アンゼルム・キーファー「Opus Magnum」
Photo: Ryuichiro Sato

アンゼルム・キーファーの個展が25年ぶりに開催、6月29日まで北青山で

ヴィム・ヴェンダースによるドキュメンタリーも順次公開予定

テキスト:
Sato Ryuichiro
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ドイツのアーティスト、アンゼルム・キーファー(Anselm Kiefer)の個展「Opus Magnum」が、北青山のギャラリー「ファーガス マカフリー 東京」で2024年6月29日(土)まで開催されている。日本での個展は1998年以来で、ガラスケースを使用した立体作品と水彩画の計20点が展示される。

キーファーは、「新表現主義」に位置づけられる1945年生まれのアーティスト。ゲオルク・バゼリッツ(Georg Baselitz)やヨーゼフ・ボイス(Joseph Beuys)らに影響を受け、ナチスドイツなどの歴史的な出来事を扱う作品で知られている。日本では、「国立国際美術館」が所蔵する「星空」などが有名だ。

アンゼルム・キーファー「Opus Magnum」
Photo: Ryuichiro Sato「Mohn und Gedächtnis」、2014

キーファーは作品の「主題」や「意味」を強く意識しており、作品内にキャプションのごとくタイトルやテクストを用いている。中には、神話や聖書からの引用も含まれる。素材へのこだわりも強く、ドローイングと鉛や植物、砂といった異なる素材を組み合わせる手法も特徴の一つだ。

アンゼルム・キーファー「Opus Magnum」
Photo: Ryuichiro Sato「Danaë」、2014

例えば、今回の作品で分かりやすいのは、「ダナエ」だろう。ギリシャ神話で語られる王女ダナエは、神託を理由に塔に閉じ込められるが、最高神ゼウスが金の雨となって降り注ぐことでゼウスの子を懐妊、やがて英雄ペルセウスを産む。この作品では、縦長のガラスケースが垂直に展示空間を切り取る。そのため、ヤン・ホッサールト(Jan Gossaert)の「ダナエ」のように塔を彷彿(ほうふつ)とさせる上下を強調した空間構成となっている。

しかし、ホッサールトの作品とは異なり、水彩画のダナエはより性的な身ぶりをとる姿態で描かれる。ゼウスの金の雨はヒマワリの種に金彩を施して、ケースの下にまかれている。完全な雨として表現せず、「種」の形を残すことで、生殖とより直接的に結び付く。こうした主題の翻案には、キーファー独特の意味深さや遊び心を見て取れよう。

アンゼルム・キーファー「Opus Magnum」
Photo: Ryuichiro Sato「Bermuda – Dreieck」、2017

ほかにもバミューダトライアングルや「ヨハネ福音書」、画家のパレットなどさまざまな主題の作品が並ぶので、一点一点じっくり素材や表現手法などに着目しながら観てほしい。

また、今回の展示に合わせて、椹木野衣など12人の著名な著者によるエッセーや各作品についてのテキストを収めた160ページの展覧会カタログ(1万円、税込み)も出版される。会場のみでの販売だが、読んでから鑑賞すると、作品をより深く理解できることだろう。

ギャラリーは展示スペースの都合で、一度の入場者数を最大5人に制限している。入場待ちが生じる可能性があるので注意してほしい。

なお、2024年から2025年にかけては、キーファーに関連するイベントが重なる。2024年6月21日(金)以降、順次全国公開される映画「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」は、キーファーの人生を作品とともに捉えたドキュメンタリーで、監督はキーファーと同じくドイツ生まれのヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)。その多彩な作品を3D&6Kで撮影し、眼前に作品が迫り来るかのような圧倒的没入感を実現している。

2025年3月下旬からは京都府の「二条城」でも新作による展示も予定されている。京都市とファーガス マカフリーが主催し、二の丸御殿台所や城内の庭園を舞台にしたアジアにおける過去最大規模の展示となる。本展覧会をきっかけにキーファーの作品により深く触れてみたくなったら、ぜひ訪れてみてほしい。

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ルーク・マンガン@ヒルトン東京

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