スイス、バーゼルの屋上緑化革命

法改正で緑化を推進

Sophie Dickinson
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Sophie Dickinson
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スイスの都市であるバーゼルの建物には、その新旧問わず、ほぼ全ての平らな屋根の上に野草が茂る「庭園」が見られる。この10年間、市が中心部にある住宅やオフィスなどが持つ屋上の空きスペースに、生物多様性に富んだ植物を植えることを義務付けているためだ。この取り組みは自然の断熱効果によるエネルギーコスト削減、街中に飛来する貴重な鳥類の増加など、いくつもの変化をもたらしている。

この「緑の屋根」義務化の実施規模は信じられないほど大きく、バーゼルの緑地は住民1人当たり5平方メートルまで増加(世界のどの都市よりも高い数値)。その結果、街が美しく心地よく過ごせる場所になったのは言うまでもないが、環境面でも大きな恩恵が得られた。屋上の低木が大量の炭素を蓄えることで、都市の純排出量が減少。都市では維持することが非常に難しい生物多様性も、今のバーゼルではとても豊かだ。街では約80種のカブトムシや40種のクモ(多くは絶滅危惧種)、9種類のランを含む175種類の植物が確認されている。

また、屋上の土壌が水の流出量を最大20%減らすことで、各都市で住民の生活を脅かすことが増えている鉄砲水の被害も軽減された。つまり屋上庭園は、単に建物に増えた建築的要素というだけなく、バーゼルの気候政策にも欠かせないものになっているのだ。

屋上庭園は、市民の間でも大好評。その理由の一つに、電気代の大幅な削減が上げられる。冬には葉の層が断熱材の役割を果たして室内を暖かく保ち、夏には気温を5度ほど下げるため、光熱費が抑えらるというわけだ。

しかし街で屋上庭園を本格的に普及させるのは、こうした恩恵があるだけでは不十分だった。そのため市は法的な環境整備も積極的に行い、今では、新築時だけでなく、古い建物の構造変更や点検時にも「緑の屋根」設置の義務付けている。

バーゼル流の屋上庭園

実はバーゼルでは、過去にも「緑の屋根」が作られていた。1970年代、ある市立病院が患者のために屋上庭園を設置していた頃がある。また1914年にはバーゼルからそう遠くないチューリッヒの浄水場で、屋上に植物を植えて建物の温度を下げる実験が行われた。これら先人たちのアイデアは研究者たちが、スケールアップした現代のバーゼル向けの屋上緑化計画を立てる際にも参考にされたそうだ。

その計画をリードしているのは、チューリッヒ大学の都市生態学ユニットの研究責任者であるスティーブン・ブレンアイゼン。彼は、ただ屋上に庭を作りさえすればいいというわけではないと主張。効果をもたらすためには土壌に最低でも12センチメートル、理想的には15センチメートルの深さが必要で、地域に自生している植物を植える必要があるという指針を示している。その結果、バーゼルの屋上庭園にまくべき種は、スイスで見られるいくつかの野草のものという規程が作られた。エリアによってはさらに細かく種が指定されることもあるという。

興味深いことに、科学者たちが屋上緑化において直面している主な問題は、行政内の否定派や無関心な住民ではない。サステナブルな屋上の実現において緑化と「兄弟」といえるソーラーパネルがネックになることがあるという。ブレンアイゼンは次のように述べている。「当初(緑化は)空いている屋上空間を活用できる良い解決策だったのです。誰も使っていない屋上に庭を作っても問題にはなりませんでした。しかし、そこにソーラーパネルが絡んでくると、話がややこしくなるのです」。屋上は環境により良いことに使うべきだろう。ブレンアイゼンと彼のチームは、2つの気候変動対策を共存させる方法を考えているようだ。

ヨーロッパ全体に目を向けてみると、屋上緑化を先進的に進めている都市は、30万平方メートル以上の屋上緑地面積を誇るドイツのシュトゥットガルトだ。同じくドイツのリンツも、住民一人当たり3平方メートルの緑地を創出していて、イタリアのミラノでも同規模の屋上庭園の導入計画が進もうとしている(300万本もの新しい木を受ける計画に加えて、だ)。これらの都市と比べ、バーゼルの屋上緑化は必ずしもヨーロッパにおける最も素晴らしい緑化事例とはいえないかもしれない。しかし、それでもこの街の「緑の屋根革命」は続いているのだ。

ブレンアイゼンは都市における環境革命は可能だと自信を見せ、「社会は変化を求めているのです」と言う。彼の計画を実行に移すには大きな法改正が必要だったが、バーゼルの「緑の屋根」を見たほかの都市の人々は、きっとシンプルに「これなら自分たちにもできそうだ」と思うだろう。

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