルの解体が決定した。読売新聞によると、一部の所有者が、保存を前提に同ビル全体の購入者を探したが見つからなかったという。

Nakagin Capsule Tower
Photo: Nakagin Capsule Tower Building Preservation and Regeneration Project

このニュースに対しては、2つの捉え方があるだろう。数十年もの間、東京の一部であった唯一無二の建築が無くなってしまうのだから悲しくて当たり前ということ。そして、老朽化が進んだ危険な建築はもっと早くに取り壊されるべきであったという考え方だ。

Nakagin Capsule Tower
Photo: Nakagin Capsule Tower Building Preservation and Regeneration Project

黒川の当初の意図に反して、1997年に予定されていたカプセルの交換は行われなかったのみならず、完成から50年にわたって貧弱なメンテナンスしかなされてこなかった。2010年には給湯管が破損、複数のカプセルの壁にカビが生えてダメになってしまった。

それらは大した問題でないと考えても、着工時にはありふれた断熱材であったが、その後発がん性が指摘されるようになったアスベストが使われるなど、解決しようのない問題もあった。それゆえ、このビルを解体したいとする人たちを責めることはできないだろう。

Nakagin Capsule Tower
Photo: Nakagin Capsule Tower Building Preservation and Regeneration Project

こうした住居としての難点にもかかわらず、このままこのビルがなくなるのを見過ごすわけにはいかないと考える、強固な決意を持った支持者たちもいる。建築上の問題は深刻ではあったが、中銀カプセルタワービルはゴジラの映画やハリウッドのヒット作にも登場した東京のアイコンの一つなのだ。

それに、1970年代から未来の建築像としても奉じられてきた。事実、コンロは当初から設計に含まれないなどキッチンの基本的な設備は不十分であったが、電話や埋め込み式のテレビやオープンリールデッキなど当時の最新鋭の設備がそろっていた。

Nakagin Capsule Tower
Photo: Nakagin Capsule Tower Building Preservation and Regeneration Project

こうした人々によって、ビルの保存と現在の場所にとどめたいという活動が行われてきた。その中の一つが、中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトによるカプセル交換のためのキャンペーンだ。このキャンペーンにつきまとう問題は、カプセル交換のコスト。東京新聞の報じるところでは、プロジェクト発起人の前田達之によると、交換と耐震化には20〜30億円程度が見込まれるという。

ビル全体を保存するという計画に暗雲が漂うと、プロジェクトでは方針を転換。独立したユニットとして保存するために一部のカプセルだけでもリノベーションできないかと考えてクラウドファンディングを立ち上げた。最終的に769万円以上を集め、50周年を記念した400ページの『中銀カプセルタワービル 最後の記録』出版までこぎつけたのだ。

Nakagin Capsule Tower
Photo: Nakagin Capsule Tower Building Preservation and Regeneration Project

ビル解体のスケジュールは数週間以内にも明らかになる見通しで、すでに3月10日には住人の退去は完了している。その一方、プロジェクトでは現時点で約80件のカプセルを取得できないかという問い合わせを受けており、カプセルの一部を国内外の美術館に寄贈し、宿泊施設としての再利用に供する予定だ。

50年前に建築界が見た夢は、住居としては失敗に終わったのかもしれないが、これからも生き続けていくことだろう。

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