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現在、森アーツセンターギャラリーで開催中の「ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展」に行ってきた。

多彩なジャンルで活躍する国内外のアーティストが、言わずと知れた世界的大怪獣「ゴジラ」をモチーフにそれぞれ作品を制作するという、現代アート×ゴジラの展覧会である。まず最初に白状しておくが、僕は現代アートもゴジラも全くの門外漢である。今回参加した総勢28組のアーティストで僕が知っているのは3人だけだったし(これは世間の30代男性の平均値と比べてもかなり低いだろう)、ゴジラに関しては『シン・ゴジラ』しか観たことがない。
本展は、日本を代表する元祖メディアミックス作品であり、あらゆるベクトルからアクセスポイントが存在するこの「ゴジラ」という巨大コンテンツを、アーティストたちがどう解釈するかが見所だ。
素晴らしい演出と配置
素直に、率直な感想を述べるが、まず第一に展示の見せ方がすばらしかった。
会場に入るとすぐに「ゴジラ・THE・アート展」のアーチを設置したフロアがあるのだが、この部屋がもうムッチャクチャにブッ壊れているのである。足元には大小無数のコンクリート片(発泡スチロール製だろうか? すごいクオリティーだった)が転がり、蛍光灯は垂れ下がったまま明滅し、ガラス窓は粉々に散らばり、展示タイトルを冠したアーチでさえも無残に割れ砕けている。
このオープニングだけで、もう100点満点というぐらい見事である。鑑賞者をゴジラの世界に引き込むために、これ以上の演出はない。いきなり没入感MAXである。

オープニングのみならず、本展は導線の組み方や照明なども含め、流れや見せ方がとても精緻にデザインされていた。大掛かりな作品が多いため、配置や演出に相当苦労したのではないかと推測するが、すごく見やすい。
例えば東京ビルドが制作したジオラマを設置したフロアは、ミニチュアを囲む什器を作品に沿ってギザギザに組んでおり、それによって鑑賞者が間近で作品を観られるようにしていたし、佐藤朋子の語りによるレクチャー・パフォーマンス映像『オバケ東京のためのインデックス 序章』は、ワンクッション隔離した暗室でそれを再生することで一種のイベント性を持たせていた。

なんだかすごいとしか言いようがない
さて、作品群だが、「なんだかすごい」としか言いようがなかった。小学生レベルの感想だが、自己弁護するなら、これを細かに言語化する必要などないのではないかと思う。ゴジラが真にヤバいのは、説明しない点にある。突然やって来て、全てを完膚なきまでに破壊し尽くす。意味や理由というものをはなから超えた不条理な存在なのだ。
そういう意味不明な存在をテーマに作品を制作している以上、感想の第一声が「なんかすごい」になってしまっても仕方ないではないか。

絵画や彫刻、フィギュアやレクチャー・パフォーマンスに至るまで、とにかくあらゆるジャンルの作品がゴジラを表現しているのだが、ゴジラは神的存在であるがゆえ、その解釈の幅は広い。例えば破壊のニュアンス。横尾忠則の『PARADISE』は、地響きを立てるような爆裂アシッド感と超絶バトル感で破壊を見せていたし、O JUNの『ごじら』はその対極を行くような、腰砕けのナンセンスな脱力感でもって破壊を見せた。

または神性だ。風間サチコの版画『続・怒涛の閉塞艦』などは、いろいろな時間とイメージが層を成したまま一枚の絵に同居していたが、アレなどはまさしくゴジラを偏在する「神的存在」として解釈していると思う。
恐怖ではなく、畏怖

ゴジラの神的解釈として最もたるものが、小谷元彦の『the One ― 呉爾羅 (仮設のモニュメント6)》』だ。超巨大な木工彫刻で、ゴジラをゴジラたらしめる笠状隆起した皮膚やトゲ状の突起などは残しつつ、かなりアレンジした人型の怪異となっているのだが、恐怖ではなく「畏怖」を表現している。
高次の存在に対する、得体の知れない何かへのゾワゾワ。わかりやすくいうと『もののけ姫』のシシ神さまの「うわっ……」って感じ。もう思考とか行動原理が自分たちと完全に乖離(かいり)していることが一目でわかるやつ。あの感じがすごく出ていてよかった。しかも、それでいてどこかカッコいいのである。
何考えてるか分からないし怖いけど、カッコいい

ゴジラというコンテンツを考える上において、「カッコいい」というのはとても重要なことだと思う。破壊と再生の象徴だとか文明社会に対する警鐘だとか、いろいろな解釈があるし、そのどれもが全く正しいと思うのだが、根底に「かっけー」というマインドがあったからこそ、ゴジラは世界的コンテンツに上り詰めることができたのだと思う。
ゴジラ独特の「何考えてるか分からないし、怖いけどなんだがカッコいい」を抽出し、見事にアレンジして昇華した小谷元彦は素晴らしい。大平龍一によるゴジラを模した金づち『Godzilla Hammer』も、よりコミカルに抽出した結果の作品だと思う。

ジェームス・ジャービス(James Jarvis)のかわいったらしいドローイングや、ペックス・ピタックポン(Pex Pitakpong)のポップ極まりない絵画など、とにかくいろいろな視点からゴジラというコンテンツが語られていくが、我喜屋位瑳務の『Mourn THE Dead(Godzilla foot)』は、ゴジラに殺りくされていった無名のモブキャラたちに対する鎮魂をテーマに制作していて、シャレがきいているなぁと思った。
知らなくてもすごい、知っているならもっとすごい
こうした「アーティストが〇〇をテーマに作品を制作する」系の展示会は正直、あまりいい思い出がないのだが、本展は見せ方のうまさとバラエティーの豊かさで、かなりエンターテインメントに振り切った内容になっていると思う。

物販もイケてるし、フォトスポットもかなり楽しそうだ。現代アートもゴジラも知らない人間から見ても『なんかすごい』のだから、この両者を知っている人間であれば、きっと相当にすごいはずである。
「ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラTHEアート展」は森アーツセンターギャラリーにて2025年6月29日(日)まで開催。
TM & ©︎ TOHO CO., LTD.
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