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デザインで日常を彩った20世紀イタリアの巨匠、エットレ・ソットサスの展覧会が開催

10月4日まで、「アーティゾン美術館」で国内初の大規模回顧展

Kaoru Hoshino
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Kaoru Hoshino
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エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshino | 『アクロポリス』(1988年、左)と『マラバール』(1982年)
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幾何学的なフォルムとカラフルな色彩で、現代でも人気のイタリアのポストモダンデザイン。その中心人物として20世紀のデザイン界を牽引(けんいん)した巨匠、エットレ・ソットサス(Ettore Sottsass)の国内初となる大規模回顧展が、「アーティゾン美術館」で2026年10月4日(日)まで開催されている。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshino展示風景

同展では、家具や陶芸、ドローイング、ガラスなど、ソットサスの初期から晩年に至る作品112点を展示。さらに、関連作家の作品や貴重な資料を加えた計142点を通じて、その多彩な創作を紹介する。

会場に足を踏み入れるとまず目を引くのが、ソットサスのデザインに負けないくらい大胆な空間デザイン。緩やかに空間を区切るシルバーやピンクの筒状のパーティションが、異世界を思わせる空間を演出し、彼のデザインの魅力をより引き立てる。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshinoガラス作品の展示風景

遊び心に満ちたキャリアの出発点

全5章で構成される同展は、1950年代後半にイタリア企業との協働で作られた初期のデザインから始まる。中でも注目したいのが、タイプライター製造会社、オリベッティのためにデザインした真っ赤なポータブルタイプライター『ヴァレンタイン』だ。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshino『ヴァレンタイン』(1968年)

ソットサスはこれを「田舎の静かな日曜日を過ごすアマチュアの詩人の相棒として、あるいはワンルームのアパートのテーブルに彩りを与えるため」に構想したという。それまで無機質だった工業製品に遊び心を持ち込んだ同作は、機能性だけではないデザインの可能性を示した作品として、ソットサスを代表する名作の一つに数えられている。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshino『ヴァレンタイン』のポスター

モダンデザインへのアンチテーゼ

続く2章では、反戦運動や女性解放運動など、既存の社会体制への異議申し立てが盛んに行われた1960年代に焦点を当てる。こうした社会の変化は芸術やデザインの世界にも波及し、若者たちによるカウンターカルチャーが台頭した。ソットサスもまたその影響を受け、従来のモダンデザインの価値観を乗り越えようとする実験的な創作へと傾倒していく。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshino「トーテム」シリーズ

その中でソットサスがたどり着いたのは、人々の精神を支えるためのデザインだった。陶器の輪を約2、3メートルほど積み上げた『トーテム』は、1961年の南アジアへの旅行で東洋思想に触れた経験から生まれた作品である。神殿を思わせるその形には、人々の心の救済となるような存在を作りたいという切実な願いが込められていた。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshinoソットサスがカタルーニャ地方を放浪した際に取り組んだ「メタファー」シリーズの展示風景

「メンフィス」の結成

時代は1980年代へと移り、4章では、ソットサスが主宰したデザイン集団「メンフィス」の活動を紹介する。1960〜1970年代に展開されたラディカルデザインは、モダニズムへの反発として大きな影響を与えた一方、その思想が社会の中で広く実践されることはなかった。

そこでソットサスが模索したのが、思想を再び生活へと結びつけることだった。その試みとして1981年に結成されたのが、前衛的デザイン集団「メンフィス」である。世界各国のデザイナーや建築家が参加し、日本からは倉俣史朗や磯崎新が名を連ねた。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshinoミケーレ・デ・ルッキ『セバストポール』(1982年、手前)と『トウキョウ』(1983年)

メンフィスには明確な宣言や覚書は無く、家具の存在そのものが人々にどう作用するのかを問いかける実験的なものであった。ソットサスの関心は常に人々の日常生活にあったのだ。もっとも、メンフィスの家具が一般家庭に広く普及することはなかったが、その後のプロダクトデザインとインダストリアルデザインに新しい価値観をもたらしたことは間違いない。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshino左から『ダイニングチェア』(1979年)、『カールトン』(1981年)、『カサブランカ』(1981年)

集大成のガラス作品

最終章では、色とりどりのガラスのピースをロープや針金などでつなぎ合わせた巨大な花瓶の数々が並び、観ているだけで胸が高鳴る。小さな建築を思わせる同作からは、キャリアの集大成ならではの肩の力が抜けた軽やかさと、晩年の作品とは思えないほどのみずみずしい感性が感じられる。

エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kaoru Hoshino「花瓶」の作品群
エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる
Photo: Kisa Toyoshima「花瓶」の展示風景

ソットサスの言葉から引用された同展のサブタイトル「魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」には、機能性や合理性の先にある、人間の感情や好奇心を刺激する領域にこそ本当のデザインが宿るという考えが込められている。

行き過ぎた合理性に疑問を投げかけ、デザインとは何か、人間にとって本当に必要なものは何かを問い続けたソットサス。その先に生まれた、人間の本質的な感情を揺さぶる喜びに満ちた造形から、彼のデザインの神髄に触れてみてほしい。

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