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アート、ファッション、舞台芸術がひもとくこれからの生き方

ゴッホ、ミッフィー、チューリップ、洗練されたデザイン。日本から見たオランダには、いくつもの定番のイメージがある。しかし、現地の最先端シーンに目を向けるとそれは一変する。
移民問題や植民地主義の歴史、気候変動、ジェンダー、そして都市と地方の断絶など、社会が抱える課題に、クリエーターたちはアートやファッション、舞台芸術を通して鋭い問いを投げかけている。
私たちに見えている景色の向こうで、今何が起きているのか。カルチャーシーンの現場から現状をひもとく。
複雑な社会課題と向き合う時、まず必要なのは、誰の視点から歴史を見るのかということである。オランダでは今、これまで語られてこなかった人々の声を現在へとつなぎ、未来を考えるための場が各地で生まれている。
170カ国以上の人々が暮らす多文化都市・ロッテルダムに誕生した「FENIX」は、移民をテーマにしたアートミュージアム。歴史的資料やアートを通して、人々が国境を超えて移動してきた歴史にフォーカスする。
もう一つ注目すべきは、見過ごされがちだった視点から歴史を記録するアーカイブ「The Black Archives」だ。オランダの黒人作家や研究者が残した2万点以上の資料を収蔵し、人種差別や植民地主義、ジェンダーなどをテーマにした展覧会や教育プログラムを通して、知られざる歴史を開かれた対話として社会に還元している。
ファッションは、もはや単なるトレンドを追うものではない。アイデンティティーやジェンダー、サステナビリティといった課題を考えるメディアへと進化を遂げている。
アムステルダムを拠点に活動するアヌーク・ベッカーズ(Anouk Beckers)は、衣服を対話のツールとして扱うデザイナー。彼女の代表的なプロジェクト「JOIN Collective Clothes」では、トップスやスカートなど、衣服のパーツを参加者がそれぞれ作り、一つの衣服へと完成させていく。衣服を消費されるものから、人々とともに作るものへとシフトさせ、ファッションの在り方そのものを根底から問い直す試みだ。
一方、テキスタイルを通してクィアアイデンティティーを表現するのが、ヤムナ・フォルツァーニ(Yamuna Forzani)。アクティビストとしても活動する彼女は、周縁化された人々が自分らしく存在し、ありのままに表現できる場として「クィア・ユートピア」を構想している。
フォルツァーニの代表的な取り組みが、ダンスや自己表現を競う「ボールルームカルチャー」と、ジェンダーフルイドなランウェイを融合させた一大イベント「THE UTOPIA BALL X FASHION SHOW」。彼女は、従来のランウェイの枠を超えて、人々が互いの存在を祝福し合う「場」そのものをデザインしている点で革新的だ。
これからの時代にファッションには何ができるのか。既存のシステムに風穴を開ける彼女の活動は、これからのファッション界の新たな指針として熱い視線を集めている。
オランダの舞台芸術の現場では、演劇やダンスを通して、社会の在り方を揺さぶる作品が次々と生まれている。今や劇場は、自分と社会との関係を捉え直す場となりつつある。
振付家で哲学者のアンネマイン・ライク(Annemijn Rijk)は、自身の体を他者を経験するための媒体として捉えている。『Woman's work』では、ダンスと哲学を横断しながら、社会が作り出した「美しい体」や「あるべき姿」の規範を問い直し、世間のまなざしから解放された肉体を受け入れようとする。
対して、アーティストのマルテ・ボーンスハンスカー(Marte Boneschansker)は、抵抗や希望、自分の理想を貫くことをテーマに、一対一の演劇型オーディオパフォーマンス『OPSTAND』を制作する。ヘッドフォンから流れる声に導かれながら、観客は自身の内にある「反逆者」と向き合い、自分にも社会を変える影響力があることに気づいていく。個人の体験を通して、抵抗すること、そして未来に希望を持つことを問いかける、没入型の作品だ。
美術館の枠組みを問い直し、その役割をアップデートする動きも加速している。アムステルダム市立美術館「Stedelijk Museum Amsterdam」の館内に設けられた「Buro Stedelijk」は、美術館の構造を内側から再考する象徴的なプロジェクトスペースだ。
Buro Stedelijkが目指すのは、美術館側が一方的に価値のある作品を選んで観客に提示する従来のシステムからの脱却である。これまでの制度や枠組みの中では取り上げられてこなかった、ストリートで生まれている表現やものの見方のために、いち早く場を開放する。
美術館は誰のためにあるのか。都市と美術館はどう関係すべきなのか。Buro Stedelijkは美術館の特権を自ら手放すことで、その問いに答えようとしている。
ここまで、人間社会の課題に向き合う表現に光を当ててきた。オランダでは、さらに視野を広げ、人間以外の生き物や自然との関係を考える動きも生まれている。
その一例が、オランダで生まれた新しい組織運営の仕組み「Zoöp」だ。これは、動物や植物、微生物など、人間以外の生命の視点を組織の意思決定プロセスに取り入れるというものである。人間にとっての利害だけではなく、生態系への影響も考慮しながら、今後の仕事の在り方を探る。
また、ヤスミン・オステンドルフ・ロドリゲス(Yasmine Ostendorf-Rodríguez)の著書『Let’s Become Fungal!』も、人間中心の考え方を見直すきっかけを与えてくれる一冊である。彼女は、キノコやカビといった菌類が、地下で菌糸を伸ばしながら互いにつながる仕組みに着目。それを、人間のコミュニティーやアートに応用できないかを考察する。
今、オランダでは定番のイメージの向こう側で、さまざまな試みが生まれている。それらは私たちが無意識のうちに受け入れてきた既存の価値観を問い直し、これまでとは異なる新しい関係性を作ろうとしているのだ。
分断や気候変動、歴史の過ちといった複雑な問題から目を背けず、アートやファッション、舞台芸術などの表現を通して、不確実な未来について対話を続けるオランダ。現地の最前線をのぞいてみると、私たちがこれからどのような社会を築き、どのように生きていくのかというヒントが見えてくるだろう。
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