ミラノは「都市の森」をどう築こうとしているのか

2030年までに300万本の木を植える計画を実施中

Ed Cunningham
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Ed Cunningham
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ミラノはイタリア最大の経済の中心地であり、世界のファッション業界をリードする街であることはよく知られている。しかしここ最近は、気候変動対策の真のイノベーターとしての評判も高めていて、近代的な先進都市がいかに地球への影響を軽減できるかを示している街でもある。

数年前ミラノは、「Bosco Verticale(垂直の森)」と呼ばれる、森林1ヘクタール分の低木で覆われた2つの建築物で注目を集めた。以降この街は、環境への配慮をさらに強化。Bosco Verticaleを設計した建築家のステファノ・ボエリも携わっている、2030年までに市民1人につき1本、計300万本の木を新たに植えるという都市計画『Forestami』も進行中だ。

Tree coverage and greenery in Milan
Photograph: Shutterstock

都市が排出する二酸化炭素を相殺する簡単な方法の一つが、木を植えること。木は空気をきれいにし、生物多様性を向上させ、木陰を作り、道路や建物が熱を吸収するのを防ぐ効果も持つ。

ミラノではただ単に木を大量に植えて効果を上げるだけでなく、木の植え方についても先導的な取り組みを実施。ミラノ工科大学と共同で、最適な木の種類と、それを植えるのに最も適した場所を探しているという。

ただ順調なForestamiの活動にも問題はある。彼らは現在、市民に森林再生の重要性を伝えるという課題に直面しているのだ。世界に木がもっと必要だということはほとんどの人が同意することだが、それを自分の家の庭に植えようと提案すると、多くの人が反発するからだ。

Forestamiのサイエンティフィックディレクターであるマリア・キアラ・パストーレは次のように課題を語っている。「空間だけでなく、そこに住む人々を変える必要があります。木を植えるための場所が必要であることを受け入れ、ほかの用途のためのスペースを木を植えるために減らしてもらわなければならないのです」

ミラノが気候危機に立ち向かうために行っているのは、植樹だけではない。欧州投資銀行から2億ユーロ(約262億6,000万円)の融資を受け、再生可能エネルギーの導入や公共施設のエネルギー効率の向上、廃棄物管理やリサイクルセンターの改善などの取り組みも実施している。

また市ではすでに、公共交通機関や自転車専用道路を整備することで、1990年代には89台だった人口100人当たりの自動車の数を、2021年には49台にまで減らことに成功。さらに、2030年までに市内の全てのバスの電気自動車化、全ての新しい建物をゼロエミッション構造で建てることも検討し、ミラノの汚染問題に対する最良の解決策をグループで競う「ハッカソン」と呼ばれるイベントも開催している。

こうした努力の結果、ミラノはイタリアの都市で唯一、2016年のパリ協定で定められた目標を達成。地球温暖化を1.5以下に抑える計画を順調に進めている、世界のわずか54都市のうちの一つとなった。

Electric bus in Milan
Photograph: Federico Fermeglia / Shutterstock.com

世界を見てみると、ミラノと同様の志を持つ都市はほかにもある。ロサンゼルス、デンバー、ニューヨーク、上海などの都市が、『Million Tree Initiative(100万本の木イニシアチブ)』を通して、ミラノと同じように都市全体に新しい木を育てることにコミットしている。

国連はボエリやロンドンのキュー王立植物園と協力して、アフリカやアジアの30カ国で90の都市林を開発中。街路樹の植樹に力を入れている都市もあり、ロンドンでは2016年から28万本の木を植樹し、ニューヨークでは全ての新築ビルの外に木を植えることを義務付ける政策を実施中だ。

ミラノの森林再生活動はすでに、市外へも目が向けられている。活動から得られた情報はオンラインでオープンソースとして公開されており、パストーレはForestamiでの「発見」がイタリア国内だけでなく、世界中の都市林業の取り組みに役立つことを期待し、次のように話している。

「私たちはさまざまなネットワークで活動しており、機関だけでなく、協力してくれる人なら誰とでも協力しています。競争ではなく協力し合うという、とてもオープンな姿勢です。地球は一つしかありません」

世界の人口が増加し、メガシティが拡大を続ける中、イノベーションは都市環境から始めなければならない。そして今ミラノは、その工業的歴史を持っているにもかかわらず、グリーンな大都市のモデルとなる可能性を秘めている。

原文はこちら

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